進化したら人外系お姉さんになる雑魚モンスの俺、飼い主♀の性癖を破壊する   作:霧夢龍人

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未来

モウガンは辟易していた。

彼女は売られた喧嘩を買ったに過ぎず、勝つのも当然だった。しかし、周りのくらすめいと?とやらが変に持ち上げるのだ。

 

転校初日の挨拶で、モウガンなりに目立たないような挨拶をしたつもりだった。フォスの紹介も変な顰蹙(ひんしゅく)を買わないために、大人しくさせておいた。

 

なのにあの“アマネ=クリプトン”とかいう小娘が、「人型のモンスターの癖に、大したことなさそうだな」と喧嘩を売ってきた。だからボコボコにした、それだけだ。

 

後悔はない。一切ない。

むしろ自身が暴れることで、メルが動きやすくなれば丁度いいとすら思っていた。

 

だが。

 

「モウガンさん!今日も素敵です!」

「二日で四人撃破って本当ですか!?」

「フォスちゃんも可愛いですぅ!」

 

それにしても騒がしすぎる。

人間はどうしてこうも騒ぐのか。勝った者を祭り上げ、負けた者を憐れみ、勝敗を娯楽にする。本当に辟易する。

 

フォスは隣で「うが」と小さく鳴いた。気にしないで!と言っている可愛い姿は少し落ち着くが、やはりストレスを軽減するには至らない。

 

「……人間ってめんどくさいのね」

 

ボソッ、と誰にも聞こえないように独り言を漏らす。

フォスがいるのはありがたいがヴェスティとも会えず、あのムカつく先輩にも会えていない。

 

メルに関しては“決して”会いたい訳じゃないが、顔を見ないと落ち着かないモウガン。ため息を吐いて外を眺めれば、モウガンの美貌に「はうっ」と悲鳴をあげて倒れる者が複数。

 

転校初日と今日を合わせて合計四人。

もう噂になっているらしい。朝早くから呼び出されて、連戦につぐ連戦。それでもドルマンとの戦いを経て成長したフォスには及ばないが、肝心のモウガンは戦うことができない。

 

言わば今の彼女は、目の前で戦いが起きてるのに戦えないという欲求不満に陥っていた。

 

「あ、あの!モウガンさん!宜しければ私が肩をお揉みしましょうか?」

 

「結構よ」

 

「朝の購買でパン買ってきました!」

 

「いらないわ」

 

「どうしたらそんなにスタイル良くなれるんですか!?」

 

「さぁね、才能かしら」

 

などなど。

転校して二日目にも関わらず、瞬く間にクラスの中心と化していた事も更にストレスを助長させる。

 

アマネ=クリプトンに至っては、モウガンに負けて以降顔を暗くし、小さい体躯を更に小さくさせて縮こまっている。モンスターのモウガンからすれば、自身のパートナーが一度負けたくらいでへこたれたら契約解除するレベルだが、やはり人間の考えは分からない。

 

分からないし、興味もない。

 

──だが。

 

「……はぁ」

 

もう一度、深いため息を吐く。

 

違う。

苛立っているのは人間たちのせいだけではない。

 

作戦が狂ったからだ。

 

元々の予定では、聖女への接触はヴェスティ。怪しい動きの調査はメルとモウガンだった。自分たちは目立たず、裏で動く側だったはずだ。

聖女を狙う存在、というアバウトな情報から敵を見つけ出さなければならない以上、目立たない方が都合がいい。

 

だが結果はどうだ。

二日連続のランキング戦から、そのまま二桁を四人撃破。いつの間にかファンクラブも発足していた。

 

目立たないどころか、今や学園で最も視線を集める存在になったのは言うまでもない。

 

正直……悪くはない。

挑発された以上、叩き潰すのは当然だったし、フォスを馬鹿にされた時点で引く選択肢はなかった。

 

「うが」

 

フォスが小さく鳴く。

大丈夫?とぺろぺろとモウガンの太ももを舐め始めた。

 

「……分かってるわ。後悔はしてない」

 

銀髪紅眼の目立つ“アイツ”。

何もしなくても目立つメルは、潜入に向いてない。

 

ならば、視線を自分に集中させればいい。全部こちらに向けてやればいい。それがモウガンの選択だった。

 

「……それでも」

 

昨日から顔を見ていない。

ヴェスティとも、メルとも、まともに話していない。

 

「別に会いたいわけじゃないわよ」

 

即座に否定する。

モウガンは別に、メルに会いたいとは思ってなかった。

 

「ただ、作戦の擦り合わせが必要なだけ」

 

そう、あくまで合理的な理由だ。

 

