進化したら人外系お姉さんになる雑魚モンスの俺、飼い主♀の性癖を破壊する 作:霧夢龍人
数多くの学校が集合している学園都市ヴァルヴォッサの最中央に位置する、都市の名を関する学園であるヴァルヴォッサ学園にて。
その日、生徒たちの間で激震が走った。
「な、なぁ!今日来る転校生三人がめちゃくちゃ美少女ってまじか!?」
「らしいぞ!モンスター科に一人と一般科に“二人”入るみてぇだが、三人ともえげつない美人って聞いた!」
「三人のうち二人はクールらしいわ。特に身長が高い子は、声を掛けても目線を向けるだけみたい」
「チョーカーしてた……しかも耳にピアス付けてたし……お姉さまって呼びたい」
「モンスター科の子は強いのかしら?見ないモンスターを連れてたみたいだけど」
と、広まる噂は転校生に関する情報だ。
何でも、二人ともとんでもない別嬪であるらしく、男子学園生の喜びは一入である。
女子学園生はそれを冷めた目で見つつも、転校生という響きはやはり新鮮で面白いらしい。様々な噂が広まっていく中で、噂の中心である転校生の女子生徒は緊張を最大にしていた。
「やば、ウチってこんなに緊張するんだ……」
彼女の名前は“イスフィ=ガレッダ”。
3RIIの主人公であり、学園都市の騒乱に巻き込まれる人物である。明るい桃髪を肩まで伸ばし、ヘアピンと可愛らしいリボンを付けた美人よりも可憐という言葉が似合う少女だ。
そんなイスフィは教室の扉の前で緊張を顕にしていた。彼女はモンスターに関する研究をしたくて、田舎から試験を受けて転校してきたという経歴を持つ。
あいにくパートナーモンスターと絆を結ぶことは出来なかったが、広大な学園都市内ではモンスターも自然に生息しており、そこでパートナーを作るも良し、はたまた研究を優先するも良しとする場だ。
研究を優先する生徒は一般科。パートナーがいる生徒はモンスター科に割り振られ、パートナーランキング一位を目指すことになる。
「はぁ、どうしよ……」
緊張の声が漏れる。
地元ではその容姿で中々にモテていたし、流行に敏感な自覚はあった。だが学園都市という大都会に来て以降、自分の流行遅れ具合に気付いてしまったのだ。
もし教室に入って、変な目で見られたらどうしよう。
もし友達が出来なかったらどうしよう。
もし……そんな悪い考えが膨らんで止まらない。
考えすぎて、イスフィは目眩が起きそうになった……その時。
「………きゅ」
聴き逃してしまいそうなほど、小さな声。
声のした後ろを振り返ると、自分と全く同じ制服をした少女がいた。
170センチくらいだろうか?スラッとした白い足と、服を押し上げる胸。そして、後ろから後光が差していそうなほど綺麗な顔が目に入った。
「め、女神?」
「……?」
「……あ、いや違うんよ!ごめんね、ウチ変なこと言っちゃった」
少女はイスフィの言葉にコクリと頷く。
細い首に巻き付くチョーカーと、耳に付けられている銀色のピアスが目に入った。
イスフィは事前に、一般科にもう一人転校生が来ることを知っていた。
だがまさかこんな美少女だとは彼女も想定していない。
え、ウチこんな美人さんと一緒に入るん?絶対浮く奴やん!と内心冷や汗を垂らしながら、まじまじと少女を見つめた。
(……胸でっか。車で事故ってもおっぱいで助かりそう。それに比べてウチは……いや、落ち込んじゃダメや!)
イスフィはネガティブになりそうな自分の考えを振り切って、その子に話し掛けた。
(確か名前は、メリュジーヌちゃんやったっけ?名前まで可愛いとか反則なんやけど)なんて思いつつ自己紹介を始める。
「えと、初めましてやね!ウチはイスフィ、イスフィ=ガレッダ。気軽にイスフィって呼んで欲しいんよ!」
勢い勇んでそう告げる。が、反応は芳しくないようだ。
メルはイスフィの自己紹介にペコリと頷いて、それっきり一言も喋らない。
(もしかしてウチ、初対面の距離感ミスった?)
