進化したら人外系お姉さんになる雑魚モンスの俺、飼い主♀の性癖を破壊する 作:霧夢龍人
パートナーランキング──それは、学園都市ヴァルヴォッサにおいて“最強のモンスター”と“最高のパートナー”を決める順位戦である。
単純な戦闘能力だけではない。
モンスターとの信頼関係、連携、育成能力、判断力。その全てを含めて評価される、学園最大の公式戦だ。
そのランキングにおいて、クリプトン家令嬢アマネは“十二位”という驚異的な順位に君臨していた。
二年、三年を含めた総合順位。
その中で一年生が二桁台、それも一桁目前まで食い込むなど、本来なら有り得ない。
将来を約束された天才。
次代の上位ランカー候補。
それが、周囲から見たアマネ=クリプトンという少女だった。
──だが。
その順位すら、今や完全に霞んでしまっている。
原因は、モウガンという名の転校生だ。
突如として現れたその少女は、常識外れの速度でランキングを駆け上がり、気付けば当時の一位すら撃破してしまった。
しかも、そのパートナーは。
モグライヌから進化した、“モグラワンコ”という訳の分からない特殊進化種──フォス。
誰も聞いたことがない進化先。
誰も見たことがない戦闘能力。
誰も理解できない成長速度。
結果として、モウガンとフォスは学園中の話題を掻っ攫っていった。
……まあ、正直に言えば。
桜の王種の襲来だとか。
知人が聖女だっただとか。
重要指名手配犯に命を狙われているだとか。
そんなものを立て続けにぶつけられているせいで、ランキングのことなんて完全に頭から抜け落ちていたんだが、今朝の作戦会議でパートナーランキングのことが話題に上がった。
若き天才アマネ=クリプトンと、数日で一位まで駆け上がった怪物、モウガンの二人でリベンジマッチをしようと言うのだ。
話題性は十分……いや、十分すぎる。
学園中の生徒が観戦に訪れるだろうし、当然モンスターたちも大量に集まる。ならば、聖女とモンスターが密集する瞬間を狙うノア=ハルベルトにとって、これ以上ない“餌”になるだろう。
つまりこれは、ランキング戦の形を借りた囮作戦だった。
……なのだが。
「あら、早めに終わりそうね」
モウガンが紅茶を口にしながらさらりと言った瞬間、空気が止まった。
「……は?」
逆鱗に触れられたとはまさしくこの事だろう。
ただの囮作戦のはずが、「早めに終わる」という単語のせいでアマネのプライドが傷つけられたのだ。
──絶対、吠え面かかせてやる。
本来なら、淵の王種が控えている以上、無駄な体力消耗は避けるべきだ。
しかし、彼女はまだ十六歳の少女である。真正面から煽られた以上、「ボコボコにしてやる」と考えてしまうのも半ば当然だった。
作戦決行は五日後。
“聖女も観戦に訪れる”という噂まで意図的に流されたことで、学園内は既に大騒ぎになっていた。
どちらが勝つのか。
何分で決着がつくのか。
賭けにまで発展しているらしい。
そんな訳で──現在。
アマネはモウガン、イスフィ達と共に例の洞窟へと来ていた。
湿った土の匂い。
岩肌を伝う水滴の音。
薄暗い洞窟内には、相変わらず不気味な静けさが満ちている。
「ふんっ、貴様のようなデカ女に教わることなんてないぞ」
「あら、フォス一人に全滅されるチビ女が何か言ってるわね」
「……気まず」
「うが!」
(喧嘩するほど何とやらって奴だよね!)
「パパ可哀想……」
ほんとに可愛そうである。
方やプライド高めのお嬢様で、方や煽り癖のあるバトルジャンキーだ。相性が悪いなんてものではない。間に挟まれているイスフィは、フォスとエリナスに励まされていなければすぐさま踵を返していただろう。
だが運がいいのか悪いのか、害獣蔓延る洞窟はそんな三人にも分け隔てなく侵入者に襲いかかる。
──ギチギチギチッ!!
