進化したら人外系お姉さんになる雑魚モンスの俺、飼い主♀の性癖を破壊する   作:霧夢龍人

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桜は今、咲き誇る

授業は中盤。

 

今日の内容は「スライムの生態について」。教壇のスクリーンには、半透明のスライムの断面図が映し出されとる。

 

「皆さんご存知の通りスライムは核を持たない個体も多く、粘液構造による疑似神経網で外界を感知します。特に上位進化個体になると──」

 

教師の声は一定で、眠気を誘うリズムを刻んでいて、いつもなら楽しくて仕方ない授業が今日は退屈や。

 

ウチは頬杖をつきながら、ぼんやりと画面を眺める。

 

スライム、ねぇ。

ぷるぷるしてて、弱くて、でも進化次第では恐ろしい存在にもなる種族なんよな。ウチの田舎にも何種類かおったけど、時たま大暴走する時もあった。

 

パートナーが欲しくて色んなモンスターと交友を深めようとしとったウチは、何度か巻き込まれそうになったんやったっけ。懐かしいなぁ。

結局パートナーも出来んかったけど、他の子たちもパートナー作りに難航しよったから、別に疎外感は感じんやった。

 

でも今は……前よりもっとパートナーが欲しいと思ってしまうんよな。

 

「は〜ぁ」

 

モウガンさんと一緒にどこかへ行ったメルちゃん。もうそろそろで一限が終わるのに、帰ってくる気がせぇへん。

 

一体何しよるんやろか。

 

考えれば考えるほどドツボにハマりそうで、頭が痛い。お陰で変な声がさっき聞こえてきたし、メルちゃんが居ないだけで変になるくらい、ウチって想像以上にメルちゃんと一緒に居たいと思ってるんやろか。

 

黒板の前では、先生がスライドを切り替えとる。

 

映し出されたのは、上位進化個体のスライムの模式図やった。通常種とは違う、より密度の高い粘液層。内部を循環する血液の流れと疑似神経網の発達具合に関する、上位種の特殊性に関する内容や。

 

我ながら何言ってるか分からんけど、簡単に言えばスライムの進化についてのお話やな。

 

「上位個体になると、感情と進化の相関が顕著になります。怒りや執着といった強い感情が、進化を促す引き金になる例も確認されています」

 

感情が進化を促す、ね。

 

……感情かぁ。

ウチの中で、今いちばん強い感情はなんやろ。

 

焦り?

嫉妬?

それとも──。

 

「特異個体の場合は、通常の進化体系とは異なり、外的要因や極端な状況下で突然変異的に誕生することがあります」

 

スクリーンに映る「特異個体」という文字。

超希少種で滅多にお目にかかれないモンスターのことや。人生で一回見る機会があるかないかレベルで、そういう奴らは大体めっちゃ強いらしいんよ。

 

人とパートナー契約を結ぶことは基本ないみたいやけど、もし結べたら……メルちゃんももっとウチと仲良くしてくれるんやろか。

 

そう思った瞬間。

 

『──欲しいの?』

 

またや。

 

頭の奥に直接触れるような声が響いて、ウチは思わず目を瞬いた。気のせいかと思ってたんに、何度も何度も聞こえてくるってことはこの声は妄想なんかじゃないって事になる。

 

パートナー(ボク)が』

 

柔らかく、包み込むような声。

どこか甘くて、懐かしい匂いがする。

 

例えるならそうやなぁ……春先の桜並木みたいな、懐かしくて仄かに寂しさも感じるような、そんな雰囲気や。

 

『キミは、強いパートナーが欲しいんでしょ?』

 

囁く声がウチの内心を見透かすように、願望を告げる。

 

スライムを除いて、弱いモンスターなんて居ない。自分の好きなモンスターとパートナー契約をして、対等な立場で人とモンスターは支えていくべき。

 

それは分かってるはずなんや。

 

けどやっぱり弱いモンスターはいなくても、強いモンスターはいる。例えばそう、モウガンさんのパートナーモンスターとか、あるいはヴェスティ先生のアグニールちゃんとか。

 

対等な立場でないといかんのに、今思い浮かんだ二人みたいな、不相応なモンスターを欲しがってしまうのはウチのエゴ。そんな考えをモンスター達も理解してるからこそ、今までウチにはパートナーが出来なかった。

 

地元の田舎やったらまだ良かった。

ウチみたくパートナーが居ない子が多かったから。

 

でもこの学園に来て、あんなに可愛い子と仲良くなれて……でも何故かその子は、最近有名な強い新入生と知り合い?みたいで。植物みたいに複雑に絡み合った感情が、自分がどうしたらいいのかをより分かりづらくしている。

 

心做しかスクリーンのスライムの断面図が、花びらみたいに見えた気がした。

 

『なら、ボクを選んで』

 

机の上に置いた手がじわっと汗ばむ。

 

選んでってどういうことなんやろか。

そもそもこの声の主は一体だれなのか。

 

幻聴?

寝不足?

