綾小路がBクラスに配属された世界線 作:来世
十二月上旬。
今月の下旬に行われるペーパーシャッフルに向けて、オレたちBクラスとDクラスの関係はかなり親密になってきていた。
問題作成についても、総合点で負けることが確定しているDクラスへの問題は至極簡単なものにし、向こうからも退学者が出ないように配慮するなど、一之瀬たちも歩み寄りを始めている。
神崎や柴田たちも徐々にDクラスの平田や櫛田などの中心メンバーとの距離を縮め、今現在物事は滞りなく進んでいると言える。
放課後。計二度目のB・D混合勉強会にて。
「…………ここが分からないんだけど、どうすればいいかな?」
オレはBクラスから派遣された教師役として神崎や一之瀬たちと共に図書室で佐倉に勉強を教えている。
テーブルを挟んで向かい側では神崎と平田が何やら話をしているようだ。
「────ここは三角比を使って…………」
佐倉は勉強が苦手らしい。
だが、一学期の中間試験以降はクラスの足を引っ張らないようにと少しずつ勉強を頑張っているのだとか。
その話を聞いてオレは素直に彼女への評価を改める。
自分を律することの出来る人間は強いからな。
「─────ありがとうっ、出来たよ」
「なら良かった。慣れてくれば、イメージ図を書かずとも脳内で思い描けるようになる」
「そんな………それは綾小路くんだけじゃないかな?」
「そんなことはない。難しいように見えても、本質は意外と簡単だったりするものだ」
「─────確かに、そうなのかも」
どこか遠い目をする佐倉を一瞥してから、オレは手に持っている既にすべて解き終えている問題集に視線を落とした。
「─────綾小路くんさ。私のこと、捨てるつもりでしょ?」
深夜。寮付近の路地裏にて。
「…………何を根拠にそんなことを?」
オレは松下千秋と密会していた。
と言っても、向こうが突撃してきただけでオレにその意思はなかったわけだが。
「体育祭のときからおかしかったし。それに、B・Dクラスの同盟の話でハッキリしたよ。君は、私たちDクラスを飼い慣らす気だってね」
「────仮にそうだった場合、お前はどうするんだ?」
「私にも、考えがある」
オレがカマをかけると、松下は負けじと凄んでくる。
だが、少し常人より優秀なだけの凡人の策など、オレに通用する筈もない。
「…………面白い。何をするというんだ?」
「私だって馬鹿じゃない。もし今までの功績を無駄にするなら、
「オレが裏でやってきたことを、バラすのか。だが、そんなことをして何になる」
「君の実力は今までの作戦から分かってる。でも、表では発揮できない理由があるんでしょ? だったら、もし私が君の実力をバラせば君は何もできない」
やはり、その程度か。
少しも期待していなかったので別に落胆はないが、にしても残念ではあるな。
もう少しは面白い内容を聞きたかったのだが。
「…………馬鹿だな、松下」
「えっ?」
「お前がもしその作戦を実行すると言うなら、オレはその前にお前を消すことになる。ペーパーシャッフルで誰とペアを組んだか知らないが、オレはお前の点数を下げて退学させる」
オレがそう宣言すると、彼女は目を丸くさせる。
まるで、そんなこと考えてもみなかったように。
「………出来るわけないよ、確かにBクラスにはポイントが多くある。でも、それは君個人が私用に使えるポイントじゃない。私を退学にさせるなんて理由は無効でしょ」
「オレは別に、Bクラスのポイントを使うとは一言も言ってないぞ。個人的に支援してくれるパトロンがいてな、その人に出してもらうつもりだ」
「そんなの………信じるわけない」
「なら、やればいいだろ。まぁ、そもそもオレに
冬の風が肩を掠める。
ビューッと不気味な音を立てながら、松下の長い茶髪を揺らした。
「─────それがないって言うなら、なんで実力を出さないの。理由がない」
「目立ちたくないんだ。それに、オレが先導していてはクラスの者が成長しない」
「…………そんなことの為に、実力を隠してるって言うの? 私は、足りない実力を理解しながらも必死に足掻いてるのにっ!」
これでは、彼女は納得できないらしい。
なら、もう分かり合うことは不可能だ。
誰しも別々の価値観を持っているのは仕方ないこと、歩み寄ることが大事だとオレは知っている。
「──────そんなもの、オレの知ったことではない。忠告はした、どうするのかはお前次第だ。いい結末を描かせてくれ」
オレは松下に背を向ける。
無人島・船上試験では良い活躍をしてくれた、だがもう必要ない。
表立ってDクラスの情報を得られるようになったからな。
綾小路が去り行く一方、未だ二人の会話を反芻する者が物陰に一人。
「へぇ…………あれがアイツの本性か。姫さんから電話を繋ぐよう言われた時から思ってたが…………」
男は、カモを見つけた詐欺師のような怪しい笑みを溢す。
それが何を意味するのは、本人しか知る由のないことだ。
「────Bクラス、か。一之瀬と神崎に加えてあんなバケモンもいるのかよ。──────姫さんの没落も近ぇかもな」
翌日・放課後。
オレが姫野と共に下校している最中、非通知でメッセージが届く。
嫌な予感がしつつも画面を見ると、オレの心は憂鬱になる。
「はぁ…………」
「どうしたわけ」
オレが溜息を吐くと、並んで歩いている姫野が顔を覗いてくる。
その仕草に妙な感覚を覚えつつ、オレは正直に話すことにした。
「…………Dクラスの奴からメールが来た。話がしたいらしい」
「へぇ? で、どうするわけ」
「直接会うのは正直面倒だ。ここで電話していいか?」
「いいけど、聞かれても良いの? 私に」
「ああ。というか、姫野なら聞かれて困ることはあまりない」
オレはそれだけ告げると、相手に電話をかけてくるように送り返す。
すると、すぐに繋がった。
「──────もしもし?」
「先に要件を伝えるわね。私を─────Bクラスに入れてくれないかしら」
スマホから聞こえてくる高圧的な声に嫌気が差す。
オレはわざとらしくため息を吐いてから、口を開く。
「断る。今のお前はBクラスにとって不必要な存在だ。分かったらもう二度と連絡は寄越さないでくれると有難い。──────
─────堀北鈴音」
おっと、流れ変わったな…………