進化したら人外系お姉さんになる雑魚モンスの俺、飼い主♀の性癖を破壊する 作:霧夢龍人
最初の授業が終わる。
何とか話についていけたイスフィは軽く伸びをして、ペンを貸してくれたメルを横目に見つめる。
本当に綺麗な子だ。
次の授業は実習科目のため、借りたペンを返すために話し掛けたいのだが、独特の雰囲気というか……見た目以上に大人っぽく見える雰囲気に、話し掛けれずにいた。
そんなイスフィに、ドタドタと席を外したクラスの生徒たちが話し掛ける。
「ねぇねぇ!どこから来たの?」
「彼氏とかいますか!?」
「どんなモンスターが好き?私はスライム!」
「首筋がえっっっ……ですね」
などなど。
青春を謳歌する生徒たちにとって、転校生というのは話題の的だ。
質問攻めにされたイスフィは一瞬たじろぐ。
「え、えっと……その……」
視線が泳ぎ、助けを求めるように周囲を見回すが、クラスメイトたちは逃がす気ゼロとばかりに、ぐいぐいと距離を詰めてきた。
「ほらほら、答えて答えてー!」
「出身地!年齢!スリーサイズ!」
「最後のは聞かなくていいでしょ!」
「あ、あの……」
完全に包囲網が完成し、イスフィの思考は軽くフリーズ。チラッと横を見ればメルも同じく絡まれて……絡まれていない!完全に遠巻きで眺められてしまっているようだ。
(え、なんで私だけなん!?)
そんなツッコミをしたくとも出来ない環境の中、教室のドアがガラリと開かれた。慌てたような他クラスの生徒が、教室を見渡して大声で叫ぶ。
「モンスター科の転校生が、修練場でいきなりモンスターバトルするらしいぞ!!!しかも相手は“ランキング十二位の、あのアマネ=クリプトン”だ!」
「「な、なんだって!?」」
教室が一瞬静まり返った。
──次の瞬間。
「モンスター科の転校生が!?」
「おいおい、死んだわそいつ」
「いきなりなんて……大丈夫なのかな?」
アマネ=クリプトン。
パートナーランキング十二位。
一年生にして、モンスター科の生徒三千名のうち、二桁の順位に収まるほどの実力者。
はっきり言って、転入したての生徒が挑むには荷が重すぎる相手だ。田舎出身のイスフィですら聞いたことのある生徒であり、かなり有名な人物である。
そんな子と転校生がモンスターバトル?
「こ、こうしちゃいられねぇ!行くぞ!」
「えぇそうね!見に行きましょ!」
「次の授業なんか知るか!」
イスフィの周りを取り囲んでいた生徒たちが一斉に離れ、修練場とやらへ向かっていく。気づけば、教室の中は一気に静まり返り、ほとんどの生徒が廊下へと雪崩れ込んでいた。
未だに状況が掴めないイスフィ。
しかしそんな彼女に声をかける子がいた。
「イスフィちゃんも一緒に行こうよ!」
「えっ……私も?」
「うん、せっかくならね!」
手を引かれて立ち上がる。
水色の長い髪を携えた目の前の女の子は、イスフィを見つめて嬉しそうに笑った。細身で華奢な子だが、澄んだエメラルドブルーの瞳が優しく輝いている。
そこにいるだけでホンワカしてしまいそうなほど、目の前の女の子は朗らかな笑みを浮かべて、もう一度手を差し出してきた。
「私、リリア!“リリア=アクアミス”!よろしくね!」
「う、うん!よろしくなぁ。ウチはイスフィでいいんよ!」
「おっけーい!イスフィって呼ぶね!」
迸る圧倒的な陽の気。
それに少し圧倒されつつも、差し出された手を握り返す。
暖かくて、柔らかい。
それだけで張り詰めていた緊張の糸が、ほんの少しだけ緩むのをイスフィは実感した。
「えへへ、じゃあ行こっ!早くしないと、いい席なくなっちゃうよ!」
「い、いい席……?」
「修練場の観戦席!前の方だと、モンスターの動きがよく見えるんだよ!」
そう言ってリリアは、半ば引っ張るようにしてイスフィの手を握り、廊下へと駆け出そうとする。
