綾小路がBクラスに配属された世界線 作:来世
平田くんは良い奴なんだ…………だから、私は救う
中間試験の結果発表から、三日が過ぎた。
あの日以降Dクラスの雰囲気は増々悪くなったらしい。
が、オレは別に後悔はしてない。
正しいことをしたと正義を気取るつもりはないが、間違ってもない筈だ。
人は誰しも、自分の中に境界線を引いている。
この線を超えないようにする。 この線を超えてきたら怒る。
この線を超えてきたら反撃する。 この線を大切にする。
内容も人それぞれだが、それでもこの線を持つという意味では全人類が同じだと言えるだろう。
そしてオレがここに来て引いた線は『Bクラスを大切にする』だ。
もしオレに出来た友達を陥れたり、罠に嵌めるような者がいるのならオレが対応する。
そこまでこのオレに思わせてくれた彼らには、感謝しなければな。
放課後。
オレは一人寂しく、学校の昇降口へと向かっていた。
今日は特に予定も入れてないため、珍しく家で静かに過ごせるだろう。
そんなことを思っていた矢先──────
「──────もう放っておいてくれないかなっ!」
罵声ともとれる声が廊下に木霊した。
しかし、周りにはまだ誰もいないのか、静まり返っている。
オレはその声の主に覚えがあったので、近付いてみることにした。
もし勘が当たっているなら──────
「────平田、洋介」
オレは、声の主の名を呼んだ。
下り階段を降り、角を曲がった先。
そこに、彼はいた。
「どういう状況だ? これは」
そして彼の足元には、小さな女子生徒が転がっていた。
その表情は大半の苦悶と一抹の恐怖に支配されている。
「君はこの前の…………君まで、僕の邪魔をするのかい?」
何を言っているんだ。 平田は。
話が通じないのか? 状況の説明を求めただけなんだが。
「平田の邪魔をするつもりはない。ただ、今さっきお前の罵声を聞き、只事じゃないと思って来てみたんだ」
オレは軽く経緯を説明する。
「君には関係ないよ。 もう、放っておいてくれ。顔も見たくないんだ」
どうやら、嫌われてしまっているらしい。
まぁ、確かに納得か。
平田からすれば、オレがDクラスの奴らを葬ったようなものだ。
恨まれてしまっても、仕方ない。
それが、オレの選んだ道だから。
彼は足早にこの場を去っていった。
オレは取り残された女子生徒に手を差し伸べる。
彼女はその手を優しく取り、立ち上がる。
「平田には嫌われてしまったらしい。何かあったのか?」
「え、えぇと…………」
少し、戸惑っている。
「悪い、自己紹介が遅れたな。オレは綾小路清隆、Bクラスだ」
「あ、私は王美雨。Dクラスです。Bクラスの方に言うのも変だとは思うんだけど…………中間試験の結果発表の日から、平田くんがおかしくなっちゃって…………」
「おかしくなった?」
「前みたいに優しくなくて、少し怖くなったんです。『僕には誰かを救う資格なんてなかったのか」って呟いてて…………それで、少しでも寄り添いたくて追いかけたんですけど」
「…………突き飛ばされた、と。そうか、それならオレの所為だ」
オレは、正直に打ち明けた。
どうせ、いつかはバレる。 そもそも、バレない要素がない。
なら、せめてここで言う方が楽だろうからな。
「退学者七人を救うことに、オレも反対した。クラスの金を、無駄遣いさせたくなかったからだ」
オレがそう言うと、王も僅かに頷く。
「この学校なら、それが当たり前だと思います。勉強してなかった子たちが悪いのに、平田くんは自分を責めちゃってて…………」
「オレは平田を追いかける。お前はどうする」
「わ、私ですか?」
「ああ。平田は、ここで潰れていい奴じゃない、だろ?」
「はい」
「オレは平田を追いかけて、しっかり向き合う。信じて待つか?」
「はい。初対面ですが、綾小路くんは信頼できそうだとなぜか思いました」
「そうか」
オレは安堵の表情を浮かべる王をおいて、平田を追いかけた。
「──────こんな場所にいたのか。平田」
オレは噴水横のベンチに座る平田に声を掛ける。
その姿に最早生気はなく、死骸が置かれているかのようにも見えた。
「放っておいてくれと言っただろ。 邪魔するなら、容赦しないよ」
平田は、上目遣いでオレを睨みつける。
それは、そこらの生徒をビビらすには十分なものだ。
「中間試験の件、オレは後悔はしてないぞ」
「そんなことを言いに来たのかい?」
「お前は、誰が悪いと思うんだ?」
オレは、彼の眼を捉えて尋ねる。
