進化したら人外系お姉さんになる雑魚モンスの俺、飼い主♀の性癖を破壊する   作:霧夢龍人

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恋を教えて

その後、煙草という共通の趣味のおかげか、俺とカプノスの距離はほんの少しだけ縮まっていた。少なくとも、最初のような完全な他人扱いではない。軽口を叩き合いながら歩く程度には、打ち解けたと言っていいだろう。

 

そんな俺を連れて、カプノスは聖堂学園の奥へと進んでいく。やがて辿り着いたのは、この敷地の中心にそびえる──大聖堂だった。

 

白い石で造られた巨大な建物。

天を突くような尖塔。

重厚な扉の前には、祈りを捧げる人々が静かに行き交っている。どうやら、ここに聖女がいるらしい。

 

カプノスは何の遠慮もなく、その扉を押し開けた。中に入ると、空気が変わる。外よりもひんやりとしていて、わずかに香の匂いが漂っていた。

 

高い天井から差し込む光が、床の大理石を淡く照らしている。左右には長い椅子が整然と並び、奥には巨大な祭壇が見えた。神父やシスターたちが静かに歩き回り、祈りを捧げている。

 

その厳かな空間の中を、カプノスは相変わらずの気だるい足取りで進んでいった。

 

深いスリットの入ったシスター服が歩くたびにひらりと揺れ、白い太腿がちらりと覗く。

 

……この神聖な空間でそれはどうなんだ。周囲のシスターたちも、ちらちらと視線を向けている。だが本人はまるで気にしていない。

 

カプノスは手をひらひら振りながら進み、祭壇の横にある通路へと入っていった。

 

どうやら一般の参拝客が入れない区域らしい。

途中、何人かの神父とすれ違う。

 

「おはようございます、カプノス様」

 

「おう」

 

軽く手を上げて挨拶を返すだけ。その様子を見る限り、やはりカプノスの立場はかなり上らしい。やがて通路の奥に、ひとつの扉が見えてきた。

他の扉よりも装飾が少なく、静かな場所だ。

 

カプノスはそこで立ち止まると、軽くノックをした。

 

コン、コン。

 

数秒の沈黙。

謎の緊張感に包まれながら返答を待つ。

 

「どうぞ〜!」

 

すると、朗らかでどこかで聞いたことのある声が、扉の向こうから聞こえてきた。カプノスは振り返り、俺をちらりと見る。

 

そしてニヤリと笑った。

 

「ほらよ」

 

顎で扉を示す。

 

「聖女サマだ」

 

「……んきゅ」

 

俺は小さく深呼吸をして、恐る恐る扉に手を掛けた。

 

白い木で作られた扉は見た目よりも重く、指先に少しだけ力を込めると、ゆっくりと軋みながら内側へと開いていく。

 

きい、と小さな音が廊下に響いた。扉の向こうには、思っていたよりも質素な部屋が広がっている。豪華な祭壇や装飾はなく、大きな窓やステンドグラスから差し込む柔らかな光と、簡素な机、書棚、そして祈りのための小さな台が見受けられた。

 

静かな空間だ。

その中央に、一人の少女が立っていた。

 

長く青い髪が光を受けて淡く輝き、白い衣が床まで静かに流れている。

背はそれほど高くない。だが、その場にいるだけで空気が変わるような、不思議な存在感があった。

 

少女は俺たちの方を見て、ふっと微笑む。

白いヴェールで目元は隠されているが、俺はその顔に見覚えがあった。

 

──まさか。

 

「きゅきゅあ……?」

(りりあ……?)

 

俺の口から、思わずその名前が漏れる。すると少女はぱちりと肩を揺らし、次の瞬間には、ぱあっと顔を綻ばせた。

 

「お、流石に分かっちゃった?」

 

くすくすと笑いながら、ヴェールの端を指で摘む。

 

「出会ったばっかりなのに、結構私のこと見てるんだね〜!」

 

ひょい、と。

軽い仕草でヴェールを持ち上げる。

 

ヴェールの下から覗いたエメラルドブルーの瞳が楽しげに弧を描き、口元には、まるで悪戯が成功した子供のようなニヤニヤとした笑みが浮かんでいる。聖女の厳かな雰囲気など、どこにもない。

 

いつも教室で見ている、あの調子そのままだ。

 

「ドーモ、聖女“リリア=セイラム”ちゃんデス」

 

ひらひらと手を振り、おどけながらリリアはくすくす笑う。

 

「てへ、!サプライズ大成功って感じ?」

 

俺はしばらく固まったまま、その顔を見つめていた。夢でも幻でもないのは分かっている。ただ現実を受け止めきれず、呆然と佇む事しかできない。

 

──リリアが、聖女だと?

