機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記 作:1スレ130番より愛を込めて
先史時代からあるモチーフの1つだ。
てめえで、てめえの尻尾を飲み込んじまった間抜けな蛇だかドラゴンの姿に、人間は「完全性」やら「永続性」やら「不老不死」やら御大層なイメージを受け取ったらしい。
犬や猫が自分の尾で遊び始めたら「馬鹿で可愛い」なんて言う人間が、だ。
ま、犬猫はてめえの尾で死なねぇからな。可愛いで済むか。
「物質世界の限界」の象徴なんぞにもならずに済んだ。
なあ、精神や心が物質で出来てない、なんてどこの馬鹿が言ったんだ?
良き生命体は、いずこ?良き、心、を…を……よ…き…
良き生命体?生命は…生き物は、生きているのならば、わかるだろう!
わからないのか?!
生きることは、生きていくってことは、綺麗ごとじゃないんだよ!綺麗ごとでは…
赤い巨人の声が、遠ざかっていく?いや、止まった?今更?
僕の声で止まった、とは思わない。赤い彗星と同じだからだ。世界に他者がいない赤い巨人だ。僕の声なんて、小鳥のさえずりや水音にすらならない。
無いに等しい。なのに、何故。
考えている暇はなかった。
敵が見えた。
目標のアクシズ港湾から、巨大な深緑のMAがこちらへ向かってくる。キュベレイに似ているようで似ていない。遠目にはジオン公国のマークのようにも、鎌を構えたカマキリのようにも見える。
新手か?いや、見たことがある?どこで見た?
お前は、サイド4、アレキサンドリア級戦艦の艦橋に居た。
「レコア・ロンド!!」
ジオン公国の大型MAならば、サイコミュを積んでいる可能性が高い。だというのに、なんで、僕はお前を見なかった?
僕は、赤いキュベレイしか見えていなかった!!
チェス盤の向かい側にいたのは、シャア・アズナブルではなかったということか!!
シャア・アズナブルでない人間と、僕はチェスをしていた?誰が僕と?
一瞬の白い光の中、17歳の僕が笑って僕のキングを取って行った。
白い死神!エグザべ・オリベ!!見つけた!キャットの仇!
ノロマのシャア・アズナブルを置いてきた甲斐があったわ!
私の所に来た!私に殺されるために来た白いMS!
ジオン共和国軍の旧型戦艦ムサイ級を背に、私の胸に飛び込むように来た白い死神。
「死神なら!あの世にお帰りなさい!!」
小型ミサイルランチャーでノイエ・ジールの中心に来るように誘導する。螺旋を描くように死神の剣が光線を描いていて美しいわね。私のミサイルランチャーの爆発さえ、お前を彩るための、お前の栄光の踏み台にする気かしら。
「お前の存在が、目障りなのよ!」
メガカノン砲を放つ!この距離ならば、避けられないはず。
レコア・ロンドのミサイルランチャーが僕をMAの真正面へ誘導しようとしているのは、分かった。
後方のムサイ級を落とさせるわけにはいかない。決死隊が乗っている。
幸い、ミサイル弾頭は小さい。殺せる。ビームサーベルで斬り落とす。だが、この位置に僕を固定するということは!
パンジャンドラムを手放す。
推進剤と敵のカノン砲がぶつかり、火炎と爆発が僕の姿を隠すだろう!後方の戦艦でさえも、ビームならば爆発が拡散させて、威力を減衰させるはずだ。守れる。
レコア・ロンドの下方から斬り上げる。
「Iフィールド、バリアだと?!」
僕のビームサーベルが霧散した?
咄嗟にレコア・ロンドの右肩を踏みつけ上方に飛ぶ。上に逃げた僕を追ってくるレコア・ロンドは素直か。
いや、有線のアームのようなものを伸ばして追ってくる。
殺意が、飛んでくる!!アームの先からも、ビームが出てくる?
逃げても時間の無駄だな。
まとわりつこうとする、アームの有線部分は斬れた。そうか、Iフィールドバリアには有効範囲がある。
分かってきた。
「私を、私、女を踏みつけて!踏み台にして!!己の良いように使う男が!!エグザべ・オリベ!!」
上方に逃げる白い死神を追いながら、有線クローアームを起動させる。ノイエ・ジール自体は単調な動きしかさせられないけれど!!クローからはメガ粒子砲も放てる。背後から掴み殺してやる!!
「惨めな思いを味わうと良いわ!」
2つのアームの動きを見切ったように動く白い死神。見えているとでもいうの?私が何をしようとしているか、先を読んでいる?
「馬鹿にしてるの!!私を!」
右のアームが斬り落とされた!
白い死神が、振り向いた。エグザべ・オリベ、あなたは私を見たのよ!
見たのなら、分かりなさいよ!