そんな不安が脳裏をよぎる。
馴れ馴れしくしすぎただろうか?とあたふたしていると、ドアの外から先生の「入っておいでー」という声が聞こえてきた。
「ん……」
声に反応したメルは、ドアを指さしてイスフィを見つめる。そして何を思ったのか手を握ったかと思うと、そのままドアをガラリと開けた。
「……え?」
あまりにもスムーズでイスフィは反応が遅れた。
ガラリ、と勢いよく開かれた扉。
その瞬間──教室の中に、ぴたりと静寂が落ちる。
ついさっきまで聞こえていた雑談の声、椅子を引く音、紙をめくる音。
それらすべてが、まるでスイッチを切られたかのように消え失せ、代わりに集まったのは数十人分の視線だった。
(う、うわ……)
イスフィは一瞬、足が竦みそうになる。
しかしそんな彼女を他所に、女性の先生がハキハキした態度でプロジェクターにメルとイスフィの情報を映し出した。
「今日からこの学園に転校してきた、メリュジーヌさんだ。隣にいるのは、イスフィ=ガレッダさん。二人とも、自己紹介を頼む」
未だに踏み出せないイスフィ。メルはそんなことをお構いなしに、ぐいっと手を引いて一歩踏み出した。
そして。
「ん!」
とだけ呟いて、一礼。
一瞬、間が空いた。
教室中の視線が、黒板の前に立つメルへと集束する。
その中で、たった一言「ん!」とだけ発して頭を下げたメルに、生徒たちはきょとんと目を瞬かせた。
「……え、それだけ?」
「まさかの喋らない系……?」
「クール系どころじゃなくね……?」
「ペロペロしたい」
ざわ、と小さなどよめきが走る。
(え、え、え!? ここで終わり!?)
イスフィは内心で大混乱しながら、ぐっと喉を鳴らした。
この空気、この沈黙──ここで自分が何とかしないと、初日から更にとんでもない空気になる。
「え、えっと! み、みんな初めましてやね!」
ぱん、と両手を胸の前で合わせ、精一杯の笑顔を作る。
「ウチはイスフィ=ガレッダ! 田舎から来たばっかで、分からんことだらけやけど、モンスターの研究が大好きなんよ!もし興味あったら、気軽に声掛けてな!」
田舎訛りの明るい声に、教室の空気が少しだけ和らいだ。事の成り行きを眺めていた先生も、ほっと一安心している。
反応は上々だ。
「お、おぉ……!」
「元気っ娘だ!しかもギャルだ!」
「二人ともレベル高くね?」
「ペロペロしたい」
そんな小声があちこちから漏れたのを、イスフィは聞き逃さなかった。
(よし、掴みは……たぶん成功……!)
内心でガッツポーズを決めたイスフィだったが、歓迎の意思ばかりではない事を視線の中から感じとった。
期待と好奇と羨望と──ほんの少しの嫉妬。
それらが入り混じった視線が、容赦なく二人に突き刺さっている。
そんな中、先生が軽く手を叩いた。
「はいはい、注目はそこまで。二人の席は、後ろから二列目の窓側だ。案内係、お願い」
「は、はい!」
元気よく返事をして立ち上がったのは、長髪をおさげにしている控えめな印象の女の子だった。
少し緊張した面持ちで、二人に近づいてくる。
「えっと……こっち。ついてきて」
「ありがとぉな!」
イスフィはぺこりと頭を下げ、先に歩き出したメルと並んで教室の奥へと向かう。ただそれだけなのにざわざわと再び小さなざわめきが走った。
すれ違う生徒たちの視線が、まるで探照灯のように二人を追いかけてくる。
特にメルへの視線が凄かった。
彼女が一歩進むだけで、周囲にいた生徒が息を飲むように静まり返り、また小さなどよめきが起こる。
イスフィは内心で苦笑しながらも、隣を歩くメルの横顔を盗み見た。
涼やかな瞳。揺れない足取り。
自分に向けられる視線には慣れていないはずなのに、まるで気にしていないかのように、静かに前だけを見つめている。
(まぁそんな視線なるよな。胸でっかいし、顔もちっちゃくて銀髪でって、どっかの都市のお姫様みたいやもん。自信なくすわぁ)
住む世界が違うとはこの事なのだろうと、イスフィは深く思った。
「はい、二人はここの席だよ」
おさげ髪の委員長っぽい女の子が指を指す。ちょうど二つ分の机が空いていた。どうやらメルとイスフィの席は隣同士らしい。
となるとこれから仲良くならなければならないだろう。なんで喋らないのか分からないし、表情の変化が殆どない変わった子という印象を抱くメルに、イスフィは少しだけ「だ、大丈夫かなぁ?」と不安視した。
そんな間にも時間は進む。
「さて、転校生二人も紹介できたことだし、改めて今後のモンスターについての研究詳細を教えておこうか。まずは手元のタブレットにある──」
先生が今後の授業の展開について話し始めた。
転入したてのイスフィにも配られているタブレットをバッグから取り出し、説明通りに資料を見ていく。
流石は学園都市というべきか、田舎ではトップクラスの成績を誇っていたイスフィでも分からない単語や計算式が記載されていた。
「レベル高いなぁ。ちょっと不安やわぁ」
とため息をつきながら、重要な箇所に印を付けようとペンを取り出す矢先……気づいた。
(あ、あれ?ウチのペンは?)
