進化したら人外系お姉さんになる雑魚モンスの俺、飼い主♀の性癖を破壊する 作:霧夢龍人
焔と淵の衝突。
それは後の世においても語り継がれる、“伝説”の一頁である。
万物を焼却し、果てなき熱量を生み出す焔の王種。対するは、水──否、あらゆる液体を支配する淵の王種。単純な属性相性だけで語るならば、優位に立つのは焔だろう。水は蒸発し、淵は焼き尽くされる。
本来なら、それが自然の理である。
だが。
淵の王種が操るのは“水”という一言で片付けられるものではない。
血液。
体液。
毒。
泥。
果ては概念すら液体として解釈し、支配領域へ組み込む。故に彼女は、絶対的不利すら一時的に踏み倒す。焼かれるなら、その前に呑み込めばいい。蒸発するなら、その蒸気すら支配すればいい。
それが、“淵”という王種だった。
「──“
アグニが片手を掲げる。
瞬間、紫炎が膨れ上がった。
業火。
灼熱。
破滅。
見るだけで様々な文字が想起する純然たる熱量の塊は空間を歪め、周囲の地面を融解させていく。まさしく“火恐怖症”にならんばかりの焔は、【
対するミツルは、静かに両手を重ねる。
「──“
轟音とともに、頭上に形成されていた濁流が、一気に崩れ落ちる。
津波。
豪雨。
濁流。
空そのものが海へ変貌したかのような莫大な水量が、渦を巻きながら世界を押し潰さんと迫っていた。対峙した王種二人が放った技は、言うなれば小手調べ。相手の力量を測るための、ただの“ジャブ”に過ぎない。
しかし。
押し寄せる濁流と、紫色に燃え盛る超高熱の炎は、到底一般のモンスターでは到達し得ない領域だった。そして、両者の力が衝突した瞬間──地震と見紛うほどの衝撃が大地を駆け抜ける。
ゴバァァァァァァァァァッッッ!!!!
いよいよもって、灼熱と濁流が激突したのだ。超高熱によって水が瞬時に蒸気へ変換され、しかしその蒸気すらミツルは支配下へ置き、再び濁流へ組み替えていく。ならばとアグニは熱量をさらに引き上げると、空が赤く染まり、周囲の酸素すら燃え始めた。盛り猛る熱の火力は、膨大な量の水すら一瞬で消し去ってしまう。
蒸気すらも残らない。
「なるほど、流石は同じ王種ですわね。ですが、まだまだこれからでしてよ?」
「う、ざ」
眼帯の下で何を考えているのか、相手の力量を読み取ったミツルは余裕そうな顔を崩さなかった。それどころか、次なる一手を繰り出そうと、周囲に浮いている水の塊を地面に叩き付ける。
一見、意味のない行動。
事実、溶融した地面に弾けた音を響かせた液体は、情けなくも瞬時に気体へと変わっていく。「気でも狂ったのか?」と内心毒付くアグニだが、その考えは一瞬にして警戒の二文字へ塗り替えられた。
ドプンッという生々しい音を立てながら、地面が紫色に変貌したからだ。
「──“
死を冠するこの技は、掠めた相手の命を簡単に奪えてしまうことから名付けられた。たとえ蒸発しようとも、気体となって身体中を猛毒に侵す凶悪なシロモノだ。アグニは平気そうな顔を浮かべているが、遠くで逃げ遅れた生徒を守るために周囲を睥睨しているメルにも毒の脅威は遅い掛かる。
肺が焼けるほど痛い。
吸引しただけであるにも関わらず、3次進化の王種であるメルの身体機能を簡単に阻害できるのだ。間近で浴びているアグニも無事ではすまないはずだが……。
「毒にたよ、るとか。わらわ、せる。次は、私の番だよ」
うざったそうに顔を歪めるだけで対して効いてはいない。それどころか、焔を更に盛り上がらせて追撃を測ろうとしている。ミツルは顔を歪ませながら、迎撃態勢を先んじて取った。同じ王種とはいえ、そこまで理不尽なのかと。理不尽だから王種なのかと。
答えはどちらとも正解だ。
第一、数多くいるモンスターのうち、火という属性はありふれたモノ。モンスターが産まれて三千年以上経つこの世の中で、強力な炎使いや焔の個体は数え切れないほど多くいた。しかし、誰も王種へ至ることは出来なかった。
なのに、だ。
六十年前に誕生した若い個体である彼女が王種へ辿り着いてしまった。三千年の歴史の中でアグニ以上に強く、強靭で、人智を超えた能力を持つものが、アグニ以外にいなかったのである。
そしてそれを示すが如く、アグニは口先から焔と黒い煙を吐き出しながら技を繰り出した。
