機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記 作:1スレ130番より愛を込めて
サイコミュジャック作戦が開始できたのは、僕のサイコミュ調整が間に合ったからだった。それでも、アクシズ港湾封鎖作戦の30分後にはなってしまったけれど。
ハマーンさんのキュベレイを解体して改造を施されたサイコミュシステムは、武装解除されたサイコガンダムのサイコミュと通信が繋がっている。それから、Zガンダムのバイオセンサーともだ。
Zガンダムのバイオセンサーは簡易的なサイコミュでしかない。
でも、アクシズ製のサイコミュや連邦製のサイコミュより調整が大変だった。大変と言うよりサイコミュのように機体の制御を感応波で調整するようなシステムが搭載されていなかった。ただ、ニュータイプの感応波を観測するだけの機能しかない。マニュアルにはそう、書いてあって、実際Zガンダムのコントロールシステムも地球連邦軍のメカニックの人達によって、あらかじめ齟齬はないと確認してあった。
そのはずだというのに、僕のニュータイプの感応波を観測すると勝手にZガンダムの兵装制御システムやらコントロールシステムを立ち上げて、予測不能なシステム改竄を始めたのだ。なんなんだ?これ?
兵装を外した後だったからよかったものの、もし外していなかったら何が起こっていたのかさえ分からない。
調整をしていた僕は当然悲鳴を上げたし、その後、検証に入ったアムロ大尉やアストナージさんを始めとするメカニックチームは顔を青くしていた。この謎の現象は再現性が低い上にバイオセンサーの暴走はエンジンを落とさない限り、制御不可能らしい。なんだそれ?
僕の感応波だけでなく、アムロ大尉やハマーンさん、ゲーツ大尉の感応波でも暴走する謎のシステムがバイオセンサーだった。本当に、なんなんだ、それは?!
Zガンダムは即時解体が決定され、コクピットとバイオセンサーだけが取り外された。何度か確認したけれど、この状態だと暴走しないらしい。まあ、暴走させるシステムがないから。
腕も足も頭もないし。
何度か検証をして、ハマーンさんやアムロ大尉、ゲーツ大尉は、バイオセンサーがニュータイプの感応波を増幅するだけの機能を有しない、と判断した。だけど、この状態でも感応波を受信し、観測することはできる。
暴走しなくなったバイオセンサーは僕とゲーツ大尉の安全のために使用されることになった。精神の不調をいち早く発見するために、僕らの感応波を観測するのに使用される。
ハマーンさんとアムロ大尉が、Zガンダムのバイオセンサーで僕らを見守ってくれる。
「カミーユ。ゲーツ・キャパがお前にさせないだろうが、念のために言っておく。お前は戦場の声を聞くな。耳は塞げ。戦場を見る必要もない。動くな、とだけ命じ続けろ。それだけでいい。」
ハマーンさんは、僕にそう言った。
「カミーユに、子供にそれ以上を背負わせてしまえば、私の立場もない。エグザべと私の殴り合いが見たいというのならば、許可もするが?」
「大人の、そういうおどけ方、僕は嫌いですよ、ハマーンさん!僕だって、分かってます。エグザべさんだって、僕がハマーンさんの指示を無視したら、絶対、僕を怒ってくれます。」
ハマーンさんは、義理堅い人だ。頼りになるってエグザべさんが言った人だ。それを、行動でも示してくれた。口下手だからか、話し方が家族とそれ以外の人たちで全然違うし、勘違いされやすいけれど、思いやりのある人だ。
だから、僕はサイコミュシステムに乗り込める。だって、ハマーンさんのキュベレイだったものだから。
不安が無いわけではないけれど、ファもマイネも、マシューもセーラも近くにいてくれる。サラとシドレも、作戦内容は知らないだろうけど、僕が疲れ切った顔をして通信してた時に応援してくれた。僕には友達がいてくれる。
ハマーンさんとアムロ大尉とゲーツ大尉も助けてくれる。
戦場には助けたい人たちがいる。エグザべさんとパプテマス・シロッコ少佐。あとついでにシドレの彼氏。
ハマーンさんのキュベレイのコクピットを取り出して、そのまま使用しているサイコミュシステムは内部も外部もあちこち配線がむき出しだ。ダクトテープで押さえている部分もある。
これでも、サイコミュジャック作戦が構想された時より、ある程度マシになってる。
アムロ大尉は、内部と外部の惨状を見て、頭を抱え徹夜で、ある程度整えてくれた。間抜けな誰かが配線で転んで引っこ抜かない様にもしてくれたし、配線の電波が混戦したり互いに干渉しあったりしないように電磁波の遮断テープを巻いたり、デバイスの位置やコンソールの位置を調整してくれたり、スパゲティコードを見やすいように整えてもくれた。つまり、何でもかんでもしてくれたのだ。本当にアムロ大尉は凄い人だ!尊敬している。
