綾小路がBクラスに配属された世界線 作:来世
19話:裏切り者にはご注意を
──────夏だ!
──────海だ!
──────旅行だぁ~~!!!!!
というわけで、オレたちは今、豪華客船に乗って太平洋をクルーズ中だ。
まぁ、ここまでの流れは割愛しよう。
説明するまでも、ないだろうからな。
「綾小路っ、喰らえぇ!」
「どぅわ?!」
一瞬だけ目を逸らすと、柴田に勢いよく水をかけられる。
「はは!綾小路の間抜け面とかレアだな!」
「やったな柴田。必ず仕留めるぞ!」
「やっべ!」
オレは今、クラスメイトと船の屋上エリアに設置されたプールで遊んでいる。
今は水掛け合いの最中だ。
「喰らえ!」
「はは!遅い遅い!」
「んにゃろ………」
オレが柴田といつかのように追いかけ合っていると、優しい声が聞こえてきた。
「みんな~~、少し休まない?!」
声を掛けてきたのは一之瀬だ。
この豪華客船では全ての施設が無料であるのと同時に、水着などのレンタルも出来る。
白いビキニを着た一之瀬の登場に、周りやプールサイドにいた男子生徒たちが目を逸らす。
だが、決して彼らを責めないでやって欲しい。
──────嗚呼、今日も世界は平和だな。
「いいな。疲れたし、混む前に昼食を終わらせるのも手だろう」
「んじゃそうするか。いい場所あったっけ?」
柴田と神崎の発言で、いつものメンバーで昼を食べるという流れになっていく。
見飽きた、というわけでもないが、新鮮味のないメンツだな。
「あれ…………綾小路くんかい?」
そんなことを思っていた矢先、聞き慣れた声がした。
「平田か」
オレも呼び返す。
振り向くと、隣にガールフレンドである軽井沢を連れた平田が立っていた。
デート、といったところか。
「え、なに。二人って仲いいの?」
驚いたように網倉が尋ねてくる。
確かに、普通は仲違いした奴らが挨拶し合っているように見えるのか。
「あー、まぁ、そんなとこだ。それより、奇遇だな。平田はデートか?」
オレは場の空気を和ませようと軽快に尋ねる。
が、軽井沢に睨まれてしまった。
加えて、Bクラスの他のメンバーも若干気まずそうだ。
「悪い。個人的な交友にお前たちを巻き込む気はなかった。じゃあな、平田。また会おう」
オレはなるべく早くこの状況を打開するため、そう簡潔に切り出す。
平田を見つめると、彼も小さく頷いた。
「邪魔しちゃったみたいだね。じゃあ綾小路くん、また今度」
「ああ。いい船旅を」
「君もね」
彼は足早に軽井沢の手を引いて去っていった。
その後ろ姿を見送ってから、話題を再び戻す。
「それで、昼飯の話だったよな?」
「ああ、そうだったな。どこか、良い場所を知ってる奴はいるか?」
オレの話にいち早く反応を示した神崎だったが、彼の問に答えられる者はいない。
まぁ、初日だしな。
「────六階のレストランがお勧めだって来た道の途中に看板があった気がする」
少しの沈黙を破ったのは、網倉だった。
「レストランか、いいな。そこにするか」
「いいんじゃね? メニューも種類あるだろうし」
「私もさんせー! そこにしよ!」
どうやら、満場一致らしい。
こういうところでも、協調性の高さが顕著になるな。
「────綾小路くんもいいよね?」
自分が答えてなかったらしい。
オレとしたことが、うっかりだな。
「勿論だ。レストラン、興味がある」
一学期では彼らと共にカラオケやカフェには行ったが、レストランは未だ未経験だ。
勿論、概念的には知っているが、何事も自分で経験してようやく知識となるからな。
「綾小路くんって………なんか、可愛いよね」
「分かる。なんか、色々教えてあげたくなるよね。普段とのギャップがもう………!」
「やっぱ帆波ちゃんとは親友だわ」
「私も麻子ちゃんと意見共有出来て嬉しいぃ!」
久しぶりに意味の理解できない会話を聞いたな。
なんだよ、オレが可愛いって。
可愛いって言うのは、一之瀬や網倉、佐倉のような人物を指す言葉の筈だ。
つまり、オレとはほぼ真逆と言っていい。
「─────綾小路、お前羨ましいぞ」
「どういう意味だ? 柴田」
「いいこと教えてやる。女子の言う『可愛い』ってのは、『かっこいい』よりも上の最上級の褒め言葉なんだぜ?」
「…………そうなのか? 神崎」
柴田を疑うわけではないが、いまいちピンとこない。
そのため神崎に訊き直すが、彼もまた小首を傾げた。
「すまない。そういったことには詳しくないんだ」
「神崎でも知らないことがあるのか」
「綾小路の中での俺はスーパーコンピューターか何かなのか?」
「そのくらい頼りになるのは事実だな」
その後、オレは水着から制服に着替え、彼らと昼食を楽しんだ。
オレが頼んだのはマルゲリータだったが、一之瀬のカルボナーラや網倉のビビンバを少しずつ分けてもらえて嬉しかった。
世の友達は、皆あのようなことをするらしい。
オレは少し単純なのかもしれないが、彼らとこれからも仲良くしていきたいと思った。
─────以上、綾小路清隆(15)の20XX/8/1の脳内日記より。
夜風が心地いい。
そんなことを、考えている。
今は、午後十時。
船内のおふざけムードも一旦落ち着き、それぞれが割り当てられた部屋に戻っている頃だろう。
そんな時間だというのにオレは、五階のデッキに出て夜風を浴びている。
「綺麗だな…………」
