進化したら人外系お姉さんになる雑魚モンスの俺、飼い主♀の性癖を破壊する 作:霧夢龍人
アグニールは辟易していた。
目の前で形成された焔の牢獄に囚われている桜の王種、オウヒの存在に。
先日愛しのメルが打ち倒したオウヒは、暴れる事が出来ないように力を封じた状態で監視している。聞いた話によれば、パートナー契約を持ち掛けた相手が自分を振った為に、このような暴挙に出たという。
──馬鹿馬鹿しい。
モンスターである以上、“この人間のパートナーになりたい”と思う瞬間は訪れるものだ。アグニが愛してやまないメリュジーヌも、ヴェスティという少女に一途なのはモンスターとしての本能がそうさせるのだろう。それ故、一度振られたくらいでは普通諦めない。
だと言うのに、オウヒは一度拒否された程度で癇癪を起こして暴れ出している。
到底王種とは思えない行動だ。
違和感しかないと言ってもいい。
他の王種と比べて(メリュジーヌを除き)一番若い個体であるアグニは、王種という肩書きの重さを知っている。
単身で国を堕とす事も易々と可能であり、モンスターとしての到達点と評される王種。そんな存在が、たかが人間に振られたくらいで暴れ出すだろうか?
答えは否。
他に何かしらの理由があると考えた方が自然だ。
なのに当のオウヒは口を割るどころか、今でも何とか抜け出そうと【悲哀なる毒創樹】をうねうねと動かしている。
アグニは目を細めて、焔の牢獄の隙間からオウヒに語り掛けた。
「いい加減、口を、割ったら?」
「っは!何を言ってるんだい?僕はただあの人間がスライムを選んだのが気に食わなかっただけだ!」
「ほんとに、そう?貴女ほど、のモンスター、が感情に振り、回されると思え、ない」
「……」
その言葉に、オウヒの周囲に絡みつく【悲哀なる毒創樹】がびくりと震え、枝葉をうねらせる。
だがそれだけだ。
脱出には至らない。
「……はは」
オウヒは肩を揺らし、小さく笑った。
「買い被りすぎだよ。僕だって感情くらいあるさ。むしろ王種だからこそ、強い欲求に従うものじゃないか」
「違う」
アグニは即座に否定する。
「欲求と、衝動は、違う」
モンスターは欲求のままに動く。それ故に発現するのが欲求位相であり、それ以降の位相も欲求の強さによって決まっていく。
しかし今回のオウヒの行動はあまりにも──。
「貴女の、それは……衝動的、すぎる」
──モンスターとは思えない動きだった。
図星を突かれたように、ゆらゆらとうねっていた毒のツタの動きが、ぴたりと止まる。
それまで絶えず蠢いていた【悲哀なる毒創樹】が、まるで意思を失ったかのように静まり返った光景は、それだけで異様だった。
オウヒはしばらく何も言わなかった。
ただ、ゆっくりと枝葉を揺らしながら、焔越しにこちらを見返してくる。
その視線からは、先程までの軽薄さも、虚勢も消えている。
代わりにあったのはどこか内側を探るような、不安定な揺らぎだった。
やがて、視線をわずかに彷徨わせると、オウヒは毒のツタや咲き誇っていた花々をすべて身体の内へと引き込んでいく。
「うん」
オウヒはあっさりと頷く。
だが、その仕草とは裏腹に、瞳の奥はひどく濁っていた。
「僕はね、大昔の“万魔”との戦いで封印されたんだけど、その封印を外した人間がいてね」
さらりと語られた内容に、アグニの眉がわずかに動く。
万魔。
その名を知らぬ者はいない。
それは単なる強者の呼称ではない。
例外であり、逸脱であり──モンスターという枠組みすら踏み越えた“異質”の象徴。
王種ですら到達点と称されるこの世界において、なおその頂点から外れた場所に立つ存在。
太古より生き続け、モンスターの起源とされる三千年以上前から現代に至るまで、その名は消えることなく語り継がれてきた。
数万、数億種と存在するあらゆるモンスターの中で、ただ一つ。
“最強”という概念そのものを独占する存在。
比較も、競争も、意味を成さない。
誰一人隣に立つをこと許されず、ただ一柱だけがその座に在り続ける。
故に──万魔。
そんな万魔と戦って封印されたという時点で、オウヒの来歴は軽いものではない。
「……そいつの声を聞いた瞬間から、記憶が曖昧なのさ」
オウヒは自嘲気味に笑う。
王種の“記憶”が曖昧になる──それ自体が異常だ。単なる精神の揺らぎでは済まされない。
「まるで頭の中に薄い霧がかかったみたいに、重要な部分だけ、ぼやけてるんだよね。全く思い出せないんだよ」
自嘲気味に笑いながら、オウヒはゆっくりと拳を握り込む。
次の瞬間、苛立ちをぶつけるようにガンッ、と焔の牢獄へ叩きつけた。鈍い衝突音が響き、熱に焼かれて拳の表面がじりじりと溶けていく。それでも気にする様子もなく、オウヒは言葉を続けた。
「声の内容も、響きも、何もかも。思い出そうとすると、そこだけ綺麗に抜け落ちるんだ。王種ともあろうものが情けないよ。
でも、ただ一つだけ。暴れろって“命令された”っていう感覚だけは、はっきり残ってる」
「どういう、こと?」
アグニの声は低く、だが明確な警戒を孕んでいた。焔の揺らぎが、その問いに呼応するかのようにわずかに強まる。
オウヒは一瞬だけ言葉を選ぶように視線を落とし、ゆっくりと息を吐いた。
「……分からない。けど確かなのは、あの女が聖女と“全く一緒の力”を使えることだけだよ」
───☆
許せない。
壇上で淡々と板書を続ける教師の声が、やけに遠く聞こえる。何を教えているのかも分からないまま、ただ時間だけが流れていく。その単調さが、余計に神経を逆撫でした。
モウガンは机に肘をつき、頬杖をついたまま、苛立ちを抑えきれずに小さく舌打ちをする。
「ひぃっ!?」
「お、おい。モウガンさんがお怒りだぞっ!」
「女の子の日かしら……」
──イラつく。
