綾小路がBクラスに配属された世界線 作:来世
昔、誰かが言った。
『If you can dream it, you can do it.』
『夢を見ることが出来れば、それは実現できるであろう』と。
もし、かの有名な鼠のキャラクターを生み出した彼の言葉が本当なのだとしたら──────
「─────素晴らしい学生生活を送れるだろうか」
オレは現在進行形で素晴らしい学生ライフを満喫していると自負しているが、それが今後永劫続くとは限らない。
人間は今ある幸せが永遠に自身の元を去らないと勘違いしがちだが、それは単なる現実逃避でしかないのだ。
そしてこんなことを考えているオレも、また現実逃避をしている人間の一人なのだろう。
「────綾小路くんっ!」
スクール水着を着こなし、たわわに実った二つの果実を揺らしながら一之瀬がプールサイドを駆けてくる。
そう──────オレたちは今、四月だというのに水泳の授業を受けているのだ。
そして今は、自由形でのタイム測定が終わり、自由時間。
オレはプールサイドに腰を下ろし、足だけをプールに浸けている状態だ。
え? なんでそんなことするのかって?
気持ち良いから以外にあるのか?
「なんだ? 一之瀬」
オレは心にも体にも悪いと思い、一之瀬から目を逸らしつつ応答する。
流石に、無視するわけにもいかないからな。
「今みんなで一緒にプールの中で鬼ごっこやってるんだけど、綾小路くんもどう?」
「…………鬼ごっこ、ってなんだ?」
「──────えっ?」
どうやら、オレはまた無知を晒してしまったらしい。
「綾小路くん、鬼ごっこ知らないの?」
「お恥ずかしながら、存じ上げない単語だな。どういったものなんだ?」
「えーと、まず『鬼』っていう皆を追いかける人を決めたら、他の皆はその鬼に捕まらないように逃げるの。分かるかな?」
鬼、追いかける者。
そして、それ以外の追いかけられる者か。
成程な、大体理解できたぞ。
「ああ、理解した。是非とも、参加させて欲しい」
一之瀬たちがやっているということは、一般的な高校生もやるものなんだろう。
つまり、オレも社会実習のような気持ちで挑めばいい。
「みんな~、綾小路くんもやるって!」
一之瀬がプールの中ではしゃいでいたメンバーに声を掛けると、全員の視線がオレに突き刺さる。
「おっ!我らが歌うまじゃん」
「綾小路くんって何でも出来そう」
「涼しい顔して日本記録更新してそうな強者感あるよね」
いや待て待て。
出来ないぞ、そんなこと。
あと、何でもできるって言うのは買い被りすぎるぞ。
「なんか、過度な期待を受けてる気がするんだが」
「そりゃ受けてるよ~、一昨日行ったカラオケでもずっと高得点だったし、なんか超人扱いされてるよ、綾小路くん」
一之瀬が補強する。
でも、それはいらないぞ。
カラオケでは手を抜くべきだったか?
楽しくてついそのまま歌ってしまった…………
「んじゃあ、俺が鬼やるぜ、サッカー部だからなっ!」
そこで柴田が鬼に立候補した。
確かに、前話した時にサッカー部でDクラスの平田という生徒と仲が良いと言っていたな。
「じゃあ逃げろ~」
網倉がそう叫ぶと、周りにいた生徒たちが散り散りになり始めた。
高育のプールは縦が50mあるため、かなり広い。
いくら運動部とはいえ、持久戦となれば逃げる側に軍配が上がるだろうな。
そんなことを頭の隅で考えながら、オレも例に倣って泳ぎ出す。
「待て綾小路~~!」
暫くゆらゆらと泳いでいると、轟のような声がプールに響いた。
あまりの大きさに水が振動していた…………気がする。
「絶対捕まえてやるぜっ!」
後ろを振り返ると、爆速でクロールをしている柴田が目に入る。
眼は見えないが、その態度や声からギラギラと燃えているであろうことが窺える。
「…………逃げるか」
オレは再び泳ぎだし、柴田に追いつかれないようなスピードで逃げつつ、暫く経ったら捕まってあげた。
柴田は満足げだ。
「いくら綾小路でも、泳ぎでは俺の勝ちみたいだなっ!」
「流石運動部だな。スタミナが持たん」
「鍛えてるからな。足の筋肉なら最強だぜっ!」
どうやら鬼ごっこには、捕まったらその者が次の鬼となるルールがあるらしい。
よってルールに則ってオレが次の鬼となった。
「じゃ、俺は逃げるぜ!がんば!」
「…………ふむ、誰を狙うか」
順当に行くのなら、オレも参加している男子を狙うべきであろう。
しかし、さっきオレが捕まったところを見て爆笑していた網倉&一之瀬を狙うのも悪くないな。
どちらにしようか…………
「─────きゃははっ!鬼さんこーちらっ、手の鳴る方へっ!」
愉快なリズムを刻みながら、一之瀬と網倉が笑う。
その瞬間、オレはターゲットを決定した。
「よし、決めたぞ」
小さく呟き、オレは水面に顔を近づける。
そして一気に加速した。
足で水面を蹴り、息継ぎをしながら前方にいる二人をロックオンだ。
「きゃぁぁ!来たっ!」
