進化したら人外系お姉さんになる雑魚モンスの俺、飼い主♀の性癖を破壊する 作:霧夢龍人
決戦の日。
聖女も会場に姿を見せる──そんな噂が広がったランキング戦は、しかし生憎の曇天に見舞われていた。空は重く沈み、鈍色の雲が幾重にも折り重なる。遠くで低く唸る雷鳴が、これから始まる戦いを嘲笑うかのように響いていた。
本来であれば会場は訓練場のはずだった。
だが、想定を遥かに上回る生徒と見物人が押し寄せた結果、急遽場所は変更されることになる。
──学園中央校庭。
普段はのどかな芝が広がるその場所は、今や異様な熱気に包まれていた。
ぐるりと取り囲むように集まった生徒達。
溢れるざわめき、注がれる期待、かき鳴らす緊張、弾けるほどの興奮。様々な感情が渦を巻き、空気そのものが震えているようだった。
誰もが、この日のために来た。
誰もが、この戦いを見逃すまいとしている。
空は暗く、風は冷たい。しかしそれでも、この場に満ちる熱だけは、曇天すら押し返すほどに熱を帯びていた。
中心に立つ両名は、威風堂々した面持ちで試合開始を待つ。観戦席を埋め尽くす群衆きすら、臆した様子も見せない。
モウガン──そして、アマネ=クリプトン。
対照的な二人。
片や余裕を湛えたまま立つ、完成された強者。
片や静かに呼吸を整え、己を極限まで研ぎ澄ませた挑戦者。
観戦席を埋め尽くす群衆ですら、その間に流れる緊張感に呑まれ、思わず息を潜めていた。
張り詰めた空気。
それを切り裂くように、司会進行の男がマイクを高々と掲げる。
『さァーて、皆さんお待たせ致しましたァッ!天候は悪いですが、我々の心には今!アツく燃え滾るような興奮が渦巻いていることでしょう!!!』
「「「 う ぉ ぉ ぉ お お ! ! ! 」」」
劈く悲鳴。爆発する歓声。
生徒の余りある熱狂が校庭を揺らし、芝を撫でる風すら震わせる。観客が連れてきたモンスター達までもが、それに呼応するように咆哮を上げた。
まさしく大歓声と言ったところだが、まだまだ上がある。
『それでは参りましょう!!本日のメインイベント!!ランキング戦特別試合ッ!!!しかも本日はァ、なんと観戦席に、聖女様ご本人もお越しくださっておりますゥゥゥッ!!!実力を証明するには、これ以上ない最高の舞台だァァァァッ!!!』
観客のボルテージが、一段階跳ね上がる。
「「「 うぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!! 」」」
歓声が大爆発した。校庭全体が揺れるような怒号と歓声に包まれる。空気が震え、地鳴りのような熱狂が曇天の下へ突き抜けていく。
その理由は単純だ。
学園中央校庭を一望出来る高所の特別観客席。そこに、“本物”が姿を見せていたからだ。
陽光すら霞むような青い髪。まるで神秘そのものを切り取ったかのような静かな微笑みは、白いヴェールで隠されていても尚、生徒たちのハートをいとも容易く射抜いてしまった。
──聖女。
滅多に公の場へ姿を現さない彼女が、今まさにこのランキング戦を観戦していた。
しかも、他の観客席から聞こえてくる声援に応えるように、白く細い指先が優雅に左右へ振られる。それだけで、観客席から悲鳴にも似た歓声が巻き起こった。
「聖女様だァァァァ!!」
「ほんとに来てる!?」
「やっば……本物……!」
「綺麗すぎるだろ……!」
興奮しているのは生徒達だけではない。教師陣ですら、どこか落ち着きを失っていた。
「あの方が直々に観戦とは……」
「学園長から話は聞いていたが、本当に来られるとは……」
普段は冷静な教師達までもが、思わず息を呑む。それほどまでに、“聖女”という存在は特別だった。
ただそこに居るだけで空気が変わる。
ただ微笑むだけで、人々の心を奪っていく。
まるで一種の奇跡のようだった。
