進化したら人外系お姉さんになる雑魚モンスの俺、飼い主♀の性癖を破壊する   作:霧夢龍人

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完全なBADEND

オウヒは、ゆっくりと手をこちらへ向けた。

白い指先が、まるで蝶を捕まえるかのように軽やかに動く。

 

「みぃつけた」

 

柔らかく、幼い声だった。

だがその声音には、命を弄ぶような無邪気さが混じっている。

 

ぞわり、と背筋に悪寒が走る。

 

(……動け)

 

頭では分かっている。

分かっているのに、体が動かない。

 

視界の端でイスフィが一歩後ずさる。アマネは指輪を構えたまま、必死に震えを抑えている。エリナスも王種の気迫に押されたのか、プルプル震えて動かない。

 

このままじゃ全員死ぬ。

一番死んだらダメなのはイスフィだ。彼女は主人公であり、桜と淵を倒せる唯一の存在。俺の命にかえてでも守らなければならない。

 

だから何とかして、イスフィ達を逃がす。

それが俺の役目だ。

 

──【焔炎天(ホムラ)

 

「んきゅ!」

 

不敵な笑みで右手を翳すオウヒ目掛け、俺は突貫した。角と尻尾、そして両手に宿る焔の温もりが恐怖を打ち消し、息絶えたアグニの鼓動を感じる。

 

直感で分かる。

アグニはもう復活しない。理由は分からないが、オウヒの何かしらの能力のはずだ。逆に言えばオウヒを倒せば、アグニは復活する可能性がある。

 

「へぇ、向かってくるんだ。アグニールよりも弱いのに、よくやるね」

 

相対するオウヒは余裕の表情を浮かべながら、左足を一歩前に踏み込む。

 

ズズズズッッ!!

 

地面が蠢いた。

 

オウヒの足元から地面を突き破り、巨大な樹ヶが生え並んだかと思うと、矛先を俺達に向けて襲い来る。先は棘のような形状になっていて、毒か何かが塗られているのか、掠っただけで致命傷になりそうだ。

 

対処出来そうなのは──【焔炎天】に内包する一つ、“万焔帰一”。

 

焔を自在に纏い、あらゆるものを焼き焦がす効果を持ち、数万〜数千万の熱量を誇る位相である。アグニールの操る温度には及ばないものの、火や炎の上位属性である焔属性を宿している。

 

『──焼き尽くせッ!』

 

腕を振るうと同時に、焔が爆ぜた。

 

体表を覆っていた焔が渦を巻き、俺の周囲に巨大な火輪を形成する。

次の瞬間、それは爆発するように広がった。

 

迫り来る樹ヶが、焔に触れた瞬間に炭化する。枝は黒く弾け、毒々しい棘が空中で崩れ落ちた。焼けた匂いが鼻を刺し、灰が風に舞う。

 

立ち上がった煙で視界を塞がれている中、新しく取得した位相である【核分裂】を発動する。

 

ぐにゃり、と体が歪む。

 

次の瞬間──俺の体から、分裂するようにもう一人の俺が生えた。

 

『よし……』

 

コピーが形を保ったのを確認すると、俺は即座にスライム形態へと移行する。体が崩れ、粘液となって地面へ溶け込む。音もなく滑るように移動し、煙の中を迂回した。

 

気付かれないように、ゆっくりと。しかし確実にオウヒの背後へ回り込む。

 

作戦はこうだ。

【核分裂】によって発生したコピーに戦わせている間に、【影縛】でオウヒを拘束。焔属性の攻撃は効かないが、【高等粘液制御】による粘液での攻撃は効くはずだ。

 

大事を以て触手でも拘束し、【五感超倍増】で粘液の痛みを加速させれば動きは確実に鈍る。

 

大事なのは勝つことじゃない。逃げて生き延びることだ。

 

「ふぅん、僕の【悲哀の毒創樹】を焼くだけの火力はあるのか」

 

オウヒがコピーに対して話し掛ける。

あくまでも俺の動きを参照にした行動パターンしかないコピーじゃすぐにやられるだろうし、コピーが死ねば俺にもダメージのリターンが入る。

 

だから殺られる前に殺る。これが最重要だ。

 

「アグニールには及ばないものの、流石は王種になりたてなだけはあるね。ま、アグニールも死んじゃったけど」

 

ペラペラと語り出すオウヒ。

ここで怒りに駆られて飛び出してはいけない。

 

