進化したら人外系お姉さんになる雑魚モンスの俺、飼い主♀の性癖を破壊する 作:霧夢龍人
修練場の中央。
フィールドに設置された拡声器が、甲高い音を響かせる。
《──これより、ランキング戦形式による模擬モンスターバトルを開始する!》
観戦席の熱気が、一段と跳ね上がった。
「うおおおお!!」
「来た来た来た!!」
「アマネ!ぶちかませぇ!!」
対する転校生側にも、そこそこ声援が飛ぶ。
「転校生、根性見せろ!」
「初日で十二位に挑むとか、やるやんけ!」
イスフィは、その歓声に圧倒されながら、じっとフィールドを見つめていた。左右に引かれたラインに並ぶ両名が顔を合わせている。
一人はかの有名なアマネ=クリプトン。
そしてもう一人が、転校生であるモウガンという少女だ。
アマネの方は小さいながら、気迫と怒りが入り交じった表情を浮かべている。モウガンは余裕そうに笑い、腕を組んで顎に手を当てていた。
「貴様……今ならまだ許してやろう。たかが転校生の分際で、私に喧嘩をうるなどと……身の程を知れ」
「ふぅん、見た目と同じで中身も幼いのね。強い奴に喧嘩を売るのは強者の特権よ?それに、私のフォスを見て嘲ったのは貴女じゃない」
「……貴様は自分が強者だと思っているのか?」
「いいえ。でも少なくとも、貴女よりは強いと思っているわよ」
嘲るように笑う。
まるで悪役令嬢の如く振る舞うモウガンに、群衆の歓声と怒声はヒートアップしていく。
曰く、生意気だと。
曰く、向上心があると。
しかしそれ以上に、アマネの内心は嵐のように荒ぶっていた。一年生の括りの中で、十二位という数字は驚異的だ。才能や運だけで片付けられない、有象無象が想像もつかないような努力が、積み上げてきた全てが、音を立てて崩れ落ちた。
それも、転校したての生徒によって。
「──ッ……!」
歯を噛み締めた瞬間、彼女の嵌めていた指輪から光が吹き出す。
主の怒りに呼応したパートナー達が、その感情を代弁するように形を成していく。
「……っざけるな……!」
低く、絞り出すような声。歓声に掻き消されていきそうな、小さな声だ。
だが次の瞬間、それは歓声をも掻き消す怒号へと変わる。
「ふざけるなッ!!」
ドンッ!
と地面を踏み鳴らし、アマネの眼前に三体のモンスターが現れた。
一体目はイーグルン──その進化先である、ホーグイーグ。巨大な翼を携えた鷲種のモンスター。名前はイカロス……2次進化だ。
二体目はマガパンドル。
物質型のモンスターで、箱のような形をした人を食い殺す事もある凶悪な個体だ。名前はパルード、こいつも2次進化。
三体目はパンプキング。
植物型でありながら実体が無く、逆にパンプキング側からは攻撃出来るという反則技を使える。
アマネの相棒モンスターであり、唯一の3次進化だ。名前はマスバ。
通常、パートナーというのは修羅場を潜り経験値を得なければ進化をすることができない。さらには厳しい条件の下ではなければ、進化の
だのに2次進化はおろか3次進化をしているモンスターがいるのは、学園生の中でもかなり驚異的だ。流石はパートナーランキング十二位に名を連ねる少女と言うべきだろうか。
普通のモンスター科の生徒であれば、こんな面々を目にすれば絶望の表情を浮かべるだろう。
「出たー!!!アマネのパンプキングだ!」
「お、おいおい……アイツ、最初から全力全開だぞ」
「勝ち目ないわよあんなの」
群衆もざわめく。
事前情報を知っていたとは言え、イスフィも生で見る三次進化というモンスターの凄さに「え、えぐすぎんかあれ……」と声を漏らした。
しかし──モウガンは違う。
「へぇ……私が戦っても勝てそうね」
「は?」
「いいえ?ちょっとした独り言よ」
余裕の表情を崩さない。
「さて、私の出すモンスターだけど……フォス一人で充分ね」
「っな!舐めているのか私を!?」
「どうかしらね」
口上と同時にモウガンは、パチンッと拍手を一つ響かせる。
すると、修練場のリングやピアスを介すことなく、ボコリと土が盛り上がった。
現れたのは、一体の人型モンスター。
動物型や植物型、物質型などではなく、人型である。
高位の動物型は人形態と動物形態を切り替えられるのは有名だが、アマネは知っていた。
動物形態を持っていない、2次進化の人型モンスターであると。
それは既存のモンスターとは違う新種──つまり、特殊進化であることの証明に他ならない。
「……え?ひと、がた?」
「いや待て、太腿にある紋様はモグライヌだぞ」
「なら特殊進化ってこと!?あの転校生ヤバイわね!?」
人型になるモンスターは極一部。
とある地方では、神や精霊の類いとも呼ばれている超希少種だ。
「うがっ!」
(呼んだ?)
