綾小路がBクラスに配属された世界線 作:来世
「ククク、舐めたマネしてるくれるじゃねぇか」
「どうするんですか、龍園さん」
「提案者はどうせBの奴だ。が、どうにも気に食わねぇ」
一之瀬たちが指定された部屋で安堵していたころ、廊下を歩いていた龍園は内心イラついていた。
自身のスパイとして一学期から提案を受けていた櫛田が無人島試験に続き、この試験でも役に立たなかったからだ。
情報提供を求めたのにも関わらずスルー。誰かに口止めされていると考えた方が良いな。
にしても、やはりおかしい。
試験が終わったのはいいものの、グループの結果は秘匿性のせいで優待者も裏切り者も分からない。
つまり、誰がどんな動きをしたのかは夏休みが明けるまで不明となる。
大方、BクラスがA・Dと組んで俺たちを落としにきたと見るのが妥当だろうけどな。
試験が終わったことでディスカッションに行く必要もなくなり、龍園は来た道を引き返す。
取り巻きたちを追い払ってから。
「─────これが、今回の試験の真相だ。満足か?」
「一応。まぁ、流石って感じね」
試験は終了し、俺たちは今日含め四日間の自由を手に入れた。
だが、それを満喫する前に姫野にカフェに呼び出されていたのだ。
理由は単純。「どうやったのかを教えろ」とのことだったから、丁寧に教えてやった。
「でも、これCクラスがぶち切れてんじゃないの? 下手したら、暴行とか…………」
「船内にも一応監視カメラはある。流石の龍園でも、そこまではしてこない筈だ」
「もし、クラスメイトをCクラスの奴が傷付けたら?」
「…………そのときは、オレが出張る」
「っそ。そういえば──────」
姫野が何かを言おうとして、やめた。
そして、オレの斜め上に視線を投げる。
一体、何だと言うんだ。
そう思い視線を向けようとしたら──────
「…………綾小路くん。こんなところにいたんだぁ」
一之瀬の声がした。
二時間ほど前に話したばかりだが、何か用だろうか。
「一之瀬。奇遇だな、何か用か?」
「い~や、ただ綾小路くんが見えたからさ。っていうか、ユキちゃんと仲良かったんだぁ」
「その呼び方やめられない?」
「無理かなぁ」
心なしか、一之瀬のオーラがいつもと違う。
普段はもっと柔らかいのだが、今は何か棘がある…気がする。
「何お話ししてたの?」
一之瀬は、四人掛けの席に平然と腰掛けてくる。
しかも、よりにもよってオレの隣だ。
普通、姫野の隣に行くだろ。いや、普通は知らないが。
「試験の結果についてだ。問題あったか?」
「ないよ、そりゃ。でも、ユキちゃんとしっかり話すのってもしかして初めてかも?いっつも遊び誘ってるのに、気付いたらいなくなってるんだもん」
「頭痛かったから」
「本音は?」
「だるい」
「やっぱり?でも、私はみんなと遊びたいんだよね。ほら、心を通わせる的なね」
これが女子トークか…………(違う)
オレは会話に入れてないが、本当にこの場に必要なんだろうか。
もういっそのこと退散するか?
「でも、なんで珍しく試験の結果なんて聞こうと思ったの?っていうか、私にも聞いて欲しかったな?一応、リーダーだし」
「なんとなく。綾小路なら呼びつけても文句言わないし」
え?オレそんな風に思われてたのか?
てっきり、もう友人とばかり…………悲しいぞ。
「綾小路くんも暇じゃないんだから。ね?」
「あ、ああ。まぁ、今日は暇だったが…………」
そういうと、目の前に座っている姫野がドヤ顔をした。
対して、オレの腕を抱えていた一之瀬からは蒸気が出ている気がする。
「あ、あと一之瀬。その、腕を離してくれないか?」
「あ、ああごめんねっ。ついつい」
「それでどれだけの男を葬ってきたんだ…………」
いくら感情に疎いオレでもここまで進んでスキンシップを連続されると、「もしかしてオレに好意を抱いているのでは?」と勘違いしてしまうそうになるぞ。
まぁ、こんな根暗陰キャのオレが女子から人気になることなど終ぞないだろうが。
たまには夢を見るのも悪くない。
そんなことを考えていた矢先、もっと嫌な事態が勃発した。
見たことも会ったこともない金髪の男が、オレたちに近づいてくる。
「少しいいか?」
金髪チャラ男の登場に、一之瀬と姫野も顔を顰める。
だが、仕方ない反応だろう。オレも知らない奴だしな。
「なに?あんた」
「えーと、確か…………」
一之瀬は心当たりがあるらしい。
できれば、オレじゃなく二人のどっちかへの用であって欲しいんだが。
「おっと失礼。俺は橋本正義、Aクラスだ。少し、綾小路ってヤツに用があってな。お前だろ?」
橋本、そう名乗る男の視線がオレに向く。
確かに、オレの苗字は綾小路だ。
「…………ああ。だが、Aクラスの誰かに目を付けられるようなことをした覚えはないんだが」
「俺だって何の用かは知らないんだ。とにかく、これ」
そう言いながら、橋本はオレに自身のスマホを差し出してくる。
画面を見下ろすと、誰かと繋がっているらしい。
「姫さん。あー、Aクラスの葛城じゃない方のリーダー格、坂柳有栖がお前に通せって言って来てる。俺は下僕だからな、まぁ、頼むよ」
坂柳、有栖。誰だよそれ。
「一之瀬。どんな奴だ?」
「えーと、守備的な言動が多い葛城くんに対して、坂柳さんは攻撃的だって聞いたことあるけど、それしか知らないよ。っていうか、知り合いだったの?」
