機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記   作:1スレ130番より愛を込めて

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他人の不幸は蜜の味って、な。

最高だぜ!傍から見る修羅場ってやつは。

ドイツ語で「Schadenfreude(シャーデンフロイデ)」だ。

そう、Freude!

歓喜だ。

人の喜び。神々が与えたもうた麗しき霊感。

そして、この輪に入れなかったものは失せろ!

これが、歓喜の歌。






なあ、考えてみろよ。人間は誰だってクソを垂れるんだぜ?

人間なんて、血と内蔵と骨と糞が詰まった皮袋だろ?

事実を言われて、なんで俺がムカつくと思ったんだ?





修羅場

 

 

グラナダ基地の中にあるMS格納庫で、ハマーンさんとアムロ大尉とゲーツ大尉が睨み合いをしている理由は、サイコミュ調整の担当が僕だったからだった。

アムロ大尉がそれを、たった今、知ってしまって、この睨みあいになっている。

 

何の音もしてないのに、空気が軋んでいる。そんな音がするような…いや、静かすぎるんだ。たくさんのいる格納庫なのに、誰もが怖くて動けなくなってる。

衣擦れの音すら聞こえなくて、異様な静けさがものすごく怖い。

 

サイコ・ガンダムの武装解除の作業には、キュベレイのサイコミュ改良の時と同じく、アムロ大尉が捻じ込まれていた。

ヌー曹長が言うには、ブライト艦長の『お願い』だそうだ。どうにも、ブライト艦長の信頼を、僕らサイコミュ班は得られていないらしい。しょうがないのかな?僕のせいじゃないし。

 

ここのところのエゥーゴとアーガマ情報部はほぼ毎日大騒ぎしているし、サイコ・ガンダムなんていうMSさえもグラナダ基地に地球から持ってこさせてる。

 

エゥーゴの実質的な代表者としても、アーガマの艦長としても、大人としてもブライト艦長はどうにか、僕らに、というかヌー曹長とかハマーンさんにお目付け役を付けたかったのだろう。

でも、そのお目付け役のアムロ大尉が捻じ込まれた結果がこれだ。

 

ブライト艦長が悪いわけでは絶対に無いんだけれど…

 

「サイコ・ガンダムも感応波を増幅するサイコミュシステムを搭載している。私のキュベレイも、だ。」

 

口火を切ったのはハマーンさんだった。ハマーンさんの怒りがこもった静かな声は、良く響いて怖い。

 

「それが、何だというんだ!ハマーン・カーン!子供に、カミーユに任せるようなことではない。」

 

険しい顔をしたアムロ大尉は、今にもハマーンさんに掴みかかりそうだ。そうしていないのは、2人の間にゲーツ大尉が居るからだった。

アムロ大尉とハマーンさんの間に、腕を広げて立って距離を開けさせようとしている。もっと頑張ってほしい。

 

「我々ニュータイプの事、戦争の事、全て無責任な研究者共に任せられることではない。我々自身が責任を持ち、向き合うべきことだ。それをまず、分かってもらおうか、アムロ・レイ。現に、アクシズでも地球でもジオンでも、研究者共は強化人間を、ニュータイプを、戦争に利用するためだけに、サイコミュを作っていた。」

 

「地球連邦は違う!ハマーン!ニュータイプの力で、未来予知を行えば虐殺が防げると思ったから、私は強化人間になったんだ。サイコミュはそのための補助具になるはずだ。アムロ大尉、武装を外し解体を行えば、法律上サイコ・ガンダムは兵器ではなくなる。未成年でも問題なく扱える。」

 

「俺は!ニュータイプを、いや、人間をMSやMAの部品にするような技術を、少しでも子供に扱わせるなと言っているんだ!何のためにエグザべ・オリベ中尉が、戦場に出たと思っているんだ?他人の志を、彼の想いをこんな形で踏みにじるような真似を!!」

 