手を引かれるままイスフィもついて行こうとするが、後ろを振り向いた時に見えたメルの姿に立ち止まった。
「あれ、どうしたの?」
「いやぁ、メリュジーヌちゃんとも一緒に行きたいなぁと思っててん」
そう言って繋いだ手を離し、窓際で一人外を眺めているメルへ近づく。
他の人たちみたいに修練場へ向かっていくのが普通なのに、まるで興味がないみたいに黄昏ている。表情も変わらないし、喋ろうともしない。本当に不思議な子だ。
なのにイスフィは、メルと仲良くなりたいと思っている自分に驚いた。
だから。
「ね、メリュジーヌちゃん。ウチと一緒に見に行かん?」
声を掛けてしまった。
「っ……?」
イスフィの声にビクリと反応し、窓から視線を外してこちらを見やるメル。やはり表情は変わらないものの、少しだけ驚いている様子を感じ取った。
「……ん」
小さく、控えめな声。
「もしかして、来てくれるん?それやったら嬉しい!せっかく同じクラスになったんやし、一緒に行きたいって思ってたんよ」
「……ん」
その言葉にメルは短く頷き、窓際から一歩離れる。
近くで見ると、やはり綺麗だ。
透き通るような銀髪に、血を思わせる赤色の瞳。整った顔立ちと、どこか儚げな雰囲気が相まって、人形のような印象すら受ける。
(ほんま、綺麗やなぁ……)
思わず見惚れてしまい、言葉に詰まるイスフィ。
そんな二人の様子を見て、リリアがにこにこと近づいてくる。
「おっ、メリュジーヌちゃんも一緒に行く?」
「……ん」
「やった!三人なら、もっと楽しいね!」
リリアの無邪気な笑顔に、メルはほんの一瞬だけ目を細め、わずかに口元を緩めた。形のいい唇が弧を描き、大きな目が少しだけ細くなる。
次の瞬間には元の無表情に戻っていたものの、その変化をイスフィとリリアは見逃さなかった。
「「……うっ」」
可愛い。
その二文字が二人の頭を支配する。
「……?」
唐突に胸を抑え始めた二人に、当の本人は何が起きたのか分からず、小さく首を傾げた。
その仕草がまた破壊力抜群で。
「……っ、反則やんかぁ……!」
「か、かわいい……!」
イスフィとリリアは、思わず同時に声を漏らしてしまう。
影でモウガンに“無自覚性癖ブレイカー”と呼ばれているメルの笑顔は、女子高生二人の性癖の扉を軽くこじ開けるのに、十分な破壊力だった。
しかし当のメル本人は、自分の可愛さに気付けない。ヴェスティ第一であるために、己の容姿に対して無頓着なのだ。
「ちょ、ちょっとメリュジーヌちゃん!流石に可愛すぎるよ!」
イスフィより早く復帰したリリアは、メルの無自覚っぷりに少しだけ危機感を滲ませながら話し掛けた。
女の子の自分たちですらドキッとしてしまったのに、男の子たちがこんなのを食らってしまえば、ひとたまりもないだろう。
そんな思いを込めて言ったのにメルは。
「………っん」
ちょっと照れたようにそっぽ向いた。
ヴェスティやアグニに可愛い可愛いと言われすぎて、前はなんとも思ってなかったのに、最近は恥ずかしいという感情を抱くようになったメル。
その表情を見て、また二人が胸を抑えて蹲るのは半ば当たり前のことだった。
何とか胸のトキメキから抜け出せたイスフィとリリアは、メルを連れて三人で並び、廊下へと足を踏み出す。
すでに生徒たちの大半は修練場へ向かっており、廊下には人の流れができていた。
「しかし、いきなりランキング十二位って……派手やなぁ」
「だよねー。普通はもっと下の順位から挑むか、先生立ち会いで模擬戦なのに」
「……ん」
メルがこくりと頷く。
その小さな反応に、イスフィは思わず微笑んだ。
(ほんま、表情ちょっと変わるだけで分かりやすいなぁ)
無表情だからこそ、僅かな表情の変化は分かりやすい。
三人は人の流れに乗りながら、修練場へと向かっていく。
廊下を抜け、巨大なアーチ状の門をくぐった瞬間。
どわぁっーー!