耳障りな鳴き声と共に、天井の岩陰から巨大な虫型害獣が降ってくる。
全長二メートルはあるだろうか。節足には鋭利な鉤爪。複眼は濁った紫色に染まり、口元からは粘ついた涎が糸を引いていた。
滴り落ちた涎が地面に触れると、グシュッと音を立てて溶解し始める。
「うわっ、キモッ!?」
イスフィが反射的にエリナスを抱き寄せた。
だが次の瞬間には、さらに左右の壁面から複数体。
前方。
後方。
退路を塞ぐように、ぞろぞろと這い出てくる。
「……囲まれたわね」
モウガンが呆れたように害獣を見つめる一方で、アマネはようやく苛立ちの矛先を変えられる相手を見つけたのか、不敵に口角を吊り上げる。
「ふんっ、丁度いい。貴様との実力差を見せつけてやる」
「……そう。せいぜい足を引っ張らないで頂戴?」
「言ったな、このデカ女!」
瞬間。
真正面にいる蜘蛛型害獣が弾け飛んだ。
「流石ね、フォス」
「うがっ!」
フォスの凶爪が、害獣を粉微塵にしたからだ。
出遅れたアマネは「ちっ」と舌打ちを零しながら、左の小指に付けた指輪を摘み、自身のパートナーを召喚する。
一体目はイーグルン──その進化先である、ホーグイーグ。巨大な翼を携えた鷲種のモンスター。名前はイカロス……2次進化だ。
二体目はマガパンドル。
物質型のモンスターで、箱のような形をした人を食い殺す事もある凶悪な個体だ。名前はパルード、こいつも2次進化。
三体目はパンプキング。
植物型でありながら実体が無く、逆にパンプキング側からは攻撃出来るという反則技を使える。
アマネの相棒モンスターであり、唯一の3次進化だ。名前はマスバ。
「あの女に負けるなよ、私のパートナー共」
言うや否や、害獣の群れに突っ込んでいくアマネのモンスター達。イスフィも負けじとエリナスと共に先へ進んでいく。
──☆
やっぱり凄いな、あの二人は。
それに比べてウチは怖がりやし、エリナスに頼ることしか出来ひん。あの子が傷付いてる時は励ましてあげることしか出来ひん。
「ふゆぅ……ボク疲れたよ」
「ありがとうな、ほんま」
時間にして約三時間。
ご飯とかエリナス達の餌は持ってきとるけど、流石に洞窟のくらい環境で戦いっぱなしは精神的に来るもんがある。モウガンさんとアマネちゃんは平気そうやけど、ウチらは既に疲弊しまくりや。
でも、こんなんじゃダメ。
リリアの恩人をぶっ倒した犯人を捕まえるためには、この程度でへこたれとったら女が廃るいうもんやろ。
今は休憩中やけど、残り五日までに強くなっとかんと話にならん。それに奥に進めば進むほど、害獣は強く、そして数も多くなってきとる。
モウガンさんもモンスター(?)らしいけど、フォスちゃんと合わせてそろそろ進化できそうらしいし、ウチらもペース上げんと追いつかれへんわ。
焦りが募っていくうちに、気付けば休憩時間が終わる。
「そろそろ行くわよ」
先頭で壁にもたれ掛かっていたモウガンさんが、巨大な骨肉を片手に立ち上がる。
その瞬間やった。
ぞわり、と。ウチの背筋を嫌な寒気が撫でる。
「……え?」
モウガンさんの背後。
何もいなかったはずの空間に、突如として黒い人型の害獣が現れた。アマネちゃんもモウガンさんも、それどころかウチの隣におるエリナスも気付いてない。
声をかけようにも──これじゃ間に合わんッ!
ウチは咄嗟に、近くにあった石を手に取った。そして全力で、黒い人型の害獣目掛けてぶん投げる。
カンッ、て硬い音をたてて石が害獣をすり抜けた。
「……なに?」
そのお陰で、モウガンさんが後ろを振り返る。
やけど違う。
振り向いた一瞬で害獣は消えてもうた。
居なくなったんか?
いいや、そんなわけない。さっきまでの悪寒が消えてない。ウチは目を閉じて、自分の直感を信じることにした。
視界を捨てて、周りに意識を集中させる。
ぽたり、ぽたりと落ちる水滴の音。
エリナスの小さな呼吸。
フォスちゃんが地面を擦る爪音。
モウガンさんが肩にハルバードを担ぎ直す音。
……いや、音だけやない。
目を閉じてるはずなのに、アマネちゃんを除いた全員の姿が手に取るように分かる。
そこに誰が立っていて。
どんな風に息をしていて。
どこへ意識を向けているのか。
輪郭みたいに、頭の中へ流れ込んでくる。
「……なんなん、この感覚……」
自分でも分からへん。でも、意識を深めれば深めるほど、洞窟全体が妙にはっきりしていく。そしてその中に一つだけ、異様に“冷たい何か”が紛れとった。
──おる。
しかも、近い。
頭の中にぼやけた輪郭が浮かび上がる。
黒いくて、細長い人型。間違いなくさっき姿を消した害獣や。アマネちゃんの場所は何故か掴めへんけど、さっきから動いてないとしたら──。
「右や!!!アマネちゃんの右におる!」
「ッ、そこかァッッッ!」
アマネちゃんがウチの声に反応するのと、害獣が襲ってきたんはほぼ同時やった。
ガギィィッ!
