機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記 作:1スレ130番より愛を込めて
パプテマスのことは嫌いじゃねえな。
ただ一つ気に食わないことがあるが、それはどうでもいい。
俺は、許してやるよ。
亡霊は、死者は何もできない、か。
まあ、その通りだ。
事実だよ。死者は何もできない。
だが、俺が人間だった時に何をしたのか、気にならないか?
いや、全ての死者が嘗て生きていた、と言うことを忘れてるのは笑えるぜ、パプテマス。
過去が無ければ、現在も、未来も無い。
お前もやがて過去になる。
その時、どんな『原罪/現在』が生まれているのか、俺は楽しみで仕方ない。
だから、パプテマスのことは嫌いじゃねえな。
サイコ・ガンダムというものが、とうとうグラナダ基地に届いた。
それを聞いたとき、僕は、カミーユ・ビダンは眩暈さえした。人間を兵器にするためだけのMS…。サイコミュが搭載されている『ガンダム』が、本当にあった。
ハマーンさんが持ってきたキュベレイとは似ても似つかない形…ガンダムMk‐ⅡにもZガンダムにも似ていない。……何よりサイコ・ガンダムはとても大きい。全体のデザイン、というかバランスも、縦にも横にも太って見える。MSにこんなこと言うのは変だけれど。
ファンネルもビームライフルも持っていない。既存のビームライフルを持てる大きさじゃないからだ。全部内蔵されている、らしい。
こんな大きな、戦艦にも載せられないようなMSを地球で作ってた。宇宙ではガンダムMk-Ⅱを作って、地球ではこんな大きな…
「本来ならば専用のパイロットが居たんだが、今は保護施設にいる。難儀な機体だ。」
僕の隣でグラナダ基地に搬送されてきたサイコ・ガンダムを見てゲーツ大尉が言う。サイコガンダムは当然アーガマの格納庫に収容できるような大きさじゃない。ガンダムMK-Ⅱの2倍以上はあるから。入るわけがない。
サイコ・ガンダムはグラナダまで、大型輸送船で牽引されてきたそうだ。それくらい大きいし、重いから。
アクシズで戦闘が頻発しているこんな時に、目立つ真似をして。敵に知られて大丈夫なのか?
まあ、そんなことより、もっと気になることが僕にはあった。
「もう、その人は兵器にならなくて良いんですよね?」
「そうだな。本人が軍を志望しない限り。そんな目で私を見たところで、何もできないぞ。カミーユ。……私ではなく、ヌー曹長に頼め。」
ゲーツ大尉の補佐でお目付け役のガルーダさんが、ゲーツ大尉の後ろでそれを聞いて素早く手帳に何か書き込んでいるのを僕は見た。
ヌー曹長かタナカ伍長か、どちらかに渡す手帳なんだろうな。
最近、情報部の2人はちょっともめたらしい。情報部以外でも噂になるくらいだった。木馬がどうとかいう、僕には理解できない理由で。
まあ、理由はどうでもいいけど、顔を合わせるたびに円周率を呟きだす独特の喧嘩スタイルはうっとおしいだけだ、と僕は思う。タナカ伍長も、ヌー曹長に1度も勝ててないんだから諦めたらいいのに。
「難儀な機体ってどういうことですか?」
「そのままの意味だ。サイコ・ガンダムのサイコミュの調整は専用パイロットに合わせられている。並大抵のニュータイプならば、動かすこともできない。」
「ゲーツ大尉がサイコミュMSのテストパイロットだって、ヌー曹長は言ってましたよ。」
そう、ヌー曹長は僕たちにそう、言った。ゲーツ大尉がサイコミュMSのテストパイロットだって、頭に入れておくように言っていた。でも、専用パイロットは既にいて、その人は保護された。
「私にとって得意分野ではある。他人の感応波を受け取り、精神に不調が起きないように同調し、調整をする。他人の感応波に自分を合わせる。或いは、他人を自分に合わせる。ハマーン・カーンには洗脳の文脈だと言われたが。このタイプのMSは初めてだが、サイコミュのテスト運用は何度も行っている。」
僕とゲーツ大尉がこうして、ぼんやり話をしているのは訳ありだからだ。