「エグザべ・オリベは、詰めの甘い男だ。己の志1つで、子供を戦場から遠ざけられると思う甘さを持っている。理想を突き詰めない馬鹿な男だ。貴様もそうだ、アムロ・レイ!他人の想いを、願いを大切にするということ、甘く見積もってもらっては困る。言葉に、外面に惑わされるな。全て、本質を見誤るべきではない。」

 

「本質?話を逸らすんじゃない、ハマーン!」

 

「アムロ大尉、サイコミュだとて使い方次第だろう!大尉がMS開発に専念するのであれば、後学のために学ぶのも悪くはない。戦後には、ニュータイプに対して理解のある技術士官が必要となるんだ。同じニュータイプなら信頼できるということを彼女は言っている。ニュータイプが現実に置かれている状況に向き合ってほしいと言っているんだ。ハマーン!あなたもあなただ!喧嘩を売るような言い方をしていては味方が減るばかりだろう!」

 

「この男は私の神経を逆撫でにする、アムロ・レイ!!」

 

「他人を道具にするな、ハマーン・カーン!!」

 

この会話を、僕らはコンテナの陰に隠れて聞いている。僕とマシューとセーラだけじゃない。近くに居る人、みんな、口を両手で押さえて、息遣いまで殺して、聞いている。

 

この前のヌー曹長の大騒ぎの時の比ではない。とんでもないプレッシャーがハマーンさんとアムロ大尉から感じる。

 

マシューに目で合図をする。早くハマーンさんを助けに行けよ!

マシューは首を横に振った。セーラを2人して見た。セーラも首を横に振った。マシューとセーラが僕を見た。当然の権利として、僕も首を横に振った。

 

僕らの近くにいる憲兵も首を横に振った。止めに行ってくれよ!大人で、軍人でしょ!あなたたちは!!

 

「カミーユ本人が、今作戦に同意しているんだ!アムロ大尉。彼は一生、軍属にいることが既に決定されている。」

 

ゲーツ大尉、もっと頑張ってほしい。もっと頑張って、仲裁するか、2人を引き離すか、別の場所に移動するか。とにかくどうにか頑張ってほしい。

憲兵だって僕たちとコンテナの裏に隠れちゃってるんだから、もっと頑張ってほしい。

 

「エグザべ中尉は、カミーユが軍属から外れると言っていた!それを!」

 

アムロ大尉が怒っている。凄く凄く怒っている。

これ、もし僕が自分からサイコミュ研究に手を出したって知られたら…

どうにか、隠し通さないと、アムロ大尉の『修正』を食らってしまう!……エグザベさんにも知られたらまずいかも。

 

「所詮、1軍人の浅知恵だ!ヌー・ハーグが使った程度の姑息な手段では達成できるわけもない。何より、カミーユ・ビダンがニュータイプである、と地球連邦軍の上層部は知っていた。シャア・アズナブルがアナハイムエレクトロニクスにも漏らしていた。7年前のアムロ・レイの戦果と見比べてみれば察しもつく!一時的に、とはいえシャア・アズナブルの手駒になったカミーユが今後、自由に成れると思うのが、エグザべの甘さだ!アムロ・レイ、お前はそのエグザべよりも甘い。何も分かっていないのならば、私の指示に従えばいい!」

 

「ハマーン・カーン!私たちが争って何になるんだ。アムロ大尉も!」

 

「デカいクソガキ共がね、小さいクソガキ共を脅かしてね、本当に大人気ないったらないよね!」

 

とうとう、ヌー曹長が投入された。ガルーダさんが連絡したらしい。連絡した本人は別のコンテナの陰にいた。

 

ガルーダさんはこっちに向かって笑顔でサムズアップしているけれど、僕は今から恐ろしくて仕方が無かった。

 

「痴れ者が!」

 

「ヌー曹長!エグザべを裏切るのか!」

 

ハマーンさんとアムロ大尉の罵声にも、ヌー曹長なら怯まないけれど、それは僕にだってわかるけれど!