「えぇ、アンタの出番よ。ボコボコにしてやりなさい」
「うがぅっ!」
(分かった!後で褒めてね!)
「もちろん。きっとメルも沢山褒めてくれるわよ」
「がうがう!!!」
(やったぁ!じゃああのモンスターたちぶち殺すね!)
「……やりすぎないように」
心配したようなモウガンの声とは裏腹に、フォスはかなりヤル気のようだ。耳と尻尾がピンと立ち、毛並みを逆立たせてアマネのモンスター達を睨み付ける。
方や2次進化二匹と3次進化一匹。
もう片方は特殊進化とはいえ2次進化が一人。勝利は誰の目にも明らかだが、モウガンは自身の勝利を確信していた。
そしてこのやり取りを遠巻きから見つめているメルもやはり、フォスの勝利を疑っていない。
二人のモンスターバトルは、歓声と怒声が木霊す修練場の中で静かに始まった。
「うわぁ、まさかの人型モンスターか!ねぇ、二人はどっちが勝つと思う?」
興奮冷めやらぬといった様子で、リリアがイスフィとメルに話しかける。迸る陽の気に僅かに気圧されながらも、興奮しているのはイスフィだって同じだ。
しかし数という有利がある以上、アマネの勝ちは揺らぎないように見える。
「うぅん。アマネさんやないかなぁ」
「やっぱり!?じゃあメルちゃんは?」
「………ん」
メルは一呼吸置いて、モウガンを指差す。二人の予想に反して、どうやらメルはモウガンが勝つと予想しているらしい。
確かに人型である以上、強力であることには間違いないが……。
「メルちゃんはあの転校生の方を応援するんやね。やっぱり胸がデカイ同士は、共鳴してたりするんやろか……?」
「イスフィちゃんステイ。目が闇堕ちしかかってるよ?」
「ん」
開始の合図は、どこにもなかった。
しかしフォスの足先が僅かに沈み込んだ瞬間、戦闘はどちらからともなく始まった。
「──行けッ!!」
アマネの号令と同時に、ホーグイーグが咆哮を上げ、翼を大きく広げる。
巻き起こる突風。巨大な風圧が、フォスの身体を叩き潰そうと襲いかかった。
その背後には、マガパンドルが地面を砕きながら突進。箱状の顎が、獲物を飲み込まんと大きく開かれる。
さらに、足元の影からパンプキングの蔓が伸び、逃げ場を封じる。
上下左右、同時制圧。
アマネがこれまで幾度となく勝利を掴んできた、必殺の連携。
だが。
「……遅いわ」
モウガンが呆れたように小さく呟いた次の瞬間、フォスの姿が、掻き消える。
アマネやそのモンスター達は視線をキョロキョロと動かしてフォスの姿を探そうとするが、見当たらない。
「──なっ!?どこへ行った!探せイカロスッ!」
風圧だけが虚しく空を切り、ホーグイーグの視界から完全に消失する。主人の命令する通りフォスの姿を探しても、空中戦を得意とする鷲種の目をもってしても捉えきれなかった。
三匹のモンスターの目を掻い潜ったフォスは……地中。モグライヌの特性を極限まで高めたその身体は、地面そのものを水のように泳ぐ。
ドンッ!!
