綾小路がBクラスに配属された世界線   作:来世

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後半に二学期のメインイベントが待ってます
皆さんお待ちかねのあっちのお嬢さんの方も近いです


1年生冬季休暇
47話:ヒーローと悪役


 

 

ペーパーシャッフル当日。

 

 

今日は誰もが待ちに待った()学期末考査の日である。

 

オレたちBクラスは対戦相手のDクラスと同盟を結び、今回の試験では誰も退学者が出ないことが確定しているため心は穏やかだ。

 

隣の席に座る一之瀬も、どこか安らいだ顔を見せている。

 

 

「─────ねぇ、綾小路くん」

 

 

唐突に、一之瀬が口を開いた。

 

窓の外の景色を眺めていたオレは、視線を横に流す。

 

 

「なんだ? 一之瀬」

 

「これで、良かったんだよね? 私の選択は、間違ってない?」

 

「それは、お前が決めることだろう。一之瀬」

 

 

オレは一之瀬の顔を見る。

 

先程とは違い、どこか憂いを帯びた表情だ。

 

 

「私が、決める?」

 

「ああ。自分の選んだ選択肢を正解にする。それでこそ、一流のリーダーだとオレは思う。あくまで、ただの持論だがな」

 

「そう、だよね。私はリーダー、仲間と自分の選択を疑ってなんていられないよね」

 

「その意気だ」

 

「…………やっぱり、君は──────」

 

 

その先は声が小さく聞き取れなかった。

 

が、一之瀬の頬が少しだけ紅潮したように思えた。

 

 

 

 

 

──────問題は全て、話し合って決まった通りだった。

 

オレたちがDクラスに出したものと同等、もしくはそれ以下の小学生レベルの問題ばかり。

 

これで退学者が出るリスクは、ほぼ消えた。

 

残る懸念点も、うちの性質を考えれば多少の痛手で済むだろう。

 

オレはどこか穏やかな気持ちで、全て解き終えた解答用紙に視線を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

ペーパーシャッフル二日目も無事に乗り切ったオレたちBクラスは、ケヤキモールのカラオケを貸し切り、祝勝会兼二学期お疲れ様会を開いていた。

 

中央では柴田や網倉たちが騒ぎ、それを近くで見ながら一之瀬が笑っている。

 

当たり前だが、オレにとっては微笑ましい光景である。

 

そんな愉悦に浸っていると、肩をトントンと叩かれた。

 

視線を向けると、神崎だ。

 

 

「綾小路、二学期もありがとな」

 

「二学期に頑張ったのはお前と一之瀬だろう。オレは何もしていない」

 

 

事実、クラスを率いていたのはコイツらだ。

 

オレは、そこに少しだけアドバイスを与えただけ。

 

あくまで、メインでの駆動機は二人であり、オレは潤滑油のような立ち位置に過ぎない。

 

 

「そんなことはない。無人島試験や船上試験でお前がくれたアドバイスのお蔭で、今の俺たちがある。感謝してもし切れない程の恩があるんだ」

 

 

神崎の目を見る。

 

真剣で、熱を帯びている。

 

 

「…………なら、成長を見せてくれるのが一番の恩返しだ。オレにとって一番うれしいのは、仲間が自分たちの実力だけで勝つ姿を見ることだからな」

 

 

本心だ。

 

オレは、心の底から彼らに期待をしている。

 

いつかオレがいなくとも他クラスのリーダーと渡り合い、そして勝てるようになる。

 

そう、信じて疑わない。

 

 

「…………なら、その期待に全力で応えることを約束する。俺たちは、親友だからな」

 

「嬉しいこと言ってくれるな。神崎」

 

「本心だ」

 

 

二人で会話に花を咲かせていると、マイクを渡される。

 

オレは戸惑いつつも、それを受け取る。

 

その瞬間──────

 

 

 

「──────我らが歌うま大臣のご登壇です!大きな拍手!」

 

 

網倉が大きく叫び、あたりは熱狂と拍手の音に包まれる。

 

オレは誰にも聞かれないように息を吐き、マイクを強く握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十二月二十日・終業式。

 

 

私──────姫野ユキは、今日は誰とも話さず、寮の自室へと向かう。

 

いつもは隣にいる不愛想な男─────綾小路清隆は、今日はいない。

 

なんでも、少し用事があるらしい。

 

だから、今日は夜までもう彼の顔は見ないだろう。

 

別に、それでも構わない。

 

綾小路は、ただのクラスメイト。

 

少し私に構ってくれて、理解してくれるだけ。

 

 