筆箱の中身を探してみるが、見つからない。バッグの中身もいそいそと探って見るが、ペンらしき物は見当たらなかった。
どうやら家に忘れてきてしまったらしい。
(うわぁ〜〜〜!ウチのバカぁ!なんで転入初日にペン忘れるん!?バカやバカ!何しよんよぉ!)
内心で頭を抱えつつ、イスフィはちらりと周囲を見渡した。
前の席、斜め前、斜め後ろ。
どの生徒もタブレットに視線を落とし、カチカチとペンを走らせている。隣にいるメルでさえ、しっかりとタブレットを見つめて何かを書いていた。
(……今さら誰かに借りるんも気まずいし……)
転入初日。
しかも注目を浴びた直後。
ここで「ペン貸して〜」なんて言えば、間違いなくまた視線を集める。
(あー……もう最悪や……)
半ば諦めかけて、タブレットをぼんやり眺めていると。
「……ん」
小さな声とともに、視界の端に何かが差し出された。
見ると、メルが自分のペンを一本、そっとイスフィの机の上に置いている。
「……え?」
思わず声が漏れた。
メルは相変わらず無表情のまま、ほんの一瞬だけイスフィを見て、すぐに視線をタブレットへ戻す。まるで気にする必要はないかと言うように。
それだけ。
なのにその仕草はあまりにも自然で、優しさを感じた。
「……っあ、ありがと……!」
小声でそう告げるとピクリと反応して、イスフィを見つめる。綺麗な紅い瞳と目が合った。
澄んでいて、冷たそうなのに、どこか優しさを含んだ瞳。
硝子細工のように繊細で、壊れやすそうで──それでいて底知れない力強さを秘めている。
視線が絡んだまま見つめ合うこと数秒。
首を傾げたメルは「んふっ」と可愛らしく微笑んだ。
ガツンッ!
とイスフィの脳内をとてつもない衝撃が走る。
「か、かわ……っ!?」
「……?」
「っ、ごほん!……な、何でもないんよ。ちょっとびっくりしちゃっただけやから」
何とか言葉を捻り出して、視線をタブレットに戻す。しかし当のイスフィの顔は真っ赤に染まっていた。
ペンを持つ手がプルプルと震え、先生の話す内容が右から左に流れ始める。
たったこれだけのやり取り。
無口で、表情も乏しくて、少し近寄りがたい。
そんな第一印象が、ほんの数秒でぐらりと揺らぐ。
(な、なんやこの子……クール系かと思ったら、めちゃくちゃ気ぃ利くし、めちゃくちゃ笑顔可愛いし……ずるいてほんま)
イスフィは借りたペンを大事そうに握りながら、必死に授業へ意識を戻した。
だが、横に座るメルの存在が気になって、内容が頭に入ってこない。ペンを動かすたび、ふと横を見るたび、銀色の髪が視界に入るのだ。
(……なんちゅうか、綺麗やなぁ)
窓から差し込む光を受けて、メルの髪は白銀に淡くきらめいている。
その横顔は静かで、どこか儚くて、吸い込まれてしまいそうなほど綺麗だった。
まさに“魔性”。
(ってあかんあかん!見とれとる場合ちゃうやろ!)
ポケーっとメルの横顔を眺めていた自分を叱咤し、イスフィはぐっと姿勢を正してタブレットへ向き直った。メルは何食わぬ顔でタブレットに情報を書き込んでいる。
果たして二人の出会いは、今後のストーリーにどのような展開を及ぼすのか。
それは未だ誰も分からない。
第一章に関しては後日談をまだ少しだけ書く予定です。
第二章と連動しながら書く感じですね……毎秒投稿するか(白目)
本編とは別で他キャラとのイチャイチャ編は必要だろうか
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やってくれ、必要だろ!
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やるな、戻れ!