進化したら人外系お姉さんになる雑魚モンスの俺、飼い主♀の性癖を破壊する 作:霧夢龍人
「煙草、一本吸うか?」
軽く声をかけながら、ポケットから箱を取り出す。指先で一本だけ押し出して、慣れた手つきで差し出した。
「んきゅ」
(……あぁ、頼む)
しょげた様子のメリュジーヌちゃんは、小さく頷いてそれを受け取る。
「聖堂で吸ってもいいのかよ」なんて言ってきそうだったが、今はそんな余裕もないらしい。
指先がほんの少しだけ鈍く動くのを見て、ライターを取り出して火を点けようとしたら、メリュジーヌちゃんは無言で指先に焔を出して、先端に小さな火が灯る。
じり、と紙が焼ける音がやけに耳に残った。
メリュジーヌちゃんは一度だけゆっくりと吸い込んで、細く煙を吐き出す。白い煙がふわりと空気に溶けていくのを、どこかぼんやりとした目で追っていた。
もしアタシが聖女サマの立場だったら──たぶん、こんなふうに悩んだりはしねぇ。何も気にせず、何も背負わず、欲しいもんは欲しいって言って、手当たり次第に女を食い漁ってたに決まってる。
節操も遠慮もなくな。
けど、あの子は違う。
恋愛の『れ』の字も知らねぇような、純粋真っ白なお子ちゃまだ。
だからこそ、あんな無邪気に“恋を教えて”なんて言えるし、残りがどうこうなんて、笑って口にできる。
頼まれた側は溜まったもんじゃねェよ。当の本人は「やったぁ〜!」なんて言った後、礼拝堂に向かっていっちまったし。
……なんで聖女なんて立場で生まれて来ちまったんだろうな。
きっと本人は、そこまで深く気にしてねぇ。あの調子だ、重く受け止めたところでどうにもならないって、どこかで割り切ってるんだろう。
けどな。
あいつはまだ、十七歳の女の子だ。
人生……いや、スライム生か?
どっちにしろ、これからいくらでも広がっていくはずだった時間だ。それが、“次が生まれたから終わりです”なんて、残酷すぎる。
隣のメリュジーヌちゃんも、私の考えに同調するように小さく鳴いた。
「きゅあきゅ」
(人生って、ままならないもんだな)
「はっ、スライムであるお前が言うかよ」
軽口を叩きながらも、その言葉を否定する気にはなれなかった。むしろ妙にしっくりきやがる。アラフォー手前って言ってたのも嘘じゃない、そう思っちまうくらいには、メリュジーヌちゃんの言葉は重く感じるんだよなァ。
灰を軽く弾き落とす。
落ちた灰が、音もなく床に散った。
「……で?」
短く問いかける。
「教えてやるって言ったんだろ。恋ってやつをよ」
横目でちらりと見やると、メリュジーヌは煙をくゆらせながら、わずかに視線を揺らした。さっきまでの沈んだ様子はまだ残っているが、完全に沈みきったわけでもない。
どっかで踏みとどまっている。
「どうすんだ。十日しかねぇんだろ」
わざと現実を突きつけるように言ってやった。
優しくしてやる気はねェ。
そんな生ぬるいもんで済ませる話じゃないからだ。
「遊び半分でやるならやめとけよ」
煙を吐きながら、淡々と続ける。
「中途半端が一番、後に残る」
これは経験則だ。
笑って終われる恋なんて、そう多くはない。
ましてや終わりが見えてるなら、なおさらだ。零か百かしかない世界だ。
触れないか、すべてを賭けるか。
そのどちらかしか選べない。
一瞬、静寂が落ちる。
聖堂の空気は今日も静かで、どこか澄みすぎていて、アタシみたいな汚れた人間はあんまし長居するのも嫌なくらいだ。だからこそ、ほんのわずかな気配の変化すら際立っていた。
「んきゅあきゅ」
(分かってるよ。分かった上で、頷いたんだ)
「……ならいいけどよ」
まるで自分に言い聞かせるように遠くを眺めながら、メリュジーヌちゃんは短くなった煙草をもう一度だけ、深く吸い込んだ。
ままならねェものだな、人生って。
煙草の煙がすっかり消え、気づけば聖堂に鐘の音が静かに響く時間になっていた。高い天井に反響した音が、ゆっくりと空気に溶けていく。さっきまで漂っていた紫煙の匂いも、もうほとんど残っていない。
吸ったおかげで多少は落ち着いたのか、それとも腹を括ったのか。メリュジーヌちゃんは、ふっと小さく息を吐いてから立ち上がった。
ほんの一瞬だけこちらを見て、軽く頭を下げる。
それ以上は何も言わず、そのまま踵を返して歩き出した。向かう先は、迷うことなくヴァルヴォッサのある方角だ。
足取りは軽くない。
