機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記   作:1スレ130番より愛を込めて

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愛の定義

 

 

 

 

アムロ・レイはシャア・アズナブルを愛している。

 

その、ハマーン・カーンの言葉を、俺は恐ろしいと思った。

殺気立っていたハマーンよりも、その言葉こそが恐ろしかった。

 

俺は、アムロ・レイは男だ。

普通の、異性愛者だ。自分でも自覚はある。同性をそういう目で見たことはない。ないはずだ。

 

だが、そのはずの俺は、セイラさんと別れてしまってもいた。1年戦争の後、セイラさんから別れを告げられてしまった。

別れたくはなかった。セイラさんもそう、思っていた、と今でも感じている。アムロ・レイは若すぎて、セイラさんを引き留める言葉を持っていなかった。

地球連邦軍に軟禁されたことを言い訳に、時候の手紙すら送っていない。この7年間、1度もセイラさんと会っていない。

セイラさんが俺に別れを告げた理由も聞けないまま、今まで過ごしてきてしまった。

 

フラウともそうだ。彼女は、幼馴染だ。サイド7に引っ越した時から、俺を見ていてくれた、俺を気遣ってくれたフラウ。

彼女がハヤトと結婚したときは心から祝福した。あの時は心から、祝福できた。

でも、この前、再会したとき、会いに来てくれた時、心から聞きたかった。

どうして、俺と一緒に居てくれなかったのか、聞きたかった。自分勝手な疑問だと分かっている。

 

分かってはいても、どうして、俺は、……いや、俺は女性を愛せていないのではないか?

愛しているつもり、でいた俺だから、セイラさんもフラウも俺から去っていったんじゃないか?ただの自分勝手な欲望を押し付けてしまっていたんじゃないか?

 

母の去っていった姿が、忘れられない。

 

愛しているつもり。理解しあったつもり。

 

ニュータイプ幻想、とハマーンは言う。

 

俺もハマーンも、シャア・アズナブルを殺せない者同士だと。シャア・アズナブルに影響を受け依存していると。

シャア・アズナブルが、特別な存在に見えるはずだ、と。

 

それを否定できない俺がいる。アムロ・レイがいる。

 

カミーユ・ビダンを、子供を戦場へ向かわせていたとしたシャア・アズナブルを!俺を月まで誘拐してきたシャア・アズナブルを!俺はあの時、庇おうとしてさえいた。

 

庇わずにいられたのは、何度もブライトの涙を見たからだった。俺に戦ってほしくないと、ブライトが泣いたからだ。自分が間違えていたと、ブライトが、あのブライトが泣いたからだ。

ブライトは戦場に戻りたいわけじゃなかった。英雄で居続けたいわけでもなかった。ただ、ただ、どうしようもなく平和に生きていく方法を、平和を築いていく方法を知らずに足掻いていただけだった。

 

戦う以外の方法を、知らなかった。

 

そのブライトの後悔と懺悔が俺を、そしてカツを戦場から引き離してくれた。守ってくれた。

俺の過ちで、カツを戦死させていたかもしれないことにも気づかせてくれた。

 

だから、エグザべ・オリベ中尉にも会えた。もう、人を殺しをしたくないという俺の気持ちを肯定してくれる人間に、会えた。俺が、戦場に出なくて済む道を交渉してくれた情報部にも。

 

宇宙には、俺を理解してくれる人たちがいた。それならば、きっと地球にもいてくれたのかもしれない。

俺の気持ちを無下にしない人たちが、俺を救ってくれた。

 

だが、俺は彼らに報いる道が無い。カミーユを軍から、軍属から遠ざけられないと、皆が言う。カミーユ自身も承知していると。

 

俺は、何をしているんだ?何がしたい?子供たちのための未来を切り拓いていくいきたいんだろう。

 

そのために、何ができるのか、何をすればいいのか分からないのは、俺が何も知らないからだ。人のことも、社会のことも、軍のことも、ニュータイプのことすら知らないからだ。

自分自身のことですら、ハマーンに指摘されるまで分からなかった。

 

俺は、シャア・アズナブルを愛しているらしい。否定ができない。

 