 

答えがわからずに、ウチは必死に黒板を見て気を紛らわせようとしたんやけど、先生は何も気づいてへん。周りの生徒も、普通に授業を受けとる。

 

その事実が、更にウチを困惑させる材料になってしもうた。

 

『キミはあの女の子が、誰かに取られるのが嫌なんでしょ?』

 

謎の声は核心を突いたような言葉を投げ掛けてくる。メルちゃんがモウガンさんと並んどる姿が、脳裏に浮かぶ。

 

強いパートナーと契約したウチなら、あの子の横に立てるんやろか。

 

『ボクなら、キミをあの子の隣に立たせてあげられるよ』

 

と、自分でもドン引きしてしまいそうなほど醜くてエゴの塊をまた見透かす謎の声が、優しそうな声でウチに語り掛けてくる。桜の仄かな甘い匂いが鼻腔を擽った気がした。

 

すると何故か瞼が、徐々に重くなってくる。

 

確かに眠いとは思っとったけど、ここまで眠くなっとらんかった。

 

なのに気づけば──。

 

「あ……」

 

ふ、と意識が落ちた。

 

 

 

足元が、やけに柔らかい。

 

気づけばウチは、どこまでも続く桜並木の中に立っとった。

 

空は薄桃色。風はないのに、花びらだけが静かに降り続いとる。踏み出すと、足元の桜の花びらが優しく靴を押し返して来た。

 

「……ここ、どこやねん」

 

ウチの声がやけに澄んで響く。

 

これは夢や、直感で分かった。

でもただの夢やない。

 

「来てくれたね」

 

声がした方向へ振り向く。

周りにある桜の中でも、一際巨大な桜の木の根元に一人の少女が立っとった。

 

長い髪。

淡い色の着物。

少女の身体に花びらが触れようとしても、当たらずに消えていく。

 

顔ははっきり見えるのにどこか曖昧で、初めて見るはずやのに、ちょっぴり懐かしい。

 

ウチが周りの景色と女の子に交互に視線を寄せて面食らっていると、桜に溢れた桃色の景色は徐々に見慣れた場所へと変わっていった。

具体的には、学校の校庭に生えている大きな木の下にいつの間にかウチと少女は立っとった。

 

……いつの間に?

 

いや、夢やから仕方ないのは分かっとるんやけど、場面が急に変わりすぎてよく分からん。

 

呆けるウチを他所に、少女はゆったりとした動作で近付いて口を開いた。

 

「ボク、待ってる」

 

ぼやけていながら懐かしさを感じさせる表情で、少女はまた一歩近づいてくる。

 

「水は深いよ」

 

桜が一斉に揺れる。

 

「でも、桜は沈まない」

 

花びらが視界を覆う。

 

「例え“(ミズ)”に邪魔をされてもね」

 

目の前の少女はそれだけ言うと、吹き荒れる桜の花弁に掻き消えるようにして居なくなった。

 

 

 

─── ☆

 

 

 

スライム生で何度目かの、貞操の危機とやらを感じた気がする。

 

「んきゅ」

(ふぅ、疲れた)

 

ため息を吐きながら、俺はゆっくり教室へと戻っていく。モウガンに襲われかけた俺は、ご主人様の元へと転移した……はずだったのだが、桜と(ミズ)がいよいよ目覚め始めたのか、よく分からん場所に転移してしまっていた。

 

迷い続けて暫くグルグルと周りながら教室を目指すこと数分、人気(ひとけ)がないながらも、見覚えのある場所になんとか辿り着いた。

 

「きゅっきゅ」

(マジで学園広すぎだろ)

 

そう愚痴りながら、気まずさを滲ませた足取りで一般科へ向かう。イスフィやリリアも、中々戻らない俺にきっと心配しているはずだ。

 

足音だけが、やけに響く。

 

昼前の校舎にしては、やはり生徒の気配が薄い。まるで俺だけが少しだけずれた場所を歩いているみたいな感覚に、年甲斐もなくワクワクする自分がいた。

 

そのときだった。

 

「……う、うぅ」

 

コツコツと廊下を歩く俺の靴音以外に、誰かの声が混じった。

 

最初は空耳かと思った。

でも二度目は、はっきりと聞こえた。嗚咽を押し殺すような、小さな泣き声だ。

 

「……ぐすっ……く、そ!」

 

俺は足を止める。

 

音の出所は、廊下の奥にある空き教室だった。扉はわずかに開いていて、薄暗い室内の空気が廊下に滲み出している。

 

……入るべきか?

 

一瞬迷う。

 

あの声を無視するのはどうにも気持ちが悪いが、一人で泣いている時は一人になりたい時だけだ。誰かに共感してもらう訳にもいかず、一人我慢して気持ちを抑えながら泣くしか出来ない。

 

そういう時だけだ。

 

だから俺は入ろうとしてしまった足を止め、その教室の横を通り過ぎようとした。

 

しかし。

 

「おい……そこ、誰かいるだろ。覗き見とは、感心しないぞ」

 

……バレてる。

 

俺は小さく息を吐き、観念して扉を押した。

 

蝶番が軋み、薄暗い教室の空気がゆっくりと流れ出る。教室の中は、カーテンが半分閉められていて、斜めに差し込む光だけが机の列をぼんやりと照らしていた。

 

その窓際。

 

一人の少女が、床に座り込んでいる。

 

長い髪が肩を覆い、膝を抱え込むように縮こまっていた。

さっきまで泣いていたせいか、頬には涙の跡が残り、目元は赤く腫れていた。

 

「……貴様は一般科の転校生だったか?もしや、わざわざ私の情けない姿を笑いに来たんじゃあるまいな?」

 

強気な口調で俺を指刺す少女──正確には、モウガンに負けるまでは序列十二位という肩書きを背負い、序盤のイスフィのライバルポジションであるアマネ=クリプトンその人だった。

当作品で何を楽しみたいか(これからの参考にさせていただきます)

  • ストーリー
  • キャラ同士のイチャイチャ
  • どっちも
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