綾小路がBクラスに配属された世界線 作:来世
「…………よぉ、Bクラス。初めましてだな」
目の前に立つ男から発せられるのは、軽快な言葉と重い殺気。
どうやら、相当お怒りらしい。
「殺気を放つ前に名乗ったらどうだ?」
大体で予想はついているが、それがマナーというものだろう。
初めましてって自分で言ってんだし。
「ちょっ、綾小路くん」
「あまり煽るのは…………」
一之瀬と神崎も若干不安そうな気がする。
だが、人通りが少ないと言ってもここは廊下、流石に襲ってくる可能性はない。
それに、相手は一人だしな。
「────クク、そりゃ悪かったな。俺ぁ龍園翔、Cクラスのリーダーだ」
やはり、こいつが龍園か。
直接話すのは、これが初めてとなる相手。
なのに、どこか初対面と言う感じはしないな。
「そうか。オレは綾小路清隆、Bクラスだ」
「右に同じく、神崎隆二だ」
「一之瀬帆波だよ」
オレに続くように、一応左右の二人も名乗る。
だが、その光景を龍園はつまらなさそうな目で切り捨てた。
「ふんっ、てめぇらみたいなアホ面に一杯食わされたなんて、信じらんねぇな」
「何のことだか、さっぱりだな」
龍園は今までの行動や無人島試験での戦術から、リーダーとしての実力は申し分ないと言える。
だが、敗因は正攻法での弱さ、そして自身が敵を欺いているという自信からくる油断だ。
そのせいでオレの策にはまり、まんまとリーダーを当てられAクラスと共に落とされたわけだからな。
「タネが分かれば、そんな難しい話じゃねぇ。ただ気に食わねぇのは、どうやってDクラスにも俺の名前を書かせたかって話だ」
ポイントの減りやA・Dクラスのポイントからそこまでは辿り着いたのか。
ただ、やはり櫛田の情報を握れていないという点でオレの策を見抜くことは出来ない。
それに、こっちには松下という手駒もいる。
「そういうのは、うちのリーダーに聞いてくれ。オレはただの使走だからな」
そう、オレは無人島試験での策をすべて神崎と一之瀬の成果にするように既に話を済ませている。
理由は単純、目の前のコイツに目を付けられないためだ。
辰グループに配属された時点で多少目を付けられているかもしれないが、オレの出番は裁判以降なくていい。
それがオレの為でもあり、クラスの為でもあるからな。
「クク…………まぁ、過ぎたことだし深追いはしねぇよ。ただ今回の試験、俺と同じグループだってことを喜べ。絶対、隙は与えねぇ」
「それは手強いな。俺たちも、全力で相手をしよう」
オレの代わりに神崎が答える。
そしてそれに、一之瀬も頷いた。
これは宣戦布告だ。
「…………思ったより楽しめそうだ。Dなんてもう死にゆくカス、Aの前にまずてめぇらを引き摺り下ろしてやるよ」
そう捨て台詞を吐いてから、龍園はオレたちとは真逆の方向に歩いていった。
「…………どうやら、宣戦布告をされたらしいな」
「だね。Cクラスは完全に私たちをロックオンしてるよ…………」
龍園が去った後、二人は意気消沈といった様子だ。
基礎スペックではうちの方が断然高いのだから、油断さえしかければ怖い相手じゃないんだがな。
「そこまで恐れる必要はない。盤石な体制を敷き、崩されないよう注意すれば基本負けることはない。総合力が下位のクラス相手ならな」
当然、相手がAクラスなら話は変わるが。
オレたちは上から二番目、つまり大体の敵には負けることがない。
「そこまで言えちゃうのは流石だね」
「ああ。無人島試験でも、全員が綾小路の掌の上だったしな」
「あれは運が良かっただけだ。たまたま試験の内容と、事前に得ていた手札が噛み合った、という話でしかない」
「行き過ぎた謙遜は嫌味になるぞ。綾小路…………」
何故か神崎に肩を撫でられながら、オレたちは足を進めた。
『────ああ。とりあえずお前は、明日になったらクラス内の優待者の情報を探れ』
深夜一時、誰もいないデッキでオレはスマホを耳に当てる。
聴こえてくるのは船の鋼鉄が波を切る音と、松下の声だけだ。
『分かった。でも、私そこまでの信用は得てないから、少し厳しいかも』
『出来る範囲で構わない。それと、くれぐれも会話を誰かに聞かれるなよ』
『分かってる。今部屋の外にいるし、誰もいないから平気』
『そうか。じゃあ切るぞ』
『待って』
電話を切ろうとすると、何故か待てをされた。
少し不思議に思いつつも、理由を尋ねる。
『なんだ?』
『無人島試験六日目、私綾小路くんの端末も自分のと一緒に貰ったじゃん?』
『ああ。そうだな』