けど、止まる気もない。
……ま、ああいう顔ができるなら、大丈夫だろ。
上手くいくかなんて分からねぇ。そもそも、正解なんてものがある話でもない。けど少なくとも、アタシには無理だ。
まともな恋なんて教えられるほど、綺麗な生き方はしてこなかった。どう転んでも、教えられるのは火遊びのやり方くらいだ。
だったら。
ヴェスティちゃんや他の連中まで虜にしてるメリュジーヌちゃんに任せる方が、よっぽど筋がいい。あいつなら、ああいう無垢なやつにも、ちゃんと“それらしい形”を与えてやれるだろう。
それまでは──アタシも、少しは大人しくしておくか。火遊びも控えめに、なんてな。
……ま、十年くらいしてねぇけど。
「は〜ぁ、久々にヤレると思ってたのによォ」
誰に向けるでもなく、だらしなく息を吐く。
欲望に正直すぎる自分に、呆れる気も失せた。むしろ、それが自分らしさだとすら思っている。開き直りって大事だからな。
二本目の煙草に火をつける。
今度はライターで、雑に。
じり、と火が移り、煙がまたゆっくりと立ち上る。
どエロくて、顔も好みで、しかもあの色気。
その上で、ああやって不器用に悩む姿まで見せられたら、そりゃあ惹かれるやつも出てくる。
……なるほどな。
ヴェスティちゃんが惹かれる理由も、よく分かる。
煙を深く吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。白い煙の向こうに、さっきの大きな背中が重なった気がした。
「……ま、せいぜい頑張れや」
ぽつりと零して、肩の力を抜く。
どう転ぶかは知らねぇ。
けど、あいつが選んだ道だ。なら最後まで足掻いて、納得いくところまで行けばいい。それが、恋ってやつなんだろうから。
肺の中の煙を吐き出しながら、そう思った。
瞬間。
「カカッ、私もご一緒していいかねぇ〜?」
軽やかで、どこか癖のある声が、背後から差し込んでくる。
「……誰だ、お前。ここは関係者以外、立ち入り禁止だぞ」
振り返るよりも先に、空気がわずかに変わる。聖堂の静けさに、形容しがたい異物が混ざったような感覚。
気配は隠していない。
むしろ、わざとらしいくらい堂々としている。声の主を見ようと煙草を加えたまま、ゆっくりと視線だけを横へ流した。
そこにいたのは──妙に楽しげに口元を歪めた、見慣れない女だった。傍には両目を眼帯で隠した、どエロいシスター服の女を侍らせてやがる。
怪しさプンプンだなァ、おい。
見慣れねェ女は壁にもたれかかるようにして立ち、こちらを観察するような視線を向けてきやがる。目は笑っているのに、どこか底が見えない感覚が気色悪い。
「そんな細かい事はいいだろ〜?私も一仕事終えた後で一服したいっちゅ〜に、喫煙所がなくてねぇ〜」
「──なるほどな、いいぜ。火、いるか?」
ライターを取り出し、親指でカチリと弾く。小さな炎が揺れ、暗がりを淡く照らした。
女はくつくつと喉を鳴らしながら、一歩こちらへ歩み寄る。ためらいも遠慮もない足取りで、そのまま火の前に顔を寄せ── その瞬間、手にしていたライターをそのまま顔面目掛けてぶん投げた。
だが。
どこからともなく現れた水が、空中でライターを包み込み、その勢いを殺す。同時に、灯っていた火もあっさりと掻き消された。
落ちたライターが、床を滑ってアタシの足元で止まる。
「うぉ〜、あちち。手荒な歓迎だねぇ〜」
女は肩をすくめながら、まるで本気で驚いたかのように声を上げる。
だがその口元は、楽しげに歪んだままだ。
……やっぱりな。
視線をわずかにずらす。
怪しい女の背後。あの眼帯のシスターが、ほんの僅かに指を動かしていた。水はもう消えているが、嫌な予感が拭えない。
シスター服の女は間違いなくモンスターだ。それもただの個体じゃない。人型を保っている時点で、相当な高位種だ。
しかも属性は水。
さっきの挙動。あの精度。あの反応速度──下手すりゃ王種も有り得る。
それに白昼堂々、聖堂学園に侵入してきやがった。かなりの馬鹿か、或いは勝つ算段があるのか……恐らくは後者だろうな。
となると。
あのシスター服の女は……。
「まじかよ、おい。どおりで淵の王種がいねェと思ったら」
コイツがパートナー契約してやがる、シスター服のモンスターこそが──淵の王種だろうな。
舌打ちを一つ。
煙草を咥え直しながら、足元に転がったライターを軽く蹴り上げ、手の中で受け止める。
