進化したら人外系お姉さんになる雑魚モンスの俺、飼い主♀の性癖を破壊する 作:霧夢龍人
最低最悪だ。まるでこちらの思考を読んでいるかのように、ラスボス連中は必ず“想定の一つ上”を踏み越えてくる。聖女リリアによる広域支配で避難誘導を成立させる。その間にアグニがミツルを抑え、俺がノアを叩く。
本来なら、それで終わるはずだった。
だが現実はどうだ。ノアは姿を消し、スピーカー越しに支配を拡散。挙句の果てには、弱体化したリリアそのものを逆利用し、学園都市中のモンスターを掌握してみせた。
完全に、裏をかかれている。
「──っ、きゅぁァァァ!!!!!」
怒声にも似た鳴き声と共に、俺はは周囲へ焔を解き放った。ゴォォォォッ!!!!と燃え滾る紅蓮の炎が、暴走したモンスター達を一斉に呑み込む。
焼殺ではない。筋肉や神経、感覚を一時的に焼き潰し、強制的に行動不能へ叩き落とすための高密度熱波だ。加減を間違えれば即死。だが、今はそんな綱渡りをしてでも止めなければならない。
「ギャァァァァッ!!」
「グル、ァァ……!!」
炎に包まれたモンスター達が次々に地面へ崩れ落ちる。だが、それでも数が多すぎた。
一体止めれば、別方向で三体が暴れる。校舎へ突っ込む飛竜種や生徒へ牙を向ける獣型。暴走した樹木系モンスターが校舎壁面を侵食し、悲鳴があちこちから上がっていた。
「や、やめ──!!」
「先生ぇ!!助けて!!」
「モンスターが、こっちに──!!」
地獄だった。
さっきまで避難誘導によって辛うじて保たれていた秩序が、リリア一人が支配されたことでこうも崩壊している。俺ではなくアグニなら、容易く無力化に成功していただろう。だが、相手の最高戦力であるミツルを相手出来るのはアグニしかいない。
言うなればノア=ハルベルトにとってミツルは、邪魔なアグニを誘い出すための囮にしか過ぎなかったのだ。アマネのモンスターとモウガン達が操られたら目も当てられないため、ご主人様による召喚で一時的に戦線から離脱しているのも裏目に出た。
俺の焔で焼けば支配から逃れるかつ、戦力になったかもしれないのに。
『カッカッカッ!いやぁ壮観だねぇ。私は聖女なんて嫌いだけど、この景色を見れただけでお釣りがくるよ。
ここまで一方的なのは面白くないけどねぇ〜?』
侮蔑と嘲笑。あるいは歓喜だろうか。
数百といるモンスター達を対処している俺の耳に響く笑い声は、どこまでいっても純粋な狂気に満ちている。人を救うのが聖女なら、ノアは人を唆して破滅させる魔女だろう。
どこまでも命を軽く見ているその姿勢に、反吐が出そうなほど腹が立つ。時間を掛けながらもモンスターを焼いていく作業は、ノアへの苛立ちを募らせていく。
『ほらほらどうした!? もっと頑張らないと、可愛い生徒達が死んじゃうぞぉ〜!?』
「……ッ!!」
殺意が滲む。今すぐ居場所を突き止めて焼き殺したい。そんな衝動を無理矢理押し殺しながら、俺は暴走したモンスターを処理し続ける。
その時だった。
──コツッ、と静かな足音が響く。
反射的に後ろを見れば、リリアが俯いたまま、虚ろな瞳で糸で吊られた人形のように不自然な動きで、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。だが、それだけじゃない。
その背後の空間が、蜃気楼のように歪んだ。アグニと戦っているミツルの能力だ。
「──やぁ、お初にお目にかかるかねぇ〜?」
黒い外套に痩せ細った長身。口元に浮かぶ狂気的な笑み。灰を被ったような乱雑な髪を振り乱し、腰元に下げた拳銃をクルクルと回転させながら。
ノア=ハルベルトが、そこに立っていた。
「随分と頑張ってるじゃないか、メルくん」
「……ッ!!!」
ドクンと心臓が脈打つ。
見つけた。ようやく、ようやくこのクソ魔女を。カプノスを半殺しにし、リリアを支配しやがった阿婆擦れを。桜の王種との戦いで死んだアグニの姿も、殺されていく教師たちも、逃げ惑う生徒たちも……全部コイツのせいだ。
元おっさんとして、日本人として、人を殺すのは抵抗がある。ドルマンですら変異したモンスターであると割り切って、人間であることを考えないようにしていた。
だがコイツは、コイツだけは──。
「ふぁっきゅ」
(殺す)
次の瞬間、湧き上がる爆炎。俺の身体が地面を砕きながら加速する。一直線。最短距離。紅蓮の焔を拳へ収束させ、一撃でノアの頭部を吹き飛ばすために。
殺す。必ず、今ここで。絶対に。
これ以上被害を出され、これ以上ご主人様やイスフィ達に何かあれば、俺は自分を許せない。原作を知っていながら何も対策できていない愚か者の俺を──だから殺す。
しかし。
「あぁ、動かない方がいい」
ノアがそんな必死な俺に笑った。違和感を感じ、視界の端。ノアのすぐ隣に立つリリアへ反射的に目を向け──。
「……ッ」
思考が止まる。
リリアが、自分の首へ銃口を突き付けていた。白く細い指はトリガーを引き、震える手で銃口を構えている。だが、その動きだけは異様なほど正確だった。こめかみでも心臓でもない。
確実に即死するよう、顎下から脳幹へ向けて銃口が固定されている。
『一歩でも近付けば、この子に自害させる」
全身の血が凍り付いた。
「ん、きゅ……」
(な、に……?)