 

「はいはい、お二人ともね、一度、落ち着いてほしいんですよね、俺は!この、くっそ忙しいときにね、クソガキ共全員のお守りまでやってられないんですよね!アムロ大尉には悪いんですけどね、情報部ってね、地球連邦軍の上層部もね、参謀本部もね、どいつもこいつもね、神様みたいに何でもできるわけじゃないんですよ!人手もね、資金もね、時間もね、全然足りてないからね、猫の手よりもマシなガキどもの手だって借りてるんですよ!ほんと、恥でしかないんですけどね。俺だってね、エグザべ中尉と必死こいてやった隠蔽工作をパアにされちゃっててね、無能を晒してるわけでね。あー!あー!つまり、最善じゃないけれども次善策としてね、小さいクソガキ、じゃなかったカミーユ君にはね、軍属でいてもらわないと全員が困るって話で。…別に軍属なんだから、殺し殺されっていう仕事ではないのもね、アムロ大尉は知ってるんでしょうから。習ったでしょうよ、軍の講習で、そういうことはね、教えてもらったでしょ。そういうこと知ってて、その上でエグザべ中尉を持ち出してね、自分の主張を押し通そうとするのは卑怯じゃないんですかね?最善手以外は無意味、なんて言うナイーブな考え方なんてね、20歳越えた時点で棄てといてくださいよ、めんどくせえんだよ!!だいたいね、ハマーンさんもね、そんな怒る必要ありますかね?お互い性格の合う合わないは、そりゃあるでしょうよ。慣れ合え、とは言いませんけどね、最低限の円滑なコミュニケーションも取れない人間が子供の手本になれるわけもないんだから、そりゃ、ニュータイプなんて幻想でしょうよ。そんなこと明白ですよ。でもね、ハマーンさんが気に食わないなら、ぶん殴ればどうにかなるって場所じゃないんですよ、軍は!気に食わない相手が味方でも、失敗が見えているような作戦でもね、手持ちの情報と技術と度胸で切り抜けられなきゃね、最善の結果出せなきゃね、人の上に立つ資格もないんですよね!コミュニケーションって技術ですからね。で?今のご自分はどうです?アムロ大尉に対して、最善を尽くされていますかね?感情で動く人間がクソだとまではね、俺は言いませんけど、他人の説得を最初から捨てて行動する人間は、シャア・アズナブルそのものですよね!!グチャグチャ揉めてるデカいクソガキ3人組見てたらね、傍から自分たちがどう見えているのか考えられない人間がニュータイプって分かるわけですよね。そんなもんがニュータイプだって言うならね、常時、鏡持って歩けってだけの話なんだよね!!」

 

駄目だ、これは!僕は確信した。

 

「ゲーツ大尉もね、お高く留まっちゃってりゃ世話無いんですよ!俺の仕事は情報部なんですよね!情!報!部!!大尉をね、アーガマに引っ張り込んだのはこういう面倒な仕事を俺が押し付けられるようにってことなんですよね!俺はね、今725秒無駄にしているんですよ!今から真っすぐ情報部に帰ってもね、更に307秒、無駄になるんですよね!分かってんのかよ!307秒あったらね、飯だって食えるんだよ。まじで!大尉って地位は伊達や酔狂でやっていい職責じゃないんですよ。勝つために、勝利のためにてめえの職責があることをね、忘れてりゃ、ニュータイプも強化人間もオールドタイプも同じだよね!等しく役立たずって言うんですよね!分かってんのか、この、でかクソガキ共!!」

 

「痴れ者め、言わせておけば!」

 

「他人事だと思って、勝手ばかり言ってくれる!ヌー曹長!」

 

「最善を尽くすことを諦めた人間が、大人を名乗れるか!」

 

ハマーンさんとゲーツ大尉とアムロ大尉の怒号が聞こえる。

 

修羅場だ。間違いなく、これは修羅場っていう物だ。僕たち3人は固まって震えるしかできない。

憲兵の人たちは震える僕らを見て、盾になるように囲んでくれた。

 

