綾小路がBクラスに配属された世界線 作:来世
43話:終わりの始まり
──────十月中盤。
二学期中間試験や生徒会総選挙を終えたオレたちに、新たな特別試験の存在が言い渡されていた。
「──────皆には、期末試験の代わりに『ペーパーシャッフル』と呼ばれる特別試験を受けてもらうことになるわ。今から説明するからよく聞いて」
中間試験を全員無事に乗り越えたのは当たり前としても、これは想定外だな。
一つ試験が浮く代わりに、リスクが大きくなった。
仮にも特別試験の名を与えられている時点で、退学やクラスポイントと言った重要な要素が動くことになるのだろう。
オレは軽く息を吸いこんでから、窓の外に視線をやる。
既に雲は見えず、そこにはただ高い空があるだけだ。
「────まずは、ペーパーシャッフルの前に来週やる小テストについて話しましょう。来週、皆には期末試験で出る八教科を含んだ小テストを受けてもらう。その結果を基に、クラス内で二人組のペアを作り、二人で期末試験に挑むことになるわ」
クラス内で、二人組…………
「来週の小テストにはペナルティや褒賞はないわ。でも、期末試験では、ペアで二つのボーダーラインを越える必要がある。一つ目は、一教科でのペアの合計点が六十点以上であること」
つまり、もしオレと一之瀬がペアになった場合、オレが0点を獲ったとしても、一之瀬が六十点獲れればいいわけか。
となると、クラス内で公平性を保つため恐らく学力の高い者と低い者が組まされると見て良いだろうな。
「二つ目は、ペアの合計点が、後日学校の提示する合格点に達していること。まだ決定はされてないけど、例年通りなら、大体七百点程度になると思うわ」
──────単純計算で一教科四十五点か。
だが、この程度のラインなら、割ることはまずないだろう。
「…………もし、この二つの内どちからでも割ったペアがあったら、二人とも退学になる。だから、気を付けてね」
普通にやれば、まず退学なんてことにはならない。
だが、それは常人を相手にした場合の話でしかない。
もし、この学校に一人でもとち狂った者がいるなら…………この前提は崩壊するだろう。
「──────そして、ここからがペーパーシャッフルの醍醐味。期末試験の問題、作るのはあなた達一年生よ。期末試験では、各クラスが『攻撃』と『防衛』を行う。攻撃では自分たちのクラスで制作した問題を他の一クラスにぶつける。そして防衛ではどこかのクラスから出された問題をボーダーラインを割らずに解き切る。これがペーパーシャッフルよ」
その後詳しいルールを、星之宮から聞かされた。
なんでも、『攻撃』と『防衛』ではそれぞれで他クラスと競うらしい。
『攻撃』相手に選んだ相手がお互いだった場合、『防衛』の結果も同義とされ、勝った方が負けた方から100クラスポイントを得られる。
もし被らなかった場合は『攻撃』に勝って50、『防衛』で負けて-50らしい。
さらに言えば、攻撃対象が他クラスと被った場合は‘‘抽選’’で対戦相手が決定される。
…………これはこれは、ご丁寧なことだな。
このルールがある以上、クラス間で‘‘協力’’することは出来ない。
それはつまり、敗北を意味するからな。
船上試験で一クラスを袋叩きにしたのはお気に召さなかったらしい。
「──────それで、お前はこの試験。どう見る? 綾小路」
放課後の教室。
オレは神崎、一之瀬と共にまだ残っていた。
「そう、だな…………まず前提としてだが、今回の試験で勝つ方法はある、と言っていい」
「…………そうか。確かに、ありはするな」
「でも、ダメだよそんなの。こんなところで使えない」
そう、オレたち三人全員が察しているこの試験の必勝法。
それは…………相手が理屈の通用するDクラスだった場合、問題の作成権、または回答集をポイントで購入するという方法だ。
だがこれは、オレたちBクラスを目の敵にしているCクラスや、坂柳のいるAクラスには通用しない。
いや、葛城の勢力が体育祭でも最底辺にまで墜ちなかったことを考慮すれば可能かもしれないが、そもそもAクラスは基礎学力でオレたちに勝っているため、態々売る必要がない。
本当に、厄介な試験だ。
「…………今一之瀬が持っているポイントは約八百五十万。いっそのこと、買ったらどうだ?」
神崎が、一之瀬を見る。
彼が言いたいことは、よく分かる。
オレもその立場に立っていたなら、考えた筈だからな。
「な、何を?」
「…………星之宮先生は、被った場合‘‘抽選’’だと言った。なら、買えばいいだろう。その‘‘抽選でうちがDクラスと当たる’’権利を。何でも買えると豪語してるんだ、可能の筈だろ」
そう、うちが他のクラスを圧倒しているのは一之瀬のカリスマや団結力だけじゃない。
クラス全体で見た時の──────圧倒的なまでの所持ポイント。
うちには資金力と言う圧倒的な力がある。
「…………今後、必ず退学者が出るような試験が行われるかもしれない。そんなときのために貯めてるお金だよ。それを、今ここで崩すなんて…………」
「なぁ、甘くないか、一之瀬。もしオレたちが動かなければ、少なくともCクラスはうちを指名する。そんなとき、柴田を嵌めたアイツらがどんな手を使ってくるかは、分からないだろ」
「確かにそれはそうだけど…………」
「それに、綾小路の話が本当なら、AとCは無人島試験の際に契約を結んでいる。それが、プライベートポイント関係であることは明白だ。もしこの学校で『相手の点数を下げる権利』なんてものが購入可能だった場合、最悪内から複数ペアが脱落する可能性もある」
今の話には、おかしい点がある。
それは、一つ目が『Dクラスと組んだら安心』と思っている点。
そして二つ目は、それをオレも一之瀬も否定しない点。
神崎には悪いが、全てが片付くまでオレとアイツの契約を知っている人間は少なくしておきたいんだ…………
「──────なるほどな。それで、その金を俺に出せと」
「だって、そういう‘‘契約’’じゃないですか。…………
…………そう、オレと堀北学が結んだ契約の二つ目は『Bクラスがポイントを必要としているとき、それが正しいと感じたなら支払いを一部担うこと』。
オレはこれまでの何度かの接触で如何に堀北学が「真面な人間か」だけを注視してきた。
結果、彼は坂柳や龍園などと同じような腐った思想は持ち合わせてない。
オレがクラスメイトの為に動くと事前に説明しているため、話はスムーズに動くだろう。
「─────そうだな。確かに、お前たちの置かれている状況からして、
「分かりました」
まぁ、そうだよな。
ただでさえ、此方はあるかも分からない不確定な未来を担保にしてるんだ。
少ない方でも、払ってくれるだけ有難い。
「──────それと、綾小路。お前の言っていた人間が、動き出したぞ。やはり、お前の勘は鋭いな」
「…………」
「綾小路。良く聞け…………
─────
ふぅ、とオレは息を吐く。
秋の夜、空気は冷え若干白く視界が濁る。
…………やはり、オレの身近な人間に手を出す気か。
「…………どうする気だ? 打つ手はないぞ。証拠も何もないからな」
「あなたは、オレの問題に首を突っ込まなくて構いませんよ」
オレは電話越しに聞こえる堀北学の声の震えを捉える。
それは、興味を示しているんだろう。
「…………もう、こっちで
──────坂柳有栖。
精々、オレの掌で踊れ。
忌々しい過去を想起させるお前に、オレは価値を見いだせない。
坂柳有栖を封じ込める為の