進化したら人外系お姉さんになる雑魚モンスの俺、飼い主♀の性癖を破壊する 作:霧夢龍人
何とかなった。
全身が黒焦げながらも、間違いなく生きているオウヒを見下ろしながら胸を撫で下ろす。
上空では、炎鳥の姿をしていたアグニールがゆっくりと降下してきた。だが着地する直前、その巨体がふっと硬化する。
「わっ!?」
どさっ、と。
背に乗っていたご主人様が、雑に地面へ放り投げられた。炎鳥の姿は揺らぐように崩れ、赤い火の粉を散らしながら少女の姿へと戻っていく。
「っいてて……ちょ、ちょっとアグニール!雑すぎるよ!?」
尻もちをついたまま抗議するご主人様。
だがアグニールはちらりと一瞥しただけで、興味なさそうに視線を逸らした。
「うる、さい。それより今は……」
ぎこちない足取りでこちらへ歩いてくる。
「ワタシの技を真似出来た、メルを……褒めないと、いけない」
辿々しく言い放つと、アグニールは俺の前で立ち止まった。そして、少しだけ目を細める。まるで我が子の成長を喜ぶような視線に、少しだけ気恥ずさを覚えた。
「……すごい」
ニコニコする以外で、普段ほとんど表情を変えない彼女にしては、珍しく素直に驚いている表情だ。
「ワタシでも……あの制御は、難しい。なのにメルは、出来た」
すっと手を伸ばし。
熱を帯びた指先が、俺の頭を優しく撫でる。
「えらい」
「きゅ……」
オギャりそう。
年齢的に言えばおじさんの俺が、美少女の撫で撫でに屈しかけているという状況。まぁ、実年齢はアグニの方が圧倒的に上なのだが……女性の年齢について公言するのはよしておこう。
一頻り撫でた後、アグニは黒焦げになっているオウヒを見やる。
既に身体は再生を始めており、逆再生のように戻っていく様は壮観だ。流石は王種と言うべきか……このままトドメを刺しておくべきだろうか?
「トドメは、いらない。私の位相で、暴走を封じて、おく」
そんな俺の考えを否定するように、黒焦げのオウヒの身体に触れた。少し分かりにくいが、アグニが触れた首の辺りに黒い紋様が浮き出ている。禊か何かだろう。
一度ご主人様とアグニを殺したコイツを仲間にするのは、ものすっっっっごく嫌なのだが、この先のことを考えれば必要な我慢だ。
……納得はできないけどな。
その時。
「メルーーー!!良くやったよ!流石私のパートナーだ!」
ばたばたと駆け寄ってきたご主人様が、勢いよく俺を抱きしめた。身長的にちょうど俺の胸元にご主人様の顔が当たり、声が若干くぐもって聞こえる。
ご主人様も無事でよかった。
「ほんと凄いよ!あんなに一方的に桜の王種を倒しちゃうし、被害も殆ど抑えてたし!凄すぎて、自慢したくなっちゃうくらい!
まぁ、途中キスしたのは不満だったけど……メルのことだから、何か考えがあったんだよね」
「んきゅ」
明るい声から急に低い声になるご主人様ほど怖いものはない。そんなに心配しなくとも、いつだってご主人様はナンバーワンのオンリーワンである。
時律の王種は、今のご主人様とはまるで違う。昏くて、未来に絶望した目に光が灯っていない表情しか浮かべていなかった。笑顔で優しくて、瞳の奥に愛情を感じるご主人様が、あんな顔を浮かべるようになる……想像したくない。
優しく抱きしめ、頭を撫でながら心の底からそう思った。
「でも、ちょっと嫉妬しちゃうな」
「んきゅ?」
(なにが?)
「……んーん、やっぱりなんでもない」
そう言って、ご主人様は小さく笑った。
だがその笑顔の奥には、ほんの僅かにだけ、言い淀んだような影が残っている。
俺が首を傾げていると、ご主人様は俺の頬を軽く指でつついた。
なんか嫌な予感がする。
具体的にはそう、あくまでも俺はご主人様のパートナーであると言うことを分からせられる展開が来そうな、そんな予感だ。
まぁ、流石に気のせいだとは思うけどな?