それが、性愛なのか、それとも同胞愛なのか。あるいは、憐憫に近いものなのかすら分からない。

分からなくなってしまうのが、ニュータイプ同士の感応。そしてニュータイプの感応のままに自己の中で他者との関係が完結してしまうニュータイプ幻想。

共有できたニュータイプだけが特別に思えてしまう幻想の世界、混沌のまま愛し合える幻想の世界。

 

否定ができなかった。

 

愛という物に臆病な俺には、否定ができなかった。

 

 

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「覚えておくといい。カミーユ。先ほど、ヌー曹長と私が行ったのは洗脳の一種だった。稚拙で、事前の打ち合わせさえしていないのだから粗末だが、人間はあの程度の洗脳で己の心が揺らぎ、他者の言葉に左右される。ニュータイプでさえも、悪意あるなしに関わらず、それが洗脳だと分かっていてさえも、引っ掛かりもする。精神という物は揺らぎやすく、傷つきやすい。」

 

アムロ大尉は、しばらく休むと言って休憩所へ向かっていった。ゲーツ大尉とガルーダさんはその付き添いでついていった。憲兵も半分は護衛でついていった。

 

あの人たちがあの修羅場の時に、コンテナの陰に隠れていたことは後でブライト艦長にチクっておこうと思う。

 

ヌー曹長?別の憲兵がどこかに引っ張って行ったから、僕には分からない。

 

僕たち3人は、ハマーンさんと一緒にサイコガンダムのコクピット内で話をしていた。コクピットの中は当然、4人も入れるように出来ていないから狭い。セーラはコクピット席にハマーンさんと無理やり収まっている。僕はその横に立てるけれど、マシューは頭を天井に打ったから僕の横でハマーンさんに膝まづいてデレデレしている。

エンジンのついていないサイコガンダムの中は、防音室と同じだ。

 

「でも、ハマーンさんはアムロ大尉を助けたかったから、ヌー曹長の策に乗ったんでしょう。アムロ大尉は、ハマーンさんを否定しませんでした。」

 

2人とも、アムロ大尉のことを心配していた。

ヌー曹長がアムロ大尉に今のMS開発の仕事を紹介したって、エグザベさんから聞いたのはもうずいぶん前だ。

ハマーンさんも、アムロ大尉と仲が悪いわけじゃなかった。キュベレイの話になると2人とも、ちょっと楽しそうにしてた時があった。

 

「私は、カミーユとエグザべに恩を返したいだけだ。」

 

ハマーンさんは、またそういうことを言う。だから、勘違いされやすいんだ。

 

「姉さん。アムロ大尉が、シャア・アズナブルを愛してるのなら、くれてやったらいいじゃないですか。お2人で仲良く消えてもらえたら。いいえ、1年戦争の時に、消えていてくれたのなら…」

 

「セーラ、優しい子。でもね、過去は変えられない。それに、私も俗物よ。所詮人間なの。恨みは、晴らしたい。」

 

「ハマーン様がお望みならば、このマシュー・ゼロが命にかけ!!」

 

とんでもないことを言いだそうとしたマシューを慌てて殴った。『修正』だ!

 

「馬鹿!馬鹿言うなよ!マシュー!」

 

「カミーユ、感謝する。マシュー、カミーユの言う通りだ。何のために、私がアクシズからお前を連れ出したと思う?私たち姉妹が、マイネが信頼できる人間など、お前以外に居なかったからだ。私たちを悲しませてくれるなよ。」

 

全く、マシューは!

 

「心は、精神はこんなにも揺らぎやすく傷つきやすいものなのに、ニュータイプはその精神の交わりを、精神の愛を絶対視してしまう。心が追いつかない、とカミーユが感じていたことは真だ。愛に振り回されているニュータイプばかりだ。愛とは性愛だけではないというのに。人間は精神だけで満足できるように生まれていない。肉体の充足を忘れて、一時的に精神が満足することができても、やがては忘れられた肉体が疼く。その肉体が求めている愛を性愛と誤解してしまっている。……いや、もしかすればアムロ・レイにとっては性愛が至上の愛か。そう思い込んでいるのか、他の愛を忘れたのか。今の私では分からないことだ。ならば、手助けもここまでしかできない。」

 

「性愛が至上の愛?」

 

アムロ大尉は、性愛を最重要視しているから、あんなにも動揺していた?