 

「……んきゅきゅ」

(……ありえないだろ)

 

思わず漏れた言葉に、リリアは楽しそうに肩を揺らした。

 

「あはっ、有り得ちゃうんだよね〜それが!」

 

くすくすと笑いながら、指先でくるくるとヴェールを弄ぶ。

 

「メルちゃんってスライムだよね?なら、私と同じ位相があるんじゃない?」

 

その言葉に眉を顰めそうになる。

 

位相ってのは、モンスターにしか発現しない特殊な能力だ。それを普通の人間が手にすることは不可能であり、だからこそリリアの言葉はあり得ない。

 

人間であるはずの聖女が、位相を持つ?しかも俺と同じ能力だと、まるで当然のように言ってのけた。そんなこと、断定できるはずがない。

 

……いや待て、本当にそうか?

 

俺の思考が、そこで引っかかる。

 

モンスターを操る能力を持つ、という聖女自体人間の枠組みに収まるとは思えない。そもそも位相という言い方も、まるで聖女が──“モンスター”そのものだと言っているかのような響きだった。

 

疑問が浮かんでは消え、また新たな疑問が頭をもたげる。思考が堂々巡りを始め、答えに辿り着く前に次の問いが生まれてしまう。

 

そんな俺の内心など露ほども知らない様子で、リリアは少しだけ身を乗り出して、さらなる疑問を投下した。

 

「ありゃ、持ってるはずだよ?自分の分身を生み出すことが出来る、【核分裂】って位相をさ」

 

「……んきゅ」

(……あ、あぁ。持ってるけど)

 

「ちょいちょい、不思議そうな顔しないでよ。私、聖女なんて言われてるけどさ。本当は──。

 

メルちゃんと同じ、ただのスライムだし」

 

 

 

───☆

 

 

 

うぁ〜、すっごい顔してるなぁメルちゃん。

私が聖女でモンスターなの、そんなに衝撃的だったかな? 【核分裂】によるコピーって太陽の日差しで溶けちゃうから、課外授業以外はあんまり分裂しないんだけどね。

 

でも青春を楽しみたいし?

聖女って執務とかお祈りとか各地方への鎮魂とか、結構忙しいからさ。分裂が便利すぎて、人間じゃなくて良かった!って思ってる節はあるね〜。

 

……さて、もうあんまり無駄話はする必要ないか。

 

私は未だに固まってるメルちゃんの肩を抱いて、後ろから抱き着いた。ちょっとメルちゃんの方が背が高いけど、こういう友達っぽいの憧れてたんだよね〜!

 

周りにいる人たちは、みんな偉い立場の人ばかりだ。神父様に司教様、各地の代表者や貴族の人たち。そんな中で、肩肘張らずに話せる相手なんてほとんどいない。

 

対等に友達って呼べるのは、ヴェスティちゃんくらいかな。

 

まぁ、その時一緒に遊んでたのは【核分裂】で作った偽物の私だったんだけど。日が昇る時間帯はコピーが溶けちゃうから、あんまり長くは遊べなかったんだよね。

 

私はそんなことを思い出しながら、メルちゃんの方へ少し身を乗り出した。

 

「ねぇねぇ、同じチビスラ同士、折角来てもらったんだから話したいことがあるんだけど……いいかな?」

 

メルちゃんは少しだけ間を置いてから、戸惑ったように答える。

 

『……いいけど、ちょっと頭が混乱してる。ごめんな』

 

その言葉に、私は思わず吹き出した。

 

「あはっ、いいよ〜全然♪メルちゃんが男口調っていうギャップだけで、全然待てるから!」

 

くすくす笑いながらそう言うと、メルちゃんは少しだけ視線を逸らした。

 

『同じチビスラだから言葉がわかるのか……本当に俺と同じ種類なのか?』

 

私は胸を張って、にこっと笑う。

 

「もち!後者もいえすかな!三千年以上続く襲名制の聖女は、初代聖女サマ以外みんなチビスラだよ。通常種じゃなくて、“特殊個体”のチビスラって言う方が正しいけどね!」

 

『……知らなかった』

 

「聖女とその側近しか知らない秘密だもん」

 

また固まっちゃったメルちゃんの首元を、私はちょいちょいと指先でつつく。反応は……うん、やっぱり固まったまま。ぷるん、と体の表面が小さく揺れただけだ。

 

私はくすっと笑いながら、目元に掛かっているヴェールの端を指先でくるくると回した。

 

