進化したら人外系お姉さんになる雑魚モンスの俺、飼い主♀の性癖を破壊する 作:霧夢龍人
「あ、あぅ……えっと、その……」
ノアに睨まれた瞬間、アルマの肩がビクッと大袈裟に震え始める。
怖い。
正直に言えば今すぐ帰りたい。足も震えているし、お腹も痛い。さっきから心臓なんて壊れたみたいに暴れ続けている。
相手は世界を滅茶苦茶にした元凶だ。王種すら利用して、聖女まで絶望へ叩き落とした怪物だ。そんな相手を前にしているのだから、元々大人しい性格のアルマが怯えるのは当然だった。
だが。
「ヴェスティさんが……助けて欲しい、って……メルちゃんを、助けて欲しいって言ってたので──私たちは、助けに来たんです。
もちろん、貴女のことも」
普通なら逃げ出しかねない状況の中で自分の意思をハッキリと伝え、聖女と相反する魔女をしっかりと見据えるアルマの姿は、やはり英雄だった。
肩に乗っているフルは、『そんなにビクビクしてたらカッコつかないニャンね』とため息を吐いているが、ノアが何かしようものならすぐにアルマを守れるように警戒している。
「吾輩のパートナーにちょっとでも手を出してみろ。瞬きの間に切り刻んでやる」
背後の長身美女、ソルガは睨みをきかせながら、自慢の狂爪の矛先をノアへと向ける。彼女はマルデンブルクの保護施設で幽閉されていた獅子種のモンスターであり、強力なあまり野に放つことも出来なかった問題児だ。
いくらノアが普通の人間より強いとは言え、他の動物種より抜きんでた獅子種を相手取れる程の戦闘能力を有しているわけではない。背後は崖で、周りを守るモンスターもいない。
確実に追い詰められていた。
しかし、ノアは怯むことなくアルマに話し続ける。
「はっ、助けるだぁ〜?随分とお優しいことだねぇ〜。聖女も助け、モンスターも救い、ついでに私までってか?……カカッ、笑わせるなよクソガキ」
その瞳に宿るのは明確な殺意だ。
長年の淘汰と命の取り合いによってすり減った女の叫びには、拒絶の意味も含まれていた。ノアからすれば、ここまでの大事をしなければ助けるなんて誰も言い出さなかった世界に、既に見切りはつけている。
「偽善者の面はやめろよなぁ〜?お前と私は敵。それ以上でも以下でもない。お優しい英雄様には理解できないかもしれないけどねぇ〜?」
「……なら、尚更止めてみせます」
「カカッ、やってみろよ──ケツの青いガキが」
「そちらこそ、子どもみたいに世の中の理不尽を叫ぶのはどうかと思います」
英雄対魔女。
片やモンスターと絆を結び、一つの大都市を救った子ども。
片やモンスターを拒絶し、一つの大都市を壊そうとしている大人。
何もかも正反対な二人の対決は、やがて互いの在り方そのものをぶつけ合う形へと変わっていく。
支配か、共存か。
魔女か、英雄か。
その答えを示すように、二人は同時に声を上げた。
「──『私に従え、モンスターども』」
「──『どうか、私に力を貸してください』」
放たれた両名の言葉は、支配されたモンスターと反乱するモンスターに明らかな影響を与えた。
ノアの命令が戦場へ響いた瞬間、軍勢の瞳が赤黒く染まる。殺せ、壊せ、従え。そんな暴力的なまでの意思が軍勢を支配し、倒れ伏したメルとリリアへ向けて一斉に駆け出そうとした。
だが、その前に一匹の狼型モンスターが立ち塞がる。
低く唸り声を上げながら牙を剥き、仲間である筈のモンスター達へ敵意を向けた。その後ろには飛竜が舞い降り、巨大種が進路を塞ぐように立ち上がる。更には虫種や獣種までもが次々と集まり始め、いつしか軍勢は二つに割れていた。
支配を受け入れたモンスター達。
支配へ抗ったモンスター達。
「ちっ……」
ノアの顔が引き攣る。
あり得ない。
命令は絶対の筈だった。恐怖も痛みも怒りも、全て上書きして従わせる力。それなのに目の前のモンスター達は、自らの意思でその命令に逆らっている。『
