綾小路がBクラスに配属された世界線 作:来世
入学式で校長先生や理事長の有難いお話を聞き流してから、オレたちは自由時間を迎えた。
オレは一人寂しく寮に帰ろうとしたのだが──────
「──────待って待ってっ! 綾小路くんっ!」
背後から、聞き慣れてきた声がした。
「…………何か用か? 一之瀬」
オレは振り返りながら問う。
目の前には、かなりの距離を駆けて来たであろう息の荒い一之瀬がいる。
肩と同時に胸も揺れ、周囲の人間(主に男子)の視線を集めていることは言うまでもないだろう。
「まだお昼前じゃん? だからクラスの皆でカラオケに行ってみない?って話になってるの。綾小路くんも良かったらどうかな?」
可愛い一之瀬に上目遣いでお願いされて、首を縦に振らない男は果たしてこの世にいるだろうか。
否、存在しない。
オレも例に倣って首を縦に振る。
ここは波風を立てず参加することが重要だ。
そしてあわよくば、この機会に友人を作っておきたい。
それと、クラスの前で晒した醜態を少しでも払拭しなければ。
「皆が構わないのなら、是非参加させてほしいが」
「もちろんだよ!みんなも綾小路くん誘いたいって言ってたし」
「それは本当か…………?」
にわかには信じ難い話だが。
自分で言っていて悲しくなってきたぞ…………
「うんっ! 穏やかだし、大人っぽいよねぇって話してたんだよ?入学式のとき」
「そ、そうか。ならまぁ、行かせてもらうが」
「ついてきて、皆いるから」
「あ、ああ」
…………一之瀬のような善人タイプでも、入学式の際に話したりするんだな。
まぁ、それが‘‘普通’’か。
一之瀬についていくと、Bクラスの生徒十五名ほどがいた。
それも、自己紹介の際に強者オーラを放っていた者ばかりだ。
「おっ!来たな!」
「遅れてごめんね~、綾小路くん足速くって」
「気にしないで~、さ、行こ行こ」
そんな感じで、なんか皆歩き始めた。
オレ、必要か?
まぁ、いいか。
それに、コミュ強と友達になれたら、オレもあっち側に行けるかもしれない。
そう考えれば、この会合も悪くないな。
ケヤキモールという場所に向かって歩いていると、誰かがオレに歩くペースを合わせてきた。
今は目立たないように最後尾を歩いていたわけだが、誰だ物好きは。
そう思い顔を上げると、一之瀬程ではないにしろ整った顔立ちの少女だった。
黒髪にポニーテールと、男子ウケの良さそうな(多分)髪形をしている。
「や、綾小路くん」
話すのは初めてだというのに、なんだこの軽さは。
これが強者か…………見習うべき点が多数あるようだ。
「網倉、だったか」
自己紹介で名乗っていた彼女の名を記憶の箱から引っ張り出して差し出す。
「覚えててくれたんだ。嬉しいねぇ」
「そりゃ、網倉は可愛いからな。誰だって一度聞けば覚えるだろう」
「またまたぁ、帆波ちゃんにも同じようなこと言ってるんでしょ?」
──────すでに名前呼び、だと?
格が違いすぎる。
オレ風情が軽々しく『おい帆波ぃ』とか呼んでみろ、消されるぞ。
間違いない。 いくらオレでも、流石に骨が折れそうだ。
「甲乙つけがたい、からと言ったらいいのか?」
「それを私に聞くの? はは、帆波ちゃんの言ってた通り、綾小路くんって面白いね」
訊かない方が良かっただろうか。
返答に困ったから救いの手を求めたんだが…………やはり上手く行かないな。
「それは褒め言葉、と捉えていいのか?」
「うん、そうだね。やっぱり綾小路くんは変わってる。でも…………面白い」
「ありがとう?」
そんな会話をしていると、前の方で盛り上がっていた一之瀬も下がってくる。
「なになに? どんなお話ししてたの?」
どうやら、オレたちが何を話していたのかが気になったらしい。
別に、特筆することは何もないんだけどな。
「綾小路くんが帆波ちゃんを誑かそうとしてるんじゃないかって話、ね~?」
そう言いながら、網倉はオレに笑いかけてくる。
そんな話だったか…………?