それは分かっているのに、馬鹿にするように話す言い方にイライラが募る。

 

「こいつ、変に人間に染まってたからさぁ。お得意の焔を普通に使えばいいのに、周りの被害を気にしてか抑えてたんだよ。馬鹿だよね、僕らはモンスターなのにさぁ」

 

ドンッ、と足元に転がったアグニの遺体を蹴り上げて、オウヒは退屈そうにそれを宙へ放った。

 

肉塊になった遺体が、力なく空中で回転する。

 

「ほら」

 

軽く指を弾く。

その瞬間、地面から伸びた細い樹ヶがアグニの胴体を貫いた。ふわふわと周りに浮かぶ桜の花弁が、まるでマシンガンのように風穴を開けていく。

 

ぐしゃり、と嫌な音がした。

まるで串刺しにされた獣のように、アグニの亡骸が空中で固定される。

 

……許せない。

死体蹴りなんてしやがって。アグニールの綺麗な顔も分からないくらい、ぐしゃぐしゃにしやがって。

 

「こういう風にさ。最初から全部焼き払うくらいのつもりでやればよかったのに」

 

オウヒは首を傾げ、つまらなさそうに息を吐いた。

 

「中途半端なんだよ。だから死ぬ」

 

その言葉に、胸の奥で何かが軋んだ。

 

──だめだ、動くな。今飛び出したら終わる。

 

(……耐えろ)

 

粘液となった体を地面に這わせながら、ゆっくりと距離を詰める。

 

もう少し。

あと数歩。

影が届く位置まで。

 

その間にも、コピーの俺がオウヒに攻撃をしていた。焔を纏った拳が振り抜かれ、粘液による大量放射での視界撹乱を目的としたモノだ。

 

「遅い」

 

オウヒは対応すら必要ないと、大きな欠伸をした。

 

ズドンッ!!

 

地面から樹ヶが突き上がる。反応出来なかったコピーの腹を、巨大な棘が貫いた。

 

『ぐっ――!』

 

俺の体にも同時に痛みが走る。肺が潰れ、骨が軋み、皮膚がぐじゅぐじゅに潰された感覚。何百倍にも引き伸ばされた痛みの衝撃と感度が、意識を奪おうとしてくる。

 

(くそ……!)

 

コピーが崩れかけた。しかしまだ動いている。焔を纏った腕で樹ヶを掴み、無理やり引き抜いた。

 

「おぉ、まだ動くんだ。しぶといね。死にかけのアグニールも、メルを守らなきゃってどうのこうの煩くてしぶとかったよ。前から生意気で嫌いだから殺したけど」

 

オウヒが楽しそうに笑う。

 

その言葉を皮切りに、コピーが最後の攻撃を叩き込もうと駆け出した。遠慮や躊躇はいらない。俺も攻撃に合わせ、粘液による溶滅を始めるべく【影縛】を発動する。

 

異相触肢(アノマテンタ)】と【五感超倍増】も忘れない。

 

「ふん、そんなの僕には──」

 

コピーの攻撃を受け止めようとしたオウヒ。

 

その隙を突く。

 

「──っ、動けない?」

 

スライム形態でオウヒの影を踏み、身体を拘束する。呼び出した触手でも攻撃を封じ、【五感超倍増】を付与した。

 

これで痛みの感覚が何百倍にもなっている。

 

生み出した粘液をスライム形態の身体から直に分泌し、焼けるような痛みを齎した。

 

「なに……これ、痛いんだけど」

 

オウヒは顔を歪ませ、じわじわと皮膚を粘液に侵食される感覚を味わっているはずだ。なぜ痛みで発狂していないのか分からないが、確実に効いている。

 

よし、今だ。今しかない。

 

この瞬間こそ逃げる最大の──

 

「チャンス、とでも思った?」

 

声が落ちた。

その一言に、背筋が凍りついた。

 

『……え?』

 

拘束しているはずのオウヒが、こちらを見ていた。ありえない、動けないはずだ。

 

【影縛】で影を踏んでいる。

【異相触肢】で腕も脚も封じている。

さらに【五感超倍増】まで掛けている。

 

それなのに。

 

「ねぇ」

 

オウヒが首を傾げる。

 

「これさ」

 

ぐに、と腕が動いた。

メキメキと触手が悲鳴をあげ、縛っているはずの影が徐々に動いていく。

 

