綾小路がBクラスに配属された世界線 作:来世
六月も終盤へと入った。
夏特有の蒸し暑さは未だ感じられないが、代わりに梅雨の雨が降り注いでいる。
教室の窓の外を見てみれば、一週間前まで見えていた東京の街並みは暗雲に飲まれ、視界も黒ずんでいる。
「─────憂鬱だな」
梅雨、という季節は何のために存在しているんだろうか。
農家の野菜を育たせるため、雨が好きな人のためか?
科学的な理由はあるが、それは自分を納得させる理由にはならない。
「やになっちゃうよね~」
隣の席に座る一之瀬も同調する。
やはり、この倦怠感や気怠さは万人共通のものらしい。
いや、日本人だけだろうか。
もし、海外の人が日本に旅行に来て梅雨だった場合、何を思うのだろうか。
いや、前提として調べてくるから梅雨の時期は避けるのか?
そんな下らない思考を続けていれば、時間はみるみる解けていった。
気付けば、放課後だ。
「はぁ…………気分下がるな~」
「だね~、梅雨とかなくなっちゃえばいいのに」
「確かにな。必要性を感じない」
「まじだりぃ~」
オレは今、一之瀬・網倉・神崎・柴田と共にケヤキモールへと向かっていた。
何故か?
それは、カラオケに行くためだ。
何でも、一之瀬と網倉がデュエットを練習したらしく、それをお披露目したいらしい。
一之瀬のことを好きだと以前言っていた柴田は緊張気味である。
仕方ない。 オレが助けてやるか。
「─────楽しみだな。二人の歌声を聞くのが」
横目で柴田に合図を出す。
「あ、ああそうだなっ! 俺も、久しぶりに歌いたい気分だったんだ」
「柴田はいつでもそういう気分な気がするがな」
「言えてるな」
そして、柴田が一之瀬ともっとお近づきになるには、歌声で堕とすというのが目標らしい。
まぁ、無理とは言わないが、かなり難しいだろう。
そして──────オレはずっと、その連中に付き合わされてきた。
ここ二週間くらい、二日に一回はカラオケに行った。
しかも、オレのターンはあまり回ってこず柴田の練習を聞かされるオレの身にもなってみろ。
まぁ、金は柴田持ちだから全く気にしてないのだがな。
横一列ではなく、オレと一之瀬・網倉が一列目に。
柴田と神崎が二列目で歩いているときだった。
前から、悪そうな顔をした数名の生徒が歩いてきた。
数は三人。 しかも、オレの進行方向にいる。
オレはぶつからないように接近してきたときに左肩を後ろに反らす。
しかし、通り過ぎたかと思った一瞬後──────
「──────いってぇなぁ!!!」
罵声が飛んできた。
同時に、オレの左肩に鈍い衝撃が走る。
掠っただけなら良かったが、かなりいいのを貰ってしまったらしい。
数秒経ってもなお、ズキズキと痛んでいる。
「なぁ、おい。てめぇだよ間抜け面」
神崎たちが何かを言おうとした瞬間、オレは睨まれた。
威圧感はないが、この場にいる他のメンバーからしたら怖いだろう。
「済まなかった。大丈夫か?」
渡辺から教えてもらった。
こういうやつは、当たり屋と呼ばれる種族だ。
あえて自分から相手に衝突し、慰謝料と称して金をふんだくる。
醜く、哀れで鬱陶しい民族らしいな。
だが、冷静に対応すれば怖い相手じゃない。
「てめぇ今、わざとぶつかってきたよなぁ?」
「いや、そのような事実はない。今のは、互いの不注意が招いた事態だ」
「は? 俺にも責任あるって言いてぇのか? お前何組だよ」
睨まれる。
というか、ここまでの演技派ってのも凄いな。
「一年Bクラスの綾小路だ。社交辞令で聞くが、お前は何組なんだ?」
「Bクラスかよ。俺はCクラスだよ、どうやら優しいクラスってのは噓っぱちだったらしい。学校側に訴えるぞ?」
学校側に訴える、か。
何ともまぁ、古典的な方法だ。
「いや、それは止めて欲しい。オレとしても事を荒立てたくは────「さっきから聞いていれば聞き捨てならない言葉が多いな」
オレが場を丸く収めようとしたとき、黙って聞いていた神崎が口を開いた。
同調するように、他者も反論していく。
「そうだぜ。どう見てもお前から当たってたろうが」
「監視カメラ見れば分かると思うけど。どうする?」
「綾小路くんはわざとぶつかるような人じゃないよ! 馬鹿にしないで!」
──────オレは、良い友を持ったな。
この状況下で庇ってくれるのは有難い。
「チッ、覚えとけよ──────まだ終わりじゃねぇぞ」
そう言い残して、彼は立ち去っていった。
一体、何がしたかったのだろうか。
まぁ、今はそんなのはどうでもいい。
「──────ありがとう。助かった」
素直に謝辞を述べる。