興奮冷めやらぬ中、試合を開始するべく司会進行役の男がマイクを強く握り直す。熱気に当てられたのか、その額にはうっすら汗が滲んでいた。だが、それ以上に瞳が爛々と輝いている。
これほどの舞台。
これほどの観客。
そして、聖女までもが見守る特別試合。
実況として、興奮しない方がおかしかった。
『──さァァァァてッ!! それでは改めて、本日の主役をご紹介致しましょうゥゥゥッ!!!』
勢いそのまま、油を差した自転車のギアが如く回り出す舌を止めることなく、司会進行役の男は熱狂を煽るように叫び続ける。
『対するはァ!!その圧倒的実力で数多の強者を薙ぎ倒してきた現役最上位ッ!!転校して僅か十日足らずでランキング一位の座に輝いた怪物──モウガン選手ゥゥッッ!!!』
爆発する歓声。
地面が震え、空気が揺らぐ。
その中心で、モウガンは微動だにしない。
ただ、ゆるやかに口元を歪める。
「逃げずに来たこと、褒めてあげるわ」
強者オーラ満載というべきか、不敵な笑みを浮かべたモウガンの顔はおおよそ美少女が浮かべていい顔ではなかった。
『そしてェ!!その頂きに牙を剥く、小さな背中に宿る誇りの精神ンンッ!名門クリプトン家が誇る才媛であり、己を極限まで磨き上げ、今この場に立つ挑戦者ッ!!』
観客の視線が、吸い寄せられるように一方向へ集まる。
『──アマネ=クリプトン選手ッッッ!!!』』
再び上がる歓声。
アマネの傲慢な態度を嫌っていた生徒は数多く居たが、より傲慢なモウガンの登場により寧ろ声援を受ける立場に変わった彼女は、今までの屈辱を晴らさんとばかりにギラついた笑みを浮かべる。
まさに傲慢対傲慢の対決だ。
「吠え面かかせてやる」
両名の視線が交錯する。
逃げ場も退路も、小細工も一切ない正真正銘の戦いだ。どちらが学園最強かを知らしめるこのランキング戦において、二人のボルテージは加速度的に跳ね上がっていく。
『それではァ……ッ!!』
司会が、大きく息を吸い込む。
風が吹き抜け、重たい雲の隙間から覗く雷が瞬く中、全員がその瞬間を待っていた。
そして。
『──試合、開始ィィィィィィッ!!!』
──地面が、爆ぜた。
アマネの足元から砂が弾け飛ぶ。
視界がぶれるほどの踏み込みから現れたのは、彼女のパートナーであるホーグイーグだ。
三メートルはあろうかという白く巨大な翼を翻し、主人の命令を遂行せんとモウガンに襲い掛かる。
「イカロス!!」
鋭い号令が曇天の下へ突き刺さる。
細かい指示など必要ない。
主の声を聞いた瞬間、ホーグイーグ──イカロスは巨大な白翼を広げ、一気に上空へ舞い上がった。翼が空気を叩く度、暴風にも似た風圧が校庭を薙ぎ払っていく。
「パルード、拘束準備!マスバ、展開だッ!」
間髪入れない連携。
地面が脈打つように蠢き、黒紫の蔓が音もなく広がっていく。まるで獲物を逃がすまいと張り巡らされる蜘蛛の巣に近い。
いや、それ以上だ。
蔓は地面を走り、空間を縫い、逃げ道そのものを奪っていく。一瞬で形成される包囲陣は、学生どころか教師ですら舌を巻く速度だった。
──速い。
観客の誰もが、そう感じた。
開始数秒とは思えない完成度。アマネ=クリプトンという少女が、どれほど研鑽を積み重ねてきたか、それだけで理解できるほどに。
だが。
「……遅いわね。フォス、迎撃準備よ」
モウガンは退屈そうに髪をかき上げながら呟く。まるで、子供の遊びに付き合っているかのような声音だった。
「うがっ!」
ボコリ、と。
モウガンの足元の地面が盛り上がる。次の瞬間、土砂を撒き散らしながらフォスが飛び出した。
そして、黒紫の蔓が牙を剥くより早く、フォスは地面を蹴り砕きながら一直線に駆け抜けていく。
迫り来る拘束を、野生の勘だけで掻い潜っていた。
「ちっ、やっぱり早いな……」
アマネが舌打ちする。
脳裏に焼き付いている一度目の敗北の光景。
反応すら間に合わなかった。
マスバの拘束は破壊され、パルードは力任せに叩き潰され、イカロスですら空中から引き摺り落とされた。