だからこそ、命令に従えさせるという面で見れば『
(これが英雄か……厄介なことこの上ないねぇ〜)
と、苛立ちを募らせながら命令を続けるノア。
ノア側の先頭にいた獣種が咆哮を上げながら飛び掛かった。それを迎え撃つように、アルマ側の狼型モンスターが前足を振り抜く。牙が砕け、爪が交差し、鮮血が飛び散る。その一撃を皮切りに、戦場の至る所でモンスター同士の衝突が始まった。飛竜は飛竜へ襲い掛かり、巨大種は巨体をぶつけ合い、虫種の群れは別の群れへと喰らいつく。
同士討ちなどという生易しいものではない。
これは戦争だった。
誰かの命令に従うことを選んだ者達と、自らの意思を貫こうとした者達による戦争。
「……っ、ごめんなさい、皆さん。こんなにボロボロにさせて……」
あまりの地獄絵図に、アルマの表情が歪む。
モンスターヲタクの彼女にとって、今回の戦争はやりたくない事の先頭にあがるものだ。居なくなったメルの後を追うためにヴァルヴォッサへ向かっていただけであり、ヴェスティから『助けて欲しい』という電話がなければ、協力しなかった。
周りがどう思っているのか分からないが、自分は英雄などと言われる器でないことをアルマは知っている。だから、無責任にモンスターと心を通わせてノアを止めるなんてことは、したくなかった。
(だ、誰も死にませんように……ッ!)
両手を組み、皆が無事でありますようにと神──否、初代聖女へと祈りを捧げるアルマ。そんな彼女の祈りは、遠くで戦いを眺めているアグニとミツルの耳にも入っていた。
アグニは思う。
「弱いくせに、面白い、子」
ミツルは思う。
「頭がお花畑なのかしら?」
なんて言いながらも、二人の口元は弧を描いている。
二人とも肩を貸し合いながら立っている姿はボロボロで、いつ倒れてもおかしくない重傷だ。それでもこの戦いで『誰も死なないように』と祈る彼女の声は、あまりにも眩しかった。
更にそこから離れた先。
学園都市の大通りにて避難民の誘導と、僅かに残ったモンスターの残党を片付けているオウヒの耳にもその声が入る。
「ん、なんだコイツ。僕のイスフィみたいな綺麗事言う子だな」
でも嫌いじゃない、とオウヒは付け足した。
視線の先ではヴェスティが少女を抱え、避難場所まで歩いている。イスフィとエリナスはモンスターや人を導き、生徒たちは傷付いたものを背負いながら街中を駆け回っていた。
この中の誰が死に、誰が生き残るのか……そんなのは万魔だって分からない。『絶望の聖女』と相対しても、何もさせずに殺してそうなあの女ですら未来は分からないのだ。
そんな状況で無事を願うなんて、頭がおかしいという他ない。
だからこそ、面白い。
彼女のお気に入りであるイスフィと同じ考えを持っていそうなこの意志の主に興味を引かれながら、オウヒは遠くから響くモンスター達の戦闘音に耳を傾けていた。
そして突然、ふと思い至ったようにイスフィの方へと駆け寄っていく。
「こんな平和ボケの意思が飛んでくるってことは、あの魔女を追い詰めてる合図なのかな?なら……いい頃合いかもね」
「へっ?」
『ん?』
「君たちの覚醒の為にも──飛んでっちゃいなよ」
そう言うや否や、イスフィとエリナスをむんずと掴み、大きく振り被った。何が起きたか分からない表情のまま、母猫に首根っこを咥えられた子猫のようにプラーンと力なく宙へ持ち上げられる一人と一匹。
嫌な予感がした。
「あの、オウヒちゃん……?」
「なんだい?」
「めっちゃ嫌な予感するんやけど、ウチこれからどうなるん?」
『ま、ママ?なんかボクまで巻き込まれてる気がするんだけど……』
「奇遇だね。僕も今から面白いことしようとしててさ、どうなるのか興味があるんだ」
