進化したら人外系お姉さんになる雑魚モンスの俺、飼い主♀の性癖を破壊する   作:霧夢龍人

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回天望古 Part1《過去への希望》

メルの身が危ない。

そんな直感がするのに一緒に寝れないというジレンマを味わいながら、私は兄様とともに夜の学園を歩いていた。

 

当たり前だが誰もいない。

ひたひたと廊下を歩けば、二人分の足音が響く。

 

「着いてきてもらって悪かったな。聖女に会うには夜じゃないとダメなんだよ」

 

「知ってるよ。“あの子”、陽の光が苦手なんだって昔話してくれたし」

 

「ありゃ、そうだっけか」

 

何故私が夜中の学園を歩いているのかと言えば、学園都市を総括している聖女に会うためだ。あの子は昔から身体が弱くて、外で遊べなかった。幼かった私はそれが気がかりで、ずっと傍にいた気がする。

 

お互い立場が変に高くなっちゃって、会うに会えなくなったけど……思えば私にとって唯一の友達は、あの子だけだった。

 

だからメルと一緒に寝れなくなったのも、いつの間にか入寮させられてた事も……ぎりっぎり許そう。

けど疑問なのは、変態の兄様がなんでこんな事をしたのかだ。

 

パートナーを連れず、しかもわざわざ夜中の学園に潜り込んで、更には私とパートナー達を離れ離れにする。今回の兄様からの依頼は情報共有が大事だと言うのに、どうしてこんなに回りくどいことをするんだろうか。

 

いや──違う。

 

そもそも何故私たちにこんな依頼をしたのか、それも分からない。メルは言葉が喋れないし、モウガンは性格的に潜入は合わない。都市の騒乱を収めたっていうのは肩書きとして機能すると思うけど、個々が有する能力と潜入調査の相性が悪いんだ。

 

そんな事を分からない兄様じゃないことくらい、私は知ってる。

 

「ねぇ、兄様ってさ……何が目的なの?」

 

「んぁ?そりゃ聖女ちゃんを助けたいからだろ」

 

「ふぅん……」

 

本当に?

私は疑問を禁じ得なかった。

 

兄様は歩きながら、いつもみたいに気の抜けた足取りをしている。夜の学園という非日常の中でもやけに自然で、やけに慣れている。その背中が、逆に不安を煽った。

 

まるで全部見透かされているような、全部知ってるような……いやいや、そんなわけないか。

 

でも今の兄様は、自分が知っている変態とは少し違う。

 

「……助けたい、だけで?」

 

「だけ、じゃ足りねぇ?」

 

「足りないね」

 

即答すると、兄様は一瞬だけ足を止めた。振り返りはしない。ただ、肩がわずかに上下する。

 

「ヴェスティ」

 

低く、名前を呼ばれた。

 

「お前さ。昔から、勘が良すぎるんだよ」

 

「褒めてる?」

 

「めんどくさいって意味だ」

 

ふん、と鼻を鳴らす音。歩みは再開された。

 

長い廊下の先、淡く灯るランプの下に、古い扉が見えてきた──ここは確か、聖堂学園。

 

学園都市“ヴァルヴォッサ”の中でも、古くから存在している学校だ。都市を包括する聖女がいる場所でもあって、装飾は控えめなのに、やけに存在感がある。

 

兄様は聖堂学園を前にして、少しだけ歩みを止めて私の方へ振り返る。

 

「……本当なら話したくはないんだが、少しだけヒントをやる。お前らに依頼した潜入調査は、元々違う奴から依頼されてたものだ」

 

「どういうこと?」

 

足を止めたまま、私は兄様を見る。

夜のランプに照らされた横顔は、いつもより影が濃くて、表情が読みづらい。

 

兄様は少しだけ肩をすくめた。

 

「そのまんまだ。俺が考えた依頼じゃない。話を持ってきた奴がいた」

 

「……誰なの、身内?」

 

「そこはノーコメントだ」

 

即答だった。

けど否定でも肯定でもない、その言い方が逆に引っかかる。まるで身内とは判断し辛いみたいな……でもそれなら、否定するはずだ。

 

敢えてノーコメントって言うってことは、少なくとも身内に近い立場の人間から受けた依頼なんだろう。

 

でも不思議だ。

自由奔放の変態を地で行く兄様が、誰かの依頼を受けるなんて。

 

しかもそれが、私やメル、モウガンまで動かす規模のものだなんて。

冗談や思いつきで人を振り回すことはあっても、責任の伴う“依頼”を受ける人じゃない。

 

……少なくとも、今までの兄様は。

 

私がそう考えている間に、気づけば兄様は歩み始めていた。

 

「ただな」

 

「なに?」

 

一呼吸置く。

聖堂学園の周りには自然が多い。虫や鳥の鳴き声が響く中、兄様の声は何故か鮮明に聞こえてくる。

 

「──お前が一番よく知ってて、お前にそっくりな奴だぞ。そいつは」

 

 

 

──☆

 

 

 

聖堂学園に着いたヴェスティとモルドは、古ぼけた扉を叩く。少しの静寂の後、中から出てきたのはシスターだった。

 

「んぁ?こんな時間に何の用だ」

 

……シスターだろうか?

