機動戦士Ζガンダム異伝 エグザベ・オリベ戦記 作:1スレ130番より愛を込めて
宇宙世紀0079年、50億人以上の人間が死んだ。
古代中国では「人間」が最高の供物だった。
アステカでもインカでも「人間」は神への供物だった。
ヨーロッパでもそうだ。「人間」は供物だ。
魔女狩りも見方を変えればそうだろ?神のために殺した。
世界中、どこでも「人間」は神のために殺し、殺されてきた。
喜んで死んだ奴もいるだろうが、世界を憎んで死んだ奴もいる。
そういうものだ。
なあ、50億人は誰に捧げられた?
何のために死んだ?
その死を、誰が悼んでくれるんだ?
開戦そうそう、ジオン共和国軍の戦艦や船舶は次々と墜とされ、火球となりアクシズ周辺を漂うデブリと化した。
無意味なことを、とは言えぬのが口惜しいな。共和国軍の攻撃はアクシズの表面に設置された施設にダメージを与えて続けていた。
防衛施設やソーラーパネル、電波受信器、アクシズを補強するための外殻鉄筋にも被害が出ているのは、ドゴス・ギアの観測班に言われずとも分かることだった。
アクシズの護衛艦隊やガザC部隊でさえ時に巻き込んで、確実に敵戦力を減らしてもいる。
このパプテマス・シロッコの予想以上に戦果を出している。
これも、人の悪意の発現か。人は人を恐れるべきだ。そして、畏れるべきだ。それが分かる。他者に敬意を持たねば、その悪意に足を取られて溺れ死ぬ、か。
私のヴェルザンディと地球連邦の正規軍は、そのアクシズの激戦宙域を包み込むようにして支援射撃を行い、直掩以外のMS部隊も索敵の為に全機出撃させている。
全ては、最大全幅30キロに及ぶアクシズを完全包囲するために必要なことだった。
シャア・アズナブルを、あの獣を捕縛するために、人はここまでのことをしている。
私は、パプテマス・シロッコは友を、エグザべを最前線へ送りもした。
いや、それどころか、まだ未熟なパイロット達さえ、拙劣なMSに乗せ出撃させている。
私が手掛けた量産型のMSの足元にも及ばない、アナハイムエレクトロニクス製の低水準のMSで彼らを戦わせてしまってもいる。
それが必要なことだ、と分かっている。そうせざるを得ないことを分かってはいる。
共和国軍の作戦を掣肘することも、ジュピトリス製のMSの量産も間に合わなかった。地球連邦軍に索敵用のボリノーク・サマーンを5機配備したが、それも全機にバイオセンサーの不備が現れ、既に退却している、私が手掛けたボリノーク・サマーンが、だ。
物事が思い通りに進まないのは、戦争だからだ。敵と、味方を掌握できていないのは、このパプテマス・シロッコに不覚があったからに他ならない。不快だ。
甚だしい不快を抱えている。腸が煮えくり返るほどの怒りというものを、この私が抱えている。
それを、耐えるしかできない。
ドゴス・ギアは、ヴェルザンディは、今はまだ、動けないからだ。
それが、地球連邦とジオン共和国の協定の一環でもあった。
共和国軍の作戦が完了するまで、最後の1隻が吶喊するまで、ヴェルザンディも地球連邦軍も支援と索敵以外は行えない。
ヴェルザンディ、かつて人が信仰した現在を運命づける女神。未来へと歩み続けるその女神の名を冠した組織が、物の分からない馬鹿どもに縛り付けられている。
そして、それを許容させられている。このパプテマス・シロッコであろう者が。
サイド3を、ジオン共和国を殲滅することができないがために、許容させられている。
共和国軍が出航させた全ての戦艦と船舶が墜とされるまで、進軍ができない。共和国政府のプライドと実績を守るためだけに、ヴェルザンディは動けなくされた。
これが、必要なことだ。分かっている。