そして最後には──“格が違う”と、真正面から理解させられた。だからこそ、今回は同じ轍を踏まない。
「イカロス!!三秒後!!」
「キィィィィッ!!」
野生の勘で避けているなら、そこを利用するまで。
マスバの広げた蜘蛛の巣状の蔓には敢えて隙を作ってある。いくら動きの素早いフォスとはいえ、三体一の状態では迂闊には動けない。取れる策は必然に限られてくる。
その策を広げるためにはまず、蔓から逃げる必要があるのだが……野生の勘のままに突き進んでいるフォスならば、必ずその隙に突っ込んでくるはずだろう。いや、突っ込まずにはいられないはずだ。
アマネはその心理を狙っていた。
「今だ!」
「んがっ!?」
隙を作っていた蔓の合間から、フォスが飛び出した──その瞬間、上空を旋回していたイカロスの巨大な翼が、轟音と共に振り下ろされる。
バギィィィィンッ!!
圧縮された風が、まるで巨大な壁のように地面へ叩きつけられた。
「うがぁっ!?」
フォスの小さな身体が、初めて大きく体勢を崩す。
空気そのものを殴りつけたような衝撃により芝と土が爆ぜ、巻き上がった砂塵が視界を覆う。
観客席からどよめきが上がった。
「あのフォスが止まった!?」
「いや、今の連携……!」
前回の戦いでは、フォスの速度に翻弄されるだけだった。
どこから来るか分からない突進。
反応した頃には懐へ潜り込まれ、マスバもパルードも機能する前に崩される。
圧倒的な経験差。
純粋な格の違い。
だからこそ、アマネは考えた。真正面から速さで勝てないのなら、“動かす”しかないと。
しかし作戦を考えていたところで、相手はあのフォスだ。アマネは知らないが、ラスボスの撃破に貢献したという経験の差はあまりにも大きい。
多少傷を負いながらも、イカロスを一撃で
だが、それでもアマネは止まらない。
「パルード!!」
「ギュルルルッ!!」
砂煙の中から、箱型の怪物が跳ね上がる。変形した外殻が音を立てて展開し、無数の鎖状触手が四方八方へ伸びた。
攻撃直後だったフォスは回避が僅かに遅れる。
「うがっ!?」
その右腕へ、一本の鎖が絡み付いた。いや、一本だけではない。一瞬動きを止められたフォス目掛け、不可侵のマスバの蔓が拘束せんと牙を向いたのだ。
不可侵。
その名の通りマスバ以外は触れることが出来ず、振りほどくことも叶わない絶対の特性。いくらフォスであっても、不可侵の効果はどうすることも出来ない。
実際、絡み付いた瞬間からフォスの動きは明確に鈍っていた。
「う、が……っ!」
筋肉を膨れ上がらせ、無理矢理引き千切ろうとする。
だが、千切れない。
アマネはこの五日間、狂ったように考え続けた。
どうすれば届く。
どうすれば勝てる。
真正面からでは勝てない。なら、勝てる形へ無理矢理持ち込めばいい。
その答えが、この拘束だった。
「パルード!!もっと固定しろ!!」
「ギュルルルッ!!」
鎖がさらに締め上げる。
ギチギチ、と骨が軋む音とともにフォスの身体が完全に止まった。
パルードの締め付けによってジワジワとダメージを与えられていくフォス。顔を歪め苦しそうに藻掻いているさなか、アマネの号令が冷たく響いた。
「キメろ、マスバァァァァッ!!」
アマネの叫びに応えるように、地面が大きく脈動した。
次の瞬間。
黒紫の巨大な蔓槍が、地中から一直線に突き上がる。
狙う先は──拘束されたフォスの胴体。
主の願いに呼応するように殺到する蔓の濁流。避けられず防げない必殺の一撃で、フォスは
誰もがそう確信した。
だが。
「……ふぅん」
今まで沈黙していたモウガンが、初めて感心したように口元を歪めた。
どこからともなく現れた漆黒のハルバードを肩へ担ぎ、楽しげに細められた瞳がアマネを映している。その視線には、ほんの僅かだが嬉しさが混じっていた。
まるで、期待以上の玩具を見つけた子供のように。
「そこまで考えてたのね」
