綾小路がBクラスに配属された世界線 作:来世
綾小路への信頼度と会話の流れ、綾小路の立ち位置と今までの言動を含めれば違和感はない筈
「──────何者でもないさ。ただの、一男子高校生だ」
オレは一之瀬の問に、用意していた答を述べる。
ただ、学生生活を楽しむだけなら、過去は不要だからな。
「前にね、私が星之宮先生に呼び出された時があったでしょ?」
一之瀬の言葉から、一学期の日々を思い出す。
そして、確かに思い当たる日があった。
「七月、十六か」
「そう。あの日ね、私星之宮先生に言われたんだ。『困ったことがあったら、綾小路清隆くんを頼りなさい。彼なら、必ず障壁を壊してくれる』って」
あの飲んだくれめ、一之瀬に余計なことを吹き込みやがったな。
オレは思わず脳内に思い描いた星之宮の顔面を殴りそうになる。
「星之宮先生って、私たち生徒を『Bクラス』っていう集団として見てくれるじゃん?なのに、君だけは特別だったみたい。あの人にあそこまで言われるって、普通じゃないよ」
ここは、適当な言い訳を並べるべきだろうな。
だって、それが仲間の為だからだ。
「…………確かにオレは、普通とは少しばかり違う人生を、今まで歩んできたと思う」
オレは過去を思い出すように、広大な星空を見上げる。
無数の星たちが輝き、幾光年先の果てから、存在をアピールしているように思えた。
「こうして星空を見上げる機会もなかったし、今みたいに誰かと心を通わせて話すこともなかった。でも、オレの過去については、悪いが言えない」
オレの横顔を見つめる一之瀬に、オレは真っすぐ伝えた。
これが、最善の道だと信じて。
「─────どうしてかは、教えてくれたりする?」
「そうだな。…………オレは、普通になりたかった。この夜空の中で他の星に紛れて多少の光を放つ六等星のような存在に。そしてできれば…………」
「出来れば?」
「…………普通の生活を、送ってみたかったんだ。一般的な男子高校生は、どんな朝食を食べるんだろう。一般的な高校生は、どんな放課後を過ごすんだろう。そんなオレの問の答を、お前たちがくれたんだ」
オレは一之瀬を見つめた。
今までの感謝と、これからの感謝を伝えるために。
「…………少なくとも、私は何もしてないよ? 中間試験の結果発表の日、私は綾小路くんと神崎くんに救われた。一人で戦わなくてもいいって、そう言ってくれた気がした。柴田くんがCクラスに嵌められたときだって、綾小路くんが救ってくれたんだよ?」
一之瀬は少し申し訳なさそうな眼で、オレを見つめ返してくる。
その眼には、オレはどう映っているのだろうか。
「オレは、仲間を守る為に戦っただけだ。そして一之瀬も、よく戦ってくれた。生徒会長の意見をこっち側に引き寄せられたのは、一之瀬の善性あってこその成果だ」
事実、あの堀北学にも一之瀬の善性は認められていた。
やはり人を動かすのは言葉ではなく行動なのだろう。
「だがオレは、そんなことを言ってるんじゃない。一之瀬はオレを、いい意味で変えてくれた。他人に興味のなかったオレを、真っ白なオレに色をくれた。本来なら色褪せていた筈の放課後を、虹色に染めてくれたのは他の誰でもない一之瀬だ」
こんな臭いセリフな似合わないな、と笑うと、一之瀬も笑みを溢す。
そんな、‘‘普通’’の光景が、やはり愛おしい。
「────君はやっぱり凄いね。なんでも、話したくなっちゃう…………」
一之瀬は、暗い顔をして俯く。
何がそうさせているのかは、皆目見当もつかない。
「何か、あったのか?」
「…………ねぇ、綾小路くん」
「なんだ?」
「もし私が、善人なんかじゃないって言ったら、どうする?」
弱々しい声と共に、暗い瞳がオレを捉える。
その瞳には、迷いや葛藤が詰まっているように見えた。
「この世に、完璧な善人がいるとしたら、オレは一之瀬だけだと思っていた。だから、その常識だけが覆るだろうな。ただ、別にそれだけだ」
オレは思ったことを淡々と述べる。
別に、どこにも完璧な人間なんていないからな。
他人に対して自分の理想を押し付けるのは、傲慢でいて独善的だ。
「嘘だよ…………皆私には、善人であることを望んでる。助け合って、支え合うっていう言葉に嘘はないけど、それでも、私は壁を感じてる…………」
確かに、網倉や神崎、柴田など一部のメンバーを除けば、未だに一之瀬に意見できる奴は少ない。
それは、オレも感じていた点ではある。