「これだから、3人ともクソガキなんだよね!仕事、同僚、予算、時間、情報、物資、どれもこれもね、納得できるように、充足されるように出来てないのが戦争なんでね!足りないからって、不満だからって仕事しないなんて我儘言っているのがね、ガキだって言ってるんだよね!仕事しなきゃ人が死ぬのが確定してるのが軍ってところなんですよ!そんな当たり前の基本を忘れていがみ合ってるガキが揃って俺のね、仕事邪魔しやがってね。オマケに小さいガキどもが怯えて震えてるのも気づかないクソ鈍感間抜けダメ人間!!…………あー!!あー!!もうね!!もう、いや、俺もね、言い過ぎたよね!ゲーツ大尉もアムロ大尉もハマーンさんもね、まだ、20過ぎの若者だったね。本当にごめんね。俺が言い過ぎだったよね。うん、ほんと。ごめんなさい。アムロ大尉も、技術士官としての初めてのお仕事ですもんね。ゲーツ大尉も、エゥーゴなんて訳の分からない組織に呼ばれて、軍規が通用しないですもんね。ハマーンさんもね、一生懸命やってることを頭から否定されたら、そりゃ、ムカつきますもんね。いや、俺がね、皆の事考えずに怒鳴り散らして、本当に悪かったです。」

 

途中から、明らかに声音を変えてヌー曹長はそう、言いきった。

 

「不快だ、痴れ者。」

 

そのヌー曹長の大演説を、ハマーンさんが一刀両断にする。だけど、身体にまとわりついていたプレッシャーは解けていた。

 

ハマーンさんもアムロ大尉も、殴り合いそうな空気を解いていた。

 

解けたプレッシャーに、僕らがようやくほっとしたところで、ハマーンさんが言葉をつづけた。

 

「だが、私自身の未熟さは、この痴れ者に言われずとも自覚している。アムロ・レイ。私はお前がただ、気に食わない。地球連邦軍の英雄である貴様が、シャア・アズナブルなどに気を取られていることが気に食わない。1年戦争でシャア・アズナブルを殺さなかったことを恨みもしている。理不尽な怒りをぶつけている、このハマーン・カーンを許せとは言わない。しかし、シャア・アズナブル、いやキャスバル・レム・ダイクンを殺すための邪魔はしてくれるな。私は愛する娘と妹、私を慕うマシュー、エグザべに託されたカミーユやファが大切だ。全てに優先する。そのために奴を、そしてジオニズムを殺すことを優先する。」

 

「俺が、シャア・アズナブルの命乞いをしていると?!子供に、カミーユに殺させるなと言っているんだ!ハマーン・カーン!」

 

「私やお前にできることであれば、そうしていた。現にゲーツ・キャパには、カミーユの補助をしてもらう。してもらわねば、カミーユを助けられない。ニュータイプとしても、社会的信用にしても、だ。シャア・アズナブルに正面から反抗できなければ、カミーユは軍から信用も得られないままに、軍属になる。信用と言うものの重さ、分からぬわけではあるまい。」

 

「アムロ大尉。ハマーンの言う通りなんだ。カミーユの立場を危ういまま、軍属に置いたままにすれば、戦後の情勢次第では、かつての貴方が体験した不遇の生活で一生を過ごすことになる。」

 

ハマーンさんとゲーツ大尉の言いたいことは分かる。

心が追いついた今なら、分かる。

僕だって、かつての僕みたいな人間を信用しろと言われても難しい、というか、目の前に現れたら殴りかかっていると思う。

ファに心配ばかりかけて、周りのことも見えなくなって、ただ縮こまって爆発して……哀れな僕だ。

 

挙句に、戦場にまで来てしまって。いや、僕自身が戦場を作り出してしまうところだった。

ニュータイプを戦争の道具だと思い込んだ大人達に良いように使われて、MSと人間の区別さえ失くしてしまうところだったんだろう。

シャア・アズナブルは、そういう人間だったと、今は分かる。

 

それを、理解できるだけの時間が必要だった。分かるまで、待っていてくれる人たちも必要だった。僕には家族や友人たちが必要だったんだ。

 

マシューが僕の頭を乱暴に撫でまわす。なんだよ!!