ゾクリ、とアマネの背筋を悪寒が駆け抜ける。
本能が警鐘を鳴らしていた。
まさかコイツ──。
そう思った矢先。
瞬きをした一瞬で、モウガンの姿が掻き消える。
そして次の瞬間には、ドゴンッッッと凄まじい音を立てて吹き飛んでいくパルードの姿があった。あの様子では戦闘続行は不可能だろう。
幸いフォスは未だに動けないようだが、実質的な一対一では分が悪すぎる。
アマネは頭を振りながら、冷静に戦況を鑑みていた。
まさかモウガンが戦いに入ると思わなかったが、考えてみれば彼女もモンスターである。奥の手としてじぶんが割り込むことも作戦の内だったのだろう。
つくづく喰えない女だなぁ、とアマネはモウガンを見据える。
「言っておくけど。フォスよりも、私の方が強いわよ?」
「……馬鹿言うな、クソが」
周りの観客たちは状況が掴めていないが、実質的に今のアマネは詰みに近かった。数的不利もそうだが、本気になったモウガン相手にマスバじゃ相手にならないことが目に見えているからだ。
ハルバードを担ぎながら、ゆっくりと近付いてくるモウガンを眺める。マスバはフォスを拘束していた蔓を解いてアマネを助けようとするが、とても間に合いそうにない。
やがてモウガンの武器が、曇天を割くように振り下ろされ───ピタリ、と空中で静止した。否、“止められた”の方が正しいだろう。
何せ振り下ろしたハルバードが、一人の女の手によって容易く受け止められてしまったからだ。
もちろん、アマネでもそのパートナーでもない。
いきなり中央校庭に出現した二人の女。
そのうちのハルバードを受け止めた一人が、周りに“水玉”を浮かべながら主を守るようにもう一人の女を背中に隠す。
「ちっ、仕留め損なったわね」
「すまない。もう少し私が引き付けられていればな」
「アンタのせいじゃないわよ」
モウガンが舌打ちと共に吐き捨て、アマネを担いで距離を取る。
吹っ飛ばされていたように見えたパルード、
「おっとっとぉ〜。殺意マシマシすぎやしないかねぇ〜、お嬢ちゃんよ」
「ノア様、少しお下がりくださいませ」
女に守られている方は、軽薄で純然たる悪意と愉悦を滲ませたような声色を帯びた、どこか気の抜ける女だった。
長い黒髪を無造作に揺らし、口元には薄ら笑い。
場違いなほどラフな格好。
煙草を咥えたまま片手をひらひら振るその姿は、まるで近所へ散歩にでも来たかのようですらある。
しかし、モウガンとアマネは知っている。それどころか、学園のほぼ全ては知っていると言っても過言では無い。
何故なら彼女こそが3RIIのラスボスであり、最低最悪の名を欲しいままにする“血狂い”──またの名を、“魔女”。ノア=ハルベルトだからだ。
───☆
ようやく現れたか、ラスボスが。
ご主人様とアグニの傍で待機しながら、俺は冷静にノア=ハルベルトの動向を伺う。
奴が現れる想定はしていたが、もしかすれば現れない可能性も考慮していた。そんな中で作戦通り襲ってきてくれたのは、非常に都合がいい。淵の王種が隣に居ることからも、間違いないだろう。
周りの生徒たちに関してはどよめきが広がっているが、事態をいち早く察知した教師や他の生徒たちが急いで避難を促している。
「な、なぁあの女って……」
「どう見たって魔女だよな!?」
「先生!し、試合中止を!」
「こっちだ!早く逃げろ!」
混乱が連鎖する。
恐怖は伝染するものだ。
逃げようとする生徒や腰を抜かす者。モンスターを暴走させかける者まで現れ始め、校庭は一気に修羅場へ変わりつつあった。
……頼む、耐えてくれ。
なんの事情も知らない生徒がいる中でこうして誘き出すしか方法がない俺たちじゃ、ある程度の教師陣に根回しして避難経路を確保することしか出来ない。
無責任で最低最悪はどちらなんだと罵られる覚悟はしている。だがこうでもしないと、待っているのはより最悪な結果だ。割り切るしかない。
