進化したら人外系お姉さんになる雑魚モンスの俺、飼い主♀の性癖を破壊する 作:霧夢龍人
ちょろい。
ソワソワした様子で俺の隣に並ぶ生臭シスターを横目に、俺は内心の笑みを必死に押し殺していた。何度も言うが、俺は一途である。
昨日みたいな流れは完全に例外だ。事故みたいなものだ。
基本的に、そういうことをする相手はご主人様だけと決めている。じゃあ何で、さっきの誘いに乗ったのか。
理由は単純──聖女と会うためである、
俺はちらりと隣の女を見る。
シスター・カプノス。
金髪にシスター服、そして朝から煙草を吸う生臭シスター。だがこの女、実はただのモブではない。
R18版スピンオフの作品の“『性なる夜の淑女と魔なるモノ』””に登場するキャラクターなのだ。しかもこのキャラ、攻略難易度にとんでもない差がある。
男主人公の場合。
カプノスは警戒心が強く、好感度も上がりにくい。
イベント分岐も多く、ミスるとすぐバッドルートに転がる。
つまり攻略難易度はハードモード。
だが女主人公の場合。
「よっ」
「きゅん///」
それだけでイベントが進む。
下手すると、話しかけた瞬間に好感度MAXまで跳ね上がる。つまり攻略難易度は実質ゼロ。
あまりにもちょろすぎる。
それに加えカプノスには、もう一つ重要な設定がある。なんとこいつは幼い頃から、聖女の護衛をしていた人物なのだ。
つまり、聖女と直接のコネがある。
普通なら聖女との面会なんて、まず無理だ。会おうと思って会える存在じゃない。仮にご主人様に頼んだとしても、許可が下りる保証はない。
だが、恐らくカプノス経由なら話は別だ。こいつが口を利いてくれれば、聖女と会える可能性が一気に跳ね上がる。
俺は再度隣を見る。
カプノスはさっきから落ち着きなく視線を泳がせていた。煙草を咥えたり外したり、妙にソワソワしている……本当に分かりやすい。
俺は内心で肩をすくめた。簡単に言えば、カプノスを籠絡しようとしているわけだ。
今の聖女は162代目。
俺が知っている163代目の聖女は“ボクッ娘”な上に初対面の主人公に対して、パパやママと呼んでくるクレイジーなやつと認識している。
だが、現在の聖女についての情報は全くもって知らない。淵が動かない理由も分からないしな。
カプノスを誘惑して聖女と面会出来れば、その疑問も解消できる。
なんて完璧な作戦なのだろうか。カプノスの横を歩くこと数分、聖堂学園まで誘われ、俺は内心でガッツポーズを決めていた。
(よし、第一段階クリア)
聖堂学園。
やがて校舎の裏手を抜けると、視界の先に一際大きな建物が見えてきた。
聖堂学園。
この都市の中心であるヴァルヴォッサ学園と同等の大きさをもつ、宗教施設兼教育機関だ。白い石で作られた建物は朝日を受けて淡く輝き、尖塔は空へ向かってまっすぐ伸びている。まるで天に祈りを届けるための指のようだ。
その敷地には、初代聖女に祈りを捧げるシスターや神父たちが集まり、日々祈りと研究と教育を行っている。
神官見習いの学生。
巡礼者。
悟りを求めて訪れる人々。
この世界において『聖女』という存在は、それほどまでに大きい。そして、その中心にいるのが勿論、現代の聖女。
三千年続く襲名制の象徴である。本来なら、会えるはずがない存在だ。
その敷地内を、好奇心と少しの警戒を滲ませながら歩く。隣ではカプノスが、煙草を指で弾きながら歩いていた。
灰がぱらりと石畳に落ちる。
ふう、と煙を吐く。
それから、横目で俺を見た。
「……なァ、お前さ」
「ん?」
「ホントは聖女に会いに来たんだろ?」
俺は一瞬だけ足を止めそうになった。
だがすぐに歩調を崩さず、肩をすくめる。そんな訳ないじゃないか、と腕に抱き着いた。
煙草の煙とバニラのフレーバーが鼻腔を擽る。前世で吸っていた煙草と似た、懐かしい香りだ。
「んきゅ?」
(なんでそう思うの?)