「僕が痛がると思った?」

 

瞬間。

 

バキンッ!!と影が裂けた。

 

『なっ──!?』

 

踏んでいたはずの影が弾け飛び、まるでガラスが砕けるように、黒い影が砕け散る。その衝撃で俺のスライム形態の体がゴム鞠みたく吹き飛ばされた。

 

同時に、触手が全て引き千切られる感覚があった。普通ならばありえない。触手には直接干渉できないはずなのに。

 

そもそもだ。なぜあんなに平然としている?痛みを何百倍にも引き伸ばされた上で溶かされるなんて、普通は耐えきれないはずだ──いや、違う。よく見れば痛みで顔は歪んでいる。粘液が皮膚を侵食し、煙のような蒸気が立ち上っている。

 

確かに効いているんだ。

 

それでも。

 

「あー、痛かった。でもね」

 

オウヒは笑った。

 

指先で見せつけるように粘液を掬い取る。ジュッ、と音を立てて皮膚が溶けるのを眺めながら、ゆっくりと視線を俺に向けてきた。

 

「この程度で止まるなら──僕、王種名乗ってないよ」

 

……打つ手なしかよ。

焔も効かない、最大出力の粘液も効かず、劫焔罪断も後隙が大きい上に効く保証もない。復活出来る可能性も低いだろう。

 

ご主人様からの連絡も来ない。

 

アグニールが死んでいる時点で薄々分かっていた。信じたくはなかったが恐らく……ご主人様も死んでいる。

 

なのにもはや、怒りも哀しみも湧いてこない。

あるのはこのまま俺が死に、イスフィ達も殺されるという絶望だけだ。希望溢れるこの世界で、まさかこんなBADENDを迎えるなんてな。

 

今から死ぬからか、もしくは命の取り合いで俺の感覚が麻痺してるのか、意外に冷静な自分に驚いてしまう。

 

ここまで来て、奇跡なんて起きるわけがない。この世界はそんなに都合よく出来ていない。

 

(……でも)

 

視界の端に、イスフィ達が映る。

 

アマネが必死に何かを叫んでいる。

エリナスが震えながらイスフィを引っ張っている。泣きそうな顔で俺を見つめるイスフィと目が合った。

 

(……なんで逃げないんだよ)

 

思わず苦笑が漏れそうになる。

 

お前は主人公だろ。

俺みたいなモンスターに付き合って死ぬ必要なんてない。

 

「終わり?」

 

意識が朦朧としてきた俺にオウヒが声を掛けてきた。

 

「なんか急に静かになったね」

 

首を傾げる。

 

「諦めた?」

 

返事をする余裕なんてない。

こちとら最弱候補のスライムだぞ。手加減しろよ。

 

なんて愚痴りたくなる。

 

「まぁいいや」

 

オウヒが笑った。

 

「じゃあ──」

 

足を止める。

 

「まずは君から殺そっか」

 

指が持ち上がると同時に地面が震えた。

 

ズズズズズ……!!

 

周囲の地面が波打ち、無数の樹ヶが生え上がる。棘だらけの巨木だ。

それらが、全部──俺に向いた。

 

あぁ、死ぬなこれは。

 

でもタダで死ぬのはムカつく。ご主人様を殺され、アグニも殺されたんだ。最期の足掻きくらいはしてやりたい。迫る樹ヶを【超吸収】によって吸収し、耐性や新たな位相を獲得出来れば、逃げ切れる可能性はある。

 

しかし吸収が成功する確率は低い。

ゲームでは一パーセント前後だった。でもやる価値はあるだろう。

 

「バイバイ」

 

オウヒが指を振り下ろす。

 

発動させた超吸収は、俺の願いを汲む──ことなく、パリンと音を立てて弾かれた。

 

無理、か。

 

そう悟った次の瞬間、毒を伴った樹ヶが俺の身体に突き刺さり、壮絶な苦痛を伴った。朦朧とした意識を強制的に跳ね上げ、毒によって身体を蝕む。

 

時間にして約数秒。

しかしその数秒が数時間に感じるほど、苦しみは想像を絶するものだった。

 

やがて俺の意識は──闇へと堕ちた。




私はハッピーエンドが大好きです

当作品で何を楽しみたいか(これからの参考にさせていただきます)

  • ストーリー
  • キャラ同士のイチャイチャ
  • どっちも
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