戦後、ジオン共和国に対して、地球連邦政府は経済支援と安全保障条約締結を確約した。ジオン共和国の軍事を地球連邦軍の監視下に置くことができる機会を得た。連邦軍がサイド3に駐留することが決定したのだ。当然、コロニー内部にも外部にも地球連邦軍は連邦軍基地を建設できる。
ジオニズムに染まった好戦的なサイド3を、独立国として扱いながらも、常時監視できる体制を作る絶好の機会を得た。
かつての、木星に居た頃の私であれば、かつてのパプテマス・シロッコであれば、安い代償だと考えただろう。戦場で死んでいく兵士も、友でさえも。
地球の人間が何人死のうと、「未来を想えば」という建前で正当化さえできた。
楽園のような地球圏で、木星の人々が命を削ってまで集めたヘリウム3を虐殺と戦争などという愚行に使った品性の無い人類を、私が導くために必要な、安い代償だと考えることができた。
エグザベ・オリベに出会う前までの私ならばそう、考えていた。
私の友、エグザベ・オリベ。彼のように地球圏には、まだ品性を持つ者がいた。心から、友と思える者たちもいた。ヤザンのように、己の職務と正義に忠実でいる者も多くいた。カミーユ・ビダンのように、ファ・ユイリィ嬢のように、品性を持つ心の強い子供達もいた。
パプテマス・シロッコはお前を、エグザべ・オリベを知った。
生きた人間の暖かさと、人の心の光を知った。
もう安い代償などと考えることはできない。私にはできなくなった。ドゴス・ギアもヴェルザンディも、地球連邦軍もそうだ。パプテマス・シロッコは人々を、私は兵士を代償などと考えることは2度とできない。
先ほど、エグザべのギャン改-Ⅱが直掩をしていたはずのムサイ級の戦艦フィラデルフィアが、目標のアクシズ港湾直前で轟沈した、と観測班が告げた。
それは、予測の範囲のうちだった。共和国軍でさえ許容していたことだ。
フィラデルフィア直掩のエグザべ・オリベ中尉の戦死さえ、奴らは許容した。
許し難いことに、それこそが肝要なのだとさえ考えている保身を考える愚かな共和国軍人も、これを機に白い死神の、エゥーゴのエグザべ・オリベの功績を抹消しようとする地球連邦軍人もいる。
共和国軍でも地球連邦軍でも戦後を見据えた権力闘争が始まっている。アクシズ殲滅作戦は当たり前に邪魔者を消すのに都合のいい戦場だ。
次に突貫を掛ける予定のムサイ級の戦艦ベルサイユの直掩はザクとギャン部隊の混合部隊だ。
その混合部隊でさえ、全員の戦死を願われている。共和国政府の保身のために。
エグザベが育成したギャン部隊全員が、1年戦争時ジオン公国に拉致された被害者で構成されていることを隠蔽するためだけに最前線へと、無謀な戦場へと送られている。それで、隠蔽できると思う愚か者共が共和国政府に居る。
エグザベとギャン部隊をジオン共和国政府が戦後に受ける混乱と批判を避けるための生け贄とするつもりでいる派閥がある。
エグザべ、お前も分かっているのだろう。知っているはずだ。
部隊と合流し、撤退しろ!エグザべ・オリベ。
共和国のために戦うな。
もう、アクシズも抵抗できるだけの戦力を持っていない。
お前が、お前だけが人類の敵を探さなくてもいい。
もう、ドゴス・ギアに戻ってきてくれ。ヤザンもお前と共に戦える時を待っている。
グラナダに、お前の家族が、カミーユとファが待っているだろう。
私も、パプテマス・シロッコもエグザべ・オリベの帰艦を待っている。お前と私なのだから、分かることだろう。
人類の敵が、いる。
エグザべの思考が分かった。ここまで、エグザべの思考が走って来た。宇宙に溶けかけていることを、分かるしかなかった。
止めろ!溶けるな!エグザべ・オリベ!
