綾小路がBクラスに配属された世界線 作:来世
『1-B』というプレートの掲げられた教室に入ると、既に多くの生徒が登校していた。
そしてすぐに肌で感じ取ったのは『このクラスはコミュ強が多い』ってことだ。
まず、一人で過ごしている者が極端に少ない。
既に三十名以上が教室内にいるというのに、片手で数えられる数しかいないんだ。
それ以外の生徒は既に席の近い者や趣味の合う者たちで輪を作り会話に花を咲かせている。
オレには、難易度の高いクラスかも知れない。
まぁ、常識ではクラス替えが一年に一回行われるらしいし、気楽に行こうか。
「綾小路くん、見てみて」
オレがクラス内を観察して結論を出していた間に、一之瀬は黒板の前の教壇に立っていた。
そして、頻りに黒板に貼られたポスターを指差す。
「なんだ?」
少し興味が沸き近づくと、一之瀬は少し嬉しそうに言う。
「私たちの席、隣同士だって」
確かに、教室の窓際一番後ろと、その隣の席に『綾小路清隆』と『一之瀬帆波』の名前が並んでいる。
「偶然にしては、出来すぎてるな」
ここまで幸先が良いと、後から悪いことが起きそうで嫌なんだが…………
「喋れる人が隣で良かった~、綾小路くん頼りがいありそうだし」
「ないぞ。うっ、プレッシャーで胃痛が…………」
「あははっ、やっぱり綾小路くん面白いね」
「今のは心配するとこだぞ」
そんなとりとめのない会話をしながら教室内を歩き、席に座る。
ここならクラスメイトの顔や行動も覚えられそうだし、一石二鳥だな。
我ながら、運がいい。
「私、少し向こうに行ってくるねっ!」
一之瀬はすぐにそう言い、席を立ちあがる。
「あ、ああ。それと、今後は別にオレに宣言してくれなくても構わないからな」
「分かった!」
分かってくれたらしい。
一之瀬は、クラス内でも人気が出そうだな。 完璧超人だし。
今後の関わり方には注意することにしよう。
もし彼女の過激派や‘‘がちこいぜい’’なるものに絡まれた場合、オレの理想とする平穏で平均的で少しだけハッピーな学生生活が送れなくなってしまう。
暫くボーっと窓の外を眺めていると、大人の女性が教室に入ってきた。
若干ウェーブのかかった金髪と緩めの服から、あまり厳しい性格ではないだろうことが窺える。
もしあれがオレたちBクラスの担任なのだとしたら、当たりなのかもしれない。
「は~いみんな~、席についてね~」
見た目から想像できる通りの柔らかな声が教室に木霊する。
「私は星之宮知恵、普段は養護教諭やってるから、体調悪くなったら早く来てね。それでだけど──────」
そこから、星之宮によるこの学校の説明会が始まった。
「まずは全員、生徒証を取りに来てね。あと生徒証端末も。これ壊れちゃっても申請すれば替えは貰えるから安心して。あ、でも故意に壊すのはダメだよ?」
そう言いながら、出席番号順に名前を読んでいく。
まずはオレかららしい。
まぁ、『あ』から始まる苗字はこのクラスにオレと網倉のみだからな。
生徒証と端末を彼女から受け取るとき、少しだけ変な視線を送ってきた。
まぁ、気にする必要はないと思って無視したが。
全員に配り終えると、本格的な説明が始まる。
「まずだけど、この学校ではクラス替えがないの」
──────え?
そうなのか?
ないのか? クラス替え。
つまり、このクラスで人間関係でミスを犯した場合オレは詰みだ。
「あとは知ってると思うけど、全寮制だから皆寮生活確定だね」
そう──────全寮制。
これが、オレが高育に入学した理由だ。
外部との接触も断たれているため、変な干渉を受けずに済む。
「三年間外に出てないわけだけど、三年間退屈しないくらいの設備が高育には揃ってるから安心して。じゃあ最後は──────
──────Sシステムについて、説明しようかな」
Sシステム?
聞いたことがない単語だな。
造語、か?