「屠り去れ──“殄・葬・滅《テン・ソウ・メツ》”」
ラスボスを瀕死に追いやった【滅劫】がジャブなら、周囲を気にせず自由に力を行使できるようになったアグニの攻撃は如何程なものか。ゲームで敵に操られていた彼女は、終盤で登場する鬼門のボスだった。無事アグニを倒し、ラスボスのドルマンも鎮圧した後、次に彼女が登場するのはエンドコンテンツ。
すなわち、裏ボス枠だ。
そんなアグニが味方として戦うというのは、前作での強キャラがろくな弱体化もせずに仲間になったのと同じである。相性が悪い桜以外では、全力のアグニを止められる者はこの場において存在しない。
人間が視認できるギリギリの温度である紫色の焔は、支配者であるアグニの手に合わせて更に温度を跳ね上げていく。虹色のように変化していく紫はやがて黒色へと変貌し、アグニの周囲を蜃気楼のように波打たせていた。
石畳は赤熱化を通り越して液状化し、ドロドロに溶けた地面が煮え立つマグマのように泡立っていた。雨雲から落ちてきた雨粒は、途中で蒸発することすら許されない。
「あらあら、せいぜい数十年ほどしか生きてないような小娘が……生意気だこと。ですが、実力は確かのようですわね」
「生意気?おば、さん。みぐるしい、よ?」
「──ガキが、舐めてると潰しますわよ」
「じゃ、やってみて、よ」
まさしく売り言葉に買い言葉。
煽られたミツルの背後では、濁流が爆発的に膨れ上がる。空中へ巻き上がった水が幾重もの輪を描き、巨大な渦潮となって空を覆い尽くした。校庭どころではない。学園都市の一区画そのものを呑み込めそうな規模だ。
対するアグニは、一歩前へ出る。たったそれだけで。
ゴッ──!!と足元から爆炎が噴き上がった。溶けた地面が吹き飛び、赤熱化した石片が砲弾のように周囲へ撒き散らされる。熱波だけで観客席の柵が歪み、遠方の窓ガラスが次々に砕け散った。
決着は近い。
お互いにまだ技を隠し持っているが、これ以上の出し惜しみは愚策。よって、最大最高の火力を持って勝負を決めに掛かる。
「お墓は、いらないよね。骨も残らないから──“
「その言葉、そっくりそのままお返しますわ──“
災害。いや、天災と言っても過言では無い。
メルが粘液によって無理矢理にでも被害を抑えなければ、都市自体が容易く破滅していただろうことは容易い。しかしそうでもしなければ、ノア=ハルベルトに操られている淵を倒すことは敵わないだろう。
優勢なのは依然としてアグニ。とは言え、中心に佇む二人の焔と淵は留まる事を知らず、今も尚ぶつかり続けている。
……待て、二人?
メルは脳裏に浮かんだ嫌な予感を晴らすように、校庭が
「んきゅ……」
(いねぇ……)
アグニとミツル以外に人影は見当たらない。肝心のノア=ハルベルトの姿がどこにもいないのだ。地面が溶解し、メルと聖女リリアによるモンスターの総動員によってあまり被害を出さないようにしているものの、その中心の解説席にいたノアが無事とは思えない。まさか、死んだわけではないだろう。
「メルちゃん〜!もうこっちは避難終わったよぉ〜!!」
リリアが大声で俺に誘導の終了を呼びかけてくれる。それ自体は大変有難いことなのだが、姿の見せないノアに嫌な予感が更に引き上げられる。
その刹那──。
『やぁやぁ、皆さんお揃いだねぇ。避難誘導お疲れサマ。流石は聖女とその愉快なモンスター御一行様だ』
校庭に数多く設置されているスピーカーから、憎らしいほど朗らかなノア=ハルベルトの声色が聞こえてきた。しかし、居場所は分からない。スピーカーの設置台数が多すぎて、発信源の捜索が困難だからだ。
背後では動揺する生徒達と教師の声。
『でも残念。生への希望を抱いたとこで、絶望に突き落とす。私はそれが大好きでねぇ〜。だから“魔女”なんて呼ばれるんだけど……まぁ、これから死ぬ君たちには関係ない話だ。
それじゃ──【私に従え、モンスター共】』
スピーカーから流れた声は、まるで耳元で囁かれたかのように生々しかった。メルは危機を感じて【滅劫】によるスピーカーの一斉破壊をするが、しかし間に合わない。
ビクリ、と。
避難誘導を行っていたモンスター達の身体が一斉に硬直する。
「……っ!?きゅ!!!」
(……まじかよ!?スピーカー越しでも支配できるのか!!!)