轟音と共に、マガパンドルの真下から土柱が噴き上がった。
「ギャッ──!?」
突き上げられた衝撃で、巨体が宙に浮きあがる。見た目に反してかなり重いはずのマガパンドルが、お手玉をされる要領で。
凄まじい怪力だ。
しかし驚いている暇はない。フォスはすでに、驚異的な脚力によって浮き上がったマガパンドルの背後へ回り込んでいた。
そして拳を、軽く振るう。
次の瞬間、マガパンドルの身体が吹き飛ばされた。凄まじい衝撃音と共に、修練場の壁へと激突し、そのまま動かなくなる。
「……一撃……?」
観戦席から、誰かの震えた声が漏れる。
信じられない光景を見て、先程のざわめきは嘘のように静かになった。呆気に取られている者も少なくない。
フォスの攻撃は尚も止まらなかった。
ようやくフォスの姿を視認したホーグイーグが上空から急降下し、鋭い鉤爪を振り下ろす。
2次進化の力を遺憾無く発揮した巨大な翼と凶悪な爪によって、アマネのホーグイーグに倒されたモンスター達も少なくない。
まさに必殺技。
「当たれぇぇッ!!」
だが、その叫びと同時にフォスは片足で地面を蹴った。
踏み込んだ地面にヒビが入り、土煙が大きく舞い上がる。上空にいるホーグイーグの視界を塞ぐように広がった土煙は、フォスの移動先を読ませない。
やがて土煙の中から、勢いよくナニカが飛び出してくる。
「──上!?」
誰かが叫ぶより早く、フォスはすでにホーグイーグの“真上”にいた。ホーグイーグの得意とする空中まで飛び上がったフォスは、ニヤリと微笑む。
しかし角度が足りない、
そのままではホーグイーグに攻撃が届く前に、地面に落ちる方が早いだろう。
なのに。
「……は?」
フォスは、空を蹴った。
あり得ない挙動で強引に方向転換し、そのまま、踵を振り下ろす。易々と空中へ飛び出せるほどの強靭な脚から放たれる一撃は、空を飛ぶモンスターにとって悪夢に等しい。
「──ッ!!」
直撃。
凄まじい轟音と共に、ホーグイーグはまるで撃ち落とされたかのように地面へ叩きつけられ、土煙を巻き上げて沈黙した。
修練場が完全に静まり返る。
残ったのはパンプキング。実体を持たず、通常攻撃では触れることすら叶わない、アマネ最大の切り札。
しかしそれを前にしても、フォスは犬歯を剥き出しにして薄く笑みを浮かべている。
「……っ、来い!」
アマネは、歯を噛み締めながらも叫んだ。
実力は分かった。確かに口だけではないらしい。ホーグイーグですら捉えきれないスピードに、強靭な爪と脚力。
更に耳がいいのか、的確に攻撃を避けてくる──ならば。
「マスバ!拘束からの全力叩き込みだ!!」
パンプキングの影の中から無数の蔓が伸び、空間そのものを絡め取るようにフォスへ襲い迫る。捕えられれば、後は
逃げ場はない。
あらゆる方向から迫る蔓を目前にして、フォスはゆっくりと深呼吸を始めた。モグライヌの操る属性は土と火。進化したフォスもそれは変わらない……否、更に上位の属性へと進化している。
岩と炎。いずれも土と火の上位属性だ。
パンプキングには物理攻撃が効かないのは説明した通りだが、属性による攻撃は通る。なぜ物理攻撃しかフォスはしないのかと言えば、そちらの方が早く倒せるし楽しいからだ。
しかし相手が物理攻撃を通さないのであれば、躊躇なく炎と岩を織り交ぜた攻撃をする。
胸元が熱によって赤く光り、僅かに空いた口からはマグマのように煮え滾った炎が垣間見えた。
そして。
──【
光と熱気を伴ったフォスの攻撃が炸裂する。パンプキングの操る蔓や蔦を焼き溶かし、熱と物理的な破壊力を伴って眼前のモンスターを遥か後方に弾き飛ばした。
強固なはずの修練場の床が【
「………………は?」
アマネの口が、僅かに開いたまま固まる。
三体一。
切り札のパンプキングも繰り出し、最初から全力全開で挑んだのに。
すべてが、ほんの数十秒で決着が着いてしまった。
「……勝負あり、ね」
モウガンが、つまらなさそうに告げる。
当のフォスは何事もなかったかのように振り返り、モウガンの元へ戻っていった。
尻尾を大きく振り、ご機嫌にステップまでしている。
「うがっ」
(終わったよ)
「ええ。よくやったわ」
そう言って、軽く頭を撫でる。ペタンと長い耳を横に垂らして、嬉しそうに撫で撫でを享受する姿はひじょうに可愛らしいが──今しがた三体の強力なモンスターを一方的に沈めた存在とは、とても結びつかない。
修練場を包むのは、歓声でも怒声でもなかった。
齎したのは圧倒的な静寂と、信じられない物を見たという驚き。
(……な、なんなん今の……)
イスフィは声を出せない。
模擬戦という言葉からはかけ離れた、圧倒的な勝負だったからだ。
「きゅきゅ」
(モウガンめ……やりすぎだ)
そして試合の一部始終を見ていたメルも、僅かに瞠目して天井を見上げる。
自分は目立たないように、あまり話し掛けられないようにクールキャラを演じているというのに、これじゃあ余りにも──目立ちすぎだ。
某ポケットなゲームとデジタルなモンスターゲームをやったことがないので、名前が被らないようにするのが大変でした。
一応ポケットな方はカードゲームをやっていたので、多分被りはないと思いますが……似ている名前や、技名があれば感想欄で教えてください。すぐに修正致します。
本編とは別で他キャラとのイチャイチャ編は必要だろうか
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やってくれ、必要だろ!
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やるな、戻れ!