「綾小路くん速っ!」
手の鳴る方へ、か。
この世には、知らないことばかりだな。
放課後。
「いやぁ、綾小路くん速かったね。まぁ、柴田君ほどじゃないけどさ」
放課後、オレは帰ろうとしたら一之瀬に一緒に帰らないかと誘われた。
いつもは放課後も大忙しの彼女だが、どうやら今日は暇らしい。
断る理由もないため、一緒に帰っている次第である。
「まぁ、な。得意と言う程ではないが、ある程度は出来ると思っていた」
ここは無難に返す。
変に勘違いされても、困るしな。
「カラオケでもそう言ってなかった? やっぱり、綾小路くんは凄いね」
「そうでもないぞ。上には上がいるように、オレよりも凄い奴なんて腐る程いるさ」
「でもだよ。君より上がいても、私の前にいるのは君なんだからさ~、もっと自信もっていいと思うけどね」
良い奴だな、一之瀬は。
なんか、将来詐欺とかに引っ掛かってそうで心配だ。
「ありがとう。確かに、一之瀬は自分に自信があるように思えるな」
「そんなことないよ~、私、この学校には推薦で入ったんだけどさ、その為の勉強めっちゃ大変だったもん。楽、とは言わないけど私より少ない努力で私の上を行く人を見ると、自信無くしちゃうな~」
少ない努力で上を行く、か。
確かに、そういう者を見れば相手は『天才』に映るのかもしれないな。
事実、確かに才能と言う面では一之瀬に優っているかも知れない。
「──────努力が出来る、というのも、神に与えられた才能だとオレは思うがな」
気付けばオレは、そんなことを口にしていた。
「…………えっ?」
一之瀬も、困惑の色を顔に浮かべている。
こんなことを言われるとは、思ってなかったんだろう。
「話を聞く限りでは、一之瀬は最終的に努力を続けたんだろ? 道に迷っても、悩んでも、それでも前を向ける人間はそう多くない」
「もしその相手が『勉学の天才』なのだとしたら、一之瀬は『努力の天才』だと言える。自信を持つべきなのは一之瀬の方だと思うぞ」
「────ははは、綾小路くんはやっぱり凄いね。そんなことを言えちゃうの、君くらいだよ」
一之瀬は小さく返してきた。
「それは、天然と言うやつか?」
「ううん。それも才能、かな? ありがとね、なんかスッキリしちゃった」
数秒の沈黙の後、一之瀬は暖かな笑みを浮かべた。
「オレの方こそ、役に立てたのなら幸いだ」
「あ、そうだ。帰る前にコンビニ寄らない?アイス食べよ」
「アイス…………?」
「なんか、デジャブだねっ!」
脳内で氷の塊をイメージしながら、オレは一之瀬の後を追った。
綾小路には青春して欲しいです
なので、私が書きます
Bクラス綾小路くんのヒロイン候補
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一之瀬帆波
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網倉麻子
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小橋夢
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白波千尋
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姫野ユキ
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神崎隆二
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柴田颯
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渡辺紀仁
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堀北鈴音
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軽井沢恵
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櫛田桔梗
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龍園翔
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椎名ひより
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坂柳有栖
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神室真澄
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綾小路にヒロインなんていらねぇ!