感謝と言うのは大切だ。 互いを尊重する上でなくてはならない役割を果たす。
「気にするな。にしても、Cクラスか」
神崎は男の去っていった方向を見つめる。
「これ、また来るんじゃねぇの?」
「最後の言葉、気になったよね」
「終わりじゃない、って。でも、注意すれば大丈夫だよね」
そんな彼らの言葉とは裏腹に、この日以降CクラスからBクラスへと嫌がらせは激化の一途を辿ることになる。
「かなりまずいな」
教室の隅。
オレの座る席の横に立ち、神崎がぼやく。
「だね。しかも、あれ以降まともに絡んでこないのが怖いよ」
六月最後の週。
Bクラスのほぼ全員に対して、陰湿な嫌がらせが蔓延していた。
一之瀬や神崎のような主要メンバーじゃない者にも、ストーカーのように付きまとったりしている。
この状況は、かなりまずい。
まず、オレの学校生活に亀裂を生む。
ようやく見つけた『居場所』と思える場所を、他人に土足で踏み荒らされるのは好きじゃない。
加えて、オレの友人たちにも当然被害が出ているからだ。
これはオレのポリシーに反するし、無視することは出来ない。
「直接関わってこないから、学校側もまともに対応してくれないしね」
そう。
この事態を憂い一之瀬は星之宮に事態を説明し、Cクラスへの罰則を求めた。
しかし、星之宮は「直接被害が出てないからどうしようもない」と一蹴。
これで、学校側が多少の問題行動なら無視することが判明した。
初日に「この学校はいじめに敏感」とか言ってたのは嘘らしい。
「何か、打つ手はないだろうか」
「どうしようもないよね。止めてくれって言っても白を切り通されるだけだと思うし」
証拠もない。
そもそも、危害を加えてこない限り向こうを撃退することは不可能に思える。
何か、いい手はないものか。
「煽って、乗せるのはどうだ?」
オレは閉じていた口を開いた。
「どういうことだ?」
神崎が説明を求めてくる。
が、そのままの意味でしかないんだよな、これが。
「このままだと、皆の精神が少しずつ擦り減っていくだけで終わる。なら、その前に相手に手を出させればいい」
「─────ダメだよ!」
オレの言葉の意味を理解したのか、一之瀬が止めてくる。
「いくらみんなのためでも、綾小路くんが傷つくのは認められない」
「一之瀬の言う通りだ。それに、俺にとってもお前は友人だ。それが、自分が傷つくことで争いを終わらせようと言うのは、見逃せない」
「そうだよ。綾小路くんだって大切なクラスメイトなんだから、無理はさせられない」
口々に反対意見を出され、オレは困惑していた。
いい案だと思ったんだがな…………
オレが一度殴られでもするだけでCクラスを無力化できるのなら、しない手はない。
「とにかく、皆には一人での行動は避けるように言おうか。対策は、また考えよう」
「そう、だな。現時点では何もできない」
「悔しいけど、仕方ないね」
どうやら、今日はこれで解散らしい。
まぁ、確かに打てる手が少ないのも事実だしな。
「分かってると思うけど、綾小路くんは勝手に動いちゃダメだからね。もしやったら怒るから」
一之瀬に釘を刺される。
それに加えて、周りの奴もうんうんと頷いている。
「…………分かった。勝手には動かない、約束だ」
「ならよし。さぁ、帰ろうか」
「だね~」
これ以上、問題が起きないと良いんだが…………
──────しかし翌週、Bクラスは思わぬ窮地に立たされる。
『柴田颯がCクラスの生徒に危害を加えた』という、Cクラスからの訴えによって。
龍園くんさぁ…………(啞然)
Dクラスで救って欲しい生徒(No.1を投票して)
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堀北鈴音
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櫛田桔梗
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軽井沢恵
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長谷部波瑠加
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三宅明人
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松下千秋
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Dクラスに救う価値無し