自分の方が背が高いからってお兄さんぶるのがマシューの悪い癖だ。どう見たって、マシューの方が弟っぽいのに。

 

「俺は、…僕だって大切にしたいものがある。そのためなら、何にだって立ち向かえる。ファの為なら、エグザべさんの為なら…マシューもセーラも、いてくれるし。マシューとセーラの為にも立ち向かえるさ。」

 

マシューは何も言わずに、ニコニコしながら僕を更に激しく撫でまわす!!なんだよ!僕は犬か!!顔から頭まで撫でまわすな!

 

「俺の、大人の不甲斐なさで、子供を振り回したくないと…」

 

アムロ大尉の声は消え入りそうだった。アムロ大尉が、優しい人だからだ。本当に優しくて、責任感が強いアムロ大尉だから、僕が軍に関わることに、エグザベさんの願いが叶わないことに傷ついてしまってる。アムロ大尉の責任じゃないのに。

 

僕の、責任だ。僕がサイコミュ研究を選んだからなのに。

アムロ大尉に、謝りに行きたい。大尉は何も悪いことはしていないんだって伝えに行きたい。

 

でも、それを遮ったのはハマーンさんだった。

 

「シャア・アズナブルを愛しているのがアムロ・レイだろう。奴の過ちさえ赦してしまう甘さを、優しさと見誤るな。」

 

そのハマーンさんの声は静かだったけれど、はっきりと聞こえた、

 

「何を、言っている…」

 

「いや、何を言っているんだ、ハマーン。アムロ大尉は男だぞ。」

 

アムロ大尉とゲーツ大尉は困惑するだけだ。いや、でもアムロ大尉の声は少し震えているような気がする。

 

アムロ大尉は無自覚なのか。いや、違うか。

相手がシャア・アズナブルだから分からなかったんだ。互いに支え合うことができなかったからだ。

 

真剣に他人を思いやるということができないシャア・アズナブルを愛してしまった、アムロ大尉。

 

「ニュータイプってね、そういう所、自覚無いって本当なんですね。いや、俺もね、ハマーンさんに聞いただけですけど。」

 

ヌー曹長は本当の意味では分かってない。ハマーンさんから聞いたことがある、といってるだけだ。

何にも分かってないはずのヌー曹長の目が、観察する目に変わっていた。分かんないから、そうしているんだって僕は最近分かるようになってきた。分かるまで、観察するんだろうな。そういうことするから、ヌー曹長には彼女だってできないんだ。

 

「俺は…男なんだ。」

 

「愛し合うということ、男と女だけの特権ではない。親子も兄弟姉妹も友人も仲間も、愛し合っている。親子愛や兄弟愛や友愛、親愛という言葉が示す通りに。だが、肉体を捨てた精神の交わりは、精神だけの愛は、その関係性を曖昧にすらしてしまう。その恐ろしさを自覚できないニュータイプは、幻想に消えてもらうほかない。社会に居場所など、あろうものか!ましてや、その力で人類社会を支配しようなどというジオニズムの体現者キャスバル・レム・ダイクンに、ニュータイプの可能性など世界に示させるなどという愚行、決して赦すべきではない。サイコミュが、ニュータイプが戦場で、一騎当千の力を持つなど人々に思わせはしない。ニュータイプが、奇跡が必要などと、人々に思わせはしない。」

 

ハマーンさんはそこまで言い切って、一息ついた。

 

精神の交わり、精神だけの愛、とハマーンさんは言った。

 

僕には、それが分かった。

パプテマス・シロッコ少佐とエグザべさんが初めて会った時のことだ。見たままを、あるがままを受け入れて僕自身の確信にしていた頃のこと。そして、思考が走ることを恐ろしいと初めて知ったあの時のことだ。

 

でも、あの時も2人は、パプテマス・シロッコ少佐とエグザべさんは、当たり前に支えあって思いやり合っていた。

言葉にして話をしていたのだ。精神だけ、という恐ろしさを知っていたから、そうしていたのか。言葉にして、話をしてみせて、僕に恐ろしさを教えてくれていた。

 

