進化したら人外系お姉さんになる雑魚モンスの俺、飼い主♀の性癖を破壊する   作:霧夢龍人

86 / 97
聖女でも恋がしたい!

──恋。

 

青春を語る上で欠かすことのできない要素であり、人生の中で一度は触れることになるであろう感情だ。

 

とは言え、しようと思ってできるものでもない。

 

狙って落ちるものでもなければ、理屈で選べるものでもない。

気づけば勝手に心に入り込んできて、どうしようもなく居座る。厄介で面倒で、もっとも尊い感情の一つだろう。

 

「あはっ、なぁ〜にその顔。そんなに私に恋を教えるのは嫌なのかなぁ〜?」

 

リリアが笑いながら、俺の頬をツンツンと突く。

 

……いやというか、理解が出来ない。

だって、寿命が十日しかない中でする恋なんて、最後に待っているのは虚しさだけだ。残される側も、消える側も、どちらにとっても優しい結末にはならない。

 

だから俺は、断るという選択肢しか選べないのだ。

 

「んきゅきゅ」

(ごめん、無理だ。恋を教えたとして、終わりが見えている恋なんて意味がない。それに俺には──ご主人様がいる)

 

そう言うと、リリアの指先がぴたりと止まった。

 

さっきまで軽く頬をつついていたその手が、空中でわずかに揺れてゆっくりと引かれる。

 

「そっか……」

 

明らかに、声のトーンが下がったのが分かった。エメラルドブルーの瞳がわずかに揺れて、ステンドグラスから差し込む光さえ、どこか翳ったように見える。

 

……だが、それでいい。

 

ここで曖昧に応じる方が、よほど残酷だ。

 

終わりが見えている相手に、下手な希望を抱かせるべきじゃない。一時の感情で手を取ってしまえば、その代償は最後に必ず訪れる。

 

人は知らなければいいこともある。知らなければ期待もしないし、失望もしない。希望も、絶望も。どちらも、最初から存在しなかったものとして処理できるからだ。

 

だからこれは、正しい選択だ……正しい、はずなのに。

 

そんな合理性なんてどうでもいいと考えてしまう自分がいる。聖女の代替わりの仕組みもさっき初めて知って、リリアが死ぬことはきっと抗いようのない未来なのだろう。

 

関わるべき問題じゃないことも分かっている。このまま『恋』なんて話をスルーして、ただの友達として接することだって出来る。

 

でもそれは、あまりにも俺らしくない。

 

──あぁそうだ、俺らしくないんだよ。

 

「あ〜ぁ、こんな美少女から恋を教えて欲しいなんて言われてるのになぁ〜。勿体ないぞメルちゃん!くそぅ、モテモテで羨ましい〜!」

 

着飾った笑みを浮かべて、なんでもないように振る舞うリリア。わざとらしく肩を竦めて「やれやれだぜ」なんて軽口を叩く姿はいつも通りだが、断った俺に悪気を着せないようにしているのが丸わかりだった。

 

優しい子だ。

 

だからこそ、その優しさの裏にある本音を見ないふりはできなかった。

 

「私、あと十日しかないんだよ?」

 

リリアは軽い口調で言う。

まるで、今日の予定でも話すみたいに。

 

「だったらさ、その十日──めいっぱい楽しんだ方が勝ちじゃない?」

 

にやり、と笑う。

 

強がりでも、嘘でもない。

本気でそう思っているのが分かる笑みだった。

 

だから。

 

「……んきゅ」

(……あぁ、そうだな。リリアの言う通りだ。気が変わった)

 

「え?」

 

「んきゅきゅ!」

(十日しかないなら、その十日でやれることをやるべきだ)

 

俺は視線を逸らしながら、ぶっきらぼうに言った。

 

だって、何かちょっと恥ずかしいじゃないか。自分より二回りも下の女の子に恋を教えるなんて、まるで俺が年甲斐もなく気取っているみたいで。

 

そんな情けない内心を抱えたまま、視線を逸らす。

 

けれどリリアは、何も言わずにこちらをじっと見つめていた。さっきまでの重苦しい空気が、ほんの少しだけほどけていくのが分かる。沈黙は続くのに、不思議と居心地は悪くなかった。

 

「あはっ、ヴェスティちゃんとイスフィちゃんが惹かれる理由が分かった気がするなぁ〜」

 

くすくすと笑いながら、リリアはそんなことを言う。

 

「んきゅ?」

(何がだ?)