このまま目立ち続けるなら、それを前提に動き方を変えなければならない。その場合、メルと話しておく必要がある。

 

フォスが首を傾げる。

 

「うが?」

 

「……行くわよ」

 

モウガンは立ち上がった。

自然と、周囲の視線が一斉に集まる。

 

「え、どこ行かれるんですが!?」

「もしかして次のランキング戦!?」

「お供します!」

 

──鬱陶しい。

 

「騒がないでくれる?授業が始まる前に少し歩くだけよ」

 

嫌気が差したモウガン冷たく言い放つと、クラスは「はうっ」と静まる。

その後ろをフォスがぴょこぴょことついていく。

 

廊下に出ると、モンスター科の生徒たちがざわついていた。噂の中心人物が動けば、それだけで波紋が広がる。

 

だからといって、モウガンは躊躇わない。足取りは迷いなく、一般科の校舎へと進んでいく。

 

当然、視線がさらに増えた。

 

モンスター科の上位が、わざわざ一般科へ向かうのだ。疑問を感じ、なんだなんだと集まってしまうのも仕方がない。

 

「モウガンさんどこ行くんだろ?」

「まさか、次の標的?」

「それこそまさかでしょ。どう見ても一般科の方へ向かってるし」

「……も、もしかして……彼氏、とか?」

「えぇぇ!?」

 

馬鹿馬鹿しい。

標的とか彼氏とか、アイツはそんな存在じゃない。モウガンから見たメルはただのパートナー仲間であり、自らを先輩と名乗る変人。ただそれだけだ。

 

モウガンは階段を上がりながら、内心で舌打ちする。

 

自分が暴れたことで、確かに動きやすくはなった。だが同時に、こうしていちいち騒がれるのは面倒だ。

 

一般科の廊下に入ると、空気が変わる。モンスター科とは違う、どこかのんびりとした空気。

 

そして、教室。

メルがいるはずの場所で、モウガンの足が止まった。

 

「……別に、顔を見たいわけじゃないわ」

 

教室の前でもう一度、自分に言い聞かせる。

顔が見たいとか、メルのことが気になってるとか、そんなものじゃない。ないったらないのだ。

 

「うが」

 

しかし、モウガンの本音を見透かすようにフォスが小さく鳴いた。

 

「ふん、黙りなさい」

 

扉の前に立つ。中からはざわめきの声が広がっているようだ。どうやら、モウガンが一般科へ向かったという情報は、既に出回っているらしい。何とも早いことだ。

 

……まったく、鬱陶しいことこの上ない。

 

そう呟きながら、モウガンは扉を開けた。がらり、と音が鳴ると同時に、空気が張り詰める。

 

モウガンは教室を見渡し、落ち着いた声で言った。

 

「失礼するわ。このクラスにメル──いいえ、メリュジーヌっていう名前のスラ……女の子はいるかしら?」

 

一斉に視線が集まる。

 

そして。

 

教室の中央。モウガンが求めていた銀髪紅眼の“先輩”と、目が合った。

 

「……」

 

無言のまま、見つめ合う。モウガンはわざと小さく鼻を鳴らした。どうやらメルは猫を被っているらしい、と。

 

「なんだ、いるじゃない。ちょっと付き合いなさい」

 

銀髪紅眼の少女は、ほんの一瞬だけ目を細めた。

 

──コイツ、猫を被ってる。

 

教室という他人の目がある空間では、あいつは完璧にクールを演じようとするだろう。演じれてるかは別として。無表情、無言、最低限の反応。身内の前で見せる「んきゅきゅ!」だの「きゅっ!」だのという妙な鳴き声は、影も形もない。

 

今もそうだ。

 

視線を向けられたまま、メルは静かに瞬きを一つ。

 

「……」

 

そして、ほんの僅かに首を傾けた。

その様子がなんか可愛子ぶってるみたいで腹立つ、とモウガンは思った

 

「え、なにこの空気……」

「モウガンさんと知り合い?」

「一般科とモンスター科って接点あったっけ……?」

 

周りの声を聞き流しながら、モウガンは小さく息を吐いた。

 

「聞こえなかったの?付き合いなさいって言ったのだけれど」

 

「……ん」

 

その言葉の通り、メルはゆっくりと立ち上がる。椅子が引かれる音が騒つく教室にやけに大きく響いた。

 

「え、ちょ、ちょい待ち!メルちゃんってモウガンさんとお知り合いなん?」

 

「ど、どういう繋がりなの!?」

 

イスフィとリリアが慌てふためくが、当のメルは落ち着いていた。

しかし返答はせず、ただ頷くだけ。

 

「……ん」

 

それ以降は完全に沈黙だ。

 

