進化したら人外系お姉さんになる雑魚モンスの俺、飼い主♀の性癖を破壊する 作:霧夢龍人
イスフィが『
修行から帰ってきたモウガンから、あまりにもデカすぎる爆弾を投下された俺は、その場で数秒ほど思考停止した。
……は?
いや待て待て待て。
そんな素質あったの、あの子。ゲーム本編はもちろん、設定資料集でも一切出てきてない情報なんですがそれは。
というか『
モンスターの位置を感覚的に把握する、あのクソ厄介能力。アルマが持つ『
中でも『察し上手』は、モンスターの種類やらその数、突然の奇襲にすら対応できる。
気配遮断?
透明化?
別空間潜伏?
知るかそんなもんと言わんばかりに、そこにいるという事実だけを無理やり感知してくるインチキ能力だ。
しかも聖女本人が使うと範囲も精度もバグじみている。下手すれば都市一つ覆うレベルだ。まぁ、リリアは寿命が近いためか能力が弱まってるらしいから、未だに淵と大量のモンスターの足取りを掴めていないらしいが。
「……んきゅきゅ。ぎゅあきゅ?」
(……いやいやいや。流石に勘違いじゃなくて?)
思わずそう返すと、モウガンは呆れたように肩を竦めた。
「フォスですら見失った個体を正確に捉えていたのよ?偶然で片付ける方が無理あるわ」
「うが」
(正直ボクもビックリした)
フォスが真顔で頷いている。
「う、うーん。能力とかどうのこうの言われても、ウチからしても何かの間違いやないかなとしか思えへんのやけどなぁ」
イスフィは苦虫を噛み潰したように悩みを打ち明けるが、モウガンはこういう冗談を言うタイプじゃない。
「恐らくまだ“未発達”なんでしょうね」
「んきゅ?」
(未発達?)
「察知範囲も狭いし、本人も制御できていない。でも逆に言えば、成長途中ってことよ」
さらっと恐ろしいこと言いやがった。
つまり何か?成長したら、イスフィがノア=ハルベルトや淵の王種の位置まで把握できる可能性があるってことか?
……いや、それ普通にクソ強くない?
「でも、なんで今になって急に……?」
ご主人様が小さく呟く。
その疑問には、俺も同意だった。
『
するとモウガンは、ちらりとイスフィを見る。
「多分だけど、“王種”を近くで見すぎたのよ」
「……へ?」
「桜の王種。淵の王種。そして聖女。普通の人間なら一生関わらない存在と短期間で接触しすぎた。結果として、眠っていた感覚が刺激されたんでしょうね」
「きゅあ……」
(そんなので覚醒すんのかよ……)
「知らないわよ。聖女関連なんて未解明だらけだもの」
モウガンはそこで一度言葉を切り、真面目な顔になる。
「でも一つだけ確かなのは、その力が本物なら──ノア=ハルベルトに対する最大級の対抗手段になり得る」
その通りだ。ノアの厄介な点は、“見つからない”こと。
モンスターを操り、霧に紛れ、淵の王種すら従えて暗躍する。だから捕まえられない。だがもしイスフィの能力が本物ならどれだけ隠れようが、
どこへ逃げようが“そこにいる”ことだけは暴ける。
全ての動きが筒抜けな訳だ。
「……はは」
乾いた笑いが漏れる。
試しに今能力を試して貰えば、俺やモウガンがモンスターであることもしっかり確認できたらしい。それどころか、ご主人様がモンスターと人間の間であることも見抜きやがった。
まだ俺たちしか知らない情報を当てたんだ。信じざるを得ない。
後は範囲やスピードを磨いていけば、しっかりモノになるだろう。まさかの思わぬ収穫で、インチキ支配軍団相手に勝ちが見えてきた。
……ところで俺たちの近くに、ご主人様とよく似た気配が彷徨いているらしいが……まさか時律の王種だったりするのだろうか?接触してこないのは謎だが、なんとかノア=ハルベルトに操られないようにしてほしい。
これでもし支配されでもすれば、万が一にでも俺たちに勝ち目はないのだから。
あとは……そうだな。
アマネが根を詰めすぎているらしい。ご主人様と一緒に様子を見に行った方が良さそうだ。
───☆
「くそっ……!」
鋭い舌打ちが、湿った洞窟内に響く。
アマネ=クリプトンは苛立っていた。
視界の先では、害獣だった肉塊がゆっくりと黒い粒子になって崩れていく。マスバの蔓が胴体を貫き、イカロスの風刃が首を飛ばし、パルードが残骸を喰らい尽くした結果だ。
本来なら、圧勝。
一年生としては破格どころではない。
普通なら称賛されて当然の戦果だった。