「女の為に死んで!」
そう、踏みにじられた私の為に、死んだキャットの為に、アクシズでこれから死んでいく人の為に、お前1人くらい道連れに出来なければ、生きて来た甲斐が無いという物よ!!
レコア・ロンド、強い機体だ。ミサイルランチャーとメガ粒子砲の嵐は小さな戦艦の弾幕のようだ。ハリネズミの針だ。
距離を取れば当たることはないだろうが、時間だけが惜しい。
僕はパンジャンドラムを失っている。
僕に左脚のビームライフルを取らせた相手は、いつ以来だっただろう。
「敬意を抱くよ。レコア・ロンド。」
だけど、貴女は子供に銃口を向けた。子供は、シンタは泣いていた。可哀そうなシンタとクム。もう、宇宙に溶けてしまったか。
貴方もキャスバル・レム・ダイクンも彼らのために泣かなかった。
僕もだ。
そう、2人共、僕らが見捨てた子供達だった。
戦災は彼らさえ、見逃さなかった。
「宇宙に上がって来なければ、見逃してやったのにな!!」
ビームライフルで、レコア・ロンドの左腕、違った、左のアームの有線を撃ち絶つ。共和国軍製の威力の低いビームライフルで打ち切れるほど、本体以外は脆いのか?
メガカノン砲とメガ粒子砲を放ちながら、僕との距離を詰めるレコア・ロンド。
焦っているんだろう、レコア・ロンド!僕がかすりもしてやらないから!
僕が、お前の後ろに回ろうと動き続けているから、戦闘と機体に慣れないお前は、疲れて焦っている!
「なんで!死なないの!」
理不尽よ!何故、お前は、男は死なない?!キャットはイイ男を夢見て、夢を見たまま逝ってしまったのに!!それなら、私が少しでも送ってやらなければ、報われやしないじゃない!
左のアームの有線まで正確に撃ちぬいて!私に見せつけるように…
「私を見捨てて、凌辱した男なんて!!私を助けなかった、貴方が生きているのが間違いなのよ!!クワトロ・バジーナ!!」
世界に優しさがあるのなら、私にこそ、報いるべきよ。私を助けなさいよ!
ノイエ・ジールに肉薄してくる白い死神を消す力を私に与えなさい!
無惨に踏みにじられた私なら世界に復讐する権利があるでしょう。
クワトロ・バジーナを、シャア・アズナブルを、キャスバル・レム・ダイクンを!!戦争をする男どもを地獄へ送る権利があるはずよ!!
レコア・ロンドの上方を取ったのは、何となくだった。レコア・ロンドの形が、僕にそうさせた。
案の定、ミサイルランチャー以外の攻撃が上方に向かって来ない。大きいということは、大きい体を動かすのは、気にすることが多すぎて死角すら大きくなるということだ。
「そこだ!!」
殺したと思った。ビームライフルの筒先をレコア・ロンドの頭に直上から当てて撃ったのに!
レコア・ロンドは咄嗟に右にずれた?左肩は撃ちぬけたが!
再度、レコア・ロンドを蹴って体の位置をずらす。ミサイルランチャーは撃ち尽くしたか!メガ粒子砲もこの位置なら掠めはしない。
「至近距離でなら、Iフィールドバリアも効かない。」
それを確認できた。成果はあった。だが、殺し損ねた。距離を取る。
左腕にパンジャンドラムが無いのが不満だな。あいつがあれば、とっくに殺せていた。
右にノイエ・ジールを動かしたのは、事故だった。焦って手が滑ったからだった。
だけど、それが私を生かした!
世界が私に味方した!
そうよ!虐げられて見捨てられて、馬鹿にされて忘れられさえした人間には報復する権利があるのよ!裏切られた人間は、善意の見返りさえ得られなかったんだもの。
見返りを奪う権利がある!!
地球に降りて、死にかけて、凌辱された私を誰も助けてくれなかった。無事さえ確かめなかった男共!クワトロ・バジーナ!!
私の苦しみ、悲しみ、憎しみを晴らすために、世界が味方したのよ!
「お前を殺せば!私は楽に息ができるわ!」
ノイエ・ジールにはサブアームが4本付いていた。左の2本は潰されたけれど、まだ右がある!ビームサーベルも!
「男なら!!女を抱きたいんでしょ!!お前も!!」
ノイエ・ジールの高い推進力でなら、白い死神を逃がさなくて済むのよ。死神に抱かれずに済む!
世界が私に味方してくれる!力を与えてくれる!