 

思わず、間の抜けた声が漏れた。

 

リリアはくすりと楽しげに目を細めると、躊躇いもなく、さらに一歩こちらへ距離を詰めてくる。

 

「だってさ〜」

 

細い指先が俺の胸に寄せられる。

 

そしてつん、と。

 

ほんのわずかな力で、俺の体を軽く小突いてきた。まるで反応を確かめるみたいに、控えめで、それでいてどこか遠慮のない距離感だった。

 

「ちゃんと考えて、ちゃんと距離取って、でも結局放っておけない感じ?」

 

にやりと口元を歪めて笑う。

 

「そういうの、ずるいよね」

 

「あきゅあ」

(ズルいって言われても……)

 

疑問を滲ませると、リリアは「あははっ」と声を上げ、バシバシと強めに肩を叩いてくる。

 

「うんうん、その反応も込みでね!」

 

くすくすと肩を揺らしながら笑い、ひとしきり楽しんだあと、リリアは小さく息を吐いて呼吸を整える。

 

笑いの余韻が静かに引いていくにつれて、表情もほんの少しだけ落ち着いていく。

さっきまでの軽やかな空気は残したまま、それでもどこか一段、奥に踏み込んだような顔つきだった。

 

「でもさ、ちゃんと本気でやって、私を楽しませてくれるんでしょ?」

 

その言い方は軽い。

けれど、その奥にあるものは決して軽くなかった。

 

試すような色と、どこか期待するような色。両方が混ざった、曖昧でそれでも誤魔化していない眼差し。

 

「んきゅ」

(言っただろ)

 

そう言って大きく頷けば、リリアは一瞬だけ目を細め──次の瞬間、ぱあっと笑顔を咲かせた。

 

「よし!言質取ったからね〜?」

 

軽やかな音を立てて、ぱん、と手を打つ。空気を切り替えるその仕草は、いかにも彼女らしい。

 

残りの寿命が分かっているのに、何故ここまで朗らかで居られるのか分からない。でも死ぬ前くらいは、聖女の肩書きを忘れて楽しめれば、それでいいと思う。

 

「じゃあ先生!──最初の授業は、何を教えてくれるの?」

 

一歩踏み込んで、俺を覗き込む。

蠱惑的なエメラルドブルーの瞳が、期待に満ちて輝いていた。

 

 

 

──☆

 

なんでなん。

なんで、メルちゃんおらんのよ。

 

今日はな、ちゃんと覚悟決めてきたんやで?

ガチでアタックしよ思って、色々考えて、タイミングも見て――それやのに。

 

当の本人が、登校してへんてどういうことなん。

 

教室の扉を見ても、席を見ても、やっぱりおらん。

分かりきってるのに、無駄に確認してまう自分がおる。

 

ほんま、アホみたいや。

 

「はぁ……」

 

小さくため息が零れた。

 

「ため息吐くと幸せ逃げちゃうよ〜?」

 

「けっ、ウチはどうせ幸せになれんわ!」

 

「うわこわ。メルちゃんのこと好きすぎでしょ」

 

呆れたような、でもどこか面白がってる声音でリリアちゃんがからかってくる。可愛くて優しくて朗らかなリリアちゃんやったら、きっと恋で悩むとかあんまりないんやろなぁ。

 

ちょっと羨ましいわ。

 

「……そんなんちゃうし」

 

小さくぼそりと返す。

さっきまでの勢いなんてどこへやら、自分でも分かるくらい声に覇気がなかった。

 

リリアちゃんはそんなウチの様子をじっと見つめて、それからふっと目を細める。

 