理由は、はっきりしている。
先日の“桜の王種”襲撃。あの一件が、頭から離れない。
丁度その時、モウガン達のクラスは課外授業で校舎の外に出ていた。異変に気付いた頃には、すでに学園内は騒然としていて、教師の指示で避難誘導が始まっていた。
だが遅かった。
現場に辿り着いた頃には、すべてが終わっていたのだ。
焼け焦げた地面。
崩れた建物。
そして、戦闘の余韻だけが残る空間。
何より気に食わなかったのは、その“結果”だった。
「……はっ」
思わず、鼻で笑う。
倒したのが、あのムカつく
胸の奥でドロリとした感情が渦巻くモウガン。一部ではメルを英雄だと称える声もあり、モンスターとバレた今ではかなりの人気を誇っているらしい。
なおさらイラつく。
医務室に様子を見に行けば、死んでないのがおかしいくらいにボロボロになっていた。なのに平気そうな顔でヘラヘラ笑ってて、全く痛くなさそうだった。
絶対痛いくせに。
「だから嫌いなのよ……」
ペン(?)とやらを折らないようにクルクルと回しながら、今日何度目か分からない嘆息を零したモウガン。
彼女はメルのことが嫌いだ。
ヴェスティの一番であることも、平気な顔で自分たちを巻き込まないようにするところも、ちょっとスケベなところも、全部嫌いである。
「少しくらいは、私を頼りなさいよ」
頼らない理由は分かっている。
全ては自分が弱いからだ。
守るべき対象だと思われているからだ。
モンスターにおいて守るというのは、基本的にオスがメスに取る行動の一種とされている。だからこそ気に食わない。自分を弱いと思われている事が腹立たしくて仕方がないのだ。
「アイツはメスらしく、私の子供を産めばいいだけ」
故にモウガンは決めた。
自分が守られてばかりの弱い存在ではなく、逆に守ってしまうような存在になろうと。
ならばこうしてコウギとやらを受けている暇はない。
ガタン、と。
勢いよく椅子を引き、モウガンはそのまま立ち上がる。音につられ、教室の空気が一瞬で張り詰めた。周囲の視線が一斉に集まる。
だが、そんなものは意にも介さない。そのまま、迷いなくドアへ向かって歩き出す。
一歩、また一歩と足音が響くたびに、ざわめきが広がっていく。
「ちょ、ちょっとモウガンくん!どこに行こうと言うのかね!?」
背後から慌てた教師の声が飛んだ。
モウガンは足を止めることなく、肩越しにちらりと振り返った。
「……なに、お手洗いだけど。それセクハラよ?」
「っ!」
「それじゃ」
言い終わるや否や、モウガンは躊躇いなく扉を引き開け、そのまま勢いよく閉めた。乾いた音が廊下に響き、教室のざわめきが一瞬だけ追いかけてくるが、すぐに遠ざかっていく。
残されたのは、やけに静かな空気だけだった。
廊下を一人歩くモウガンの行先は、誰にも分からない。ただ一つ分かることは、コツコツとしたモウガンの足音が一般科の教室まで続いていることだけだ。
人気キャラクター 二部
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メリュジーヌ (メル)
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ヴェスティ=クラウニア(ご主人様)
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モウガン (ツンデレ牛娘)
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アグニール (クーデレ王種)
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フォス (元気っ娘)
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アルマ=メイソン(最近出番がないぞ)
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ソルガ (残念系イケメン美女)
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イスフィ(関西弁パパ系ガール)
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リリア
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アマネ(実はポンコツやれやれ系少女)
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オウヒ (好感度が上がるだろうか)
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ノア=ハルベルト (ラスボス系美女)
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ミツル (眼帯系王種)
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フルちゃん(アルマの貴重なツッコミ要因)
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シスターカプノス (生臭シスター)
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モルド=クラウニア (変態お兄さん)
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タナカ・サトウ・スズキ・ヤマダ