聖女なのに、襲名制。よく考えてみれば、これってかなり変な話だよね。

だって普通、聖女って言ったら一人しかいない特別な存在ってイメージだし、アニメとかでもそんな感じじゃん。

 

なのに実際は、代替わりするからね〜。

 

今の私は162代目。三千年も続いてるんだから、まぁ当然といえば当然なんだけどさ。

 

私は少しだけ首を傾げて、メルちゃんを見下ろした。

 

「不思議だよね〜、こんなに代替わりしてまで続くなんてさ。しかも聖女のチカラって、チビスラじゃ強すぎて寿命が持たないんだよね」

 

ほんとに酷い話だよ。

私はただ青春を謳歌して、いっぱい恋愛して、部活もバイトも楽しんで……って将来設計してるのにさ!

 

でも仕方ないのかな〜。

 

聖女がいないと、凶暴なモンスター達が暴れちゃう可能性があるからね。そうなると【魄離理論会(レムナント・セオリカ)】みたいな対モンスター組織も出てきちゃうし、モンスターと人間の平和が崩れちゃう。

 

そんなの、私は嫌だからさ〜。

 

みんな笑顔で、いーっぱい楽しいことが広がってる世界が一番いいの。平和で、退屈で、ちょっとだけくだらなくて……何番煎じでもいいくらいのハッピーエンドが、ずーっと続く世界。

 

そのためには、“私一人程度”の犠牲なんて仕方ないかなって思うんだ。

 

「ヴェスティちゃんには教えたんだけど、聖女に寿命が来たり死にかけたりすると、次の聖女になるチビスラが生まれるの!」

 

まぁ、正確にはもう生まれちゃったんだよね〜。

 

163代目の聖女はどんな子なんだろ。

 

私みたいに明るい子かな。

それともイスフィちゃんみたいに度胸がある子?

もしくはメルちゃんみたいに美人さんだったり?

はたまたヴェスティちゃんみたく人に寄り添える聖女になるのかな。

 

うーん、分からないなぁ〜。

本当なら次代の聖女ちゃんを見てみたいけど、その頃には私死んでるし……残念だけど仕方ないかな。

 

三千年続いてきた仕組みなのに、今さら私だけが特別扱いされるわけでもないしね。チビスラが生まれて以降私の寿命も縮まってる感覚もあるし、死ぬのは確定っぽい。

 

残念だけど、これも運命って受け入れるしかないからね〜。

 

「私の寿命を日数に直すと、後十日くらい?」

 

数字でバーンって出てくると短いような、長いような……不思議な気分。

ま、メルちゃんを呼んだのも、この十日間で色々やりたい事があるから手伝って欲しいのもあるし。

 

桜の王種は倒して、淵の王種も戦力的に倒せるはずだから、やりたいことはその後になるけどどうしてもやりたいことがあるんだよね。青春のせの字も知らなくて、友達すら数えるくらいしか居なかった私が唯一憧れた『The・青春』!

 

普通ならしようと思っても出来ないけど、私の目の前にはヴェスティちゃんやイスフィちゃんを堕としたと噂の同種のスライムがいる!

 

だから。

 

「だからさ──私に、恋を教えてよ!」




Tips

特殊個体──本来の通常種とは異なる進化を経た、文字通り特殊な個体。通常のモンスターに比べ更に賢く、強く、人間らしさを帯びるらしい。なお、一部のモンスターが感情によって進化すればするほど、人間の姿を形取る理由は不明。

一説には、初代聖女が関係しているらしいが……。

以下の個体が特殊個体に分類される
・モウガン▶︎通常種と比べ、人間らしさと強さ、賢さを獲得
・フォス▶︎通常種と比べ、人間らしさと強さを獲得
・リリア▶︎通常種と比べ、人間らしさと賢さを獲得
・???▶︎通常種と比べ、賢さを獲得

人気キャラクター 二部

  • メリュジーヌ (メル)
  • ヴェスティ=クラウニア(ご主人様)
  • モウガン (ツンデレ牛娘)
  • アグニール (クーデレ王種)
  • フォス (元気っ娘)
  • アルマ=メイソン(最近出番がないぞ)
  • ソルガ (残念系イケメン美女)
  • イスフィ(関西弁パパ系ガール)
  • リリア
  • アマネ(実はポンコツやれやれ系少女)
  • オウヒ (好感度が上がるだろうか)
  • ノア=ハルベルト (ラスボス系美女)
  • ミツル (眼帯系王種)
  • フルちゃん(アルマの貴重なツッコミ要因)
  • シスターカプノス (生臭シスター)
  • モルド=クラウニア (変態お兄さん)
  • タナカ・サトウ・スズキ・ヤマダ
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