綾小路がBクラスに配属された世界線 作:来世
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『──────私が、この学校を自主退学するとお約束しましょう』
スマホの向こうから聞こえてくる声にオレは戸惑った。
この女が何を言っているのか理解するのに数秒を要する。
それから言葉を択ばずにオレは言葉を発する。
『──────なぜ、それがオレにとってのメリットになると思ったんだ?』
『もしこのまま私が台頭すれば、あなたの秘密を暴露しますよ。龍園くんなんかに言った暁には、どうなるでしょうね』
この坂柳とかいう女は、意地でもオレを勝負の舞台に引き摺り上げたいらしい。
だが、そんな杜撰な策では意味を成さない。
この程度のことも分からないのにオレを葬るなどと宣っていたと考えると、感じたことのない『愉悦』を感じそうになる。
『つくづく面白い奴だな、坂柳。だが、今は体育祭を目前に控えている。覇権を握れる筈もないお前には退屈な時期かもしれないが、生憎とオレは忙しい』
『それは、お受けになられないという意味で捉えてよろしいでしょうか?』
『…………今は時期が悪い、と言っただけだ。気が向いたら相手をしてやる』
今の大事な時期に、こんな奴と関わっている暇はない。
オレはまだまだ友達を増やしたいんだ。
ん? 坂柳は友達候補としてどうかって?
──────はぁ…なしに決まってるだろ。
誰がこんな得体の知れないヤツと仲良くなりたいと思うんだよ。
そもそもなんだよ、誰だよコイツ。
普通を装って話したが、全然困ってるぞ。
もうストーカーだろストーカー。何が楽しくてオレなんかを付け回すんだよ。
警察に突き出すぞ。
そこから少しだけ話し、オレは電話を切った。
話していて分かったことは、アイツは度を越えた自己中心的な性格を持つ女と言うことだ。
アイツがオレに負けて退学した場合、その負債は残された現Aクラスに向く。
それを分かっているのかいないのか、平然と自身を天秤に掛けるあたり自信があるのか、頭が致命的なまでに弱いのか分からない。
恐らく、両方だろうが。
有能な敵よりも無能な味方の方が恐ろしい。ナポレオンの言葉は正しかったようだ。
翌日・高育内体育館にて。
「てめぇらBクラスと仲良しこよしする気はねぇよ。俺らは俺らでやる。てめぇらも勝手にやってろ」
今日は白組の初めての会合だ。
先程、二年Bクラスの桐山という人物から挨拶があった。
表向きは、クラスのリーダーらしい。
そして今は、絶賛BvsCの喧嘩中である。
無人島試験・船上試験共にCクラスをコケにしたせいで、嫌われてしまっているらしい。
まったく、誰だよそんなことする奴は()
「待て龍園。勝ちを拾いに行くなら、私情は捨てクラス間で協力するべきだ。それとも、試験で負けたのがそんなに悔しいのか? 拗ねた子供か」
ここで神崎の口撃が龍園の背中に突き刺さる。
「あ゛あ゛?」
広い体育館に、龍園の怒りを含んだ声が響いた。
そのあまりの威圧感に、神崎の隣に立っている一之瀬や、オレの隣に座っている姫野は肩を跳ねさせる。
「おい、何言ってんだ一之瀬の金魚の糞。3-Aと2-Aが無双するのが確定してる時点で白組としての勝ちは無理なんだよ。だったらクラスで協力する意味もねぇだろうが」
確かに、聞いたことがある。
確か三年Aクラスは現生徒会長が所属しており、本人が強いため負けることはない。
二年Aクラスは現生徒会副会長が率いていて、既に二年生を支配下においているため出来レースらしい。
こう聞くと、確かに龍園の言っていることも正しい気がしてくるな。
「だが、組での協力が得点に繋がる種目もある。棒倒しや騎馬戦はどうするつもりだ」
「あ? んなもん、てめぇらが勝手に守っとけや」
「それは身勝手が過ぎるぞ。それに、お前たちの非協力的な姿勢が俺たちだけでなく他学年にも及ぶことを理解しろ」
その後も、神崎と龍園の言い合いは続く。
ここまでやれる胆力と根性に脱帽だ。
「──────しつけぇな。なら、良い提案をしてやるよ。てめぇらの決定した参加表を寄越せ、締め切り三日前までにな。それなら、白組として協力してやるよ」
そう来るだろうなと思っていた。
参加表を引き合いに出されれば、神崎は退かざるを得ない。
龍園が、それを利用して俺たちを対策してくるのは目に見えているからな。
「ふざけるな。出来るわけないだろう、そんなこと」
「なら、話し合う余地はねぇよ。黙ってろクソ雑魚」
それだけを言い残し、龍園たちは話し合いを拒否した。
加えて彼の側近たちもいたため、神崎もそれ以上追及することなく、初の会合は終わりを迎える。
「ねぇ、あんたは体育祭どうするわけ?」
放課後。ケヤキモール内のカフェにて。
オレは姫野に誘われ、久しぶりにケヤキモールを訪れていた。
といっても、皆が想像するような青春の一ページを刻むことはなく、彼女に振舞う予定になっている夕飯の買い出しに来たついでに寄っただけである。
特別試験から帰還した後、オレは一之瀬や神崎、網倉や柴田たちと遊ぶ機会があった。
その際に物は試しということで、オレが彼ら彼女らに料理を振舞ったのだ。
それを話したら、姫野からも食いたいとご所望された。
だから仕方なく、こうしてきているわけである。
「そうだな…………別に、何もする予定はないぞ」
オレはいつも通り、ブラックコーヒーを啜りながら答える。
ここはパレットとは違って人が少ないので、彼女のお気に入りの場所らしい。
確かに言う通り、騒がしくなく内装も落ち着くブラウンで良い雰囲気だ。
「へぇ? 無人島試験ではあんなに活躍してイキってたのに、今回も船上試験と同じで何もしないんだ」
姫野は不服そうにジトっとした目で視てくる。
その様子が妙に珍しく、オレは少し驚いた。
「ここだけの話、あまり他クラスの奴に目をつけられたくないんだ。あまり目立つと勘づかれそうでな。オレは臆病なんだ」
「臆病なヤツがあんな作戦思いつくとは思えないんだけど」
「…………そういう日もある」
「言い訳弱すぎない? あんた、賢いのか馬鹿なのかどっちかにしなさいよ」
ふと、思い出した。
この会話、どこかで聞き覚えがあるな。
そうか、確か船上で──────
「…………この話前もした気がする」
「…………この話、前もしたな」
「真似しないでよ」
「真似するなよな」
大したことではない。
ただお互いの思考がリンクしただけなのに、その感覚が妙に可笑しかった。
「え─────」
今の段階で姫野にここまでヒロインムーブさせてるのには理由があります
それと、そろそろ無人島試験で出した「綾小路が坂柳に礼を言う機会」が訪れます