カプノスは小さく鼻で笑った。
「クハッ、分かるに決まってンだろ。折角十年ぶりくらいにエロい事出来ると思ってたのによォ」
煙草を咥え直し、空を見上げる。
「お前、さっきから聖堂の方ばっか見てンじゃねぇか」
……見られていたらしい。俺は軽く舌打ちしそうになるのを堪えた。カプノスはしばらく黙って煙草を吸いながら、遠くを見るような目つきで青空を眺めている。
それから、ぽつりと呟いた。
「……まァ、そりゃそうか」
さっきまで浮かべていた軽薄な笑みは、いつの間にか消えていた。
代わりにその目には、どこか遠い過去を思い出すような色が宿っている。
煙草を指先でくるりと回しながら、カプノスは俺の頭をぽんと叩く。
「十年前くれェかね……」
そして、また新しく煙草をシスター服から取り出して、火をつけた。ぼんやりと揺れるライターの炎が、彼女の内心を表すかのように揺らりと揺れる。
「アタシがまだ、【
その名を口にした瞬間、空気がほんの少しだけ重くなる。カプノスは視線を落とし、靴先で小石を蹴った。
雷霆の王種。
火、水、土、花の基本四属性に弱点を突ける、雷属性の王を冠する特異個体。武人気質な性格で、弱者を嫌う典型的なバトルジャンキーだ。
3R third pointに登場するボスで、弱きを助ける主人公と思想の違いから対立するモンスターである。
「そりゃァもう荒れた。いつか殺してやろうって思ってたンだ」
「んきゅ」
そりゃそうだ。
誰だって、親や友人を殺されれば恨みの感情を抱くだろう。
ドルマンだって妻と子を殺され、執念であそこまで成り上がった。この世界では基本的にモンスターは人間に優しいが、全てがそうという訳ではない。
「んでさ」
苦笑いを浮かべ、煙草を口に咥え直すカプノス。
「モンスターを操るっていう聖女が、憎くて仕方なかった。だってよ?モンスターを操れンなら、アタシの親も助けられただろって──今考えたら理不尽だよなァ」
声は淡々としている。
だが、その奥に残っているものは怒りでも、悲しみでもなく、諦めだった。カプノスはしばらく黙り込む。
指先で煙草を軽く弾き、灰皿代わりの石畳にトントンと灰を落とした。
ぱらり、と灰が崩れる。
「……けど、恨まざるを得なかった。ガキだったんだよ」
少しだけ肩をすくめ、煙をゆっくり吐く。
自嘲するように笑った顔は、愚かな過去の自分を憐れんでいるようだった。
「聖女サマは、そんなアタシを組織から無理やり引き抜いて、傍に置いてくれた優しい奴だ。メリュジーヌちゃんがどんな奴かは聞いてっけど、もしアイツを泣かせるような真似したら。
──ぶっ飛ばす、忘れンなよ」
カプノスの視線は真っ直ぐだった。冗談じゃなく、本気の顔だ。
……なるほどな。
俺は内心で静かに頷いた。
この女が聖女の側近である理由が、よく分かる。一見すれば軟派で、口も悪く、男勝り。朝から煙草をふかすような生臭シスターだ。
だが、その奥にあるものは普通じゃない。
親を王種に殺され、復讐に燃えた過去。
モンスターを操る聖女を憎んだ過去。
それを飲み込み、今はこうして聖女の傍にいる。
しかもよりにもよって、モンスターである俺をナンパするくらいには克服している……大した女だ。
尊敬すべき女性なのは、間違いない。
とはいえ。
(ここ、確か禁煙だったよな?)
聖堂学園の敷地内は、基本的に喫煙禁止のはずだ。
実際、周りの神父やシスターたちがちらちらとこちらを見ている。
視線が痛い。
なので俺は、カプノスの咥えている煙草をひょいっと摘み取った。
「っ、おい!」
カプノスが慌てて手を伸ばしてくる。
だが、俺はそれをひらりとかわし、そのまま煙草を口に咥えた。
「……お前」
呆れたような声が背後から飛ぶ。
俺は気にせず火の残った先端を軽く吸い込み、ゆっくりと煙を吐き出した。白い煙が、朝の空気に溶けるように流れていく。
俺が昔好んでいた銘柄とは少し違う。
バニラ系の香りだが、もっと荒くて、舌の奥に少し苦味が残る。
だが──。
「んきゅきゅ」
(嫌いじゃない)
肩をすくめながらそう言うと、カプノスがぽかんとした顔でこちらを見つめてきた。煙草を取り返そうとしていた手も、途中で止まっている。
……やっぱりな。
薄々気づいてはいたが、どうやら俺の言葉が分かるらしい。
スピンオフのキャラとは言え、スペックはかなり高いようだ。俺がそんなことを考えていると、カプノスは突然、肩を震わせた。
「……クハッ。オマエ、見た目に寄らずなかなか渋いじゃねェか。だが、未成年喫煙は感心しねェな」
俺はその言葉に軽く肩をすくめる。
「んきゅきゅ……きゅきゅ」
(煙草の趣味が合うから言うが……俺はもうアラフォー手前だ)
「……まじかよ」
するとカプノスは、俺がさっき吸った煙草を取り返し、なんの躊躇もなくそのまま口に咥え直した。思わず一瞬だけ動きが止まる。
さっきまで俺が吸っていた煙草だ。普通なら少しくらい躊躇いそうなものだが、カプノスはそんなこと気にもしていない様子で、ゆっくりと煙を吸い込んだ。
火の先が赤く灯る。
ふう、と煙を吐き出した。白い煙が、朝の光の中でゆらりと揺れる。
「なら」
煙草を指に挟みながら、カプノスは横目で俺を見た。口元に浮かぶのは、さっきまでの軽薄なナンパ笑いとは少し違う笑みだ。
「ますます気に入ったぜ」
その目は、まるで新しい玩具でも見つけた子供みたいだった。
人気キャラクター 二部
-
メリュジーヌ (メル)
-
ヴェスティ=クラウニア(ご主人様)
-
モウガン (ツンデレ牛娘)
-
アグニール (クーデレ王種)
-
フォス (元気っ娘)
-
アルマ=メイソン(最近出番がないぞ)
-
ソルガ (残念系イケメン美女)
-
イスフィ(関西弁パパ系ガール)
-
リリア
-
アマネ(実はポンコツやれやれ系少女)
-
オウヒ (好感度が上がるだろうか)
-
ノア=ハルベルト (ラスボス系美女)
-
ミツル (眼帯系王種)
-
フルちゃん(アルマの貴重なツッコミ要因)
-
シスターカプノス (生臭シスター)
-
モルド=クラウニア (変態お兄さん)
-
タナカ・サトウ・スズキ・ヤマダ