綾小路がBクラスに配属された世界線   作:来世

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38話:動き出す暗躍者たち

 

 

 

「え──────」

 

 

姫野の言葉で、周りの時間が停止する。

 

そして、急速に加速した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────あんた、笑えるんだ」

 

 

 

姫野の言葉で、オレは自分の口角が上がっているのを自覚した。

 

しかし、これは坂柳などに抱いた感覚ではない。

 

もっと、良い何か…………

 

 

「…………オレは、笑っているのか」

 

「珍しいこともあるものね。いつも地蔵みたいに表情が変わらないから、そういう人種なのかと思ってた」

 

「どういう人種だよ。あと今の時代そういう発言は良くないって一之瀬も言ってたぞ」

 

「今重要なのはあんたが笑ったって話。出来るんなら、いつもそうしてりゃ少しは他の人からの印象も良くなるんじゃない?」

 

 

これは、姫野なりの気遣いなのだろう。

 

だからオレは、有難く受け取ることにした。

 

 

「─────そう、だな。善処する」

 

「…………やっぱ今の無し。あんたは、今のままで良いよ」

 

「ん、どうしてだ?」

 

「それは、──────だから…………。もう言わないからね」

 

 

 

 

 

談笑する綾小路と姫野。

 

そんな二人を、一人の女子学生が静かに観察していた。

 

そして、手に持っていたスマホに触れると、誰かに電話をかける。

 

 

「──────はい。だから、綾小路くんの──────」

 

「…………ふふ、そうですか。引き続き監視お願いしますよ、──さん」

 

 

電話の相手は、妖しく微笑む。

 

二人の会話は、その向こうで会話を楽しむ綾小路と姫野には届かない。

 

この日の監視とこの電話が、後に波乱を引き起こす引き金となることを──────

 

 

 

 

──────まだ、誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

体育祭四週間前。

 

 

今日は、時間割で体育の授業が二連続である日だ。

 

だるいとは表立って言わないが、暑い中で運動するのはいくら慣れていてもキツイものがある。

 

体力には自信があるが、それとこれとは話が別だからな。

 

 

体育教師の指示によって統率を任された一之瀬が、皆の前に立つ。

 

 

「みんな。今から簡易的な身体測定をやるよ~」

 

 

体育祭に向け、生徒たちの身体能力を測っておくのは良い手だ。

 

昨日の昨日の夜にチャットで決まったクラスの方針は「勝てるヤツを勝たせる」。

 

つまり、身体能力の高い生徒には推薦種目を優先的に集め、逆に低い生徒には多少の負担を背負ってもらう仕組み。

 

だが、これも一之瀬の求心力と今までにコツコツと集めてきたクラス貯金と言う後ろ盾によって守られている。

 

個人チャットで聞いた一之瀬の今の保持ポイントは約700万弱。

 

これだけあれば、もしクラス内から総合得点下位十位になった者が出ても、ペナルティである得点のマイナスを打ち消し赤点を回避することが出来るだろう。

 

ここに来て、今までの積み重ねが生きたな。

 

 

「まずは握力だなっ!」

 

 

柴田の発言によって、まずは握力を測定することが決まった。

 

数人が握力計を持ってくると、それを使って男子たちが測り始める。

 

 

オレはその光景を見ながら、横に立っている神崎に話しかける。

 

 

「なぁ、神崎。男子の握力の平均ってどのくらいだ?」

 

「…………大体70くらい、だな。俺は少し弱いがな」

 

「そうなのか。いい体格してるから意外だ」

 

「お前にだけは言われたくないぞ綾小路」

 

 

その後、渡辺から渡された握力計を、オレは慎重に握る。

 

周りにいる男子たちの視線を感じながら、徐々に力を入れていく。

 

そして、ジャスト70のタイミングでオレは力を抜いた。

 

 

「もうこれ以上は無理だ」

 

「すげぇな綾小路」「力あるんだな」「力強っ!」

 

 

周りの者たちが口々に言う。

 

そんな雰囲気を感じ取ったのか、女子の方にも顔を出していた柴田も寄ってくる。

 

 

「どうしたどうした」

 

「いや、綾小路の力がすげぇって話してたの」

 

「いくらだったんだ?」

 

「70」

 

「マジで?」

 

 

オレは皆の会話を聞きながら、隣でいけしゃあしゃあと自分の記録を測ろうとしてる神崎に一言。

 

 

「──────嵌めたな」

 

 

 

 

 

 

 

 

同日・放課後。

 

 

オレは珍しく、星之宮に呼び出されていた。

 

場所は応接室。普段生徒が行く場所ではないため、オレも来るのは初めてだ。

 

 

躊躇いがちに入室すると、中には既に星之宮が座っていた。

 

三人掛けのソファが、テーブルを挟んで向かい合っている。

 

オレは少し考えてから、星之宮とは反対のソファに腰掛けた。

 

 

「─────今日は来てくれてありがとね。綾小路くん」

 

「担任の呼び出しを断れるわけもないですよ。それで、要件は何でしょうか?」

 

「またまたぁ、君なら分かってるでしょ?」

 

 

オレが無難に返すと、星之宮はこちらを試すような視線を送ってくる。

 

その真意が、まだオレには掴めない。

 

 

「─────それは、一之瀬にあなたが話した内容と関係があるんでしょうかね」

 

「正解っ。実は前々から、君とは直接お話ししたいと思ってたんだよねぇ。でも色々忙しいのと、事を荒立てたくはなかったから時期を見送ってたわけ」

 

 

オレと直接話したい、か。

 

目立ったのは裁判と無人島試験だけの筈、どこで目をつけられた?