とりあえず、説明を聞くとしよう。
「さっきみんなに渡した生徒証だけど、実はこの学校にある店とか施設を利用したりするのには、‘‘対価’’が必要なんだよね。それが、ここでいう‘‘ポイント’’。今みんなの生徒証には10万ポイントが振り込まれてるの」
「あ、因みに1ポイントで1円の価値があるから、扱いには注意してね。それと、ポイントの譲渡は自由だけど、恐喝とかはしたら退学になっちゃうからね。ポイントは毎月一日に振り込まれるわ」
──────情報が追いつかないな。
まず第一に理解できたのは、この学校が異常だということだ。
いくら世間知らずなオレでも、無償で生徒に10万円も差し出す学校がここ以外にないだろうことは知ってる。
それに、こんなことをしていて優秀な生徒を育成できるとは思えない。
生徒を飽きさせないために中を開拓するのは百歩譲って分かるが、これでは勉強するどころは金を浪費して遊び癖がつくのが関の山だろう。
マジで、何をかんがえてるんだ…………?
まぁ、いいか。 そんなことよりも、友達作りに精を出さねば。
「何か質問のある子は──────いないみたいね。それじゃあ、入学式に遅れないように」
それだけを言い残して、星之宮は教室から出て行った。
爆弾だけを投下して逃げるのは、なんというか卑怯だぞ…………
「みんな、ちょっといい?」
それぞれが自由行動を始めようとしたタイミングで一之瀬が席を立ち上がる。
その声と姿には、絶対的な自信が浮かんでいるように見えた。
「私たちはこれから三年間同じクラスのメンバーなわけだし、自己紹介をしないかなっ?」
一之瀬が最後に軽く微笑むと、クラス中の男子が頷いた。
そして女子すらもを魅了する笑顔によって、満場一致で自己紹介実行が決定した。
ある程度覚悟していたが、とうとう来てしまったか…………
何を隠そうこのオレ、綾小路清隆は大勢の前で自己紹介をするのはこれが初めてである。
その初挑戦で今後のクラス内での交友関係と立ち位置が決定すると思うと、少しだ気緊張する。
しかし、深く考える必要はない。
重要なことを伝えて、座る。 ただ、それだけの作業だ。
「じゃあまずは私からかな。私は一之瀬帆波、趣味はショッピングとか友達と遊ぶことかなっ!みんなと仲良くなりたいです!よろしくねっ!」
以上、一之瀬帆波による自己紹介手本講座でした。
それと、男子ども…………視線が丸わかりだぞ。
ほぼ全員が一之瀬の顔ではなく上半身を見ていた。 部位は言うまでもないだろう。
「じゃあ次は…………綾小路くん、頼めるかな?」
一之瀬が流れを作るため、オレに振ってくる。
同時に、クラス中の視線がオレに向く。
困ったな…………まだ、頭の中で原稿を添削している段階だったんだが…………
しかしまぁ、一之瀬には恩もある。
優しい奴だし、ここで断るのも申し訳ない話か。
いっちょ、気張って行きますかね。
「え────、綾小路清隆です。得意なことは特にありませんが、皆さんと仲良くなれるよう頑張ります」
──────詰みだ…………
やはり、受けるんじゃなかった。
この醜態を取り返すことは最早不可能。
クラスの皆は気を遣って拍手をくれたが、それが更にオレの惨めさを加速させた。
「綾小路くんってイケメンじゃない?」
「え、分かる。 かっこいいよね~」
「クール系? あどけない感じいいわ」
クラスの女子たちが何かを言っていたが、理解できなかった。
Cool系…………? 寒い、カッコいいの方か?
いや、オレがカッコいいわけないか。 変な勘違いは止めておこう。
それに、池面とはなんだ? 池っぽい、面? 瑞々しいって意味か?
何やら一之瀬が少しだけ目を鋭くさせていたが、結局何が何だが分からないまま自己紹介は終わった。
結論を簡潔に述べるのなら、オレの学生生活はお先真っ暗ってことくらいだろう。
綾小路はねぇ、無垢な頃が一番いいんですよ…………
あのあどけなさ、世間知らずの子供のような態度と緩い感じの頃の彼がねぇ、私は好きなんですよ
Bクラス綾小路くんのヒロイン候補
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一之瀬帆波
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網倉麻子
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小橋夢
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白波千尋
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姫野ユキ
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神崎隆二
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柴田颯
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渡辺紀仁
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堀北鈴音
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軽井沢恵
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櫛田桔梗
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龍園翔
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椎名ひより
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坂柳有栖
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神室真澄
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綾小路にヒロインなんていらねぇ!