進化したら人外系お姉さんになる雑魚モンスの俺、飼い主♀の性癖を破壊する 作:霧夢龍人
昨日、私は聖女と久しぶりの再会を果たした。身体が弱くて、儚げな顔をしてた幼い時の彼女。その姿を想像しながらいざ対面すれば、印象は真逆になった。
事の顛末を話そう。
シスターカプノスという生臭女に連れられて聖堂学園の中央に位置する、巨大な教会へ連れてこられた私たち。ステンドグラスとあまたの天使達が描かれた美しい絵に見とれつつ歩くと、聖歌台に一人佇む少女を見つけた。
どうやらお祈りの最中らしい。心地いいソプラノ声と共に、初代聖女へと捧ぐ賛美歌が響く。
「聖女サマ、連れて来ましたよ」
シスターカプノスが背後から声をかける。
水色の長い髪と、白い聖女の正装。
間違いない、この子が聖女──“リリア”だ。
昼間の授業中、イスフィさんとメルと一緒に授業を受けていた時は昔の儚げな印象が先に来ていて、気づかなかったけど。よく観察すれば、所々昔の面影が垣間見える。
久々に会えた嬉しさと少しの緊張を胸に、私は話しかけた。
「えっと、久しぶり。覚えてるかな、私は──」
少しどもってしまった。
だが私の声が届いたのか、パッと後ろを振り向いたリリアは驚いたような声をあげる。
「あれ!?もしかしてヴェスティ?久しぶりじゃん!!!」
「……良かった、忘れてないんだね。それと、祈りの邪魔をしてごめん」
「全然いいよ!私にとってはヴェスティと会えたことの方が重要だし〜?」
祈りを捧げるのを中断してまで、私の方へとかけてくるリリア。彼女は白いヴェールで目を隠しながらも、幼い時に見たエメラルドブルーの瞳はきっと喜びで輝いているのだろう。
水色の髪は聖女の正装はやはりよく似合っていて、ステンドグラスから零れる月の光を受け、幻想的に輝いていた。
しばらく、再会の喜びに浸っていたその時。
私の背後から、兄様が右手をひらひら振りながらリリアに声を掛ける。
「よっ、久しぶりだな聖女ちゃん」
途端に、リリアの顔が露骨に歪んだ。
あからさま過ぎない?とは思うが、兄様への対応としてはこれが正解だ。
「げげっ!変態もいるの!?最悪だぁ〜」
「なんだよその反応!ロリとショタを愛するだけの男だぞ俺は!」
リリアは鬱陶しそうに手をひらひら振り、兄様を追い払う仕草をする。
だが、声はどこか弾んでいた。本当は再会を喜んでいるんだと思う。
私ももう少しこの時間を味わいたいところだが、事情が事情だ。リリアが殺されるかもしれない状況下で、悠長に駄べっている時間はない。
「なぁ、リリア。君が誰かから狙われてるって本当なのか」
私がそう問いかけると、リリアはぴたりと動きを止めた。
さっきまで兄様を追い払っていた手が、空中で止まり、そのままゆっくり下ろされる。
「……」
教会の中に、ほんの短い沈黙が落ちた。
ステンドグラスを通して差し込む月の光が、床に色とりどりの光を差す。
リリアの細かな息遣いが妙に大きく聞こえて、聞いちゃ駄目なことだったのかな?と少しの後悔が苛む。
「……まぁ、気になるよね」
「当たり前だよ、友達の危機なんだから。けど疑問なんだ。兄様からこの依頼を受けた時に、私達よりも適任がいるはずだって。それこそリリアを狙う奴がいるなら軍隊でも使って、人海戦術で探し出せばいい話じゃないかってね」
「その通りだよ。だってほら、私可愛いし?こんなプリティーな私を狙う不届き者を捕まえるのに、聖女の階級を使えっちゃえばあっ!ていう間だからね〜」
「ならなんで──」
尚更意味が分からなかった。
聖女は世界に一人しかいない。存在できない。
今だって何人か護衛はいるかもしれないけど、それでも明らかに人数が足りていない。
だから思ったんだ。
出来るのにしないのは、何か理由があるんじゃないかって。
そんな私の疑問は、すぐに解消された。
「出来ないから、だよ」
「……どういうことかな?さっき出来るって言ったばかりじゃないか」
「もちろんやろうと思えばできるよ。でもそうしたら、私の知ってる未来が終わっちゃうから出来ないが正しいかも」
「未来が終わる?リリア──まさか君は未来が見えるとでも言うのか?」
「ううん、違うよ。あくまでも私は、未来を“知ってる”だけ」
未来を知ってるだけ?
