進化したら人外系お姉さんになる雑魚モンスの俺、飼い主♀の性癖を破壊する   作:霧夢龍人

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思ったより二部の内容が長引きそうで戦々恐々としています。プロットで想定していた内容が、二倍くらいになっちゃってるよ……。

あんまり長引くと、R18版の執筆も遅くなるので毎秒投稿頑張ります()


強くなるために

教室の扉が勢いよく開け放たれた。

 

ガラァン、と耳障りな音が廊下まで響き、穏やかだった教室の空気が一瞬で張り詰める。教師の声は途切れ、ペンを走らせていた手も止まり、視線が一斉に入口へと向けられた。

 

そこに立っていたのは、一人の女子生徒。

 

遠慮という言葉を知らないような堂々とした立ち姿。扉に手を掛けたまま、まるでこの場の主導権を最初から握っているかのように、教室全体を見渡している。

 

「失礼、イスフィという生徒はいるかしら?」

 

静かに、だがよく通る声でそう言い放つ。

 

堂々とした出で立ちのまま、扉の前で腕を組むその姿には、一切の躊躇いも遠慮もない。視線を逸らすことすら許さないような圧が、じわりと教室中に広がっていく。

 

その腕に押し上げられた体のラインに、男子生徒たちの視線が一瞬で集中するが──

 

当の本人は、そんなものを意に介した様子すらなかった。

 

むしろ、視線の一つ一つを踏みつけるような冷淡さで、ただ目的だけを見据えている。

 

一方で。

 

イスフィは突然の来訪に、完全に思考が追いついていなかった。

 

「……え?」

 

間の抜けた声がぽつりと零れる。

 

まさか自分の名前が呼ばれると思わなかった

 

周囲の生徒たちがざわつく中、何人かがこちらをちらりと見る。その視線に背中を押されるように、イスフィはぎこちなく手を上げた。

 

「え、あ……は、はい……ウチ、やけど……」

 

それもそのはず、イスフィとモウガンの間にこれといった関わりはない。せいぜい医務室で一度顔を合わせた程度で、自分を名指しで探し(?)に来る理由など思い当たらなかった。

 

かくいうモウガンも、表面上は同じ条件のはずなのだが……どういう訳かこうして来訪している?

 

「……そう」

 

短く応じると、モウガンは腕を解いた。

 

そのまま、ゆっくりと教室の中へ足を踏み入れる。

 

コツ、コツ、と規則正しい足音が響くたびに、生徒たちが無意識に道を空けていく。まるでそこを通るのが当然であるかのような、不思議な圧があった。

 

「……ふーん、あんたがメルの言ってた子ね」

 

やがてイスフィの席に辿り着くと、モウガンはじろりと視線を滑らせた。足先から、膝、腰、胸元、そして顔の輪郭へと、舐めるように観察していく。

 

値踏み。

まさにそんな言葉が相応しい視線だった。頭のてっぺんから足先まで、余すことなく観察し終えたモウガンは、小さく鼻を鳴らす。

 

「ま、いいわ。ちょっと面貸しなさい」

 

「えぇ!?」

 

イスフィの素っ頓狂な声が教室に響いた。

 

周囲の生徒たちもざわりと揺れる。

当然だ。いきなり現れて、いきなり名指しして、いきなり連れ出そうとしているのだ。状況が理解できる方がおかしい。

 

「ほら、早く立って」

 

モウガンは有無を言わせぬ口調で続ける。

 

拒否、という選択肢を最初から用意していない声音だった。

 

「いやいやいや、ちょっと待って!?なんでウチが……しかもまだ授業中──」

 

「時間の無駄」

 

食い気味に遮られる。

授業をしていた教師は時間の無駄だと断言されて白目を剥いていた。

 

非常に哀れなことこの上ないが、結局無理やりモウガンに引き摺られる形でイスフィは連れて行かれることになった。

 

 

 

モウガンに連れられて、イスフィが辿り着いたのは──学園の外れにある開けた庭だった。

 

整備の行き届いた中央区画とは違い、ここはどこか手付かずの空気が残っている。雑草がまばらに生え、風に揺れるたびにざわざわと耳障りな音を立てていた。

 

そして、その奥。

 

ぽっかりと口を開けた自然生成の洞窟が、まるでこちらを見下ろすように鎮座している。

 

害獣が出る場所として有名な区域だ。

 

しかもただの害獣ではない。下手な生徒では対処しきれない個体が多く、教師ですら頻繁に見回りに来るわけではない。いわば“放置されている危険地帯”。

 

だからこそ、人の気配がない。

あまりにも静かすぎる場所に連れてこられて、イスフィは思った。

 

(ウチ、このまま殺されたりせんよな……?)