耳を打つほどの喧騒と、肌にまとわりつくような熱気が一気に押し寄せてきた。
「うわ……すご……」
思わずイスフィが声を漏らす。
円形状に広がる修練場。
中央には巨大なバトルフィールドが広がり、その周囲を幾重にも取り囲む観戦席は、すでに生徒たちで埋め尽くされていた。
立ち見の生徒すら出始めており、熱気と期待と好奇心が渦巻いている。
「これでも、まだ始まる前なんだよ?」
リリアが慣れた様子で言う。
「実際に始まったら、もっとすごいからね!」
「へぇ……都会はほんまにスケールが違うわ……」
田舎育ちのイスフィにとって、この光景は圧巻以外の何物でもなかった。
その一方で。
「……」
メルは、ざわめく修練場を静かに見渡していた。
赤い瞳が、観戦席でもなく、フィールド中央でもなく──そのさらに奥。
待機エリアの方角を、じっと見つめている。
「メリュジーヌちゃん?」
イスフィが不思議そうに声をかけると、メルは小さく首を振った。
「でもさぁ、転校初日でランキング十二位に挑むなんて、相当自信があるか……もしくは」
「も、もしくは……?」
「何も知らない、超のつく無謀さんかだよね」
リリアはそう言って、くすっと笑った。
「どっちだと思う?」
「え……えっと……」
即答できずに言葉に詰まるイスフィ。
正直なところ、無謀の線が濃厚だと思ってしまう。
だが、それを口に出すのはさすがに失礼な気もした。
「……わ、分からんかなぁ」
「だよねー。でも、もし勝っちゃったら一気に有名人だよ?学園中が大騒ぎになるんだから!」
「か、勝つ……?」
その言葉に、イスフィは思わず息を呑む。
ランキング十二位。
その重みを、ここに来てから何度も聞かされている。
そんな相手に、転校初日の生徒が勝つなんて──。
「……あり得るん?」
「んー、ほぼないかな!」
「ん」
あっけらかんとした即答だった。メルも同調するように首を縦に振る。
「でもね」
リリアは、前を向いたまま、少しだけ声のトーンを落とす。
「この学園、たまーにそういう“あり得ない”をやらかす人が現れるんだよ。しかも、そういう人ほど……」
「……ほど?」
「大体、とんでもないトラブルメーカーになるの」
くすくすと笑いながら振り返るリリア。
「だからちょっと、楽しみなんだ」
その言葉に、イスフィの胸がざわついた。
トラブルメーカー。
あり得ない強さ。
転校生。
……なぜだろう。
その単語を聞いた瞬間、脳裏に浮かんだのは、隣に座っている銀髪の少女の横顔だった。
静かで。
綺麗で。
近寄りがたいほど大人びた雰囲気を纏った──メル。
いや、いやいやまさか。
こんな子がトラブルメーカーな訳ない。
余計な考えを吹き飛ばすように、イスフィは修練場のバトルフィールドに視線を向けた。
群衆のざわめきは熱狂へと変わっていく。
「もう始まる!?」
「相手はアマネだぞ、見逃すなよ!」
「転校生、どんなモンスター連れてるんだ?」
観戦席はすでに人で埋め尽くされ、出遅れた三人はどうにか中段あたりの空席を見つけて腰を下ろす。
眼下には、円形のフィールド。
そして──。
「……っ」
イスフィは、思わず息を止めた。
対峙する二人の姿が、はっきりと見えたからだ。
一人は、鋭い眼差しと凛とした立ち姿の少女。
長い黒髪をなびかせ、気迫だけで周囲を圧する存在感。テレビで何度も見た有名人の姿に、イスフィは胸の鼓動が高ぶるのを感じた。
彼女こそ、ランキング十二位を冠する少女。
アマネ=クリプトン。
もう一人は、勝ち気そうな表情を浮かべた茶髪茶眼の女の子だ。メルほどではないものの、165センチ位の長身と大きな胸を携えた美少女である。