そんな事を考えている最中。
「……あん?」
ノアがぴたりと笑みを止めた。
煙草を咥えたまま、ゆっくり首だけを動かす。その視線が、観客席の一角へ向けられる。
軽薄で気怠げだった表情が、一瞬にして消え失せた。代わりに浮かんでいたのは、全てを見下ろすような冷徹な瞳。まるで、人間そのものへ価値を感じていない怪物の目だった。
「今誰か、私のこと魔女とか抜かしやがったかねぇ〜?」
にたり、と口角が吊り上がる。
先程のまでの試合の熱気が冷めるような、背筋が凍るような笑みだ。
「よぉし決めた。お前らは全員ここで殺すとしようか。私は“魔女”って呼ばれるのが一番嫌いなんでね〜」
まるでコンビニで飲み物でも買うかのような気軽さで、ノアは朗らかな笑みを浮かべたまま『殺す』と告げた。
そこに重みも躊躇もない。罪悪感など、当然のように存在しない。だからこそ、ノアは恐ろしいのだ。人を殺すという行為が、彼女にとっては“呼吸”と変わらないほど自然なのだと、誰もが理解してしまった。
「ひっ……」
「に、逃げ……」
観客席から悲鳴が漏れる。
だが、その恐怖すらノアにとっては酒の肴程度の価値しかないらしい。
「カカッ、まぁ慌てなさんなって」
ノアは笑いながら、既に無人となった司会進行席へ堂々と歩いていく。
先程まで熱狂を煽っていた男は、とっくに顔を青ざめさせて逃げ出していた。
当然だ。
こんな怪物を前に、平然としていられる方が異常なのである。
「お、ちゃんと残ってるねぇ〜!」
ノアは机へ置かれていたマイクを手に取ると、軽く叩いて音を確認した。
ボンッ、と校庭中へノイズが響く。
その瞬間、生徒達の肩がビクリと震えた。たったそれだけで悲鳴が上がる辺り、既に場の空気は完全に支配されている。
「はいはーい、皆さん注目ぅ〜」
ハウリング混じりの不快な音が校庭中へ響き渡る。誰も居なくなった司会席に堂々と腰掛けたノアは、拾い上げたマイクを片手で弄びながら、まるで祭りでも始めるかのように楽しげな笑みを浮かべていた。
「──これよりぃ、特別イベントを開催しまぁす!」
ノアの言葉を皮切りに、先程までランキング戦に熱狂していた生徒達が、一斉に息を呑んだ。
観客席へ向けて大袈裟に両手を広げるノアの舞台役者のような仕草。だが、その奥にあるのは純粋な悪意と狂気だけだ。
にたり、と。裂けるように吊り上がった口角。タダでさえ不気味だった笑みが、さらに深く歪む。
「ルールは簡単。今から私が聖女を誘拐するから、ちゃぁんと守ってね〜?」
「──ッ!?」
観客席がどよめいた。
教師陣の顔色が一斉に変わる。
聖女を狙う。勿論、その意味を理解できない者はこの場には居ない。
「総員、聖女様の護衛へ回れ!!」
「生徒は避難を最優先だ!!」
「モンスターの手配急げッ!!」
「カカッ、慌て過ぎだろ〜?」
一方で、彼女の背後に立つシスター服の女──淵の王種は、静かに周囲を見渡していた。
眼帯に覆われた瞳。それでも全てを見透かしているかのような微笑み。彼女の周囲には、水滴のような球体が幾つも浮かんでいる。底知れない威圧感と危険度で言えば、ノアよりも彼女の方が圧倒的だろう。
ぽちゃん。
ぽちゃん。
まるで深海の音のような水音が、不気味なほど静かに響いていた。
「ノア様。あまり遊び過ぎますと、聖女が逃げましてよ?」
「分かってるっての。だからこうして、わざわざ舞台説明してやってんじゃんねぇ〜?」
マイクを肩へ担ぎながら、ノアは観客席最上段──聖女の居る場所へ視線を向けた。
「ほらほらぁ、逃げろ逃げろ〜。逃げないと死ぬぞぉ?」
その声音は、あまりにも軽い。だからこそ恐ろしかった。
人を殺すことも。
学園を壊すことも。
聖女を攫うことも。
この女にとっては、全部“遊び”なのだ。
しかし、当然そんなことを許容する俺たちじゃない。
「んふ、ばか……はっけん」
「ふぁっきゅー!」
(はんっ!おととい来やがれ!)