僕らの目の前には、取っ組み合いの喧嘩をしているヌー曹長とマシューがいる。
マシューはハマーンさんの代理で喧嘩をしている、というか、ヌー曹長を押さえつけようとしているのだ。とっくに拳も足もでていたのに、ヌー曹長がしぶとく動き回るから取っ組み合いになっていた。
憲兵も見ているだけで止めようとはしていない。まあ、理由は何となく分かる。ちょっと面白いなとか、ヌー曹長に痛い目に合ってほしいとか、その辺りだろうな。憲兵相手にも何かやらかしたんだろう、ヌー曹長は。
「暴れるな、痴れ者。子供らの前だぞ。」
呆れたようにハマーンさんが言うけれど、まあ、暴れているヌー曹長の気持ちも僕は分からなくはない。応援はしないけれど。
僕の代弁者がヌー曹長だ。
「いくらね、ハマーンさんの仰ることでもね、さすがにこれは止めに入るでしょうよ。マシュー君、俺はね、いざとなったら噛みつくからね!」
「人間をやめるつもりか!!いい加減にしないか、大人が!ハマーン様の御前だぞ!」
マシューがまともなこと言ってるなぁ、と思うのは現実逃避だ。セラーナはさっさとハマーンさんの近くに行ってしまった。ハマーンさんを守ってるつもりなんだろうな。
「カミーユ君はね、子供なんですよ!小さいクソガキなんですよね!小さいクソガキにサイコミュの調整を全部任せるなんてね!止めるでしょうよ、それは!!」
つまり、そう。僕はサイコ・ガンダムのサイコミュの調整を任されてしまったのだ。指導はハマーンさんとゲーツ大尉で行う、と説明されても……正直、ゲーツ大尉の命のほうが心配で大事だった。
人の命を預かるということは重責だ。
「だから、カミーユに知識を授けた。」
「いくら研究者たちが信用できないからってね、ど素人の小さいクソガキに任せるのも、同じくらいに信用できないでしょうよ!一応ね、研究者を拘束して連れてきてもいるんですよ、念のためにね。クソガキは、チェック位でね、いいじゃないですかね?!研究者の頭にね、銃口でも突きつけとけば、問題も起こさないでしょうよ!」
でも、ハマーンさんが言うことも気持ちも、僕にはわかる。自分の精神と肉体を預けるのだ。信頼できない相手にはとてもじゃないができることではない。医者ならともかく、彼らは研究者だ。
僕らの命よりも、実験結果のほうが重要な人類だ。それも、分かる。
ヌー曹長と研究者って似ているかも。データのほうが自分の命より大事だって公言する人だ、ヌー曹長は。
「カミーユ、苦労しているんだな。」
ゲーツ大尉にしみじみ言われると、なんだか悲しくなってしまう。
ファに会って、相談したい。大の大人の、大人げない喧嘩を見てしまったとき、どう対応していいのか、を。
「うわぁ!やめろ!唾を!飛ばすな!噛みつくな!!」
マシューが悲鳴を上げている。さすがにもう、手助けに行かないと。
マシューは友達なんだ。手のかかる弟のような友達だ。僕は、近くに置いてあったバケツを手にした。
結局、ヌー曹長はハマーンさんの言う研究者たちと同じような信用の無さを発揮したので、僕はハマーンさんの言うままサイコミュの調整をすることになった。
ヌー曹長は、ハマーンさんとセーラさんがアクシズから持ち出してきた最重要機密を好き放題見て良いと言われて、何事もなかったかのように引き下がって行った。
ゲーツ大尉はデータと引き換えに売り渡されたのだ。
「死なない程度でね、収めといてくださいね、ハマーン様。それ以外ならね、俺が何とかしますんで。はい、誤魔化しますんで。小さいクソガキも、あんまり気負わなくていいからね。ゲーツ大尉は、人体実験になれてるからね。ちゃんと報告と連絡と相談をしててね。後でね、データと進捗くれたら全部、俺の方でいい感じにデータ改竄しておくからね。はい、ラブハート一等兵も後で報告よろしくね。ゲーツ大尉もね、まあ、不安でしょうけど頑張ってくださいね。研究者を育てると思ってね。ニュータイプの研究をするニュータイプの研究者も必要でしょうし?」
調子のいい人だ。ニコニコ笑って揉み手までしていうことか?これが?