心で思っているだけの想いなどでは、積み重ねられない、得られない、育てられない何かがあると、僕に教えてくれていた。手や口や表情、言葉、それが何で人間に必要とされてきたのか、人間がどうしてそれを作ってきたのか、教えてくれていた。

 

人は、社会で生きているからだ。

 

「私とて、このハマーン・カーンとて、そのニュータイプの過ちを犯したのだ。シャア・アズナブルを理解してしまった。たった1度だけとはいえ、その過ちゆえに、ジオン公国を地球圏まで連れ帰ってしまった。孤独と寂しさと荒んだ心が、取り返しようのない間違いを犯させたのだ。だが、それでも、自分が間違ったと分かっていても、その上で踏み出せないものがある。私では、シャア・アズナブルを殺せはしない。アムロ・レイ、お前は私だ。だから、私はお前が腹立たしい。私の神経を逆撫でにしている。」

 

「まあ、さっきはあんなこと言いましたけどね。実際ね、カミーユ君は、エグザべ中尉もパプテマス・シロッコ少佐も大切にしてるニュータイプって、軍の上層部も認識してますし、ハマーンさんのお墨付きもありますからね、軍属のままでも、そうそう邪険にはされませんよ。戦後の情勢がよっぽど荒れなければ、ね。いや、アムロ大尉のね、心配は当然なんですけど。アムロ大尉の場合、本当にまあ、全員、運が無かったというかなんというかね。連邦軍上層部の落ち度も大きいですし、戦後の混乱も大きいですし、ご愁傷さまとしか言いようがなくて、ですね。というかね、懸賞金の額が高すぎて、情報隠す方に注力しすぎちゃったのはね、本当に軍の悪いとこですよね。予算も人手もそれだけで消えちゃってたし。分かりますよ、ああいう環境をね、子供たちに与えたくないというのは、常識的に真っ当な感覚ですよね。アムロ大尉の真っ当な感覚ですよ。そりゃ、俺だって分かりますよ。子供をね、戦争に巻き込みたくないですもんね。……というか、普通はこんな作戦ね、サンコミュジャックなんて不確実な作戦、軍じゃ採用されやしないんですよね。はっきり言えば、ニュータイプ幻想に浸っていたいだけの馬鹿どもの眼を覚まさせるための作戦ですし。ニュータイプと強化人間とサイコミュ研究に充てられている予算を潰したい派閥のね、大人のいやーな思惑交じりの作戦ですよ、本当にね。カミーユ君は、これから自分で自分の感応波を見ながら、サイコミュを調整するって人類初のことしてもらうわけですし。アムロ大尉の言う通り、子供に押し付けるようなことじゃないわけですよね。」

 

ヌー曹長の言葉に驚く。

え?僕のサイコミュ調整って、僕がするのか?いや、でも、そうか。サイコミュを使うのは僕だし…もしかして、何かあれば、サイコミュを使用しながら調整もする?ということか?

 

そのために今、ゲーツ大尉のサイコミュ調整をしている、練習台になってもらっているということか?聞いてないけど?

は?サイコミュジャックしながら、サイコミュ調整もするのか?僕は忙しすぎないか?大丈夫か、この作戦。

ハマーンさんなら何とかしてくれるんだろうけど。いや、もしかして、僕が何とかしないといけないのか?

 

「精神の交わり合いなど、人には過ぎたもの。混じり物の精神では…シャア・アズナブルに影響を受けた私とアムロ・レイでは、人の争いを肯定してしまう。争ってでも、人を殺してでも人の革新を求めるシャア・アズナブルを殺しきれない。シャア・アズナブルと争うことさえ、積極的に求めてしまう。お前はシャア・アズナブルを求めずにいられるのか?アムロ・レイ、ニュータイプの感応を共有した相手は特別に見えるだろう。」

 

「それを、ニュータイプ幻想と、言うのか、ハマーン・カーン。」

 