 

自分がシャア・アズナブルに性的に欲情していると勘違いしたということか?僕から見ても、それは違うとは思うけれど。

 

世の中は広い、と言うことを僕はまだ、知り始めたばかりだ。分からないことだらけだ。ニュータイプだろうと、オールドタイプだろうと少しずつ知っていくしかない、と分かってきただけだ。

 

分かったことの1つ。

 

「ハマーンさんと僕は似ているんですね。僕も、家族が一番大事です。家族を愛して生きていきたいから。」

 

「その素直さを好ましく思う、カミーユ。だが、アムロ・レイのこともマシューのことも想うのであれば、いや、エグザべ・オリベを想え。個人にとって至上の愛を何とするかは異なるものだ。」

 

「はい。分かります。だって、エグザべさんですから。僕の家族ですから。僕とファのこと、大事に思ってくれてるのだって、精神だけじゃなくて行動でも言葉でも教えてくれてたんです。」

 

エグザべさんは、友愛が至上の愛の人だ。いつか理由を聞いてみたいと思ってはいるけれど、エグザべさんにとっては家族愛や性愛よりも友愛が大切なんだ。自分の命を捨ててもいいと思えるくらいに。そういう愛を持った人だから、僕は彼を家族として愛している。

だから、ファにもエグザベさんにも、自分の命を何よりも大事にしてほしいと思えた。

 

「ファと結婚式あげるときには、エグザべさんにファをエスコートしてもらいたいな。」

 

思わず、そう言葉に出てしまっていた。

 

「カミーユ!今、今なんて言いました?ファにプロポーズもしていないのに!カミーユ、あなた、ファにまだ、プロポーズどころか、告白もしていないのに。姉さん、カミーユはファに告白していないんですよ!」

 

セーラが聞き逃してくれずに、ハマーンさんに告げ口する。そんな瞼をかっぴらくような顔で言わなくて良いだろ!

 

別に、告白しないわけでは…タイミングという物が世の中にはあるってだけで。ちょっとはファに格好いいって思われるような、告白だってしたいし。

サプライズとか、ちょっといいよなって思うし。プレゼントだって渡したいし、何より、デートだってしたい。

戦艦の中でプロポーズは嫌だ!すぐに噂になって、知った顔も知らない顔もちょっかいかけてくるに違いないんだ。

 

「まだまだ、カミーユは子供だな!俺のように堂々と、愛を告白できねば格好つけようもないだろう!」

 

いけしゃあしゃあとマシューが言う。さっき僕に殴られたばかりだって言うのに!お前は格好つけているつもりかもしれないけれど、別に傍から見て格好よくは見えないんだからな!

 

「地球に、帰って来れて本当に良かった。」

 

ハマーンさんはセーラを抱きしめて、そう言った。

もしかしたら、泣いていたのかもしれなかった。僕は見ていないふりしたけれど。

 

 

 

 






アムロさんは混乱している 編


まあ、ありていに言えば、急に幼馴染や彼氏が「呪われたアムロ・レイ文書」に書いてあるようなことを言い出したのならば、普通、距離を開ける。誰だってそーする。俺だってそーする。
しかも、よくわからない使命感に駆られて言い出してるからな、弊SSのアムロさん。
精神的に支えたくても、ちょっと厳しい。
セイラさんも自分の兄貴が「ニュータイプのつくる世界のためオールドタイプは殺してもいい(意訳)」とか言っているの聞いてるから(劇場版)……あの兄貴にアムロさん巻き込みたくなくて離れたんだろうに。

かわいそうなアムロ大尉。まあ、宇宙世紀でも常に周囲に振り回されている立場だから仕方がない。
アムロさんって本当に初心で真面目な良い人なんですよ。それがどうして……



弊SSでは、アムロ、エグザべはニュータイプ歴7年、パプテマス・シロッコは木星で開花したので8~9年、カミーユは2~3年、ハマーンは12年ちょっと、で設定しました。
この上記5人がニュータイプ能力の強さで5指に入るくらい。ララァ・スンは亡くなっているので除外。

フォウ・ムラサメとロザミア・バダムも、カミーユと出会っていないので除外。出会えていたら、エグザべがランク外。

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