アムロ大尉が居なかったら、駄目だったかもしれない。
もう、アクシズでは戦闘が始まっているらしい。ガルーダさんはそう、教えてくれた。彼はヌー曹長と連絡を取ってくれている。
ヌー曹長はグラナダ基地のエゥーゴ情報部に3日前から詰めている。そのままアーガマに戻ってきていない。アーガマの情報部員はエゥーゴ情報部まで、1日に何度も何度も走って往復している。通信で済ませるわけにはいかない情報があるんだろうな。
信用できる人と人のやり取りでしか、渡すことのできない情報って本当にこの世にあるんだ。それを実際見てしまえば、分かるしかなかった。人間って、そんなに便利にはなれないものなんだ。
サイコミュシステムのコクピットの電源を入れると、ゲーツ大尉との通信がすぐに繋がった。スタンバイしてくれていた。
『カミーユ。ハマーンからの指示は守ってくれ。後は、私の方で合わせる。何度も言うが、私が命綱の役割だ。私の声だけは必ず君に届かせても見せる。』
「思考が宇宙に溶けない様に、ですね。ゲーツ大尉。」
『自分の体が、グラナダにあることを忘れてはいけない。動くなと命じ続けるだけだから、そうはならないだろうが。サイコミュシステムはまだ未知の部分がある。バイオセンサーほどではないが。…いざとなれば、マシューがコクピットから君を引きずり出せるように準備もしている。緊張しすぎないように、な。』
「はい。システムチェックから入ります。」
『こちらも開始する。よろしく頼む、カミーユ・ビダン』
コクピットに無理やり取り付けたモニターの上を数字とアルファベットが流れていく。もちろん、目で追える速さだ。もっと時間があれば、こんなコンピューター言語そのままじゃなくて、もう少し分かりやすくもしてみせるのに。
僕の後ろで、ルウムのカミーユ達が嗤う。
僕がサイコミュシステムの中にいると、ルウムのカミーユはよく話しかけてくる。いや、カミーユだけじゃない。何人かの声も時々混ざってる。このことは報告にはあげていない。だって、ルウムのカミーユだ。
ゲーツ大尉の言う通りだ。サイコミュシステムは謎が多い。
サイコミュシステム調整の作業の途中、突然、数字とアルファベットを囁いてきたルウムのカミーユの声。言われた通りに入力していくと格段に調整が上手くいった。
正直、かなりムカついた。感謝の気持ちよりイラっとするのは、今まさに修正しようとしたところに口出ししてくるからだ。難問が解けそうになった時に、問題も見ていない人間に正答を横から言われた気分になる。助けられてはいるのだから、素直に感謝するべきなんだけど。
時間が惜しいだろう?エグザべ・オリベはいままさに、戦場にいるんだぜ、カミーユ・ビダン。
言われなくても分かっている!システムはオールグリーンだ。
『サイコミュジャック作戦、開始する。状況開始。』
「開始します。」
ただ、動くな、と思い続けるだけ。それだけの作業だ。
でも、それって凄く大変なんだ。人間は、集中力を保ち続けるのだって体力が必要なんだ。
集中するって言う訓練だって必要になる。
でも、できる。僕が、できると信じてくれている人達がいる。僕が、できるために今も助けてくれている人たちがいる。
サイコミュは、ニュータイプは、…いや、人間は戦いの為の道具になってほしくない。
それは、僕が、カミーユ・ビダンがずっと、ずっと祈っていたことだった。
カミーユ・ビダンの祈り 編
カミーユ・ビダンは普通の少年と言う話。
名前と顔のコンプレックスから学校や他人の前では男らしく振舞ってみせるけれど、現代的に見れば他人から影響を受けやすい、普通の少年でしかない。
あと、ちょっとオタクっぽいところがあるよね。俺達、仲間、仲間!
Zガンダム本編のカミーユは隠しているつもりでいるけれど。
軍に関するアングラ雑誌みたいなの読んでいるし、ニュータイプという超能力者たちの存在も信じている。(ムー読んで超能力者がいるって信じちゃった感じか?)
Zガンダム本編だと自分がニュータイプとは気づいていないけれど。「特別」への憧れと、現状への鬱屈をたまたま出会った、本当のテロリスト達に、利用されて潰された哀れなZ本編のカミーユ・ビダン。
ZZ本編ではニュータイプの力をジュドーという14歳の少年に感染させてしまって、彼もまた兵士にしてしまった。自分より幼くて、家族も友人もいるジュドーに人殺しもさせてしまっている……ニュータイプを戦場へ出したがるブライト艦長を知っているカミーユ・ビダンが、そういう残酷な行動をしている。
弊SSでは、せめて少年兵を作り出すカミーユ・ビダンにはなってほしくなかった。カミーユ・ビダンは、カミーユ・ビダンであって、シャア・アズナブルの劣化コピーではないのだから。
普通の少年が当たり前の普通の生活をできるように俺も祈ってる。
祈るしかできない。でも、それが力に変わればいいのにな。