「へぇ〜?……じゃあもし、私がメルちゃんと付き合うってなったらどうする?」

 

「それはダメや!!!」

 

考えるより先に、言葉が飛び出していた。

 

自分でも驚くくらい大きな声で。

教室の空気が一瞬、シーンって静かになった。

 

「……あ」

 

遅れて自覚する。

 

やってもうた、って。

 

じわじわと顔が熱くなっていくのが分かる。

視線が痛い。めっちゃ痛い。

 

「い、いや今のはその……違くてやな!」

 

慌てて手を振るけど、言い訳なんて思いつくわけもなくて、余計にしどろもどろになる。

 

そんなウチを見てリリアちゃんは、ぱちぱちと瞬きをしたあと。

 

「……ぷっ」

 

吹き出した。

 

「やっぱり好きじゃん」

 

「ちゃうって言うてるやろが!!」

 

食い気味で否定する。けど、その声はさっきほどの勢いがない。

 

否定すればするほど、逆に認めてるみたいで。

自分で自分の首を絞めてる感じがして、余計に焦る。

 

リリアちゃんはそんなウチの様子を楽しむみたいに、くすくすと笑い続ける。

 

「あ〜おもしろ。でもそんなに好きなのかぁ〜。じゃあ、私と勝負ってことになるね」

 

「なにがなん?」

 

「んーん?なんでもなーい」

 

あっさりと話を流した。

 

けれど、その“なんでもない”にしては、視線が妙に意味ありげで。

すぐに逸らされたその目が、逆に引っかかる。

 

「……絶対なんかあるやろ」

 

疑いの目を向けると、リリアちゃんはわざとらしく肩をすくめた。

 

「気のせい気のせい。ほらほら〜、そんな怖い顔してたらメルちゃんに嫌われちゃうよ?」

 

「誰のせいや思っとんねん……」

 

ぼそっと呟きながらも、さっきの言葉が頭の片隅に引っかかったまま離れへん。

 

──勝負。

 

何の勝負なんか、言われへんかったけど。それでも、なんとなく分かってしまう自分がおる。

 

もし、本当に。

 

リリアちゃんが本気でメルちゃんに向かったら。

 

「……っ」

 

胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。

 

ありえへん、って思う。

だってリリアちゃんは、あんな風に人の気持ちを弄ぶような子やない。

 

……ないはずやのに。

 

「どしたの?」

 

いつの間にか、すぐ目の前にリリアちゃんの顔があった。

エメラルドみたいに透き通った瞳が、まっすぐウチを覗き込んでくる。

 

「なんでもない!」

 

反射的に顔を背ける。

 

その距離の近さに、余計に心臓がうるさくなる。

リリアちゃんは一瞬きょとんとして、それからふっと小さく笑った。

 

「そっか」

 

それ以上は何も言わない。

けど、その一言だけでまるで全部見透かされたみたいな気がして落ち着かん。それに、リリアちゃんの笑顔がやけに眩しくて、ウチはまた視線を逸らすしかなかった。

 

 

 

 

 

「ごめんね、イスフィちゃん。私も──恋がしてみたいんだ」

人気キャラクター 二部

  • メリュジーヌ (メル)
  • ヴェスティ=クラウニア(ご主人様)
  • モウガン (ツンデレ牛娘)
  • アグニール (クーデレ王種)
  • フォス (元気っ娘)
  • アルマ=メイソン(最近出番がないぞ)
  • ソルガ (残念系イケメン美女)
  • イスフィ(関西弁パパ系ガール)
  • リリア
  • アマネ(実はポンコツやれやれ系少女)
  • オウヒ (好感度が上がるだろうか)
  • ノア=ハルベルト (ラスボス系美女)
  • ミツル (眼帯系王種)
  • フルちゃん(アルマの貴重なツッコミ要因)
  • シスターカプノス (生臭シスター)
  • モルド=クラウニア (変態お兄さん)
  • タナカ・サトウ・スズキ・ヤマダ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。