 

と、戦々恐々としていると前を歩いていたモウガンが振り返る。

何を言い出すのか身の危険を感じながら様子を伺うと、やはり腕を組んで口を開いた。

 

「ここよ。アンタ、パートナーのチビスラがいるわよね。今すぐ呼び出しなさい」

 

「え?ま、まぁおるけど、なんで知ってるん?誰にも言ってないねんけど」

 

イスフィの言葉には、僅かな焦りと疑問が滲む。

秘密にしていたはずの情報が、あまりにもあっさりと暴かれたことへの動揺と懐疑心だ。

 

しかしモウガンは、その反応を見ても特に何も返さなかった。

むしろ、最初から分かっていたことを確認しただけのような顔で、淡々と口を開く。

 

「メルとヴェスティ様……先生から話は全部聞いてるわ。アンタがチビスラと契約してることも、それが発端で桜の王種との戦いに巻き込まれたことも。

 

そして、なんの力にもなれなかった弱い人間だってことも」

 

吐き捨てた物言いに、反射的に低い声が漏れる。先程までの戸惑いは消え、代わりに滲んだのは明確な反発だった。

 

余計な感情は乗せずに事実を確認するみたいな言い方が、その無機質さが、逆に鋭く刺さる。

 

「──なんやて?」

 

イスフィの視線が鋭くなるのも当然のことだ。

 

しかしモウガンはその変化を正面から受け止めながら、ほんの僅かに目を細めて嘲るように口元を歪めた。

 

「事実でしょ?あの場に置いて、ちゃんと動けたのはメルとアグニとヴェスティ先生だけよ」

 

「………っ」

 

否定は出来なかった。

あの場にいたほぼ全員が、戦うことよりも逃げることを優先していた。

 

肌を刺すような殺意。

地面を揺らす巨大な花と桜。

視界の端で崩れていく校舎と、逃げ惑う生徒たちの背中。

 

あれは戦いではない。ただの災害だった。

だからこそ、逃げるという選択は間違っていない。むしろ正しい。生き延びるための、最も合理的な判断だ。

 

だが──。

 

その“正しさ”が、そのまま“無力さ”の証明でもあった。

 

誰かに任せるしかない。

誰かが勝つことを祈るしかない。

 

自分では、何も出来ない。

 

「別に、責めてるわけじゃないわ」

 

そう言いながらも、モウガンの冷たい視線は一切緩まない。むしろ余計に冷たさを増して、怒りにも似た表情を浮かべている。

 

「弱いのは仕方ないもの。最初から強いやつなんて殆どいない。勿論、こんな事を言う私だって、まだまだひ弱な赤ちゃんみたいなものよ」

 

さらりと言いながら、モウガンは肩をすくめる。

 

だがその仕草とは裏腹に、言葉の奥には奇妙な重みがあった。

 

それは自己卑下ではない。

現状を正確に把握した上での、冷静な自己評価。

 

だからこそ、その次の言葉はより鋭くイスフィに響いた。

 

「問題は──それで終わるかどうかよ」

 

「……嫌や。ウチはそんなんで終わりたくない」

 

「ふん、分かってるじゃない。ならさっさとアンタは、そのスライムを呼び出しなさい。人間は人間らしく、パートナーと共に強くなる。

 

ジュギョウとやらで教わったでしょ?」

 

優しく風が吹いた。

荒れた庭に生えた雑草がざわりと揺れ、洞窟の奥からは、どこか湿った空気が流れ出してくる。静寂の中で、その音だけがやけに大きく感じられた。

 

イスフィはしばらく何も言わなかった。

 

ただ、自分の胸元に手を当てる。そこにある繋がりを、確かめるように。

 

(……呼び出す)

 

簡単なはずだ。

契約している以上、呼べば来る。

 

それだけの話。

 

なのに。

 

(なんでやろ……)

 

胸の奥が妙にざわつく。

 

エナリスはいい子だ。自分のことをパパと慕い、メルを実の母親のように甘えてくれる。普通のチビスラと違って喋れるという特異性を除けば、弱いチビスラに相違はない。

 

だからこそ──。

 

(強くなるって言うのは、ウチのエゴなんやないか?)