私の理解力がないのか、到底分からない発言だ。
分かるでも見えるでもなく、知っている。リリアは“知る”という言葉に拘っているように思えるから、きっとこの使い分けは重要なんだろう。
「知ってる未来が変わっちゃうと、動きづらくなるんだよね〜。かと言って、動かなかったらバッドエンド一直線的な感じでさ。私も困っちゃうんだ。
もう何千、何万の世界線を聞かされて来たことか……同じようで似た話を聞かされるの、結構疲れるんだよ?」
「何千……何万だって?しかも聞かされるって、それじゃまるで──」
まるで、他に未来を知っている人間がいるみたいじゃないか。
しかもリリアはその人の話を信じているように見える。未来のことを話す人間のことなんて、大抵は信用しないだろう。なのにどうしてリリアからここまでの信頼を勝ち取ってるんだ?
一体誰がそんな戯言を吹き込んだんだ?
「知ってる?この学園には桜と淵の王種が潜んでるって。最初に聞いた時はビックリしたけど、イスフィちゃんって転校生の女の子がその二体のうちどっちかを選ぶんだって」
なんでこんなに自信があるんだ。
「選ばれなかった方は敵になるんだけど、私の知ってる未来で死ぬのは、メルちゃんらしいよ?モウガンちゃんだったりフォスちゃんも死んだりするらしいけど、確実にメルちゃんが死ぬのは変わらない」
なんでそんなに酷いことを言うんだ。
「私も色々聞いてるからね。ヴェスティちゃんのパートナーがメルちゃんとモウガンちゃんってことも、アグニールって王種と一緒にいることも……なんならマルデンブルクで起きたこと全部知ってるんだ」
なんでそんなに全てを把握してるんだ。
早口で狂気を感じるリリアの言葉に私は困惑と少しの恐怖、そして誰かに操られているんじゃないかっていう想像に駆られた。
兄様は何も言わない。
シスターカプノスとかいう女性も閉口して、私だけが驚きに包まれている。
違和感しかない。
なんで皆はそんな不確定な未来のことを──。
「リリア待って。私は君のことを信じたいと思ってるけど、流石に未来なんて話は突飛すぎる。そもそもそんな話、一体誰から聞いたの?」
メルが死ぬだとか、モウガンもフォスも死ぬとか、私の精神を揺さぶって来ているとしか思えない発言の数々。
信じる信じない以前に、私は信じたくない。
メル達がいない未来なんて私は想像したくないし、もし死ぬって話なら全力で阻止するつもりではある。だけどそれが、私の知らない誰かから皆に吹き込まれたものだとしたら、こんなに皆が信じて動いている理由がわからない。
だから知りたい。一体誰がメル達が死ぬ、なんて言い出すのか。
そう思っていたのに。
「貴女から聞いたんだよ、ヴェスティちゃん」
「え?」
返ってきた答えは、私の想像していたモノではなかった。
「──これから起きることを全部知ってる──未来のヴェスティちゃんの口から、ね♪」
むしろさらなる混乱を産む、形容できない情報の錯綜。言葉が上手く形にならず、口元が開いたまま固まった。
冗談だと笑おうとしても、リリアの表情から感じ取れる真剣さの混じった視線に、お巫山戯の類いは感じられない。そもそも冗談にしては悪辣すぎる。
理解の出来ない情報を詰め込まれた私は、放心して立ち竦むしかなかった。
これが昨日の話だ。
今思い出しても、何が何だか分からない。混乱を産まないように、ある程度ぼかしてモウガンに伝えてるけど、メルが死ぬことだけは正確に言って欲しいと情報を共有している。
あまり伝えすぎると、死ぬ未来が増えるかもしれないから……らしい。私にもそれが適用されるみたいで、あの後詳しい事は話して貰えなかった。
「……あー、人生ってままならないなぁ」
齢十七にして、もう人生について考え初めてる自分に嫌気が刺す。もう少し子どもで居たかったのに、強制的に大人にされた気分だ。
コーヒーを飲みながら、職員室の隅っこで先生方の邪魔にならないように今日の授業について纏めるけど、一切身に入らない。
そんな時間を過ごしていると。
トン、トン、と。
職員室のドアを軽快に叩く音が聞こえた。
今の時間は授業と授業の合間で、生徒が尋ねてくるのは珍しくない。しかしどうやら他の先生方は忙しくて聞こえていないようだ。
「失礼します!あのぉ、すんません。ヴェスティ先生っておられますか?」
ドアが開くと、緊張した面持ちのイスフィさんがそこにいた。隣にはアマネさんとチビスラを抱えたメルも一緒にいる。
本来なら今すぐ抱き締めて、めちゃくちゃにキスしたい所ではあるんだけど今の私は先生である。悠然とした態度でイスフィさんの元へ向かい、話を聞いた。
小声で話された内容は、桜の王種から狙われているかもしれない、というもの。
──やっぱり、本当なのか。
半信半疑だった信憑性のないリリアの言葉が、今になって真実味を帯びる。それは即ち、未来の私がいるというのも真実である可能性があるということで。
「人生ってままならないなぁ……」
「ん?先生、今なんか言うた?」
「んーん、何でもないよ」
メルが死ぬのも確定しているということだ。
当作品で何を楽しみたいか(これからの参考にさせていただきます)
-
ストーリー
-
キャラ同士のイチャイチャ
-
どっちも