頭上に広がる満天の星空を見上げて、オレは呟く。
過去には見ることもなかったし、気にすることもなかったなんてことのない情景。
それが今は、とても美しいものに感じる。
オレも、高育に来て変わったということだろう。
──────だが、見られているのはあまりいい気分じゃないな。
一体誰だろうか、こんな時間にオレなんて言う凡人を付け回す変人は。
「────誰だ? 分かっているから出てこい」
振り返らずにそう告げると、どこかで見たような顔がひょっこりと姿を現した。
綺麗な瞳、整った目鼻立ち。
薄暗い空間でも分かる程に艶やかな茶色の髪が、視界に入る。
「──────こんばんは。Bクラスの綾小路くん」
彼女は、優しく微笑んでそう言った。
だが、オレの心は揺らがない。
Bクラスの者でない時点で、信用に値しないからだ。
まぁ、現段階での話だが。
「一方的に知られているというのはいい気分じゃないな。せめてもの礼儀として名乗ったらどうだ?」
「お堅いね。でも、言う通りかも。私は松下千秋、Dクラスだよ」
またお前らか、Dクラス。
いや、もういいか。
オレは、もうお前たちに期待はしない。
しても、意味のないことだし、最早興味もない。
「で、どうした。オレに、個人的な恨みでもぶつけに来たのか?」
誰が退学したかなんて覚えてないし興味も関心も湧かないが、その恨みをぶつけられるのはお門違いというものだ。
特に、この学校においてはな。
「違う違う。綾小路くんの話を風の噂で聞いてね──────勝つためなら、Bクラスのためなら他クラスを切り捨てられるんでしょ?」
ビューッと生暖かい夏の夜特有の風が吹く。
首筋に風が当たり、気分を不愉快にさせた。
「─────だから、どうした。確かに、オレは友人の為ならなんでもするさ。だが、それとお前に何の因果関係があるんだ? 無駄にDクラスと話をしたくはないんだ」
Dクラスと一括りにするのは悪いと少し思うが、仕方ないだろ?
一気に七人も退学者を出すような間抜けの集まりだ。
平田を回帰させるためにあの場では平田に責任があると言ったが、実際悪いのは退学した奴らだ。
事実、退学してない者もいるのだから、所詮はその程度の難易度だしな。
「──────私を、Bクラスの協力者にしてくれない?」
松下からの提案は、驚きのものだった。
まさか、この学校で自クラスを嬉々として裏切る者がいようとは。
だが、あのクラスなら納得もした。
正直、下剋上は望めないだろうからな。
「望む報酬は?」
「──────当然、私のBクラス入り、かな」
「何故オレたちBクラスなんだ? Aクラスの方がいいと思うぞ」
「Aクラスは絶賛派閥争い中、たとえ統一されてもクラスの一致団結は望めない。でも綾小路くんたちBクラスなら、団結力がある。私が他クラスの情報をリークすれば、最強になれる」
他クラスの情報をリークか。
となると、恐らくこのバカンス中に行われると神崎も予想していたクラス間戦争の可能性にコイツも気付いているわけだ。
Dクラスの者にしては、多少はマシか。
まぁ、どうでもいいが。
「──────ところで松下。この会話をオレがお前のクラスにバラす可能性は考えなかったのか?」
ここまで考えて動いているヤツが予想してないとは考えずらい。
だが、もし頭から抜けていたとか抜かすようならこのまま海に投げ捨てようかな。
「だって、あんな決断をする綾小路くんなら、私が有益かどうかを見るために少なくともまだ生かすだろうし、今は絶対にそんなことしない。この提案を持ち掛けた時点で、一回のチャンスは確定する。だから、そこで私の価値を示すだけ」
どうやら、想定よりは真面なようだ。
だが、能力は依然として不明。
彼女の言う通り、一度利用してみるのも手かもな。
もしオレの友人に害を齎すようなら切るだけだ。
「──────分かった。オレもクラスメイトからバカンス中のイベントの可能性については聞いている。そこで、お前が好きに動いてみろ。それで、今後の行動について決める」
「分かった。必ず、役に立つよ」
そう言い、連絡先を交換してから松下は去っていった。
「──────仲間を守る、か。思ったよりも、大変だな…………」
松下は綾小路たちBクラスの役に立てるのか?!
次回から無人島試験編スタート!
Dクラスで救って欲しい生徒(No.1を投票して)
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堀北鈴音
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櫛田桔梗
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軽井沢恵
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長谷部波瑠加
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三宅明人
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松下千秋
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Dクラスに救う価値無し