ルウムのカミーユは宇宙に溶けてはいない!彼にできることなら、お前にもできると言っただろう!宇宙に溶けない事ができるのなら…
まだ、私のヴェルザンディは動けない。友の為に、動かすことは出来ない。
パプテマス・シロッコは、軍人なのだから。
怒りを、悔しみを吐き出すことも出来ない。
パプテマス・シロッコ少佐は、ヴェルザンディ艦隊全員の命を預かる軍人なのだから。
まだ、エグザべを助けに行けない。行かないのではなく、行くことができない。
軍人とは人間だから、だ。社会を構成する1人の人間でしかない。
木星のパプテマス・シロッコならば、安い代償と割り切ることもできた。木星の私ならば、全て己の力で治めることさえ良しとした。あの頃の私ならば、ドゴス・ギアを降りMSで戦闘へ赴きもしただろう。
人間であることを止めていた。人間であることを忘れていた。
エグザべ・オリベと永遠に戦うことを望んだかもしれない。互いに宇宙に溶けても構うこともなく、赤い巨人もニュータイプも忘れ、お前と永遠の刻を争い過ごすことさえ、喜ばしく思ったことだろう。
力の家畜に堕ちていた。
もはや、私がそれを望むことはない。
お前が、人間のパプテマス・シロッコを知ったからだ。
私も、人間のパプテマス・シロッコを知ってしまった。
私も、パプテマス・シロッコは人間だと、分かるしかなかった。
エグザべ・オリベ、お前も私と同じだ。人間だ。
決して、ギャン改-Ⅱでは、MSでも兵器でも英雄でもない。
人間、だ。
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「マリア副隊長、隊長機の回収を!警戒は自分たちが担います。」
ベルサイユからの撤退命令が出た後、すぐに僚機のエリフ・バラク准尉から接触回線での通信が入る。
「当然だ!エグザべ隊長には、まだ軍務がある!ザク部隊にも警戒をさせろ。エリフ機は俺についてこい!」
もう正規のギャン部隊は、エグザべ中尉を含めて5人しかいないのだ。隊長まで失えば、共和国政府は、共和国国民はどう動くかもわからない!
いまだサイド3に潜むザビ家の残党共と、和解さえするかもしれないんだぞ!コロニー落としだって、核攻撃だって喜んでやるだろうさ!ジオンだ!!
共和国軍の陸兵隊は本国で汚れ仕事を請け負ってくれた。ザビ家残党につながりのある、官僚や政府要人、資産家や退役軍人たちを今も殺してくれているが、共和国国民は信用できない。
いつまた、ザビ家の復興を始めるか。今すぐかもしれないんだ。
今、アクシズに味方しないのは死が恐ろしいからだ。
残党狩りのギャン部隊が死の恐ろしさを叩き込んだからだ。
その恐怖と威力を忘れれば、共和国民はすぐさまジオン公国に戻りたがる。絶対に、だ!
ジオン・ダイクンの、ザビの放った耳障りの良い嘘に酔ったまま生きている廃人どもがジオンだ!
エグザべ中尉を失うわけにはいかない。これ以上、ギャン部隊を減らすわけには!白い死神の恐怖を失っては!
「光れ!!白いんだから!死神なんだから!光ってくれ!」
ミノフスキー粒子なんてものがあるから、俺達ニュータイプが最前線に送り込まれるし、戦争なんて馬鹿げたことが起きる。
救難信号1つも拾えない宇宙で、肉眼でたった1機のMSを探さなければならない。
周囲の敵を排除しながら白い機体を探すなんて馬鹿げたことを、しなければならない。
爆発の光やビームライフルの光が邪魔だ。
こっちは人を探してんだぞ!邪魔するな!ギャン改-Ⅱの右腕に固定した大型ビームサーベルですれ違いざまにガザCを撫でつけた。クソがっ!爆発しやがって!