その瞳には、まだ迷いが見えるような気がした。
「悪いのは…………君と神崎くんだと思いたいんだ。君たちが反対しなければ、少なくとも数人は救えたかもしれないんだ。なのに断る理由が、僕には理解できない」
「それは責任転嫁だ。悪いのは、勉強をしなかった退学者と、救えなかったお前だよ平田」
オレは、容赦なく現実を突きつける。
それでも、彼は──────
「僕が、悪い…………?」
「ああ。もし誰も退学にさせたくないんだったら、もっとポイントをクラスから徴収し備えるべきだった。勉強会に参加させ、学力を上げさせるべきだった。もっと思考を広げ、答を見つけるべきだった」
「答?」
オレの言葉の中の単語に、彼は反応を示す。
「あの中間試験、Dクラスでも全員で乗り切る方法があった。それは、過去問だ」
「過去、問…………」
「ああ。四月末に行われた異次元の難易度の小テスト。そこから予測すれば、中間試験でも去年と同じ問題が出され、過去問で乗り越えられると気付けた筈だ」
事実、オレは気付いた。
そして後日発表された各クラスの平均点から、Aクラス内にも気づいている者がいた。
つまり、気付くこと自体は誰でも可能だったんだ。
「そんなの、無茶だよ…………他クラスの君に、何が分かるって言うんだ!」
平田が、少しだけ大きな声を出す。
しかしそれも、澄み渡る空に消えていった。
「確かに、引き金を引いたのはオレかもな。もしオレが黙って一之瀬に賛成していれば、救えたかもしれない。でも、オレは譲らなかった、境界線を越えるからだ」
「境界線?」
「ああ。オレの境界線は『友達を守る』こと、だ。それを越えないために、オレは未来の危険分子を庇わなかった。平たく言えば自分の中の譲れない想いみたいなものだ。お前にもあるだろ」
そう問いかけると、平田は少し俯く。
そして、口を開いた。
「──────僕の境界線は『クラスの皆を守る』こと、だった。それも、もう破られてしまったけどね」
「なら、変えればいいだけだ、境界線を。守れなかったのなら、お前の身の丈には合ってなかったという話。第一目標を『今いるクラスメイトをこれから守る』に変えるだけでも違う筈だ」
「そんなの綺麗事だよ…………もう、僕にそんな勇気はない」
嗚呼、平田。
なんで、立ち上がらない。
なんで、振り返る。
なんで──────
「──────お前のその足は、何のためについている」
「なに?」
「その立派な両足は、明日を見つめて突き進むためのものだ。決して止まるな、蟻の如き歩でも、進み続ける限り、お前は確実に理想に近付いていくんだ」
なんで、オレはこんなことを言っているんだろうか。
「なんで…………そこまでしてくれるんだい? 君からすれば、僕は敵クラスの哀れな道化だろう?」
「それは──────
それは、きっと──────
「──────お前はオレの憧れだからだ」
「憧れ…………?」
予想していた言葉と違ったのか、平田は首を傾げる。
オレでも、自分を理解できないんだ。 仕方ないだろう。
「まだ出会って一カ月かそこらのクラスメイトと言う他人のために、自分の頭を下げ、必死に救おうと頑張る平田に、憧れてしまった」
「そんな、カッコよくなかった。哀れで、ダサかったはずだよ」
「いや、違うな。必死に頭を下げるお前の背中は、哀れでも情けなくもなかった。ただ、広く偉大な背中だった。生まれてこの方感情に乏しいオレには、それが酷く明るく見えたんだ」
誰かを守るために、自分を犠牲にする。
簡単なようで、出来る者はこの世に全くいない。
知人で当てはまりそうなのも、一之瀬くらいだ。
「これから言うことは理想の押し付けだ、だから気にしなくていい。でも、言う。『これからも、オレの理想の体現者であってくれ』。皆を救うヒーローは、Dクラスにお前しかいないからな」
「君は、おかしいよ。他クラスの僕に、こんなことが言えちゃうなんて。でも、素直に感謝する。君のお蔭で、立ち直れるかもしれないから」
オレも、自分に驚いているんだ。
もっと、知りたい。
色々な感情を、宿してみたい。
──────この世は、知らないことばかりだな。
綾小路…………お前、感情持てたのか…………
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長谷部波瑠加
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