───☆
人通りの少ない、学園都市の裏路地。
普段は裏の人間が出入りする場所で、生徒たちは決して近づかない危険な区域だ。薄暗い石畳の道は建物の影に覆われ、昼間だというのにどこか夜の気配が残っている。湿った空気と、古い鉄のような匂いが漂っていた。
しかし今日は、いつもとは違っていた。
路地の奥。
崩れた木箱の脇、壁にもたれかかるようにして、一つの“それ”が転がっている。
人だ。いや、正確には──死体だった。
目は虚ろに開いたまま、焦点を結ばない。口元には乾いた血がこびり付き、上半身は深く裂けている。暗い血溜まりが石畳の隙間へとゆっくり染み込んでいた。
通路の奥を見やれば、そこにはさらに凄惨な光景が広がっていた。
崩れた荷箱の向こう、壁際に沿って遺体が幾つも積み重なっている。
折り重なる腕。
不自然な角度で曲がった脚。
血に濡れた制服。
学園の生徒たちだった。まるで誰かが雑に放り投げたかのように、遺体はずらりと並んでいる。
その中心で。
「ぷは〜……」
気の抜けた声が、血の匂いに満ちた路地に響いた。
「一仕事した後の一服は、やっぱ最高だねぇ〜」
煙草を咥え、煙をゆっくりと燻らせる女。
彼女は遺体の山を枕代わりにして寝転がり、大きく伸びをしていた。
ノア=ハルベルト。
3RIIのラスボス。
そして、人間でありながら歴代最高難易度のボスとまで謳われる異常な強者。
彼女の目的は、聖女の殺害。そして数多くの人間が、痛みと絶望の中で死んでいく光景を眺めること。
「桜は殺られた、か」
煙を吐き出しながら、ノアは空を見上げた。
学園都市の建物の隙間から、薄い空が覗いている。
「ま、“お前”がいりゃあどうとでもなるっちゅーに。なぁ、ミツル〜?」
彼女は振り向きもせず、背後に声を投げた。
その後ろに立っているのは、一人の女だ。起伏に富んだスタイルで、黒いシスター服を着用している。だがその服は、隠す気すらないほど血に濡れていた。
両目には眼帯。
視界を完全に塞いでいるはずなのに、彼女はまるで何も問題ないかのように、静かに立っていた。
唇には、聖母のように穏やかな微笑みが刻まれている。
「えぇ、任せて下さいまし」
女は胸の前で静かに手を組み、まるで祈りを捧げるように首を傾けた。
「
声音はどこまでも柔らかい。
だがその言葉には、冷え切った侮蔑が混じっていた。
「ですが──」
ゆっくりと、彼女は口元の笑みを深める。
「ワタクシは違いましてよ」
その瞬間、湿った空気が通路に流れ込む。
路地裏を満たしていた血の匂いが、さらに濃くなったような錯覚すら覚える。
ノアはそれを感じ取っても、まったく気にした様子はない。
「カカカッ!」
遺体の山の上で腹を抱え、楽しそうに笑った。
「分かってんよ〜!」
煙草をくるくると指で回しながら、気楽な調子で言い放つ。
「お前は上手くやる。そうだろぉ〜?」
その言葉に、シスターは静かに頷いた。
「勿論です」
そして。
胸に手を当て、ゆっくりと名乗るように言葉を紡いだ。形のいい胸が揺れ、眼帯に隠れた薄桃色の瞳が怪しく光る。
「王種の──淵の名を掛けても」
その宣言は、誓いにも似ていた。
彼女の纏う気配がわずかに揺れる。まるで、深い深い底なしの闇が、そこに口を開けているかのように。
ノアはそれを横目で見て、にやりと口角を吊り上げた。
当作品で何を楽しみたいか(これからの参考にさせていただきます)
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ストーリー
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キャラ同士のイチャイチャ
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どっちも