進化したら人外系お姉さんになる雑魚モンスの俺、飼い主♀の性癖を破壊する   作:霧夢龍人

84 / 96
私が好きなキャラは、実はカプノスです。


カプノス

ちょろい。

 

ソワソワした様子で俺の隣に並ぶ生臭シスターを横目に、俺は内心の笑みを必死に押し殺していた。何度も言うが、俺は一途である。

昨日みたいな流れは完全に例外だ。事故みたいなものだ。

 

基本的に、そういうことをする相手はご主人様だけと決めている。じゃあ何で、さっきの誘いに乗ったのか。

 

理由は単純──聖女と会うためである、

 

俺はちらりと隣の女を見る。

 

シスター・カプノス。

金髪にシスター服、そして朝から煙草を吸う生臭シスター。だがこの女、実はただのモブではない。

 

R18版スピンオフの作品の“『性なる夜の淑女と魔なるモノ』””に登場するキャラクターなのだ。しかもこのキャラ、攻略難易度にとんでもない差がある。

 

男主人公の場合。

カプノスは警戒心が強く、好感度も上がりにくい。

イベント分岐も多く、ミスるとすぐバッドルートに転がる。

 

つまり攻略難易度はハードモード。

 

だが女主人公の場合。

 

「よっ」

 

「きゅん///」

 

それだけでイベントが進む。

下手すると、話しかけた瞬間に好感度MAXまで跳ね上がる。つまり攻略難易度は実質ゼロ。

 

あまりにもちょろすぎる。

 

それに加えカプノスには、もう一つ重要な設定がある。なんとこいつは幼い頃から、聖女の護衛をしていた人物なのだ。

 

つまり、聖女と直接のコネがある。

 

普通なら聖女との面会なんて、まず無理だ。会おうと思って会える存在じゃない。仮にご主人様に頼んだとしても、許可が下りる保証はない。

 

だが、恐らくカプノス経由なら話は別だ。こいつが口を利いてくれれば、聖女と会える可能性が一気に跳ね上がる。

 

俺は再度隣を見る。

 

カプノスはさっきから落ち着きなく視線を泳がせていた。煙草を咥えたり外したり、妙にソワソワしている……本当に分かりやすい。

 

俺は内心で肩をすくめた。簡単に言えば、カプノスを籠絡しようとしているわけだ。

 

今の聖女は162代目。

俺が知っている163代目の聖女は“ボクッ娘”な上に初対面の主人公に対して、パパやママと呼んでくるクレイジーなやつと認識している。

だが、現在の聖女についての情報は全くもって知らない。淵が動かない理由も分からないしな。

 

カプノスを誘惑して聖女と面会出来れば、その疑問も解消できる。

 

なんて完璧な作戦なのだろうか。カプノスの横を歩くこと数分、聖堂学園まで誘われ、俺は内心でガッツポーズを決めていた。

 

(よし、第一段階クリア)

 

聖堂学園。

 

やがて校舎の裏手を抜けると、視界の先に一際大きな建物が見えてきた。

 

聖堂学園。

 

この都市の中心であるヴァルヴォッサ学園と同等の大きさをもつ、宗教施設兼教育機関だ。白い石で作られた建物は朝日を受けて淡く輝き、尖塔は空へ向かってまっすぐ伸びている。まるで天に祈りを届けるための指のようだ。

 

その敷地には、初代聖女に祈りを捧げるシスターや神父たちが集まり、日々祈りと研究と教育を行っている。

 

神官見習いの学生。

巡礼者。

悟りを求めて訪れる人々。

 

この世界において『聖女』という存在は、それほどまでに大きい。そして、その中心にいるのが勿論、現代の聖女。

 

三千年続く襲名制の象徴である。本来なら、会えるはずがない存在だ。

 

その敷地内を、好奇心と少しの警戒を滲ませながら歩く。隣ではカプノスが、煙草を指で弾きながら歩いていた。

灰がぱらりと石畳に落ちる。

 

ふう、と煙を吐く。

 

それから、横目で俺を見た。

 

「……なァ、お前さ」

 

「ん?」

 

「ホントは聖女に会いに来たんだろ?」

 

俺は一瞬だけ足を止めそうになった。

だがすぐに歩調を崩さず、肩をすくめる。そんな訳ないじゃないか、と腕に抱き着いた。

 

煙草の煙とバニラのフレーバーが鼻腔を擽る。前世で吸っていた煙草と似た、懐かしい香りだ。

 

「んきゅ?」

(なんでそう思うの?)