だがまぁ、乗ってみるのもまた一興か。
「別に、自覚はないんだがな。綺麗なものに綺麗だと告げるのは、間違ってないだろう?」
「にゃにゃ?!」
オレの言葉に、二人は少しだけ頬を紅潮させる。
しかしそれも、すぐに収まったようだ。
「綾小路くんってさ、よく天然だって言われない?」
天然…………?
いや、なんだ天然って。 人に対して使う言葉なのか?
人にも、養殖や天然の概念を当てはめることは可能なのか?
「分からないな…………少なくとも、言われたことはないぞ」
「そっか~、まあいいや~。そういえば帆波ちゃん」
「何? 麻子ちゃん」
「さっき照れたよねっ?」
「それは麻子ちゃんもでしょ!」
二人のハイテンションな掛け合いの意味を理解するのは諦め、オレは訊き流しながらケヤキモールへと歩き続けた。
カラオケルームの比較的大きな部屋を借りることに成功したオレたちは、思い思いの席に腰掛けていく。
オレは当然壁の横、つまり角の席に座る。
やはり、オレみたいな者には端が似合うな。
そんなことを考えていると、隣に誰かが座った。
視線を向けると、銀色の短髪を揺らす男子生徒だ。
確か名前は──────
「よぉ、綾小路。俺は柴田颯だ、よろしくな」
思い出す前に、向こうから再び名乗ってもらえた。
「ああ、よろしく頼む」
なんで隣に座ったのかは理解に苦しむが、今はどうでもいい。
彼は比較的フレンドリーなようだし、仲良くさせてもらおう。
暫く彼やそのまた隣に座っていた渡辺紀仁と言う生徒と話していると、向かいの席に座っている一之瀬たちが歌い始めた。
それに続くように、男子女子関係なく手拍子や口笛で参戦していく…………
ああ…………オレの望む世界が、今目の前にある。
これが高校生活なのかと内心で感動していると、オレにも話題が振られる。
気付けば、かなり時間が経っていたらしい。
「綾小路くんも歌おうよ!折角だしさ!」
「そうだぜ!カラオケは歌ってなんぼだからな!」
「歌声聴きたいかも~」
そんな言葉に推され、オレはマイクを握る。
しかし、大問題発生だ。
オレは、何を謳っていいのか分からない。
そもそも、歌を知らない。 流行りも全く分からない。
「………何か、リクエストはあるか? 一度聞かせてもらえば、ある程度は歌えると思うが」
一度だけでも聞けば、数分の歌など音程事覚えられる。
あまり難しいものじゃないと良いんだが…………
結局その後、みんなにリクエストされた曲で全て90点代後半を叩き出してしまい、『一年Bクラスの歌うま大臣』なるものに任命されてしまった。
一之瀬や柴田も十分上手かったと思うんだがな…………
帰り道。
やはり歩いていると、一之瀬が距離を詰めてきた。
「今日は来てくれてありがとね」
そう言い、微笑む。
「オレの方こそ礼を言いたいくらいだ。誘ってくれてありがとうな」
お陰で、柴田や渡辺といった友達もできた。
全ては、一之瀬のお陰と言っても過言じゃない。
「じゃあ、お互い様だね」
「だな」
「はぁぁ、高校生活楽しい~!」
一之瀬が小さく叫んだ。
確かに、楽しい。
これが今後日常になっていくと思うと、心が躍るな。
「楽しいぞ~!」
オレも倣って叫んでみた。 勿論、小さくな。
ウキウキ小路くん尊い…………ずっと見てられる
Bクラス綾小路くんのヒロイン候補
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一之瀬帆波
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網倉麻子
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小橋夢
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白波千尋
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姫野ユキ
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神崎隆二
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柴田颯
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渡辺紀仁
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堀北鈴音
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軽井沢恵
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櫛田桔梗
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龍園翔
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椎名ひより
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坂柳有栖
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神室真澄
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綾小路にヒロインなんていらねぇ!