「いや、全然奇遇じゃなっ──」
最後まで言わせる気はなかったようだ。
オウヒは満面の笑みを浮かべたまま腰を捻り、そのまま全力でオウヒ達を投げ飛ばした。
爆音。
桜色の衝撃波が大通りを駆け抜ける。
流星のように桜色の波動を纏ったイスフィ達は、空に綺麗な飛行機雲を作りながら悲鳴を上げていた。
「ぎゃああああああああああああああああああああああっ!?」
『うわぁぁああああああああああああああああああああ!?』
砲弾のような速度で射出された二人は、建物を飛び越え、避難民の頭上を通過し、そのまま一直線にアルマ達のいる戦場へ向かって飛んでいく。
「よし」
オウヒは満足そうに頷いた。
「これぞ覚醒イベント開始、ってやつだね」
そんな適当極まりない理由で放り投げられた二人は当然たまったものではない。
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
『このままボク死んじゃうんだ!?ママ……じゃなくてお母さんに会えないままパパと死んじゃうんだァァ!!!』
「あっはは、綺麗な流れ星だなぁ!」
朗らかなオウヒの声は既に届かず、イスフィ達の叫びは風に掻き消され、やがてモウガン達の戦場の上空へと到達した。超高速で離れていく星のようになった一人と一匹は助けを求めるが、早すぎて気付かれることはない。
一方で、そのモウガン達は殆どのモンスターを打ち倒し終わっていた。
気絶したモンスターの山の上で寝そべり、大きく深呼吸をするモウガンとアマネ。
フォスは大きく伸びをしながら、空を流れる桜色の波動を目で追っていた。まさかあの波動の中心にイスフィとエリナスが居るとは気付かずに、ゲシゲシと倒れふしたモンスター達を足蹴にしながら山へと登っていく。
「ふぅ、なかなか疲れたわね。もうこの数のモンスター達と戦うのは懲り懲りよ」
「抜かせ。進化した途端に七割近くを一気にぶち倒した奴がよく言う」
「貴女程度に追いつかれる訳にはいかないもの」
「はぁ?」
「うがっ!」
「あら、貴女は褒めてあげるわフォス。私の次に頑張っていたもの」
「……二戦目やるか?あ?」
「お子ちゃまは元気なものね」
口ではそう言いつつも、互いに立ち上がることはしない。今はただ、勝利の余韻に酔いしれていた。
だが、一つだけ気になる点がある。
それは──。
「ところで貴様、その格好はどうにかならないのか?」
「あのスケベが喜びそうだからこのままでいいのよ」
「……ぁ?あ、あぁ、そうか……そうか?よく分からんが、貴様が良いなら私も何も言わん」
今回の戦いにおいて間違いなくキーマンとなったモウガン、その進化姿。『カウガール』から更なる進化を遂げ、『デカパイル』へ3次進化した彼女なのだが、その進化の格好があまりにも……えっちすぎた。
全身は殆ど肌色で、かろうじて際どい部分は牛柄の下着が覆ってはいるものの、豊満なボディーのせいで今にも溢れ出しそうである。首にはカウベルが取り付けられ、安産形の臀部を守るショートパンツは肉感が惜しげも無く晒されていた。
この後、メルはモウガンの姿を見てやはり衝撃を受けるのだが、更なる驚愕の真実をその目で捉えることになる。一つだけヒントを出すとするなら、そう──『デカパイル』は、闘“乳牛”種に分類されるという点だろうか。
場面は移り変わり、雲の上の上空域にて。
尚も空を飛び(?)続けるイスフィ達一行は、互いの身体を抱きしめ合いながら落ちる衝撃に備えていた。死ぬ恐怖を味わいつつも、エリナスの小さな羽根で地面への衝突を避けるべく、落下地点を涙目で見つめる両名。
やがて桜色の波動の勢いが弱まったかと思うと、ゆっくり雲の上から墜落していく。
眼下には、夥しい数のモンスターが所狭しと争っていた。
(あっ、もしかしてウチ夢見てたりせんか?)