だが──。
「全然、足りない……!」
アマネは拳を握り締める。
洞窟に一人籠り、休みなく害獣を狩り続けているのに、思うような成果が出ない。
ついこの前まで、ただの一般生徒だった女がいた。
──イスフィである。
ちょっと怖がりで、戦うことにも慣れていない青臭い生徒。そんな少女だったはずなのに、気付けば聖女級の能力に目覚め始めている。
対して自分はどうだ。
血筋も。
才能も。
努力も。
全部積み上げてきた。
幼い頃から期待され、天才と持て囃され、クリプトン家の誇りとして育てられてきた。
それなのに、王種や聖女のような本物の“怪物”たちを前にすると、自分がただの秀才に思えてしまう。
「……ふざけるな」
ぎり、と奥歯を噛み締める。
認めたくない。
追いつけないなんて。
置いていかれるなんて。
そんなの、絶対に認められるか。
「イカロス! 上だ!」
甲高い鳴き声と共に、ホーグイーグが天井付近へ急上昇する。その直後、ギシャァァァァッ!!と甲高い耳障りな声を上げて岩陰に潜んでいた蜥蜴型害獣が飛び出した。
だが遅い。
「パルード、拘束!」
箱型の身体が変形し、鎖のような触手が害獣へ絡み付く。動きを止めた瞬間、アマネは右手を振り下ろした。
……足りない。
「マスバ」
ぼそり、と。
その声を裂くように、無数の黒紫色の蔓が地面から噴き出す。そして逃げ場を失った害獣を、串刺しにするように貫いた。
上がる血飛沫と断末魔。
塵のように消えていく害獣を眺めながら、アマネは呟いた。
………全然、足りない。
「まだだ」
こんな程度じゃモウガンには届かない。それどころか、イスフィにすら敵わないような気がして、苛立ちを抑えるように壁に拳を叩きつける。
「
ぽつりと零れた声は、湿った洞窟の奥へ静かに沈んでいった。まるで、自分自身へ言い聞かせる呪いのように。
アマネは荒く息を吐く。額には汗が滲み、指先は震え、長時間の激しい運動によって視界すら微かに霞んでいる。
それでも彼女は立ち止まらなかった。
「イカロス、左から回れ!パルードは足を止めろ!マスバ、上から叩き潰せッ!」
害獣の断末魔が響く。
黒い血が飛び散り、洞窟の壁を汚していく。
だが、それでも。
──足りない。
どれだけ倒しても、どれだけ鍛えようが、モウガンのような理不尽には届かない。イスフィのような“特別”にも届かない。
「……まだだ」
息を切らしながら、アマネは奥に続くくらい道を見通した。
足元はおぼつかず、汗で張り付いた服が煩わしいのか、制服を脱いでフラフラと先へ足を進めようとする。
その時だった。
「アマネちゃん!!」
聞き覚えのある声が、洞窟内に響く。
反射的に振り返ったアマネが見たのは、薄暗い通路の向こうに、揺れるランタンの灯りに照らされる二つの人影。
「……は?」
そこにいたのは、学園で一番話題になっていると言っても過言では無い少女──メルと、肩で息をしているヴェスティだった。
「な、なんでヴェスティ先生とメルが……?」
「なんで、じゃないよ」
ヴェスティが呆れたように眼鏡を押し上げる。
普段通りの落ち着いた声音。
なのに、僅かに眉間へ皺が寄っていた。息苦しいのか、メルに支えられながらピシッと額に人差し指を突きつけてくる。
「君、今日だけで何時間この洞窟に籠もっていると思っているの?」
「別に……関係ないだろ。放っておいてくれ」
「関係ない、だって……?」
吐き捨てるようなアマネの言葉に、ピキッとヴェスティの額に青筋が走る。あくまで先生役として学園に来たにすぎないヴェスティだが、それでも臨時の先生には変わりない。
ならば、目の前の少女を正す義務があった。
「全然帰ってこないし、ご飯も食べてない。イスフィちゃん達も心配してる。勿論、私達も」
「それは……」
「知ってるよ。君、ここ最近ずっと無理してるでしょ」
心配を滲ませた言葉に、アマネの肩が小さく震えた。図星だった。
勿論、そんなこと、自分が一番分かっている。明らかに無理をしているし、追い込みすぎている。眠れていないし、食事だってまともに取っていない。明らかなオーバーワークだ。
パートナーたちは無理させないようにしているが、完全にスタミナが回復しきっていない。このままじゃジリ貧だろう。
でも──止まれなかった。
止まってしまえば、きっと自分は置いていかれる。
「……お前らには分からるまい。私のような秀才の弱さ」