レコア・ロンドの右腕が3本に増えた?肩の中に2本の腕を隠していた?今更、ビームサーベルを使ったところで、何になる。
もっと早く使っていたなら、僕に1撃くらい当てられたかもしれないのに、今更。
今更。
今更。
今更。
「レコア・ロンドを切り捨てたのは、僕だ!」
「私は斬られていない!お前などに!」
「お前の存在が邪魔だった!クワトロ・バジーナの、シャア・アズナブルの忠犬は1人でも消しておきたかった!消えたはずの駒が!今更、出てくるな!」
大きな体で、左肩から下を失った体でまともに僕と戦えるなど、馬鹿馬鹿しい。推進力は高いけれど、新兵にだって落とせるような駄々をこねるような動きしかできないレコア・ロンド。
盤上にないはずの駒が、今更!何ができる?!
「私は人間よ!女よ!」
「エゥーゴの反逆した証拠が、レコア・ロンドだ!!」
ジャブローの偵察をエゥーゴが行っていた。その行為自体が、地球連邦軍に対する反逆の証拠だった。エゥーゴの増長がティターンズから見逃されていた証拠でもあった。レコア・ロンドの存在だけで、ティターンズはエゥーゴを壊滅させることができた。大義を持てたはずだった。
そうなっていれば、カミーユの命も危なかった。
「お前1人の為に!地球もコロニーも共和国も、カミーユも混乱に陥らせるわけにはいかないんだよ!!」
その程度の稚拙な動きで!ビームサーベルをただ無意味に振り回すだけの動きしかできないのに!
今更、戦場に出てきたところで何ができる!
宇宙に上がって来なければ、命は見逃してやったのに!!
「世界の為に!私を生け贄にするなぁあああ!!」
「軍人なら!世界の為に死ね!」
それは、僕が軍人になった時に覚悟したことだ。
どのみち、僕がレコア・ロンドを殺すためには、Iフィールドバリアを突破するには、肉薄しなければならない。レコア・ロンドの爆発は僕を巻き添えにするだろう。
だが。
僕がいなくても、世界は回る!
僕がいなくても、シャア・アズナブルはヤザン大尉やパプテマス・シロッコが捕まえてくれる!
僕がいなくても、共和国軍にはギャン部隊がある。地球連邦政府も共和国に支援の手を貸さざる得ない。
僕がいなくても、もう、カミーユは孤独じゃない!
「軍人なら!世界の為に死ね!!」
「死にたくない!!」
軍人になど、なりたくなかった!1年戦争さえなければ!戦争さえなければ!!
故郷が、コロニーが、家族が、友人たちが、皆が無事だったのなら!
私は、素敵な人と出会って!!お嫁さんになりたかったのよ!!
戦争が始まらなければ!白いウェディングドレスを纏って、お父さんやお母さん、友達のマリア、クリス、イェンイェンと笑いあって過ごして、いつか出会う愛する人と喜んで幸せになりたかった!!
「死にたくないのよ!!」
家族、友達、戦友……1年戦争からずっと私は失い続けて来た。
でも、戦って、戦って、戦って。それで、あの世に行ったら、そう、ずっと夢だった結婚式のように、皆と再び笑いあって、手を取り合えると思っていた!皆、戦った私を誇りに思ってくれて、良くやった、と褒めてくれるって。
頑張ったね、偉いよって言ってくれるって。
私たちのためにありがとうって。
白い死神が、私を殺しに来る。
死にたくない。まだ、死にたくない。
だって、私、まだ、仇を取ってもいない!!私の、故郷の仇を殺せてない!
「私、仇と寝ていたのよ!!クワトロはシャア・アズナブルだった!」
サーベルでコクピットを防御するように構える。ああ、Iフィールドバリアが、サーベルを霧散させてしまう!
コクピットに衝撃が、届く…死神のビームサーベルの柄が当たった。
「私、仇と寝てたのよ!!クワトロはシャア・アズナブルだった!」
今更だろう!
ビームサーベルを起動した。
レコア・ロンドの爆発は僕を巻き込んだ。予想通りに。
ビームライフルを捨てた左腕で心臓を咄嗟に庇ったが、果たして生きているか?僕は、まだ生きているのか?
僕が立てた、港湾封鎖作戦は?さっき守ったつもりのムサイ級の戦艦は、まだ生きているか?
友は?パプテマス・シロッコは?ヤザン大尉は?味方のMS部隊は?
敵はまだ、生きている…そうだ。それが分かる。レコア・ロンドは最期にそれを教えてくれた。敵がまだ生きている。シャア・アズナブルがまだ生きているのならば、人類の敵が生きているのなら、僕も生きているはずだ。
動かないで。頼むから。動くな。
カミーユの声が聞こえた。どこから?
カミーユ・ビダンの声がする。
悲しいね。
逆シャアのアムロだったら、ノイエ・ジールも瞬殺できただろうに…
でも、アムロはもう人殺ししたくないって言ったから、そうだな。エグザべの仕事だな。