僅かな希望に賭けながらグイッと頬を抓るが、残念ながら夢ではない。『
空から落ちてくる気配に、最初に気づいたのは狼型モンスターだった。耳がぴくりと動き、空を見上げて牙を剥けば、アルマもノアも一瞬遅れてそれに気づく。
「……上?」
ノアが舌打ちした直後、影が落ちた。桜色の衝撃を纏った二つの塊が、ほぼ一直線に戦場へ突き刺さるように降下してくる。砂煙の中から現れたのは、見覚えのない少女と小さな存在。
巨大なマットの様な姿のチビスラと、目を回して鼻水と涙で顔がぐしゃぐしゃになっている女の子が、アルマとノアの視界に入る。
『……なんか来たにゃ。何者にゃこいつ』
「えぇっと、だ、大丈夫ですか?」
どう見ても大丈夫ではない。
アルマはおろか、ノアですらヤバいやつが乱入してきたとドン引きしてしまっている。某空から女の子が落ちてくるアニメ映画ならまだしも、流星のように落ちてきた奴がマトモな訳がない。
イスフィはアマネの問い掛けに答えられる余裕はなく、ぐったりとエリナスに抱きついたまま動けない。
アルマの背後に佇むソルガも、イスフィとは視線を合わせないように慌てて顔を逸らしている。
「……続きをしようかねぇ〜?英雄ちゃん」
「っ、え、えと……はい」
──そして。
どう反応すれば良いか分からなかった二人は、無視を決め込こむことにした。現実逃避とも言う。
英雄と魔女に空気を読ませるという偉業を見事達成してしまったイスフィはようやく立ち上がり、服についた砂を払った。周りを見渡せば、モンスター達が争っているのが目に映る。
正直に言えば今すぐ帰りたかった。
訳も分からないまま空へ放り投げられ、挙句の果てに戦場のど真ん中へ墜落したのだ。怖くない訳がないし、出来ることならエリナスを抱えて逃げ出したい。
だが、視線の先ではメルとリリアが倒れ伏し、アルマは顔を青くしながらもノアと向き合っていた。そんな状況で「関係ありません」と背を向けられるほど、イスフィは器用な人間ではない。
「……なんやこれ」
思わず漏れた声に返事をする者はいなかった。
モンスター同士は殺し合いを続け、アルマとノアは互いから視線を外さない。自分が割って入る余地などないように見える。なんの力も持たないイスフィは、ただ呆然と二人の戦いを眺めるしかない。
(お、オウヒはなんのためにこんなとこまで飛ばしたんやろか?)
殺したかった訳ではないだろう。
こんな回りくどいことはせず、サクッと身体に穴を空けられて終わりだ。ならば何かしらの理由があるはずなのだが、意図が理解できない。
情けない姿を見せてもオウヒに殺され、二人の戦いに介入すれば余波で死にそうである。
(詰みやんけこんなの。エリナスも一緒に連れて来られたみたいやし、この子だけでも逃がしたいんやけど……いや、待ってん?)