アマネは俯いたまま呟いた。
その声は酷く掠れていて。
長時間叫び続けた後みたいに、酷く弱々しかった。
「モウガンは怪物だ。イスフィは聖女みたいな能力に目覚め始めた。周りはどんどん先に行く」
握り締めた拳が、小刻みに震える。
爪が掌へ食い込むほど強く深く、現状を冷静に理解しているからこそ、弱い自分に怒りが抑えられない。
「なのに私だけ、何も変われてない……!」
叫びにも似た声だった。
イカロスも。
パルードも。
マスバでさえ。
ただ静かに、主人の言葉を聞いていた。
「私はクリプトン家なんだぞ……期待されて、天才と謳われ、ずっとそうやって生きてきたのに……そうあるべきだと信じて来たのに。
今ではこのザマだ」
幼い頃から背負わされ続けてきた期待と誇りが、今では煩わしい。
悔しかった。情けなかった。努力は間違いなくしている。誰よりも積み上げてきた自信だってある。
なのにモウガンや聖女、王種のような“本物”を前にすると、自分の全てが霞んで見えた。
喉の奥が熱く、視界が滲む。
それでも泣くまいと、アマネは俯いたまま耐えていた。
その瞬間だった。
──ぽすっ、と頭に柔らかな感触が落ちる。
「……え?」
アマネが顔を上げる。そこには、困ったように眉を下げながら笑うメルがいた。小さな掌が、そっとアマネの頭に乗っている。
自分の結果に上手くいかなくて拗ねる子供を宥めるように優しく、丁寧に、妙な温みを持った手のひらがアマネの髪を優しく梳かす。
「んきゅ」
(よしよし)
柔らかな鳴き声だ。洞窟の中は冷えているはずなのに、どうしてか、その手だけは不思議なくらい温かかった。
張り詰めていた心の奥へ、じんわり熱が染み込んでくる。
否定も叱責もない。ただ、頑張っていることを認められるようなメルの温かさが心地よくて、アマネは何も言えずに黙って撫でられていた。
「……君は、頑張ってるよ。慰めでもなんでもなく、積み上げてきた汗と血の結晶は君自身が一番理解してることだ」
「ッ!」
ヴェスティはそう言いながら、アマネの背後に回った。
そして小さな背中を優しく抱きしめ、メルとともに頭を撫でる。真ん中に挟まれたアマネは、無言でその温かさを享受する。
いや、享受するしか無かった。
胸の奥でぐちゃぐちゃに渦巻いていた焦燥も、劣等感も、悔しさも、二人の温もりに触れた瞬間、少しずつ溶けていく。
気付けば、強張っていた身体から力が抜けていた。
ヴェスティへ預けていた背中が、ゆっくり前へ傾く。そして、完全に落ち着いた頃には、アマネはメルの胸へ顔を埋めるように抱き着いていた。
柔らかい感触と、ふわりと甘い匂い。
メルは驚いたように目を丸くした後、へにゃりと優しく笑う。
「んきゅ」
(えらいえらい)
ぽん、ぽん。
子供をあやすみたいに、優しく頭を撫でるメル。その度に、アマネの張り詰めていた表情が少しずつ緩んでいった。
いつもの強気な顔ではない。
誰にも見せたことのないくらい、安心しきった顔だった。
数分後。
「っ、お、覚えてろよ貴様ら!私が絶対にモウガンをぶっ倒してやるからなッ!!!」
と、頬を真っ赤に染めながらも洞窟の奥ではなく出口へと向かっていくアマネ。相変わらず足取りはフラフラしていたが、出口付近の害獣は全てメルが倒しているため心配はいらない。
むしろ鬼気迫った表情が和らいだようで、二人は安堵のため息をついた。
期限は五日間。
長いようで短いこの百数十時間は、まるで本のページを捲るようにスルスルと流れていく。
理不尽の塊みたいなノア達との戦いは、刻一刻と近付いているのだ。
イフ版も更新します
人気キャラクター 二部
-
メリュジーヌ (メル)
-
ヴェスティ=クラウニア(ご主人様)
-
モウガン (ツンデレ牛娘)
-
アグニール (クーデレ王種)
-
フォス (元気っ娘)
-
アルマ=メイソン(最近出番がないぞ)
-
ソルガ (残念系イケメン美女)
-
イスフィ(関西弁パパ系ガール)
-
リリア
-
アマネ(実はポンコツやれやれ系少女)
-
オウヒ (好感度が上がるだろうか)
-
ノア=ハルベルト (ラスボス系美女)
-
ミツル (眼帯系王種)
-
フルちゃん(アルマの貴重なツッコミ要因)
-
シスターカプノス (生臭シスター)
-
モルド=クラウニア (変態お兄さん)
-
タナカ・サトウ・スズキ・ヤマダ