「一之瀬に過度な期待をしている者も少なからずいるのはオレも感じている。だが、別に一之瀬がそれに応える義理は無いぞ。ただ同じクラスになっただけだ。神崎も最初は『お前のやり方でダメなら責任とって退学しろ』とか言ってたが、あれも本心ではないしな」
クラスを率いる以上、ある程度の成果は挙げる必要がある。
だが、もし一之瀬がことごとく敗北し、クラスがDにまで落ちたとしよう。
それでも恐らく、クラスは彼女に頼る。
──────現状のままなら、の話だが。
「────私ね、ホントは、犯罪者、なんだよ…………?」
次第に口を開いた一之瀬の口から、思ってもみなかった言葉が発せられた。
だが、動揺することはない。
その反応が、一之瀬を傷付ける可能性があるからだ。
「そうか」
だからオレは、驚きもしないフリをする。
これが、彼女の為だと信じて。
「えっ? それだけ…………?」
「変か?」
「だって………犯罪者、だよ? 深く聞かないの?」
一之瀬は自分で言っておいて変な質問をしてくる。
それが少し不思議で、オレは首を傾げた。
「別に、それだけ言いたかった場合もあるからな。もし一之瀬が、ここで打ち明けたいと言うのなら、止はしないが」
オレは背後に意識を向けてから、そう言った。
もし誰かに聞かれていた場合、まずいかもしれないからな。
「やっぱり、大人だね。本当に同じ歳なのか、怪しく思うよ」
「精神が大人びていると言ってくれ。それに、オレだってまだまだ知らないこともある」
感情とかな、と自分の中で付け加える。
まぁ、表に出すことはないだろうが。
「─────教えて欲しいんだ。もしね、自分の家が裕福じゃなくて、明日の生活も怪しい貧乏な家庭だったら。そこで出来た妹が、どうしても誕生日プレゼントを欲しがって、それでも自分にも親にもお金はなくて。でも、プレゼントはあげたい。君はどうするの?」
文脈から考えて、これは一之瀬の経験談である可能性が高い。
だから、彼女が納得するような答えを捜した。
それでも、一向に思いつかない。
「────すまない。オレには答えが分からなかった。金がないのならあきらめなければならない。だが、実妹なら当然情も湧き、プレゼントを上げたくなる。倫理と感情の狭間でお前は、どんな答えを出したんだ?」
オレに分からない問は、世間にこうもたくさん溢れている。
その事実に驚きと共に、好奇心も湧いてきた。
いつか感情を手に入れたら、いつかの彼女や彼のように、答えを出せるのだろうか。
「─────私は、盗るっていう選択をした。当時の私の頭の中には、それしかなかったの。でも、でも…………悪いことだって言うのは分かってる。それでも…………!」
「妹の願いを叶えたかった、と。気持ちが分かるとは言わないが、想像は出来る。だが、お前が越えてはいけない境界線を踏み越えたのも事実だ」
彼女が高育に来ていることから、逮捕とはならなかったのだろう。
それは誰かの配慮なのか、それとも違うのかはオレには分からない。
「やっぱり、そうだよね…………」
「だが別に、気負う必要はない。その『妹を想ってやった』というところがお前の善性であり人間性の証明だ。過去は乗り越えるためにある。前にも言ったが、もう一度言っておく。『信じた道を突き進め』。その先に、必ずお前だけの答が待っている」
前にオレは、一之瀬の進む道に障壁がないことを祈った。
だが、今は少し考えが変わったように思う。
星之宮の言う通りになる可能性が高いのは癪だが、それでも構わない。
クラスと仲間の為に己、そして敵と戦う少女の為にオレも、協力しよう。
表立ってではなく、もし一人の力では越えられない壁が出来た時に、そっと背中を押す程度に。
「…………皆にも、話した方がいいかな?」
「それは、お前が決めろ一之瀬。だが、同じ仲間であるオレに話したことが、その答なんじゃないか?」
オレの言葉に、一之瀬は小さく笑う。
同時に、夜空の星も輝いた気がした。
そういえばめっちゃ遅れて今日の朝三時ごろに『よう実 三年生編三巻』を読み終わったんですが、次の本試験ヤバそうですね
ここで書くのもあれだけど、ひよりが退学しそうで怖い
個人的には『ひよりの退学をも防ぐ綾小路のスーパープレイ』or『ひよりの退学で綾小路の心に傷ができる』の二択だと思うんですよね
衣笠先生、頼む。ひよりだけは勘弁してください
Dクラスで救って欲しい生徒(No.1を投票して)
-
堀北鈴音
-
櫛田桔梗
-
軽井沢恵
-
長谷部波瑠加
-
三宅明人
-
松下千秋
-
Dクラスに救う価値無し