イスフィの脳内をシナプスが駆け巡る。
オウヒは殺したかったわけではない。そして、エリナスも一緒に英雄と魔女が争う戦場へ飛ばして来た訳だ。
魔女はメルと情報共有を介して、『
そして英雄に至ってはマルデンブルクを救ったことがSNSで拡散されており、『
最後にリリア。自分自身は『
つまり聖女が持つという三大能力を、この場にいる全員が一つずつ所有しているのだ。
更には、人語を喋るチビスラというエリナスの存在。
聖女は元々モンスターであると、作戦会議の時に話は聞いていた。その際にどんなモンスターから派生したのかは詳しく知らないが、オウヒと一緒に飛ばされた事を考えると……。
「──っ、はは。んなまさか、そんな訳ないよな?」
頭の中に浮かんだ“迷案”を拭うように、崖上から戦場を見やる。
英雄側の反乱モンスターと、魔女側の追従モンスターで争っている中心部には、虹色に輝く繭のようなものが存在していた。目を閉じれば、眉の中からメルとリリアの気配を僅かに感じる。進化途中なのか、当分出てくるとは思えない。
ここでイスフィの中の考えが、確信に変わった。
(おいおい、うせやろ?ホンマに言うとんか、あのバカ桜の奴)
小さい時に考えていたことがある。
各都市各地方で強大な権力と威光を放つ聖女がもし斃れた場合、新しい聖女はどうやって産まれてくるのか。
聖女がモンスターであると知った今は、死んだ聖女から自動的に次代の聖女モンスターに能力が移るのではないか?と推測をしていた。
しかし、それは半分正解で半分違う。
聖女の能力は次代に継承されていく。この点は間違っていないのだが、自動的ではない。
大衆で明かされることのない聖女の継承とは──弱った先代から能力を『吸収』し、自分の能力として行使できるようにしているのだ。
(せやけど、リリアはメルちゃんの繭ん中におる。吸収なんてしようもんなら、メルちゃんに悪影響がでかねん)
となると、だ。
オウヒがわざわざエリナス含めてイスフィを飛ばしてきた理由が、自ずと見えてくるだろう。
自分を含め、英雄と魔女の三人はそれぞれ別の聖女の三大能力を有している。繭の中の聖女には手を出せないなら、代わりに三つの能力を一箇所へ集めることで、聖女の継承を無理矢理再現しようとしているのだ。
そんな狂った結論に辿り着いた瞬間、イスフィは頭を抱えたくなった。
「アホやろあいつ……」
王種だから許される発想だ。
普通なら思いついても実行しないし、実行しようとしても止められる。だがオウヒは違う。思いついたらやる。面白そうだからやる。失敗したらその時考える。
何より質が悪いのは、その無茶苦茶が割と成功してしまいそうなことだった。
視線を巡らせる。
この戦いで重要なのは、ノア=ハルベルトを倒すこと。新たな聖女を生み出せば、勝ちは揺るぎないはずだ。
そして今になって、オウヒの言葉の真意が分かってきた。
「情けない姿を見せたら穴空けるって……腹括れってことやったんか。こんな伏線回収いらんねん」
愚痴を吐きつつ、いつの間にか肩に戻っていたエリナスを見やる。
何故ここに英雄が居るのか分からないが、ヴェスティ先生はアルマと一緒にマルデンブルクを救ったと言っていた。なら、助けに来たのは恐らくヴェスティ経由なのが自然。
幸いにも、二人ともあまりイスフィに警戒はしていない。
そんな状況下で助けてくれそうな英雄にこの情報を伝えるには──これしかない。
『パパ!ママァ!どこ行ったのー!』
殺気に溢れる戦場で、エリナスの言葉が響き渡る。
ノアは胡乱気な表情を浮かべ、興味なさげに再び戦場へ視線を移す。だが相対するアルマは、エリナスの話した言葉をじっと聞き取っていた。
『お腹空いたよぉー!』
「う、うるさいです……よ?」
なおも続くチビスラの叫び。
とうとう居ても立っても居られなかったのか、アルマはのそのそとエリナスに近付いて羽を掴むと、そのままノアの方角へ投げ飛ばす。イスフィは俯いたまま、ベチャッとノアの後ろへ着地したエリナスを眺めるしかなかった。
