綾小路がBクラスに配属された世界線 作:来世
「─────綾小路くん」
オレは今、神崎と共にDクラスのベースキャンプに出向いていた。
案外近くにあったのを、偶然見つけたわけだ。
「一昨日ぶりだな。平田」
オレはすぐに駆けつけてきた平田に挨拶を済ませる。
が、依然としてDクラスからの視線は痛い。
まぁ、これも当然だな。
なんてったってオレと神崎は彼らの仲間を退学にさせた張本人だ。
見当違いな逆恨みであることには変わりないが、全員が全員そうやって感情を割り切れる奴じゃないこともこの数カ月で学んだからな。
別に、オレから彼らを恨むことはない。
「えーと、どういう用件で来たのかな?」
平田は突然の来訪に困惑しているらしい。
少し目が泳いでいるし、顔も不調そうだ。
「今回の試験、Cクラスの動きが読めない。もしかしたら、Dクラスに攻めてくる可能性もあると思ってな。スポット探索のついでに警告しに来た」
オレの代わりに、神崎が答える。
だが、これには少し嘘が混じっている。
厄介なCクラスに成功体験を与えるよりもDクラスを一瞬救う方がマシだという考えの下、各クラスのベースキャンプを捜していたわけだからな。
あくまで見つけたのは偶然だから、完全に嘘と言うわけでもないのだが。
「Cクラス…………そうか、君たちはすでにそんなところまで考えが及んでいるんだね。僕たちはまだ自分たちのことで精一杯だよ」
Dクラスのベースキャンプに目を通す。
テントはオレたちと同じ数購入しているな、それに加えて仮設トイレは二個。
焚火を起こしていた痕跡はあるが、あまり燃えていたとは考えづらい跡だな。
ここでオレは、迷った。
Dクラスには、平田や佐倉といった友人がいる。
だから、困っているのなら他クラスであろうと助けてやりたい。
でもそれは、この学校では敵に塩を送ることになる。
オレと平田の関係は神崎や一之瀬には共有済みだが、それでも許してくれるかは怪しいな。
まぁ、高育の特性上仕方ない部分も多いが、他クラスとのコミュニケーションも社会で必要な武器だと思うんだよなぁ…………
「────平田。焚火を起こした痕跡があるが、実際に料理などは可能だったのか?」
オレは思い切って彼に尋ねてみた。
すると、彼は驚いたような顔をする。
「分かるのかい?」
「あー、まぁ、な。焦げた地面にそれを囲う石があれば察せるだろ」
「そうか。だけど、実際は失敗、になるかな。うちのクラスにはキャンプ経験者どころかアウトドアが好きな者がほぼいなくてね。サバイバルじゃ手詰まり状態だよ」
やはり、そうか。
でも、思い返せばDクラスには直接危害を加えられたわけじゃない。
確かに金をせびってきたが、それも彼らの『仲間を想う気持ち』故の行動と捉えられる。
「─────焚火の起こし方くらいなら、教えてやれるが」
オレがそう呟くと、神崎が睨んできた。
だが、それとは逆にDクラスのオレを見る目に多少の迷いが生まれたように思える。
「おい綾小路。どういうつもりだ?」
「今回の試験に限らず、今後絶対にクラス間での戦争は起こり続ける。そうなったとき、敵が増えていて嬉しいか?」
「それは…………望まない展開、だが…………」
「そういうことだ。Dクラスは既に七人退学していて戦力も僅か。わざわざ叩き落す意味もないし、教えてもオレたちのポイントが減るわけじゃない、だろ?」
神崎は押し黙る。
オレの意見が、正しいと理解できるからだ。
「オレの友人なんだ。こんなところで、飢えたりしてほしくない」
「…………分かった。ただ、スポットの場所を教えたりするのはダメだ。いいな?」
「分かってる。ありがとう、神崎」
「気にするな」
小声での会話を終えたオレは、平田に歩み寄る。
「─────平田。焚火の秘儀を伝授しよう」
「ホントにいいのかい?! 僕たちは一応、敵同士だろう?」
平田の言い分は、尤もだな。
仕方ない、ここで宣言しておくか。
神崎も同じ意見だったし、一之瀬には言うまでもない。
「──────みんな。少し聞いてくれ」
オレはDクラスのベースキャンプ全体に聞こえるよう大きな声を出す。
すぐに、全員の視線がオレに向いた。
端の方で作業していた者たちも、釣りに熱心になっていた者たちも。
「Bクラス、というよりオレ、綾小路清隆は多くの者の目には敵として映っていることだろう。退学した者たちの友人、そしてクラスメイトとして。もしくは別の意味でオレを嫌っている者も多いのは理解している」
オレはそう言いながら、周りを見渡す。
怪訝な表情を浮かべる者もいれば、軽く睨んでくる者もいる。
やはり、感情と言うのは面白いな。
「だが、あれはオレ個人の感情ではなく、クラスの未来を憂いた上での建設的な判断だった。感情はそう簡単に割り切れるものじゃないだろうことも理解できるが、そこだけは‘‘知っておいて欲しい’’」
至極真面目に語り掛ける。
ここで重要なのは、Dクラスとの今後の関係を険悪なものにしない為の努力だ。