『あれ、どうやったの? っていうか、中身はファイル以外見るなって釘刺してきたけど、信じてくれたの?』
そのことか。
あれに関しては、別に何もしてないんだがな。
『星之宮を利用しただけだ。Cクラスを蹴り落すって言ったら簡単に口裏を合わせて船員に根回ししてくれた。それと、中身についてはお前ならリスクを回避するために見ないだろうと思っていた』
『そりゃそうだけど。見たら分かるような細工してあるかもだし、そもそも私は綾小路くんの言うこと聞けばいい状況だったしね』
『そういうことだ。話は終わりか?』
『うん。何か分かったらまた連絡する』
『ああ』
オレは電話を切り、スマホをポケットにしまう。
海は荒れることなく小さな音を響かせる。
その音色がやけに心地よく、オレは暫くデッキに留まることにした。
翌朝・七時五十五分。
「さて、そろそろだな」
オレは最上階のデッキにて、全生徒宛に送られるというメールを待っていた。
隣で手すりに寄りかかっているのは、昨日以降会ってなかった姫野だ。
「出来そうなの?」
「何がだ」
「試験の早期決着」
「まぁ、可能だとは言っておく」
昨日から姫野は試験を嫌がっている。
それは、性格故に他者と不要なコミュニケーションをとりたくないからだろう。
この特別試験、通称『干支試験』では否が応でも会話、そして意見の共有が求められるからな。
「じゃあ、やるわけ?」
「いや、やらない。少なくとも、オレはな」
「はぁ? 出来るのにやらないって頭おかしいわけ?」
「お前には言ったことないが、オレはこれから先表立ってクラスを指揮することはない。未来のことは、神崎と一之瀬に託すつもりだ」
アイツらも、いつまでも他人に頼るだけじゃダメだ。
オレが二回の戦略で見せた周到性とリスク管理を引き継ぎ、更にクラスメイトによる一之瀬への依存への対処も必要になってくる。
それがきっと、彼らの可能性を高め、更なるステージへと引き上げてくれることだろう。
「あっそ。じゃああたしのグループだけでも先に終わらしてよ。午グループなんだけどさ。メンバーダルそうなんだよね」
姫野の言葉を聞きながら、オレはBクラスの午グループメンバーを思い出す。
確か──────
「網倉さんと私と米津くん」
「網倉、か。確かに、お前は苦手だったな」
「そ。っていうか、これメンバーリスト、一応メモッといた」
姫野はそういうと、小さく折り畳まれた紙を渡してくる。
広げると、確かにメンバーと思しき名前が十二個並んでいる。
「Aクラスからは鬼頭、白石、杉尾。Cクラスからは石崎、中泉、吉本。Dクラスからは市橋、南、森か」
「知り合いいる? って、聞くまでもないか」
「お察しの通り、知り合いはいない。ただ、石崎ってヤツは龍園の側近だと神崎から聞いている。目をつけられないことを勧める」
「おけ。そろそろじゃない?」
姫野にそう言われスマホを開くと、七時時五十九分だった。
勘の良さが凄いな。
「──────来たか」
八時になった瞬間、メールが届いた。
同時に、姫野のスマホも振動する。
「…………残念。ハズレだ」
「私も」
互いにスマホの画面を見せ合う。
結果は、両者ともに優待者に非ず。
「十三分の一だ。仕方ないな」
「じゃあ、私もう行くから。ちゃっちゃと試験終わらしてよね」
「善処する」
去っていく姫野の背中を見ながら、オレは息を吐いた。
因みに、特に何もする気がない綾小路くんが松下に優待者を探らせているのは龍園率いるCクラスが勝利しそうになったときに裏から妨害するためです
Dクラスで救って欲しい生徒(No.1を投票して)
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堀北鈴音
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櫛田桔梗
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軽井沢恵
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長谷部波瑠加
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三宅明人
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松下千秋
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Dクラスに救う価値無し