綾小路がBクラスに配属された世界線 作:来世
「─────へぇ、あんたも大変ね」
「ああ。だから、あまりこうして頻繁に来ないで貰えると助かるんだが…………」
オレは今、姫野と夕食を共にしている。
場所はオレの発言から分かると思うが、当然自室である。
「仕方ないじゃん。あんたの作る料理美味しいし、それとも金払えばいい?」
「友達に金を要求する程オレは落ちぶれてないさ。ただ、あまり来すぎると噂が立つかもしれないぞ?」
「ふーん。どんな?」
「オレとお前が、男女の関係であるといった噂だ。目立ちたがらないお前の性格からすれば、困るのはお互い様だろ?」
「まぁ、確かにねぇ。じゃあ、週一くらいにしよっかな」
「…………まぁ、妥当か………?」
十月一日。
今日は、誰もが待ちに待った体育祭当日である。
オレたちBクラスの面々も、白組のスペースにて各々気持ちを昂らせている。
特に柴田や神崎の熱意は凄まじく、組では勝てなくとも学年内で勝とうという意思を感じる。
「楽しみだな。綾小路」
「ああ。そうだな」
「しっかり、推薦種目でも勝つ気でやってくれ」
「任せろ。このクラスのマイナスになるようなことはしない」
隣でウォーミングアップを行う神崎の言葉に、オレは真摯に対応する。
事実だ。
星之宮との契約で一種目では本気を出す予定だし、加えて全て僅差で勝つように調節する。
借り物競争では普通に動くがな、あれは運と聞かされているから、いくらでも言い訳は出来るだろう。
無論、どれも勝つつもりでやるのは前提だが。
そして──────全生徒の熱意が入り乱れる中、体育祭の第一種目である「100m走」が始まった。
第一走者である神崎が歩いていくのを確認し、オレは目を凝らす。
神崎の運動神経はかなりいい方だが、何より身体の使い方が上手い。
どこかでスポーツや格闘技を習っていたと思いたくなるレベルだ。
結果、神崎は一位を獲り、その後もオレたちが組んだ布陣は機能し、優勢を保てているように見えた。
しかし──────オレは、微かな違和感を覚えていた。
その後も、ハードル競走や男女別綱引き、棒倒しや玉入れなどの種目でも、オレたちは上位をとることが出来た。
しかし、オレの疑念は確信へと変わる。
「──────仕組まれてるな」
二人三脚が終わり、騎馬戦が始まる前。
オレは、誰にも聞かれないように呟いた。
これまでの種目、必ずと言っていいほどCクラスが上位を獲っている。
それも、オレたちよりも圧倒的に多く。
しかし、Cクラスは元々身体能力の高い者が多い。
それを言い訳にされればそれまでだが、明らかに‘‘AクラスとDクラス’’の参加表を把握しているとしか思えない配置をしているのだ。
Dクラスは論外だとしても、Aクラスの貴重な人材である鬼頭や橋本が出る際には、必ずCクラス内の弱い生徒が当てられている。
それに加えて目に見えて明らかなのは「Dクラスの女子生徒へのヘイト」。
名前は知らないが、先程から執拗にCクラスの生徒に邪魔をされている生徒が存在してる。
だが、それは正直どうでもいい。
問題なのは、何故DクラスとAクラスの参加表がCクラスに流出しているのか。という問題だ。
そんなことをしてもメリットは…………
──────なるほど、そういうことか。
メリットはない、そう思ったがそれは間違いだと今気づいた。
何故なら一人だけ、「Aクラスを堕とす」という発言をした人物をオレは知っているからな。
そいつは今日、不参加らしいが。
あとで電話をかけることを決意し、オレは騎馬戦へ臨む。
まずは男子からということで、オレは神崎と共に席を立つ。
気合は十分、しかし、神崎の瞳には迷いが見える。
「…………どうした」
「お前なら分かってるだろ。綾小路」
話しかけると、神崎はすぐに返してくる。
だが、あまり気分は良くなさそうだ。
「…………Cクラスに、Aと恐らくDの参加表が流れてるな」
「やはり気付いてたか。だが、俺には理由が分からない。あり得るとしたら、お前から動画を見せてもらった櫛田桔梗だが、それでもAの方は謎だ」
櫛田桔梗、か。
船上試験の口封じで「もし他クラスと協力するような行動をとった場合、晒す」と暗に告げた筈なんだがな。
だが、それは今じゃなくていい。
「そう、だな。オレにもAの方は分からない。もしかすると、オレたちの知らない所で、誰かの策略が動いているのかもな」
「想像したくはないな。ただ、その話は後だ。今は目の前の騎馬戦で勝つことに集中するぞ」