「私はそう呼んでいる。感応を共有した相手が少ないほど、相手に依存しやすいのではないか、という推測もしている。確認のしようがないことだが。…地球圏に帰って来れて、良かった。エグザべ・オリベやカミーユ・ビダン、ファ・ユイリィに会えた。娘も妹もマシューも彼らに会うことができた。有体に言えば、感応できた。これまでも、これからも精神だけではない関係を積み重ねていける。ただの人として、居場所を作っていける。それを幸福と思えるようになれた。私は、強い者たちと会えたのだから。」

 

ハマーンさんは、7歳か8歳の頃から、ニュータイプだった。

 

アムロ大尉よりも、僕よりもずっと長い間、ニュータイプに振り回されてきていた。そして、その間、向き合ってもいたのか。

 

 

 

 




全方向全自動喧嘩売り人間ヌー・ハーグ  編


ヌー曹長やっぱ、頭おかしいわ。どうかしてるぜ。イカレタ鳥ガチョウのような男。

ガルーダ・ラブハート一等兵は良い仕事した、と本気で思ってる。
ニュータイプの修羅場が見たい、とか言ったか??オールドタイプも仲間に入れてやるよ!!みんなで仲良く修羅場ろうな!!

シャア・アズナブルはいれてやらねー!!

スレ11辺りですかね。哲学と文化人類学から見た『愛』について皆様語ってくださっていて、すごい勉強になりました。もっと話していたかった。
友愛と家族愛とまあ、そのほか諸々と、区別つかなくなったら人類社会はお終いです。
「マニア」の原義をスレで知りました。賢人はどこにでもいてくれるものです。
皆さん、学びましょう!学ぶことこそ、知ることこそ人の喜びです。









以下、ここ書いてた当時に赤ワイン決めながら書いた怪文書


シャア・アズナブルとアムロ・レイが愛し合っているというのは、富野監督の中では公式です!!俺の推測ですが、間違いなく公式!(なおその後スレで、富野監督のインタヴュー記事が発見され確定……確定すんなや、こっちはギャグで書いてたんやぞ。)


しかし、皆様聞いてください。アムロ・レイは人間関係が大変狭い人物です。内向的というより閉鎖的ですらあります。
かつての知り合いはサイド7で死んでいるか、別れているか、1年戦争で戦死しています。父親も酸素欠乏症でほぼ狂い死にのようになり、母親とも喧嘩別れのようなり、それっきりです。
アムロさんは人間関係のサンプル数が少ない。しかも、友人はみんな戦友になってしまって……最終的にブライトさん家族以外いなくなりました。
戦場以外で人間関係を構築できたという成功体験が無いんです。Zガンダム本編の時点で、戦友以外作れない人間になっています。なので、ベルトーチカさんとも戦友にならないと恋人になれなかった。チェーンもそうでしょう。
まさに、Zガンダム本編カミーユの言う「傷のなめ合い」です。カミーユに言う資格は全くありませんが。本編カミーユなんか「傷のなめ合い」したくてもできなかったからな。

シャア・アズナブルの場合、もっと悪い。誰もいないんです。上司か部下しかいない。しかもそれも、仮面を付けた上での人間関係でしかないんです。
何故なら、彼は、キャスバル・レム・ダイクンだった幼いとき、恐らく友人とか幼馴染がいなかった。テレビ版の1stを見た時、兄妹の心の距離が近すぎるから分かるのですが。再会したあの時点で長年会っていないらしいのに、2人の感情は歪んでます。つまり、キャスバルとアルテイシアは、兄妹で親友で家族だったんでしょう。人生が2人っきりで完結できさえする依存しあった歪な兄妹です。
アルテイシアは克服したんだと思いますけどね。地球に住んでますし、アムロとも別れています。
キャスバル君はキャスバル君のまま時間が止まっています。シャア・アズナブルは所詮仮面です。仮面に人間関係が作れはしないのです。
ララァ?戦場に連れてきた時点で部下だよ。ララァはキャスバルって呼んだことないだろ。それが答えです。

恋人には本名を呼んでもらいたいのが普通の感覚だと俺は思う。
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