アマネちゃんの『パンプキング』──マスバが生み出した鋼のような蔓と、黒い害獣の腕が真正面からぶつかり合っとった。
岩肌が軋み、火花が散る。
細い身体からは想像もつかへんほど、重い一撃や。
けど、あんまりウチのアマネちゃんを舐めたらアカン。
「──やれっ!」
その声と同時。
上空で待機していた『ホーグイーグ』──イカロスが急降下した。轟風とともに鋭利な翼刃が、黒い害獣の背中を斬り裂く。
さらに畳み掛けるように、アマネちゃんが命令を下す。
「トドメだパルード、噛み砕け!」
『マガパンドル』が大口を開き、横合いから害獣へ食らいついた。
ゴギャァァァァッ!!
と、凄まじい咆哮。黒い身体が、強引に地面へ叩き伏せられる。痛みに呻く害獣はノロノロと起き上がった後、洞窟の闇に溶け込むように消えていった。
──ウチらの勝ちや。
それがわかった瞬間、一気に全身から力が抜けた。
「た、助かったぁ……もう死んだ思たわ」
「すごいすごい!これぞ連携プレーだね!」
エリナスが身体を支えながら褒めてくれる。気持ちは嬉しいけど、モウガンさんとアマネちゃんが怪訝な顔でウチを見つめてくんのがちょっと怖い。
え、なんかしたっけウチ。
「今の……」
「ええ、恐らくね」
終いには仲が悪かったはずなのに、顔を突き合わせてアイコンタクトを取り始めた。ほんでそれ以降喋らずに、無言でウチをガン見し始める。
「……えっと、なんでそんな見てくるん?」
居心地が悪くなって、ウチはエリナスを抱き寄せながら後退る。
洞窟の奥は相変わらず薄暗い。
さっきまで命のやり取りをしとったせいで空気も張り詰めとるっちゅうのに、今は別の意味で胃が痛かった。
モウガンさんは腕を組み、アマネちゃんは目を細めたままウチを観察しとる。
「……今の、普通じゃないわ」
「なにが?」
「姿を消した害獣の位置を、“感覚だけ”で特定した。しかも、ほぼ誤差無しでな」
アマネちゃんが真剣な顔で言う。
いや、そんなこと言われても。
ウチからしたら、なんか分かったとしか言いようがないんやけど。
「偶然ちゃうん?」
「偶然で済むなら苦労しないわよ」
モウガンさんが肩を竦める。
「そもそも、あの害獣は気配遮断型。普通の感知じゃ捉えられない。フォスですら見失っていたのに、貴女だけが正確に位置を把握した」
「うが……」
(ほんとに気付かなかった……)
フォスちゃんが悔しそうに耳を伏せる。
それ見た瞬間、逆にウチの心臓が跳ねた。
フォスちゃんでも分からへんかった?
いやいやいや、そんな訳ある?
ならなんでウチは気付けたんやろか。
「いや、でも……なんか、分かったとしか言いようがないんよ。そこにおるって」
「そこよ。なんとなく分かる──それが一番重要なの」
ピシャリと言い聞かせるようなモウガンさんの声に、ウチはたじろいだ。怒られてる雰囲気じゃないのは確かやけど、物々しい言い方で何か責められとる気持ちになる。
暫くの無音。
誰も言葉を発さずに、水滴が滴る音だけが響く。
あまりに気まずさに助けを求めるようにアマネちゃんを見れば、静寂を切り裂くように口を開いた。
「イスフィ。お前、薄々思ってはいたが──
「…………へ?」
TIPS:
【聞き上手】《アノマリア》
モンスターの感情や意思、動きなどを“声”として知覚する能力。
本来は言葉を持たないモンスターとも会話が可能になり、何を考え、何を伝えたいのかを理解できる。
所有者:アルマ、シスターカプノス
【語り上手】《ミラマリア》
自身の感情や意思をモンスターへ直接届ける能力。
言葉を介さず心へ干渉することで、モンスターを従わせたり、行動を誘導したりすることができる。
所有者:ノア=ハルベルト
【察し上手】《エナマリア》
モンスターの存在を感覚的に把握する能力。
姿が見えなくても、気配を消していても、別空間に潜んでいても、“そこにいる”ことを察知できる。
所有者:イスフィ
聖女とは、これら三つ全てを有する特別な存在である。
故に聖女は、モンスターの“居場所”を察知し、モンスターの“声”を聞き、自身の“意思”を伝え、そして従えることが出来る。
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