 

そもそも、七月時点で一之瀬にオレを頼れと話していたのは違和感だ。

 

 

 

 

「─────ねぇ、綾小路くん。君はいつになったら、本気を見せてくれるのかな?」

 

 

暫しの沈黙の後、星之宮の言葉が乾いた空気を切り裂いた。

 

その発言で、ようやくオレは事態を理解する。

 

 

「──────どこで、知ったんですか?」

 

「担任の教師はね、自分が受け持つクラスの生徒の多少の経歴とか入試での成績を把握できるんだよ。ねぇ、

 

 

 

 

 

 

 

 

全教科八十点(・・・・・・)の綾小路清隆くん(・・・・・・・・)?」

 

 

 

確かに、知られていたとしても不思議ではないか。

 

ただ、厄介な奴に把握されていると言うのは変わらないな。

 

 

「…………偶然です。そう言ったら信じて貰えるんですかね」

 

「無理かなぁ。だって、君正答率5%の問題を正解するのに、80%の問題間違えたりしてるんだよ? それで偶然は無理があるよ」

 

「─────今日、いやこの時期このタイミングでオレに接触してきたことには、何の意味があるんですか?」

 

 

オレは、少し睨みつけるように星之宮に視線を送る。

 

対する彼女は、案外余裕そうな態度だ。

 

 

「私自身はね、あまりAクラスで受け持ってるクラスを卒業させることには興味がなかったの。今までは、他のことに熱くなってたからね」

 

「男探しですかね?」

 

「…………でも、今のBクラスは、正直特別。年甲斐もなく熱くなっちゃって、一之瀬さんとか特に応援したくなるじゃない? 綾小路くんなら分かるでしょ?」

 

 

オレは少し考える。

 

渾身のボケをスルーされてしまったのは悲しいが、正直ここまで黙っていた星之宮が今後オレが不都合な相手に実力をバラすとは考えずらい。

 

ここは、本心で応えるべきだろう。

 

 

「──────ええ、そうですね。オレも、彼女や神崎には期待をしています」

 

「だよね~。でも、過去を話したことで一之瀬さんの弱点は一つだけになった。そこに神崎くんや君が加われば、Aクラスなんて簡単に落とせると思わない?」

 

 

…………坂柳有栖と、葛城康平。

 

いがみ合う二人のライバル関係を利用すれば、確かにAクラスを引き摺り落すことは出来る。

 

 

「ですが、今は時期が悪い。ここでAクラスを落としてしまえば、今度はオレたちが他クラスから狙われる。その立場を防衛できるほどの戦力は、整ってないと言えます」

 

「流石、そこまでちゃんと考えてるんだ。でも私は、一回でもいいから綾小路くんの本気が見てみたいなぁ。クラスにどれくらい貢献できるのかは、もう分かってるしね」

 

 

オレは数秒、星之宮の瞳を見つめる。

 

そして、口を開いた。

 

 

「──────今後、オレの本来の実力についての言及をオレが許可しない限り実行しないこと。この約束を守れるのなら、今度の体育祭でオレが出場するどれかの種目で、本気を出します」

 

 

不確定要素は、潰しておいた方が良い。

 

経験則で、オレはそう判断した。

 

 

 

 

 

 

二学期初日・高育敷地内のどこかにて。

 

 

「──────だから、私が参加表をリークすれば、あんたたちが一位になれるでしょ」

 

「だからその見返りに、──をボコボコにして自信を叩き折れと? 意味が分からねぇな。なんでそんなことをする」

 

「今のアイツなら、私だけでも追い込めるかもしれない。だけど、都合がいい特別試験でも来た時のために、あんたとのパイプを作っておきたい」

 

「ククク。確かに、船上試験では酷かったもんなぁ? 連絡無視とは、度胸があるぜと感心したもんだ」

 

「それは…………」

 

「ここまで来たんだから言えよ。誰に口封じされた? Bクラスなのは分かってんだよ」

 

「──────神崎隆二。無人島試験のときも、Dクラスの指名権を使ってCクラスのリーダーであるあんたを指名させろって脅してきた奴」

 

「…………ククク、そうか。いいぜ、乗ってやる」

 

 

 

 

──────裏で動いてきた者たちの策が、体育祭(表舞台)にて交差する。

 

──────運命の今年度体育祭まで、残り二十四日。

 

 

 




今回のラストでようやく態々龍園が協力する必要がないと割り切った理由が分かった人も多いんじゃないでしょうかか
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