 

その事実が、妙に引っかかった。

 

呼び出すこと自体は簡単だ。

けれど、どう在るかは全く別の話だ。弱いチビスラが強くなるには、きっも恐ろしい程の戦いが必要になるだろう。

 

モウガンは何も言わず、その様子を見ている。

 

急かさない。

だが、逃がしもしない。

 

沈黙がじわじわと圧を増していく。

 

やがて──。

 

「……分かった」

 

ぽつりとイスフィが呟いた。

 

その声には、さっきまでの迷いがまだ残っている。けれどそれでも一歩踏み出す覚悟は、確かにあった。

 

ゆっくりと息を吸い込み、目を閉じる。意識を内側へ沈めていく。契約の感覚を辿り、エナリスの名前が刻まれた指輪を優しく撫でる。

 

「──来て」

 

小さな声で呼ぶ。

 

すると、どこからともなくイスフィの足元に淡い光が滲んだ。水面のように揺らぐそれは、可愛らしい羽を持った流線型のフォルムを形作る。

 

ぽよん、と。

 

やがて軽い音と共に現れたのは、透き通るような体に、どこか柔らかい光を宿したチビスラだった。

 

 

 

───☆

 

 

 

どうも、高校生を誑かす中身おっさんの変態チビスラです。同窓会には行けません。今、刑務所にいます。

 

もし元の世界の友人達にメッセージを送るとしたら、こんなもんだろうか。ご主人様がいるというのもあるが、不思議なことに“何故か”元の世界に戻りたいと思わないから、もう会うことはないだろうな。

 

元の世界に戻っても、未成年と恋愛しようとしてるおじさんという破壊力満点の字面で逮捕されそうである。

 

「んきゅきゅあー」

(でもまぁ、約束は約束だからな)

 

寿命が短い。

恋愛をしてみたい。

後の作品で出てくる聖女と顔が違うため、恐らくリリアが死ぬのは確定している。

 

だから大人として、精一杯リードをするしかない。

 

ならまずはすべきことは……。

 

「えーきゅあ」

(デートかなぁ)

 

教室へ戻りながら今後の予定を考える。

“ご主人様に聞いて”、近場のカフェやらカラオケやらレストランやらの場所を把握しておく必要があるだろうな。

 

しかもそれに加えて、淵とラスボスのノア=ハルベルトの動向も把握する必要がある。

 

ノア=ハルベルトはモンスターに命令することが出来る、“語り上手(ミラマリア)”という能力を持っている。だが生憎と特異個体や王種には通用せず、あくまでも通常種や特殊個体にしか発動しない。

 

とはいえ、命令できるモンスターの数に制限はなく、自身の肉声が届く範囲ならば個体数は問わないという強力な力だ。しかも防ぐ術は存在しない。命令されたら終わりという、ラスボスに相応しいぶっ壊れた能力である。

 

だがまぁ、強すぎるが故に動きが活発化しやすく、対処は簡単だ。逆に言えば動き出すまで尻尾を出さないため、追跡は困難と言える。

 

俺の取れる対応は支配されたモンスターを正気に戻し、聖女を狙い続けるノア=ハルベルトの尻尾を掴み、引きずり出すこと。ストーリーが崩壊しているせいで原作のような対応は取れないが、勝つことは可能だ。

 

──可能なはず、だ。

 

正直言うと自信がない。

ドルマンですら謎の超強化を経ていたのだから、ノア=ハルベルトも能力の強化が入っても不思議ではないだろう。

 

その強化の内容が特異個体……王種すらも支配できるとしたら。

 

「……んきゅ」

(……いや、考えるだけ無駄か)

 

もし王種も支配出来ているとしたら、わざわざ回りくどいことをする必要なんてない。真正面から聖女を殺しに来て、それで終わりだ。

 

だから違う、そう思いたい。

 

 

 

ちなみにこの後、ご主人様に近場のカフェやレストランについて聞いたら、「誰と行くの?」とハイライトの消えた瞳で睨まれた。時律の王種みたいで、なんか背中がゾクゾクした。

 

決して目覚めてはいない。多分。

 

……そういえば、俺を助けてくれた時律の王種は今どうしてるんだろうか?もしあれが本当にご主人様の成れの果てなら、俺たちに協力してくれる気がするんだけどな。

人気キャラクター 二部

  • メリュジーヌ (メル)
  • ヴェスティ=クラウニア(ご主人様)
  • モウガン (ツンデレ牛娘)
  • アグニール (クーデレ王種)
  • フォス (元気っ娘)
  • アルマ=メイソン(最近出番がないぞ)
  • ソルガ (残念系イケメン美女)
  • イスフィ(関西弁パパ系ガール)
  • リリア
  • アマネ(実はポンコツやれやれ系少女)
  • オウヒ (好感度が上がるだろうか)
  • ノア=ハルベルト (ラスボス系美女)
  • ミツル (眼帯系王種)
  • フルちゃん(アルマの貴重なツッコミ要因)
  • シスターカプノス (生臭シスター)
  • モルド=クラウニア (変態お兄さん)
  • タナカ・サトウ・スズキ・ヤマダ
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