こっちにはアグニさんが居るんだぞ!どうだおい!淵と焔とじゃ相性的に焔の方が強いんだからな!
と王種の威を借るチビスラ状態で意気揚々と登場する俺たちだが、事実この戦いで負ける可能性は低いのである。
なぜなら、今まで人が多い場所で戦ってきた為にずっと本気を出せなかったアグニが、ようやく本気で戦える環境だからだ。逆に今まで手加減してドルマンをフルボッコにしてたのどういうこと?って感じだが、考えてはいけない。
普段はドスケベスレンダーお姉さんだが、彼女も王種の一角なのだから。
「ほぉ!いきなり私が欲しい子たちが出てきたねぇ〜!」
「嬉しそうな顔をしないでくださいませんか?アレの相手はワタクシでもかなり手厳しいですのよ?しかも桜を倒したとかいうチビスラまで……厄介なことこの上ないですわね」
嬉しげな笑みを浮かべるノアとは正反対に、隣に立つシスター服の女──ミツルが、僅かに眉を寄せた。
眼帯に覆われた瞳は見えない。
それでも、その声色には明確な警戒が混じっている。ミツルの周囲を漂う水球がゆらりと不穏に揺れ、曇り空から雨粒が落ち始める。
「陰気、くさい。雨きら、い」
対してアグニ側の天候は完全な晴天。雲一つもない快晴で、眩い陽光が降り注ぎ、揺らめく熱が空間そのものを歪めている。
二人の中間地点で──空が真っ二つに割れているのだ。
「それ、じゃ。小手調べ、から」
「ええ、始めましょうか」
と、二人が勢い立った瞬間のことだ。
アグニの背後から巨大な炎柱が噴き上がった。校庭の温度が一気に跳ね上がったかと思うと、地面が溶解し、遠くへ避難しているはずの生徒達が思わず後退るほどの熱波が吹き荒れた。
ミツルの頭上からは津波を思わせるような莫大な量の水の奔流が降り注ぎ、とぐろを巻く。轟々と唸る水流によって巻き込まれた空気が悲鳴を上げ、周囲の建物すら振動していた。
「いいねぇ〜!それじゃ、試合開始といこうかねぇ〜!!!」
開戦の合図は、マイクを持ってやけに興奮した様子のノアの言葉によって始まった。
「──“
「──“
かくして、小手調べとは思えない二人の災害の衝突は、大地が悲鳴をあげるほどの轟音を齎しながら、幕を開けた。
人気キャラクター 二部
-
メリュジーヌ (メル)
-
ヴェスティ=クラウニア(ご主人様)
-
モウガン (ツンデレ牛娘)
-
アグニール (クーデレ王種)
-
フォス (元気っ娘)
-
アルマ=メイソン(最近出番がないぞ)
-
ソルガ (残念系イケメン美女)
-
イスフィ(関西弁パパ系ガール)
-
リリア
-
アマネ(実はポンコツやれやれ系少女)
-
オウヒ (好感度が上がるだろうか)
-
ノア=ハルベルト (ラスボス系美女)
-
ミツル (眼帯系王種)
-
フルちゃん(アルマの貴重なツッコミ要因)
-
シスターカプノス (生臭シスター)
-
モルド=クラウニア (変態お兄さん)
-
タナカ・サトウ・スズキ・ヤマダ