小さいアマネと大きな転校生という対称的な立ち位置に、イスフィは感じいるものがあった。
ふと、隣にいるメルを見やる。
(でっっっっか)
布越しでも分かる、圧倒的な存在感。
重力が完全に胸に敗北している。
(なんやこれ……)
ゴクリと喉を鳴らし、もう一度、もう一人の転校生を見下ろした。
(でっっっか)
そして最後に自身の胸を見つめる。
(……よし、アマネさんの方を応援しよう)
イスフィの応援する相手は決まった。
何がとは言わないが、アマネに仲間意識が芽生えたからだ。
とはいえ悲しいものは悲しい。
更なる仲間を増やそうと、ワクワクしている顔を浮かべているリリアに話し掛けた。
「……なぁリリアちゃん」
「ん?」
「ウチの胸、今どっかに置いてきたんかな」
「置いてきたってどこに!?」
「ほら、こう……席とか……ロッカーとか……」
「忘れ物感覚で言わないで!?」
リリアは即座にツッコミを入れる。
「私だってそんなに大きいほうじゃ──」
と言いかけて、自分の胸元を見つめる。
そして今度はイスフィの胸元とアマネの胸元を見比べ、最後にメルと転校生へ視線を動かし。
「……あ」
すべてを察したように、そっと目を逸らした。
「……だ、大丈夫だよイスフィ!その、えっと……揉めば大きくなるって言うし」
「慰める気ゼロやん!!」
「ち、違うの!将来性が──」
「今を生きとるんじゃあああ!!」
悲痛な叫びが、観戦席のざわめきにかき消される。
その横で。
「……?」
メルは、二人のやり取りの意味が分からず、小さく首を傾げていた。その衝撃でメルの大きな胸が、大きくたわむ。僅かに動いたに過ぎないのに、過剰なほど揺れる胸。
イスフィ に クリティカルヒット ! ! !
(この子、顔も胸も性格も反則とか……世界ずるない?)
思わず天を仰ぐ。
「神様……ウチ、前世で何かしました……?」
「たぶん、徳を積み忘れたんじゃないかな……」
「パンチ強いって……来世に期待せぇ言うんか……?」
がくりと項垂れるイスフィ。
そんな彼女の肩を、リリアがぽんぽんと優しく叩いた。心なしか笑顔が引きつっているように見えるが、今のイスフィは気付く余裕がなかった。
「だ、大丈夫だよ!ほら、胸だけが魅力じゃないし!」
「……ほんま?」
「うん!」
「ウチにも、何か武器ある?」
「あるある!」
「なに?」
「……関西弁?」
「それ武器ちゃう!個性や!!」
再び突き刺さる現実。
どうやらダメージを喰らいすぎたらしい。
桃色の髪がシナシナになり、リリアのノホホンとした雰囲気でも中和しきれない程のドンヨリとした空気感が、イスフィの周りを取り囲む。
もはや未来に希望を抱けなくなったイスフィは、淀んだ瞳でアマネを見つめていた。
「もうええ……ウチ、やっぱりアマネさん応援する……」
「……えと。一応聞くけど、どうして?」
「仲間や……あの人とは、分かり合える気がする……」
「もー!勝手に共感しないであげて!」
その頃、フィールドではアマネと転校生が向き合い、いよいよバトル開始の気配が高まっていた。群衆の声もそれ以上に盛り上がり、修練場内を熱気が包んでいる。
だがイスフィの心は、完全に胸囲の格差社会との戦いに突入していた。
胸に貴賤はありません。
現場からは以上です。
ちなみに一章で新しい話を投稿しております。
本編とは別で他キャラとのイチャイチャ編は必要だろうか
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やってくれ、必要だろ!
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やるな、戻れ!