エリフ機は豆鉄砲のようなビームライフルで邪魔なデブリを排除してくれているが!
こんな面倒をさせておいて、俺達が気づかない間に死んでたなんて、冗談でも許されないだろ!エグザベ隊長!
「副隊長。あそこです!光りました!」
エリフ機が指した方向に、ビームライフルの光や爆発の光を反射を受けて光る、白いギャン改‐Ⅱがあった。
流石だ、エリフ准尉!隊長並の勘の良さを戦闘では生かせないが、人命救助をさせたらお前以上の成果を出せる奴はそうそういない。
「周辺の敵を掃討しろ!」
白いギャン改-Ⅱは微動だにしない。両腕を広げたまま、ただ宙に浮いている。
戦場で、的なんか、やってる場合じゃないだろうが!
「隊長!エグザべ隊長!エグザべ中尉、応答ください!」
エリフ機に背中を任せ、接触回線を開く。機体の損傷は少なく見えるが、動きも返答もない。
やめろよ!ギャン部隊4機だけで、白い死神なしでジオン共和国国民を威圧できるわけないだろ!ジオンだぞ!
「コクピット、引っこ抜くぞ!」
緊急脱出装置はギャン系列にはないが、コクピット部分だけをMSから抜くことはできる。パイロットの命を軽視しているジオン共和国軍の開発部は、戦闘データだけでも回収できるように外部から簡単にコクピット部分をブラックボックスごと取り外せるようにした。
伸ばした俺のギャン改-Ⅱの右腕を掴んで止めたのは、白いギャンだった。
「隊長!生きてるんなら返事くださいよ!」
変わらず、返答がない。
通信機の故障かよ!焦らせやがって!
パンジャンドラムとビームサーベルもどっか落っことしてきやがって!とうとう、パンジャンドラムで事故ったと思ったんだぞ、こっちは!
勘弁してくれよ!
ギャン部隊を率いるあんたが、白い死神が地球連邦軍に派遣されてからこっち、俺たちの苦労を聞かせてやりたい。
あんたの白いギャン改-Ⅱにエリフ准尉を乗せて、訓練中のパイロットでさえ、残党狩りにも引きずり出す羽目にもなった。
相変わらずなんだよ!ジオンは!
クソ共がジオニズムを信仰してんだよ!邪魔な人間殺せば天国が生まれると信じてるクソ共しかいねえんだよ、ジオンには!
共和国政府にも共和国軍にも、俺達を邪魔に思うクソ共が相っ変わらずいるんだ!俺達さえ、白い死神さえいなけりゃジオン公国に戻れるなんてクソな夢見てるクソ共がいるんだ!
さっさと戻って、あんたと俺達で、馬鹿ども殺さないと!沢山の人間が、また死ぬんだぞ!宇宙と地球で、たくさんの人が死ぬんだぞ!
死んだふりなんかしてんじゃねえ!!
パプテマス・シロッコでさえ苦労するのが政治 編
政治家が向いていないわけでもないし、時間があれば全然政治もできるし結果も出してくれるんだけれど、今回はその時間が無い。
戦争に集中して居たら、政争も始まってて、立場的に両方には参戦ができない。
ジオン共和国とサイド3を殲滅してもいい、と考えているが、虐殺は品性が無い行動なので、パプテマス・シロッコは思いとどまる。強い。
かなり距離があるのに、思考が読み取れるくらいにパプテマス・シロッコとエグザべは親友。
ギャン部隊 エグザベが隊長です。
マリア・イヴァンカ少尉 副隊長。女性。既婚者。一級建築士の旦那と養子(5歳)がいる。
エリフ・バラク准尉 男性。彼女もいない。
カルティク・クリシュナ准尉 男性。既婚
カント・デカルト軍曹 男。最年長。MSパイロット以外何もできないタイプ。既婚。
もしかしたら、訓練生の名前がニャアンだったかもな。ニャアンちゃん、いつも鉄火場にいるね君。大丈夫?