「物騒だねぇ〜。普通、初対面で投げるかい?」
女はくつくつと笑いながら、こちらを見据える。
その視線は、明らかにアタシを試している。
どこまでやるのか。
どこまで出るのか。
……気に食わねぇなァ。
「普通の客ならな」
短く吐き捨てる。
「だがテメェは違うだろ。くっせぇ死臭が纏わりついてんだよ。臭くて臭くて仕方がねェ」
わざとらしく顔をしかめ、片手で鼻を塞ぐ。
実際に匂いがするわけじゃねェ。
だが──感じる。
血とも腐敗とも違う、“終わり”そのものみてェな気配。触れれば取り返しのつかねぇところまで引きずり込まれる、そんな類の臭いだ。
アタシの言葉に、女は一瞬だけきょとんとした顔をしたかと思えば、堪えきれないといった様子で吹き出した。
「カカッ……言うねぇ〜!」
肩を揺らしながら笑うその姿は、どこまでも軽い。
だが、その奥にあるものはまるで軽くない。底の見えない沼みてェな気配だ。何を考えているのか、一切読み取らせないその面がマジで気色悪い。
思わず、舌打ちが漏れた。
「これは提案だが、そのクソみてェな臭い。アタシの手で綺麗さっぱり脱臭してやろうか?ま、もし手が滑ってちまっても──」
ゆっくりと、腰に手を落とす。そして、ベルトに提げていた拳銃のグリップを掴み、迷いなく引き抜いた。
金属音が、小さく鳴る。
そのまま躊躇なく持ち上げて、女の額へと照準を合わせる。
ぶれない。
迷わない。
引き金にかけた指も、既に遊びじゃねぇ位置にある。
「文句言うなよ」
人気キャラクター 二部
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メリュジーヌ (メル)
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ヴェスティ=クラウニア(ご主人様)
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モウガン (ツンデレ牛娘)
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アグニール (クーデレ王種)
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フォス (元気っ娘)
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アルマ=メイソン(最近出番がないぞ)
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ソルガ (残念系イケメン美女)
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イスフィ(関西弁パパ系ガール)
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リリア
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アマネ(実はポンコツやれやれ系少女)
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オウヒ (好感度が上がるだろうか)
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ノア=ハルベルト (ラスボス系美女)
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ミツル (眼帯系王種)
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フルちゃん(アルマの貴重なツッコミ要因)
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シスターカプノス (生臭シスター)
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モルド=クラウニア (変態お兄さん)
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タナカ・サトウ・スズキ・ヤマダ