進化したら人外系お姉さんになる雑魚モンスの俺、飼い主♀の性癖を破壊する   作:霧夢龍人

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パートナー殺しについて

パートナー殺し。

言わずもがな、モンスターであろうと人であろうと犯してはいけない禁忌である。

 

そんなタブーを……このモンスターが?

目の前ですやすやと眠りこけているモグライヌがしたとは、俺には思えなかった。

 

檻に触れる。冷たくて、隔離されている空間。まるで冷えた空気が檻に浸透しているような感覚だった。

暫く立ち止まって中の光景を眺める。

 

「おや、迷ったのかね?」

 

背後から声がした。イケオジの声だ。

パッと檻から手を離して後ろを振り返れば、優し気な顔をしたおじさんが立っていた。モノクル眼鏡を付けた、如何にもな見た目の人である。

 

「んきゅ?」

(誰だ?)

 

「……ふむ、驚いた。少女かと思えば、スライムの紋様があるじゃないか……人型のスライムとは珍しい」

 

「んきゅんきゅ」

(どうもロリっ子スライムです)

 

「ふふっ、すまない。学者気質なものでな……君も中にいるその子が気になるかね」

 

おじさん(多分俺とそんなに年齢が変わらない)は、俺とモウガンにスタスタと近づいて、モグライヌが居る檻に触れる。

その表情はどこか悲しげで、芯を感じさせた。

 

「見て分かる通り、この子は悪いモンスターじゃないんだよ。犯した罪を否定するつもりもないが、だからといって罰を与えるのも死んだパートナーが悲しむ。故にこうして、保護施設内で保護されているのだよ」

 

「きゅう」

(なるほど……パートナー殺しなのに、死んだパートナーが悲しむ、ね)

 

何か訳ありなのは間違いない。

胡散臭そうなおっさんだが、瞳に宿る優しさは確かなものだった。

 

モウガンも俺も共に歩むべきパートナーを見つけられたが、もしかしたら目の前のモグライヌもそんなパートナーが居たのだろうか。

だとしたら、パートナーを“殺す”という行為は一体どれほど……いや、考えたくないな。

 

「おや、すまない。悲しませるつもりはなかったんだ。だがこの施設自体、そういう訳ありの子を保護するのが主な目的だからね。今はモンスターを預けるパートナー達が多くなってしまったが……不幸なモンスターが減るのはいいことだよ」

 

「んきゅ」

「ワン」

 

微笑みを携えて俺とモウガンの頭を撫でるイケオジ。

 

かく言う俺は、ゲームと現実との違いについて深く考えさせられる事になった。

モンスターが死ねば、パートナーが悲しむ。パートナーが死ねば、モンスターが悲しむ。そんな当たり前の事を見失わないように、我らがご主人様を守らねば。

 

モウガンと目線を合わせて、深く頷きあった。

 

 

───☆

 

 

そのモンスターには“フォス()”という名前があった。

フォスには、小さいパートナーがいた。

 

中学生くらいの可愛らしい少女だ。モンスター同士の戦いで傷を負ったフォスの怪我を手当し、家に招き入れた。当時警戒していたフォスは少女に中々懐こうとはしなかったが、徐々に彼女の持つ朗らかさと明るさに心を開いていったのだ。

 

パートナー契約を結んだのも、文字通りフォスにとって彼女は“光”そのものだったから。

 

だが、そんな幸せも長くは続かない。

モンスターにしか感染しないはずの病が、何故か少女にも発症してしまった。当時の治療法では治すことが出来ず、日に日にやつれていく少女を見てフォスは焦った。

 

もしかしたら自分が移したのではないか?

もしかしたら明日死んでしまうのではないか?

もしかしたら……そんな悩みがフォスを支配していた。

 

そんな時。

 

「フォスは悪くないよ。だからそんなに自分を責めないで」

 

少女はフォスを安心させるように、頭を撫でてくれた。力ない撫で方だったが、フォスが落ち着くには充分な力だった。

そして……フォスは。

 

「ごめ、んね。弱いパートナー……で。でももう、これ以上苦し、みたく、ない。だから……ころして(・・・・)

 

フォスは、少女を殺した。

地面と炎を操るモグライヌの特性によって、苦しむ間もなく殺した。

 

涙を浮かべてごめんね、ごめんねと繰り返しながら頭を撫でてくれた世界で一番大事な人を、フォスは殺したのだ。

涙など出なかった。自分はモンスターなのだから、人間と違って泣くことは出来ない。でも笑うことはできる。

 

だから、笑って送り出した。

 

少女の両親はフォスに激怒した。しかし殺さなかった。

少女が愛したフォスを殺してしまうと、少女が生きた形跡がなくなってしまうからだろう。

それに、常に笑い続けている化け物(モンスター)など気味が悪くて仕方がなかったに違いない。

 

理解して欲しいと思わない。

理解されたいと思わない。

パートナーからの願いなら、叶えるのもまたパートナーとしての努め。

きっと苦しむ少女に安息を与えられるものなど、誰もいなかったのだから。フォス自身がやるしか無かった。

 

それだけ……なのだ。

 

時が経ち、とある保護施設で迎え入れられたフォスの目の前には檻がある。脱出されないようかなりの高さまで建設された檻の内部で、フォスは今日も惰眠を貪った。

 

夢の中なら、少女に会えるから。そんな日の毎日だった。

 

だからきっと───。

 

「んきゅ」

 

──目の前の少女のようなモンスターと会ったのは、きっと運命だったのだ。

 

夢にまで見た少女と似ている顔つき。

幼いながら、朗らかで笑みを携えている柔らかな口元。

来るものを拒まない優し気な雰囲気。

 

全てが、少女と一致した。

 

自然と前足が動き出す。少女と似たモンスターが去ったのを皮切りに、ひたすら地面を掘り続けた。

 

 

 

その日、保護施設内で事件が起きる。

凶悪なパートナー殺害を犯したモンスターが、施設内から脱走したという事件だ。目的は分からず、もぬけの殻になった檻が発見された。

 

果たして“フォス()”の名前が与えられたモンスターは、一体どこへ消えたのか?

行方を知る者は、未だ現在誰もいない。

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