「カカッ、英雄チャンも雑だねぇ〜?まぁ、喋るとはいえチビスラだから支配する必要もないのわかるけどさぁ〜?」
英雄とは思えない行動にニヤニヤと笑うノアは、潰れたまま動かないエリナスを踏み付けた。
ぐにゃり、と。
スライム特有の柔らかい感触が足裏へ伝わる。
その瞬間──エリナスの触手が身体に巻き付いた。
「っな!?」
驚愕の声をあげるのも束の間、藻掻くようにエリナスに『吸収』されたノアは全身を包まれ、窒息寸前で開放される。
「げほっ、ごほっ!?」
地面へ膝をつき、ノアが激しく咳き込んだ。
何が起きたのか分からない。吸収されたのはほんの一瞬なのに、身体の奥から何かを無理矢理引き抜かれたような喪失感があった。
エリナスはノアを『吸収』した後、続けてアルマに近付く。警戒してソルガが進行を阻もうとするが、手で制されてしまう。
『協力してくれてありがとう!良ければ手を出して欲しいな』
「えと、ど、どうぞ」
『ん!』
そしてなんの警戒心を抱くことなく手を差し伸べると、エリナスはその手を触手で包み込み、『吸収』を発動した。何かを吸い取られるような感覚に気持ち悪くなるものの、“事前”に聞いていたため何とか持ち堪える。
最後。
俯いていたイスフィの元へ戻ったエリナスは、腕に纒わりついて『吸収』を発動させた。
「……っくそ、どういうことだ」
息も絶え絶え。
酸欠寸前で開放されたノアは唇を噛み締めながら、息のあった連携を見せるチビスラと英雄へ血走った視線を向ける。
応えるものはいない。
だが答えは単純だ。
人語で喋っているエリナスだが、アルマの『
更にノアの方へ投げ飛ばす事で、警戒を抱かせないまま『吸収』しやすくした。それだけだ。
あまりにも単純で、だからこそ防ぎようのない罠。
「なははっ!ようやったぞエリナス!」
『ボクの演技、結構上手かったでしょ?それじゃ──』
「あぁ、任しとき」
状況が掴めないノアとは裏腹に、三人分の能力を吸収したエリナスは身体を変異させていく。先代の聖女から受け継いだものではない不完全な継承だが、変化は確実にエリナスの身体に現れている。
──そう、進化だ。
それはメルが形成した繭とは比べ物にならないほど小さい。けれど。そこに宿る気配は決して小さくない。新たな進化の繭は、次代の聖女の胎動を宿して虹色に淡く脈打っている。
アルマが息を呑み、ソルガが目を細める。ノアは信じられないものを見るように目を見開いた。
「まさか……」
掠れた声が漏れる。
あり得ない。
聖女の力とは継承されるものだ。
長い歴史と因果の積み重ねによって受け継がれるもの。
それをこんな即席の真似事で、こんな戦場のど真ん中で、再現できるはずがない。
だが、現実はノアの否定など意にも介さず進んでいく。
虹色の繭は静かに膨らみ続けていた。
まるで、この世界そのものが新たな聖女の誕生を認めるかのように。
──《新たな聖女の発現を確認しました。通常とは違う継承……『希望の聖女』種からの逸脱を確認。吸収による類似種へ変換……成功しました。
『銀竜の聖女』、顕現します》
あともう少し……あともう少しでイチャイチャが書けると思えば頑張れますよ、えぇ。
IF版も二章が終わってからアグニの後半戦を書きます。
シリアスの後のイチャイチャは癌に聞くってそれ1番言われてるから。
人気キャラクター 二部
-
メリュジーヌ (メル)
-
ヴェスティ=クラウニア(ご主人様)
-
モウガン (ツンデレ牛娘)
-
アグニール (クーデレ王種)
-
フォス (元気っ娘)
-
アルマ=メイソン(最近出番がないぞ)
-
ソルガ (残念系イケメン美女)
-
イスフィ(関西弁パパ系ガール)
-
リリア
-
アマネ(実はポンコツやれやれ系少女)
-
オウヒ (好感度が上がるだろうか)
-
ノア=ハルベルト (ラスボス系美女)
-
ミツル (眼帯系王種)
-
フルちゃん(アルマの貴重なツッコミ要因)
-
シスターカプノス (生臭シスター)
-
モルド=クラウニア (変態お兄さん)
-
タナカ・サトウ・スズキ・ヤマダ