「ああ、そうだな。ここで勝利を捥ぎ取り、学年一位を奪い返すか」
「その意気だ」
二人で決意を固めて歩き出そうとすると、後ろから肩をトントンと叩かれた。
振り返れば、そこには網倉と一之瀬。
「ん、何かあったのか?」
「そうじゃないよ。ただ、ここが踏ん張り所だから応援がいるかなって。ね?」
オレの問に答えた網倉の視線が、一瞬だけ一之瀬に向く。
その真意は、オレには読み取れなかった。
「二人とも、頑張ってねっ! 他の子たちもだけど、二人には頑張って欲しいから」
「…………ああ、任せろ。必ず勝つ」
「そうだな。ああ、勝つ。見ててくれ」
二人で返してから、トラックへと踏み入る。
そして、赤組対白組の騎馬戦が始まった。
騎馬戦は、各クラスから四組ずつ選出された騎馬の八対八で競う競技。
オレたちBクラスからただの騎手としてオレや柴田、そして大将騎は神崎だ。
向ってくるのは、Aクラスの鬼頭率いる騎馬。
正面で向かい合ってスタートしたので妥当と言えるが、オレが騎手なのが運の尽きだな。
少しだけ時間をかけつつ、オレは下の渡辺などに指示を飛ばしながら騎馬全体を動かし、鬼頭たちの突撃を回避する。
それと同時に素早く手を伸ばし、オレは鬼頭の鉢巻を奪い取った。
「おお!小路かっけぇ!」
「略すな渡辺」
渡辺から変なあだ名をつけられつつ、オレは周囲を見回す。
しかし、状況は圧倒的に白組優位に進んでいた。
視界の右では神崎が橋本の騎馬を圧倒し、左では龍園の騎馬がDクラスのなけなしのメンバーで作られた騎馬を蹂躙している。
そのまま、特に何もせず騎馬戦は終了した。
結果として白組としての勝利は出来たが、倒した騎馬の数はCクラスと同じに終わった。
そしてやってきた昼休憩。
今の段階では組としての勝負では赤組が勝っている。
そして学年内での順位は一位Cクラス、若干後ろにBクラス、三位にAクラス、圧倒的最下位にDクラスといった具合だ。
ここからの巻き返しを図らなければ、Cクラスに勝つことは難しいだろう。
まぁ、策はないが。
今回は他クラスの参加表を把握できたCクラスに軍配が上がったな。
が、同じような手は二度と使わせない。
さて、それじゃあ用事を済ませるとしようか。
「済まない。少し外す、すぐに戻る」
オレは女子たちに囲まれていた一之瀬に一言告げてから、陣地を離れる。
向かう先は、人のいない校舎方面。
『──────もしもし? あなたからかけてくれるとは思ってもいませんでしたよ』
電話をかけた相手は、心底嬉しそうにそう言う。
しかし、その甘ったるい声には毒が含まれていることはもう知っていた。
『クラス、いや葛城康平の信頼を堕とすためにここまでするのか。お前は』
『ふふ。これもすべて、あなたの為なんですよ?』
『あまり、調子に乗らないことだ。参加表のリークなんて、バレたら死ぬのはお前だぞ。…………
──────坂柳有栖。
オレ自身に宣戦布告をしてきた相手であり、同時にオレの過去を知る相手。
コイツは、オレを脅すために態々自身のクラスを危険に晒しているのだ。
その事実が、理解不能であると同時に、不快極まりなかった。
『その心配はいりませんよ』
『今更だから聞くが、夏季休暇の無人島試験でAクラスのリーダーを龍園に教えたのはお前の下僕か?』
『それはどうでしょうね』
過去に自らを下僕と名乗った橋本。
これはバラしたのがアイツなのかを確かめるために言ったが、この様子じゃ当たりだな。
『一つお前に言っておく。もしお前がオレだけではなく、周りのオレの友人に手を出そうとした場合、オレは容赦なくお前を潰す。どんなに泣き喚いても、手遅れになるからな』
『それは脅しですか? どうやら、臆病になってしまったらしいですね』
『──────お前には一生分からないだろうな。守るべき相手がいることで、人が強くなることもあると』
『そんな戯言をあなたの口から聞けただけでも、今日あなたの質問に答えた意味がありましたよ』
『忠告はしたからな』
オレは自分が柄にもなく熱くなっているのを感じながら、どこかそれを嬉しく思っている自分も感じていた。
きっと、これもオレの成長なんだろう。
「守るべき相手、か…………」
オレは脳内にクラスの仲間たちを思い描きながら、来た道を引き返し始めた。
そういえば言い忘れてましたが、恐らく自分が書く予定の坂柳の結末と、皆さんが望んでいる坂柳の結末は少々違っているかもしれません
しかし、自信をもって言えます
自分が、この傲慢な坂柳に相応しい結末を用意すると