「それでも!あなたは!大人か!!」
マシューの怒りはもっともだった。でも、ヌー曹長は素早く逃げて行ったので、全く歯牙にもかけられていなかったけど。
「ああいうのが、研究者の全てだと思ってもらっても困るが。否定も難しいな。」
ゲーツ大尉はそう言うけれど、本当に、僕が大尉のサイコミュの調整してもいいのだろうか。
「僕みたいな、素人の子供が触って、人を兵器にしてしまったら…」
「そうさせないために、私が立ち会うと言っているのだ。武装も全て外させる予定だと知ったうえで。あの痴れ者め。」
ハマーンさんは苦虫を嚙み潰したような顔で言う。ますます、ヌー曹長は、呆れかえるような大人でしかなかった。
「ハマーン・カーンの提案通り、サイコミュの調整をカミーユ、君が行う。難しいように思えるだろうが、多少コンピューター言語に触れているのならば、理解は早いだろう。ニュータイプの発する感応波をサイコミュで観測し、コンピューター言語に訳す。パイロットの精神状態と体力に左右される部分が大きいが、それは私の得意分野だ。不調をサイコミュに反映させないようにしてみせる。ニュータイプのニュータイプ研究者か。私も悪いことではないと思う。期待している。カミーユ。」
ゲーツ大尉はそう、言って僕を励ましてくれるけど、僕は自分勝手な人間なんだ。カミーユ・ビダンは、ニュータイプの未来なんて知ったことじゃない。
アムロ大尉が、言った通り僕の腕は、2本しかないんだ。
「僕は、ニュータイプ研究したくてやってるんじゃないんですよ、ゲーツ大尉。助けたい人がいるんです。生きていてほしい人が居るから、僕は皆に助けてもらってるんです。」
僕は、エグザべさんに生きて帰ってきてほしい。パプテマス・シロッコ少佐にも、シドレの彼氏のアドル曹長にも。アドル曹長の顔とか知らないけど。シドレの惚気だけは聞かされてるから、一応含めてる。
カミーユ・ビダンは、人間だから。
生きている人間だから、家族と友達と支えあって生きていきたい人間だからだ。
「誰もが、そう思いながら研究してくれていたのなら。いや、そう思っていた人間もいたのかもしれない。」
ハマーンさんは、遠くを見るように言う。ニュータイプ研究に、今のマイネくらいの年齢の頃から、7歳か8歳くらいの頃から積極的に参加していたと、ハマーンさんは言った。
家族やジオン公国のために、ニュータイプが人類を導く素晴らしい未来のために必要なことだって信じていたからだ。
「強化人間化の実験も、初めはそうだった。2度と、虐殺を起こさせないために必要なことだと、研究者たちも言っていた。私もそう、信じていた。…君たちには悪いが、今も信じている。」
ゲーツ大尉の言葉を、ハマーンさんは鼻で笑う。
「建前だけは上等に言うのだ。研究者共は。虐殺を起こさせないために必要なのは、MSでもサイコミュでもニュータイプでもない。結局は軍の予算から研究費用を捻出させるためだけの建前だ。ゲーツ・キャパ。ニュータイプになった所で、宇宙に溶けた子供たちを救えたのか?研究者たちは、研究の成果で子供らを救おうとしたか?」
「……言われたくはないな。だが、現状を改めていくことは、『修正』していくことはできるはずだ。催眠医療も洗脳も使い方次第だと、私は信じている。私が強化人間になって、できる選択肢も増えたのだと信じている。強化人間の実験を推進したのは、軍の上層部であり、地球連邦政府だ。もっと言えば、民意が強化人間を、従順なニュータイプを必要とした。民間人が求めているのは、平穏な生活だ。それを実現するため軍がある。彼らの望みに応えなければ、軍人ではない。」
ゲーツ大尉は、エグザべさんと同じことを言う。民間人のために、平穏を求める人のために、どんな仕事もしてみせる、と。