今後も特別試験は行われるだろうし、もしかしたら他クラスと組むこともあるかもしれない。
そんなとき、彼らとも手を取り合えたらいいと思う。
価値のない不良品でも、オレの仲間を傷付けないのならそれだけで価値は生まれるからな。
「何都合のいいこと言ってんだよ、そう思ってもらっても構わない。それでも、オレは、Bクラスは今後Dクラスと表立って対立する気はない。言いたかったのは以上だ」
オレはそう締めくくると、平田と共に焚火跡の前に立つ。
「まず火の起こし方だが、これは原始的な方法を使うよりも全クラスに与えられたマッチで起こす方が早い。あとは、くべる木も選ぶべきだな。森の中に落ちているものを拾うので構わないが、なるべく乾いているものを選んでくべるんだ」
サバイバルのやり方については、少し知っている。
といっても中級者程度の知識しかないから、いきなり一人で無人島で生き残れと言われたら流石に厳しいが。
その後、Dクラスの面々と少し話してからベースキャンプを離れた。
あまり長居するのも申し訳ないし、意味もないからな。
因みに、お互いリーダーについては言及しなかった。
当然だな。
「…………」
離れる際、端の方に突っ立っていた松下に一瞬だけ視線を投げた。
それだけでも、意味は伝わっただろう。
「────神崎、少し用事が出来た。先に帰っててくれないか?」
オレはベースキャンプを離れて数分歩いた後、立ち止まりそう声を掛けた。
彼は一瞬怪訝そうな顔をしたが、すぐに諦めたような顔をする。
「綾小路は、無駄なことはしない。そう一学期の時点で結論を出している。何をするのかは、試験が終わった後にでも必ず聞かせろ。それでもいいなら、行け」
話の分かるヤツは好きだ。
それに、神崎とはどこか思考が似ている。
相手の狙いも話さずとも共有できる、そういう相手は彼以外にはいないからな。
「分かっている。この試験が終わった後、全てを話そう」
「なら、俺はもう行く。恐らく、邪魔だろうからな」
そう言ってから、彼は足早にBクラスのベースキャンプの方向に帰っていった。
振り向くこともなく。
「────お久、綾小路くん」
その直後、声がした。
少しだけ高く、しかし落ち着きのある声が。
「遅かったな。松下」
オレは彼女の名を呼ぶ。
振り返れば、学校指定のジャージに身を包んだ松下が立っていた。
「神崎くんがいたんじゃ出て行けないし。分かってて言ってるでしょ?」
「それで、収穫はあったのか?」
オレは無駄な話は挟まず本題に入る。
今は、時間も余裕もないからな。
「うん。まだリスクもあるし証拠を用意できないからリーダーは言えないけど、スポットの場所なら覚えてる。昨日だけで計五個のスポットを見つけた。今はこれでいい?」
松下は、乾いた地面に木の枝で無人島の俯瞰図を書いた。
そして、それからスポットの位置を細かく記す。
これが嘘じゃないのなら、かなり好都合だ。
DとBのベースキャンプの位置が近いから、網倉に負担もかからない。
「最新の占有は何時頃だ?」
「今朝の八時頃。私もついて行ったから覚えてる」
今朝の八時、か。
となると、タイミングを空けずに占有するなら次は午後四時頃となる。
移動に約三十分と考えれば…………
「把握した。この情報はかなりありがたい。それと、次の密会だが」
「深夜と早朝、どっちがいい?」
話が早いな。
オレが何を言いたいのかを理解している。
「早朝、だな。何時頃、ここに集合する」
「私は何時でもいいけど」
「なら、都合と時間帯も含めて早朝四時、でどうだ」
「分かった」
「またな」
「うん」
ここで松下が嘘を吐くメリットはない。
つまり、スポットの情報は真実だと見て良いだろう。
これで、ポイント稼ぎの効率が格段に上がったな。
あとは──────
──────他クラスのリーダーの把握、か。
どうやってユキちゃんを絡ませるかめっちゃ悩んでる
次話では必ず登場するのでお楽しみに!
Dクラスで救って欲しい生徒(No.1を投票して)
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堀北鈴音
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櫛田桔梗
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軽井沢恵
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長谷部波瑠加
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三宅明人
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松下千秋
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Dクラスに救う価値無し