 

カプノスは小さく鼻で笑った。

 

「クハッ、分かるに決まってンだろ。折角十年ぶりくらいにエロい事出来ると思ってたのによォ」

 

煙草を咥え直し、空を見上げる。

 

「お前、さっきから聖堂の方ばっか見てンじゃねぇか」

 

……見られていたらしい。俺は軽く舌打ちしそうになるのを堪えた。カプノスはしばらく黙って煙草を吸いながら、遠くを見るような目つきで青空を眺めている。

 

それから、ぽつりと呟いた。

 

「……まァ、そりゃそうか」

 

さっきまで浮かべていた軽薄な笑みは、いつの間にか消えていた。

代わりにその目には、どこか遠い過去を思い出すような色が宿っている。

 

煙草を指先でくるりと回しながら、カプノスは俺の頭をぽんと叩く。

 

「十年前くれェかね……」

 

そして、また新しく煙草をシスター服から取り出して、火をつけた。ぼんやりと揺れるライターの炎が、彼女の内心を表すかのように揺らりと揺れる。

 

「アタシがまだ、【魄離理論会(レムナント・セオリカ)】ってトコに所属してた時だ。あん時はまだ十八の糞ガキでな?親を殺しやがった王種……あぁ、“雷霆”の王種って奴に殺されたんだ」

 

その名を口にした瞬間、空気がほんの少しだけ重くなる。カプノスは視線を落とし、靴先で小石を蹴った。

 

雷霆の王種。

火、水、土、花の基本四属性に弱点を突ける、雷属性の王を冠する特異個体。武人気質な性格で、弱者を嫌う典型的なバトルジャンキーだ。

 

3R third pointに登場するボスで、弱きを助ける主人公と思想の違いから対立するモンスターである。

 

「そりゃァもう荒れた。いつか殺してやろうって思ってたンだ」

 

「んきゅ」

 

そりゃそうだ。

誰だって、親や友人を殺されれば恨みの感情を抱くだろう。

 

ドルマンだって妻と子を殺され、執念であそこまで成り上がった。この世界では基本的にモンスターは人間に優しいが、全てがそうという訳ではない。

 

「んでさ」

 

苦笑いを浮かべ、煙草を口に咥え直すカプノス。

 

「モンスターを操るっていう聖女が、憎くて仕方なかった。だってよ?モンスターを操れンなら、アタシの親も助けられただろって──今考えたら理不尽だよなァ」

 

声は淡々としている。

 

だが、その奥に残っているものは怒りでも、悲しみでもなく、諦めだった。カプノスはしばらく黙り込む。

指先で煙草を軽く弾き、灰皿代わりの石畳にトントンと灰を落とした。

 

ぱらり、と灰が崩れる。

 

「……けど、恨まざるを得なかった。ガキだったんだよ」

 

少しだけ肩をすくめ、煙をゆっくり吐く。

自嘲するように笑った顔は、愚かな過去の自分を憐れんでいるようだった。

 

「聖女サマは、そんなアタシを組織から無理やり引き抜いて、傍に置いてくれた優しい奴だ。メリュジーヌちゃんがどんな奴かは聞いてっけど、もしアイツを泣かせるような真似したら。

 

──ぶっ飛ばす、忘れンなよ」

 

カプノスの視線は真っ直ぐだった。冗談じゃなく、本気の顔だ。

 

……なるほどな。

 

俺は内心で静かに頷いた。

 

この女が聖女の側近である理由が、よく分かる。一見すれば軟派で、口も悪く、男勝り。朝から煙草をふかすような生臭シスターだ。

 

だが、その奥にあるものは普通じゃない。

 

親を王種に殺され、復讐に燃えた過去。

モンスターを操る聖女を憎んだ過去。

それを飲み込み、今はこうして聖女の傍にいる。

 

しかもよりにもよって、モンスターである俺をナンパするくらいには克服している……大した女だ。

 

尊敬すべき女性なのは、間違いない。

 

とはいえ。

 

(ここ、確か禁煙だったよな?)