「まったくもって違うな。─────で、出ないと駄目か?」
オレは橋本を見上げる。
こんなよく分からん奴と話すことなんてないんだが。
「そう言ってくれるなよ。少し話したいだけらしいし、な?」
「…………分かった。ここで出ていいのか?」
「姫さんに聞いてくれ」
「仕方ないな」
オレは橋本からスマホを受け取り、それを耳に当てる。
そのまま、立ち上がらずに座ったままで行くことにした。
『綾小路くんですね?』
『ああ。お前が坂柳か?』
『ええ。初めてのお話がこんな形になってしまったこと、まずは謝罪させてください』
『いらん。本題に入れ』
スマホを通して聞こえてくるのは、どこか幼さの残る女性の声。
ところどころ息遣いが聞こえるため、スマホに接近して話しているであろうことが窺える。
『─────では、お望み通りに。まずですが、無人島試験・船上干支試験共に好成績を収めたこと、心よりお喜び申し上げます。Cクラスを潰した上での完全勝利、見事な手際だったと感服いたしましたよ』
いきなり出てきたのは、そんな話か。
いや、そもそもなんで坂柳はオレが関わっていると知っているんだ?
この船に乗ってすらいないのに、それを察知することが可能なのか?
『何を言っているのか分からないな。あれは特定個人ではなく、全員での勝利だ。そして、お前にとってはクラスの敗北なのに、なぜ喜んでいるんだ?』
坂柳の言葉が聴こえない以上、周りの奴らはオレの返答で会話を予測することになる。その結果、一之瀬と姫野からめっちゃ疑いの目を向けられてる。
早めに会話を切り上げたい気持ちが一層強くなった。
『ふふふ、ご冗談を。七月序盤に圧倒的な証拠を突きつけてCクラスを撃退したことは聞き及んでおりますよ。そのあなたが、まさか特別試験で何もしてないなんて、信じられるわけないでしょう?』
『お前が信じるも信じないも自由だが、いい加減本題に入ってくれないか?』
『綾小路くんはせっかちですね。ですが、あなたの機嫌を損ねたくはないので、早めに言うとしましょう。
一瞬の空白が訪れる。
その先に待つ言葉を、オレはどこか高揚した気持ちで待つ。
そして──────
─────‘‘ホワイトルーム’’、これだけで、賢いあなたなら理解できる筈ですよ』
一見すると、ただの英単語。
しかし、オレはその言葉を聞いた瞬間には、席を立っていた。
「悪い。席を外す」
「姫さんに何か言われたか?」
「…………二人で話したい。誰にも聞かれない場所でな」
オレはそれだけを言い残し、カフェを出る。
そして、誰もいないであろう船尾のデッキまで歩いた。
『…………それで、それがどうした』
『ふふ。偽りの天才を葬る役目は私こそ相応しい。そうは思いませんか?』
坂柳の口調からは、自信がにじみ出ている。
まるで、自分自身がオレに勝てるとでも言いたげに。
それがどこかおかしく、オレは少し口角が上がる。
『…………フッ』
『何が、おかしいのですか?』
海の向こうの坂柳はお怒りのようだ。
自分の一世一代の告白を、スルーされたからだろうか。
『すまない、悪気はなかったんだ。ただ、その自信がどこから湧いてくるのか、少し興味が湧いた』
『まさか、‘‘最高傑作’’であるあなたが笑みを溢す日が来るとは。いいでしょう、私が教えて差し上げましょう。あなたに敗北を』
『…………勘違いをしてるみたいだな。別に、オレはお前との勝負に臨む気はない。メリットもなければ理由もないしな』
それだけ告げて電話を切ろうとする。
だが、坂柳のある一言が、オレの行動を抑制した。
『─────もしそういう判断をなさるのなら、手は尽くしますよ。例えば一之瀬帆波、一見完璧に見える彼女の崩壊劇に、観衆はさぞ盛り上がるでしょうね。どうです?』
『…………もしお前がオレのクラスメイトに手を出すのなら、オレがお前を望まない形で対処することになる』
『ふふ、楽しみです。あなたがどんなことをしてくれるのか。そして、私があなたに何をして差し上げれるのか』
『お前から受け取るものなどない。じゃあな』
切れたスマホには、まだ熱が微かに残っている。
海に視線を投げてから、オレは来た道を引き返した。
あーあ、メスガキvs最高傑作の勝負が確定しちゃったよ…………
Dクラスで救って欲しい生徒(No.1を投票して)
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堀北鈴音
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櫛田桔梗
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軽井沢恵
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長谷部波瑠加
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三宅明人
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松下千秋
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Dクラスに救う価値無し