──おい、そこは何か言いなさいよ。と、モウガンは内心で舌打ちする。

 

ここで下手に喋れば、余計な注目を浴びる。クールキャラを崩すわけにもいかないのも理解している。

 

確かに合理的だ。

合理的だが──少しだけ、面白くない。

 

「行くわよ」

 

「ん」

 

メルを連れて教室の外へ出る。

呆気にとられるクラスメイトの静けさが、妙に心地よかった。

 

 

 

──☆

 

 

 

コイツ、また新しいメスを引っ掛けたのね。手が早いことだわ。まぁ本人にはその自覚があるのか分からないけど。

 

にしても、無表情で一般生徒になりきるって、コイツってもしかしたら意外と学園生活を楽しもうとしてたのかしら。

私は全く楽しくはないわ。どうせあと一週間も経たずに暴れることになるんだから。

 

隣を歩くメルを見ながら、無駄な努力をする先輩の阿呆さを私は憂いた。

 

「んきゅきゅ?」

(んで、何の用なんだよ?)

 

周りに人影はない。

もうそろそろ授業が始まるし、普段使われてない空き教室へ向かっているからだ。

 

「用もクソもないわ、作戦会議よ」

 

「きゅう?」

(作戦会議ぃ?スマホですればいいじゃん)

 

「あんな板初日で壊したわ」

 

「ふぁっきゅ」

 

ジト目で睨んでくるメルの頭を軽く叩いて、目的の空き教室へと入る。ヴェスティから教えて貰った場所で、普段なら誰も来ないらしい。

 

念の為鍵を掛け、机に腰掛けて話を再開した。

 

「──それで話の続きだけれど、昨夜ヴェスティ様が聖女と会ったらしいわ」

 

 

 

──☆

 

 

 

「きゅきゅ?」

(聖女と接触?作戦通りだろ)

 

「そうよ。で分かったことがあるの。どうやら聖女は、未来を“知る”ことが出来るらしいわ」

 

「きゅう〜?」

 

未来だって?

 

そんなのは有り得ない。なぜなら聖女と言えば、王種を除いた特異個体よりも強いと言われる最強キャラ。故に様々な能力が分かっているのだが、その中に未来の事が分かる、という能力はない。

 

未来……ひいては時間を操れると判明しているのは、時律の特異個体だけだ。

 

「きゅきゅ?」

(その話、本当か?聖女は未来のことがわかるって)

 

「いいえ、分かる訳でも視れる訳でもない。ただ、“知っている”らしいの」

 

「きゅあっ!」

(違いがわからんっ!)

 

「でしょうね、私も分からないわ」

 

なまじストーリーを知っているせいで、変なノイズが掛かっている気がする。聖女の未来を知る能力という想定にない能力があるために、変に動けな……いや、待て。

 

ストーリーを知っているせいで、変に動けない?

未来を知っている聖女も、恐らく変に動けないはずだ。

 

そして、視るでも分かるでもなく“知る”という発言が妙に気にかかる。それじゃあまるで、未来に起きることを知識として得ているような……いや、ヒントが少なすぎる。

 

思考を巡らせている俺を他所に、メルは話を続けた。

 

「その聖女が言うには、自分を襲う存在がすぐ近くにいるっていうのも知っているって」

 

「きゅ……?」

(近くって、学園内か?)

 

「ええ。既に接触圏内にいる可能性が高い、とも」

 

俺の思考が一瞬で回転する。

 

学園内。

聖女。

接触圏内。

 

──原作でその立ち位置にいたのは、一人だけだ。

 

ノア=ハルベルト。

 

狂気の二文字がお似合いなイカれ女だ。

アイツの目的は、血を血で洗う争いをみたいというただそれだけ。だが俺は口に出さない。

 

聖女と同じく未来が変わるのが怖いからだ。俺もドルマン戦で痛感した──動いた結果が、必ずしも良い結果になるとは限らないと。

 

ここから察するに、聖女は観測者ってわけか?

干渉せず、知っている未来を確定させるためにワザと泳がせている状態である、と。

 

「んきゅきゅ?」

(なら逆に聞くが、聖女が変えたいと思っている未来ってなんだ?)

 

「それは……」

 

俺の問いかけに、モウガンは一度口を開いたかと思えば、閉口してじっと見つめ返してきた。まるで逃げ場をなくすように。

 

そして──モウガンの茶色い瞳が、真っ直ぐ俺を射抜く。

 

 

 

「その未来で死ぬのは、あなただそうよ」

 

当作品で何を楽しみたいか(これからの参考にさせていただきます)

  • ストーリー
  • キャラ同士のイチャイチャ
  • どっちも
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