僕はそれが嫌だ。
人間を、他人を思いやれる心優しい人たちが、そのために傷ついて、心を、命を失くしていくのが嫌だ。僕らみんなが目指すべき平穏というものは、そんなことが起きない、起こさせない世界なんだ。
でも、僕1人で世界を救えるなんてことはない。当たり前だ。
僕が人間だからだ。ハマーンさんにもヌー曹長にもマシューにもセーラにもゲーツ大尉にもアムロ大尉にも、ファにも助けてもらっても、そんなことはできやしない。僕らみんなが生きている人間だから。
理想の世界ができないからといって、泣いていたら、諦めたら今度こそ、僕は全部失ってしまう。ファもエグザべさんも、友達も、僕自身も全部失くしてしまう。
「カミーユ。それが分かるお前だから、私はお前にサイコミュを使わせる。ニュータイプ幻想を、幻想のままにする。我々は、救世主ではない。サイコミュに、ニュータイプに奇跡を起こさせない。」
「それが、サイコミュジャックなんですか?ハマーンさん。」
僕の言葉にハマーンさんは微笑んで頷いた。笑顔は可愛い人なんだ。けど、まあ、なんだか、やっぱりハマーンさんは母親なんだ。それが分かる、そういう微笑みだった。
「エグザべ・オリベ。あの男は分かっていたのだろう、カミーユ?思考が走り過ぎた先にあるのは、幻想と固定観念だ。現実ではない、と。」
「思考が走り過ぎたら、僕らは彼岸に連れていかれるんです。エグザべさんとパプテマス・シロッコ少佐も、それを恐怖だと。」
ハマーンさんに応える。そう、あれは恐ろしい感覚だった。
あの感覚を恐れるべきなんだ。僕はそれを教えてもらった。
教えてもらった僕は、誰かに伝えることができる。必要としている、誰かに。
「時間が無い、か。カミーユ。早速、サイコミュの調整について説明をする。サイコ・ガンダムの武装解除は、整備班に任せることになっている。私のことは気にしなくていい。私は軍人だ。正式に命令も降りている。エグザべ中尉を助けたいんだろう。私も、もう宇宙に溶ける人間を見たくはない。」
ゲーツ大尉の言葉に、恐怖を感じなかったのは僕の後ろのルウムのカミーユが囁いたからだ。
死者が何もできないのであれば、何故、人は祈ると思う?カミーユ・ビダン。
僕を、いや、生きている人間を嘲る声だった。
そうだよな、生きているから、こんなにも惨めに藻掻くんだ。どうしようもない、悲しみも抱えて生きていくんだ。
誰かが、知らない誰かの流した血と涙と死体で作られた世界を、前を向いて進むしかないんだ。
大事にしたいものを、大切な何かをも抱えて、平穏を目指して進むしかない。
だから、僕は恐怖から目を逸らすことができた。ルウムのカミーユに、僕は負けたくなかった。
理由は分からないけれど、そう、思った。
久しぶりに出て来た元気なヌー曹長 編
ヌー曹長は無論色々暗躍します。性格は難ありだけど有能だから仕方ない。だてに若くして曹長やってない。
元気なヌー見てると俺も元気になれるよ。
宇宙の果てまで見えるようなニュータイプだったとして、なにができるんだろう?特別ではあるんだろうけど。宇宙の果ての観測や研究って、別に現生人類でもできるわけだし。
人類って全員いわゆる『オールドタイプ』で、いろんな人間がそれぞれできることしながら現代を生きているわけで。
弊SSを読んで、カミーユやエグザベ応援してくれている人たちもたくさんいる。
それって顔も知らない人たちと、心を一つにしてるってことじゃないですか?しかも、生きている人間が心を一つにしてる。最終話のカミーユより凄いこと、皆普通にしてるんだよ、と俺は思っている。これが本当のギャザー・スタイムの始まりなんじゃなかろうか?