ノア=ハルベルトの甘く、粘つくような声が脳髄へ直接染み込んでくる感覚。視界がぐらりと揺れ、四肢から力が抜けかけた。
まずい。
理解した瞬間、メルは即座に自らの身体へ焔を纏わせる。紅蓮の炎が全身を包み込み、皮膚を焼く臭いが立ち昇った。
本来なら有り得ない。焔属性であるメルは、自身の炎で傷つくことなどないのだから。だがメルは、自ら耐性を弱め、さらに【五感超倍増】を発動をさせることで痛覚を極限まで引き上げ、肉を焼く激痛で精神支配を上書きしたのだ。
常軌を逸した力業。
だが、効果は絶大だった。脳へ絡みついていたノアの声が、焼け付く痛みに押し流されていく。
とは言え、メルの粘液で守られていた生徒達の周囲でも、モンスター達の様子が急変していた。虚ろな瞳。小刻みに震える身体。まるで見えない糸で無理矢理引き摺られているように、ぎこちない動きで首を持ち上げていく。
まさしく無理やり操られているような、油の差してないブリキの人形が動き出すような不気味な光景は、避難を受けている生徒たちに凄まじい恐怖心を与えた。
だが。
「きゅあ!」
(リリア!)
だがここには聖女リリアがいる。
力が弱まっていようと、本元であるモンスターを支配する力は聖女の方が格上だ。それを理解しているメルはリリアに視線を向け、支配を解除するように呼び掛けるのだが……。
「……きゅ?」
(……リリア?)
反応がない。
それどころか、リリアは俯いたまま微動だにしていなかった。水色の髪が顔に掛かり、表情は見えない。だが、小刻みに震える肩だけが辛うじて彼女の異変を物語っている。
様子がおかしい。まるで、なにかに抗っているようだ。
そう思った瞬間。
「──っ、ぁ……」
リリアの喉から、掠れた呻き声が漏れた。苦しそうだった。呼吸が乱れている。胸元を押さえる指先は力が入らず、まるで内側から何かに食い破られているかのように身体を震わせていた。
「きゅっ!?」
(お、おい待て……まさか──)
メルの背筋を、最悪の想像が駆け抜ける。
聖女の力は、モンスターを統べる力。ならば当然、その力には支配への耐性も含まれている。並の精神干渉なら、リリアに届くことすらない。王種が支配されないのと一緒だ。
……しかし、ここで思わぬ落とし穴があった。
ノアや聖女の支配の対象は、モンスターだけ。つまり、人間はどう足掻いても操ることは出来ない。言い換えれば、モンスターならば支配できるという点だ。
聖女というのは、チビスラの特異個体が連綿に受け継いできた能力の結晶。即ち、モンスターの系譜であることに他ならない。
ならば……支配出来てしまうのだ。
全盛期のリリアならいざ知らず、寿命による衰弱、酷使し続けた身体、積み重なった負荷。それら全てによって、支配への耐性すらも弱体化してしまった今のリリアが支配に抗うのは、不可能に近い。
『カッカッカッ!!!いい顔だねェ聖女サマァ〜!!!普段支配している人間が支配されるっていうのは、どういう気分なのかねぇ〜!?』
スピーカー越しに、ノアの嘲笑が響き渡る。俯いたままのリリアは身体をブリキのように動かしながら、ゆっくりとアグニとミツルが戦っている校庭へと歩いていく。
もはやその姿に自我はない。
虚ろな目を四方八方に動かし、能面のような表情を浮かべている。
全盛期の聖女の支配能力はノアをも凌ぐ。
なぜなら、【
故に。
「──“私に従え”」
聖女リリアは宣言した。
学園都市の半数を含めるモンスターに対して、支配の能力を発動したのだ。
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