 

聖堂学園の敷地内は、基本的に喫煙禁止のはずだ。

実際、周りの神父やシスターたちがちらちらとこちらを見ている。

 

視線が痛い。

 

なので俺は、カプノスの咥えている煙草をひょいっと摘み取った。

 

「っ、おい!」

 

カプノスが慌てて手を伸ばしてくる。

だが、俺はそれをひらりとかわし、そのまま煙草を口に咥えた。

 

「……お前」

 

呆れたような声が背後から飛ぶ。

俺は気にせず火の残った先端を軽く吸い込み、ゆっくりと煙を吐き出した。白い煙が、朝の空気に溶けるように流れていく。

 

俺が昔好んでいた銘柄とは少し違う。

バニラ系の香りだが、もっと荒くて、舌の奥に少し苦味が残る。

 

だが──。

 

「んきゅきゅ」

(嫌いじゃない)

 

肩をすくめながらそう言うと、カプノスがぽかんとした顔でこちらを見つめてきた。煙草を取り返そうとしていた手も、途中で止まっている。

 

……やっぱりな。

薄々気づいてはいたが、どうやら俺の言葉が分かるらしい。

 

聞き上手(アノマリア)持ちだろうか?

 

スピンオフのキャラとは言え、スペックはかなり高いようだ。俺がそんなことを考えていると、カプノスは突然、肩を震わせた。

 

「……クハッ。オマエ、見た目に寄らずなかなか渋いじゃねェか。だが、未成年喫煙は感心しねェな」

 

俺はその言葉に軽く肩をすくめる。

 

「んきゅきゅ……きゅきゅ」

(煙草の趣味が合うから言うが……俺はもうアラフォー手前だ)

 

「……まじかよ」

 

するとカプノスは、俺がさっき吸った煙草を取り返し、なんの躊躇もなくそのまま口に咥え直した。思わず一瞬だけ動きが止まる。

 

さっきまで俺が吸っていた煙草だ。普通なら少しくらい躊躇いそうなものだが、カプノスはそんなこと気にもしていない様子で、ゆっくりと煙を吸い込んだ。

 

火の先が赤く灯る。

 

ふう、と煙を吐き出した。白い煙が、朝の光の中でゆらりと揺れる。

 

「なら」

 

煙草を指に挟みながら、カプノスは横目で俺を見た。口元に浮かぶのは、さっきまでの軽薄なナンパ笑いとは少し違う笑みだ。

 

「ますます気に入ったぜ」

 

その目は、まるで新しい玩具でも見つけた子供みたいだった。

人気キャラクター 二部

  • メリュジーヌ (メル)
  • ヴェスティ=クラウニア(ご主人様)
  • モウガン (ツンデレ牛娘)
  • アグニール (クーデレ王種)
  • フォス (元気っ娘)
  • アルマ=メイソン(最近出番がないぞ)
  • ソルガ (残念系イケメン美女)
  • イスフィ(関西弁パパ系ガール)
  • リリア
  • アマネ(実はポンコツやれやれ系少女)
  • オウヒ (好感度が上がるだろうか)
  • ノア=ハルベルト (ラスボス系美女)
  • ミツル (眼帯系王種)
  • フルちゃん(アルマの貴重なツッコミ要因)
  • シスターカプノス (生臭シスター)
  • モルド=クラウニア (変態お兄さん)
  • タナカ・サトウ・スズキ・ヤマダ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。