綾小路がBクラスに配属された世界線 作:来世
「─────理由を聞いてもいいかしら。私は自分で言うのもなんだけど、優秀よ。ただ、今のDクラスじゃAクラスには上がれない。加えて、資金力と団結力で現Aクラスを上回る貴方たちに加わりたいのだけど」
「いや、お前の話は風の噂で知っているぞ。クラスの風紀を乱す不届き者、輪を乱す邪魔な存在。それがお前の評価だ。そして実力云々だが、ハッキリ言ってお前は別にいらない。いなくてもAクラスを目指せるのに何故足手纏いを加えにゃならんのだ」
オレは容赦なく事実を突きつける。
そもそも論、オレはこいつが嫌いだ。
仲間を見下し、斬り捨て、自分を優秀だと勘違いしている典型的な勘違い野郎。
「私が足手纏いですって?実力なら、BクラスでもTOPクラスだと自負しているのだけど、どういう点でそんなことを言っているのか訊いてもいいかしら」
「ああ、いくらでも言えるぞ。まずコミュニケーション能力の低さ、他人を見下すその姿勢。他者を不快にさせるその高圧的な態度。例を挙げればキリがない。自分を客観視できない者は愚者だぞ」
スマホの向こうで堀北が溜息を吐く。
その態度に、増々オレは電話を切りたくなる。
「…………はぁ、一之瀬さんたちの会話から貴方なら話が分かると思ったのだけど、残念よ。評価を改めようとしていたのに」
「お前からの評価など気にしないからいい」
これが、あの櫛田が恨む相手か。
その程度の奴なら、いくらでもやりようはあるだろう。
なんなら、櫛田に手を貸してみるのも一興かもな。
「…………それじゃあ、そういうわけだ。次に電話をかけてきたら間違えてお前の申告を他クラスにもバラまいてしまうかもしれないから、気を付けてくれ」
オレはそれだけ告げると、堀北の反応を待たずに電話を切った。
心はやけに清々しく、穏やかだ。
「──────誰、堀北って」
変わらず隣を歩く姫野が訊いてくる。
オレは少し考えてから、こう答えた。
「…………愚か者、だな」
「あんたにそう言われるなんて、中々ね」
「そうか? 案外、誰にでも思っていて声に出さないだけかもしれないぞ」
「まぁ、いいんじゃない? 心の中は誰にも支配されない自由な場所だし、私に思ってたらぶっ飛ばすけど」
姫野は冗談なのか冗談じゃないのか分からないギリギリのラインの声音で言ってくる。
オレは苦笑いをしながら「それは勘弁願おう」、そう返し歩みを進めた。
夜。月が妖しく大地を照らす中、男女が密会をしている。
一人は人相の悪い中肉中背の男、もう一人は綺麗な金色の髪を靡かせる美少女だ。
そんな似合わぬ二人は、誰にも聞かれないようにこっそりと会話をする。
「クク、この試験で堀北に勝負を仕掛けるのか」
「そんなこと今は良い。さっさと神崎を消してよ」
男は愉快そうに笑うも、女にはそんな余裕はない。
なんせ、弱みを握られているのだから。
「…………おいおい、それが人にものを頼む態度かよ? もっと誠実さが欲しいなぁ?」
「体育祭であんたに参加表をリークしたのは誰だと思ってんの。この私でしょ」
「そういえばそんなこともあったな。だが、堀北には恥をかかせた。それでチャラだろ?」
男は女の言い分をのらりくらりと躱していく。
追求しようにも場所は外で時間帯は夜、勝ち目はないと悟っているのか女が強硬手段に出ることはない。
「…………そもそも、ホントにお前を嵌めた奴ってのは神崎で決定なのかよ?」
「それってどういう意味」
「そのままの意味さ。それこそが、相手の思う壺かもしれねぇてことだ」
男は意味ありげに言う。
その言葉に、女は少し言い淀む。
自分の考えに、確信を持てないからだ。
「…………二度も私を脅してきたのは間違いなくアイツ。他に誰がいるって言うのよ」
「まぁ、そんなにアツくなんなよ─────
女──────櫛田桔梗は名前を呼ばれて苛立ちを見せる。
「勝手に名前で呼ぶな。…………
男──────龍園翔は、その言葉にもヘラヘラと笑う。
それは面白いのではなく、明らか嘲笑の意味を含んでいた。
「…………お前はいつもそうやって視野が狭くなる。神崎が
龍園がここまで櫛田に協力的でアドバイスするのには理由がある。
それは──────龍園自身が、自分を夏季休暇の特別試験で完封したBクラスの黒幕を突き止めたいと思っているからだ。
突き止めて、ぶっ殺す。
それが、龍園の今の唯一の楽しみでもある。
「…………そんなこと…………」
「ないとは言い切れねぇだろ」
「そりゃそうだけど、でもそれなら他に誰がいるってのよ。他に賢そうな奴はいない」
「確かにな…………だが、あまり簡単な答だとは思わない方が良いぜ。俺も、ソイツには用があるからな。気が向いたらまた手伝ってやらぁ」
「そ」
足が付く前に切り上げる二人。
だが、やはりその二人を遠巻きに観察する男がいる。
しかし、いつものようにここで去ることはしない。
なんせ、男は既に
「──────久しぶりだな。龍園」
男は龍園と櫛田の距離が離れたのを目視してから龍園に接近する。
すると、声だけで誰か判別したのか龍園は振り返らずに嗤う。
「おいおい、盗み聞きは感心しねぇぞ。…………
「はは、別に内容までは聞いちゃいねぇさ。ただ、
「好きにしろ」
「龍園。実はお前も気になってるんじゃねぇか?
その言葉に龍園はたまらず振り返る。
視線の先には長い金髪をまとめたチャラい男──────橋本正義が立っていた。
相変わらず、油断も隙もない男。隙を見せれば、付け込まれるのは龍園だろう。
「…………さぁ、興味ねぇな」
「なら、もし俺が
妖しげに笑う橋本に龍園は警戒を解かない。
ただ、まんざらでもなさそうな様子でこう返した。
「…………話だけなら、聞いてやる」