「聞こえなかったかい?」
ノアは愉快そうに肩を竦める。
「聖女サマは今、私の支配下だ。心臓を潰せと言えば潰すし、首を切れと言えば切る。いやぁ便利だよねぇ?」
拳に纏っていた焔が揺らぐ。
あと数十センチ。その距離まで迫っていた俺の身体は、まるで時間ごと凍結されたように止まっていた。
……殺せない。今ここでノアを殺そうとすれば、リリアが死ぬ。それだけは駄目だ。
「おっと、正解正解」
ノアが愉快そうに拍手する。パン、パン、と。学園都市が崩壊しかけている戦場の中心とは思えないほど、軽薄で間抜けな音だった。動けない俺に対して一瞥したノアは、リリアを連れて空間の歪みへと消えていく。
動けない俺を嘲るように何も言わず。
対抗策はあった。今ここで、リリアを“殺す”。もしくは、リリアの命を捨ててノアを狩りに行く方法だ。きっとノアは聖女の力を使って、学園はおろか世界中のモンスターを支配するつもりなのだろう。リリアならば可能だ。
しかし、それは寿命によって衰弱していないリリアという冠が付く。このまま数日ほどリリアの寿命が来るまで待ち、死んだのを確認してから戦いに挑めば厄介なのはノアとミツルだけだ。助けに行く必要性はない。
──俺は、この手段を取れそうになかった。
『また一緒に遊びに行こうよ。私たち、友達だもんね〜?』
満面の笑みで俺とイスフィに抱き着いてきたリリアの笑顔が、記憶にこびり付いて離れないのだ。結局俺は、どこまでいっても半端な判断しかとれないゴミでしかない。
ミツルとの戦いから戻ってきたアグニと、遠くで避難誘導をしていたご主人様たちに事情を話しながら、リリアをどうやって取り戻すか作戦を立てる。
期限は四日。
無事に動ける日数で考えれば、恐らく猶予はあまり残されていない。それでも、必ず取り戻さなければならない。寿命が尽きかけるその時まで人々を助けてきたリリアを人殺しの“魔女”にしたくないという、俺の我儘だ。
必ず、取り戻す。
必ず、ノアを殺す。
バッドエンドなんて絶対に起こさせない。
これは言わば、魔女を討伐するために聖女を助ける──討魔録だ。
人気キャラクター 二部
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メリュジーヌ (メル)
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ヴェスティ=クラウニア(ご主人様)
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モウガン (ツンデレ牛娘)
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アグニール (クーデレ王種)
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フォス (元気っ娘)
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アルマ=メイソン(最近出番がないぞ)
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ソルガ (残念系イケメン美女)
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イスフィ(関西弁パパ系ガール)
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リリア
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アマネ(実はポンコツやれやれ系少女)
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オウヒ (好感度が上がるだろうか)
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ノア=ハルベルト (ラスボス系美女)
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ミツル (眼帯系王種)
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フルちゃん(アルマの貴重なツッコミ要因)
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シスターカプノス (生臭シスター)
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モルド=クラウニア (変態お兄さん)
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タナカ・サトウ・スズキ・ヤマダ