よく見れば、耳には数々のピアスやらイヤリングやらがビッシリと付いていて、鼻にも口にもピアスが付いている。

 

しかも手元を見れば、煙草を一本慣れた手つきで燻らせていた。

 

「……えと、シスターさん、だよね?」

 

「あァ?なんだクソガキ。アタシがシスターに見えないって言いてェのか?」

 

どう見てもシスターには見えない。

ヴェスティは内心のツッコミを必死に飲み込んでいると、隣でモルドが軽く手を上げた。

 

「落ち着け。見た目で判断すると火傷するぞ」

 

「兄様がそれ言う?」

 

「言う資格はある。こいつは“中身”が本物だ──久しぶりだな、“カプノス”」

 

どうやらモルドは目の前の生臭シスターを知っているらしい。カプノスと呼ばれたシスターは煙草を咥えたまま、ちらりとモルドを見た。

 

何やら忌々しげな顔をしているため、モルドに対して思うところがあるらしい。

 

「久しぶりだな、モルド。相変わらず胡散臭ェ顔してやがる」

 

「これでもイケメンだと母国では評判なんだがな」

 

「けっ、だから嫌いなんだよ」

 

軽口を叩き合う二人の様子から、ただの顔見知り以上の関係だと察した。

少なくとも今日初めて会った相手ではなさそうだと、ヴェスティは観察する。

 

目の前のカプノスという女。

シスターとは到底思えない格好だが、所作は綺麗で洗練されている。どうやら見た目で判断してはいけないとは、本当のことらしい。

 

「で?」

 

シスターの視線が、今度はヴェスティへ向いた。心なしか目が怪しく光っているような気がする。

 

「そっちが噂の“妹”か……なるほど、可愛いじゃねェか。どうだ、アタシとこっから楽しまねェか?」

 

……本当にシスターなんだろうか?

中指と薬指をクイッと曲げて厭らしく微笑むカプノスに、ヴェスティは職業詐称を疑った。

 

年齢は恐らく二十代前半だろうが、草臥れた雰囲気が更に歳上のように見えてくるから不思議だ。

 

「我が妹をナンパしないで貰っていいか、カプノス(生臭シスター)

 

「ンだよいいじゃねェか、アタシだって暫くご無沙汰なんだ。それにお前にゃ聞いてねェ。アタシはこの妹ちゃんを誘ってるんだ、男が交じれると思うなカスが。神の御旗のもとに死ね」

 

……あの子、本当にこんな子をシスターに据えたんだろうか?

 

そう疑いたくなるほどの悪口が、迷いなく、淀みなく、しかも流れるように吐き出されていく。

罵倒の語彙がやたらと豊富で、語気も鋭い。祈りよりも呪詛に近い。

 

神の御旗のもとに死ねだの、カスだの。少なくともヴェスティの知る聖職者が口にする言葉ではなかった。

 

どう見ても、どう聞いても、どう考えても。シスターというより、場末の酒場で客を蹴散らしている側の人間だ。

 

ヴェスティは内心でそう断じつつ、表情には出さないよう努めた。

ここで顔を引きつらせたら、完全に相手の思う壺だと直感していたからだ。

 

隣を見ると、モルドは慣れた様子で肩をすくめている。

 

「相変わらずだな。聖職者としての自覚はどこに置いてきた?」

 

「捨ててきたに決まってンだろ。アタシは“置物”だ、置物。祈れとは言われてるが、清くあれとは言われてねェ」

 

煙草を咥え直し、カプノスは吐き捨てるように言う。

 

先から細い煙が立ち上り、夜気の中に溶けていく。その様子を眺めながら、ヴェスティは一度だけ小さく息を整えた。

ここで怯えた反応を見せれば、確実に面白がられる。相手はそういう人種だと、直感が告げていた。

 

ヴェスティはゆっくりと顔を上げ、カプノスの視線を正面から受け止める。

 

「結構だよ」

 

淡々とした声だった。

 

「私はこう見えて、相手には困ってないんだ」

 

一瞬、場の空気が止まった。

 

カプノスはきょとんとした顔をしてから、次の瞬間、喉の奥で低く笑った。愉快そうだ。

 

まさか言い返されると思わなかったのだろう。

 

「……ふぅん」

 

煙草を指で挟んだまま、視線を上から下へとゆっくり滑らせる。

 

「結構ヤることヤってんだなァ」

 

その言い方には下品さしかないが、不思議と嫌悪より先に観察の色が強かった。獲物を品定めするというより、手応えを確かめているような感覚に近い。

 

「いいじゃねェか、奪い甲斐がある方が唆るぜ」

 

ヴェスティの返答に満足したのか、唇の端を吊り上げ、にやりと笑う。

 

完全にアウトな発言だった。

 

それでもヴェスティは表情を崩さない。

一歩も引かず、カプノスを綺麗な赤い瞳で睨み返している。

 

その様子を見て、モルドが小さくため息を吐いた。

 

「……だから言っただろ。妹をからかうなと」

 

「からかってねェよ。ますます欲しくなった」

 

「やめておけ、火傷するぞ」

 

「はっ、今更だね」

 

カプノスは悪びれもせず肩を竦める。

 

「ま、今は手を出さねェでおくわ。それに──今日はアタシに可愛い子を紹介しに来た、ってわけでもねェんだろ?」

 

「話が早くて助かる」

 

モルドの言葉に、カプノスは口の端を吊り上げた。

 

吸っていた煙草を指で弾く。赤く灯っていた火は、石畳に落ちる前に踏み消された。その仕草だけは無駄がなく、やけに洗練されている。

 

カプノスはくるりと踵を返し、軋む音を立てて扉の内側へと向き直った。

 

「立ち話はここまでだ……聖女に会いに来たんだろ。さァ、入って来いよ」

 

聖堂の大きな扉が開く。

 

古ぼけた扉が、開けてはいけないパンドラの箱に見えたのは、ヴェスティの人生で初めてのことだった。




ワタシ、コウイウシスター、スキ(語彙力)

当作品で何を楽しみたいか(これからの参考にさせていただきます)

  • ストーリー
  • キャラ同士のイチャイチャ
  • どっちも
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