俯きながら悶々と思考に耽っていると、衝撃が身体に響く。

 

思わず後ろに倒れそうになるのも、ぐっと堪える。

 

 

「ちっ」

 

 

私にぶつかってきたのはどんなヤツかと睨みつける。

 

でも、視線の先にいたのは──────

 

 

「…………よぅ。やさぐれてるって噂はホントみてぇだな」

 

「コイツが? 信じらんない」

 

「んなこと関係ねぇよ」

 

「…………」

 

 

─────男女四人組。

 

赤毛を肩あたりまで伸ばした人相の悪いのが一人、その家来みたいな脇役が一人。

 

青髪の小柄な女子が一人に、ガタイのいい黒人が一人だ。

 

 

「なに、あんたら」

 

 

ここで舐められたくはない。

 

確かに前を見てなかった私も悪いけど、向こうにだって非はある筈だ。

 

 

「おお、こりゃいい。強気な女は嫌いじゃないぜ?」

 

 

赤毛の手が私に伸びる。

 

思わず突き返すと、男は更に笑った。

 

 

 

「…………んまぁ、いいか。ちょっと来いよ姫野、話があんだ」

 

「誰が行くと思うわけ? 興味ないから帰る」

 

 

そう言い引き返そうとしたとき、アイツの言葉が私の行動を制止した。

 

 

 

 

「…………綾小路清隆。Bクラスにはいいボスがいるんだな」

 

 

──────綾小路のことを知られてる?

 

いや、よりにもよってアイツがバレるようなヘマするとは思えない。

 

でもハッタリで当てれる筈もない。

 

 

「Bクラスのリーダーは一之瀬さんでしょ。誰があんな陰キャに従うわけ」

 

「はっ。ここで白を切るたぁいい度胸だ。気に入ったぜ」

 

「どうでもいい。もう帰っていい?」

 

 

そう返すと男が私の耳元で囁く。

 

その言葉を聞いて、私は自分がいつも通りじゃないことを自覚する。

 

 

「…………てめぇがこねぇなら、綾小路を叩き潰す。Aクラスにもバラして徹底的に潰す。それが嫌なら、少しお喋りでもしに行こうぜ?」

 

 

 

…………見捨てりゃいいじゃん。

 

所詮、夏休みから話すようになっただけの男。

 

まだ、付き合いは四カ月程度、自分を危険に晒すほどじゃない。

 

筈、なのに…………

 

 

「──────分かった」

 

 

私は、頷いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ん、なんだ?」

 

 

堀北学と今後の方針について話していたところ、オレのスマホが震えた。

 

静かな生徒会室に着信音が響く。

 

 

「見ても?」

 

「ああ」

 

 

一応目の前の男の許可を取ってからスマホに触れる。

 

ロック画面に写っているのは、姫野からのメッセージらしい。

 

暗証番号を入力し、画面を数度タップする。

 

 

 

「…………」

 

「どうした」

 

 

オレはその内容を目にし、一瞬だけ思考を止めていたらしい。

 

学の声で、意識が戻る。

 

 

「済まない。少しだけ用事が出来た」

 

「急用か?」

 

「ああ。一刻を争うだろうな」

 

「なら行け、ただし今度埋め合わせはしろ」

 

「分かっている」

 

 

オレは学と会話をしながら、脱いでいたブレザーを羽織る。

 

ネクタイを緩めてから、少し駆け足で生徒会室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

──────普段は生徒立ち入り禁止の場所である屋上へと続く階段を上る。

 

カツ、カツと上履きで廊下を踏み鳴らす音が静まり切った空間に冷たく響く。

 

階段を上り終え、オレは迷わず閉まっている筈のドアに手を掛け…………押し開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ククク、来たな」

 

 

屋上を埋めるコンクリートの地面の上に、四人が立っていた。

 

一人は龍園、もう三人はその仲間といったところだろう。

 

そしてその四人の間に蹲っているのは──────姫野ユキだ。

 

 

「あんな画像を送られたらな。来ないわけにもいかないだろう」

 

 

オレに送られてきた画像には、龍園の下僕と姫野が映っていた。

 

証拠にならないよう隠してはいるが、暗に脅しだと言うのは理解できる。

 

 

「なら、お前がBクラスの黒幕だって認めるんだよなぁ?」

 

 

龍園が挑発的な顔でオレを見る。

 

だが、明らかに隠せていない闘志も同時に見え隠れいている。

 

 

「…………ああ、そうだな」

 

「驚いたぜ。ただの金魚の糞だと思ってたが、まさかアイツらの方が金魚の糞だったとは」

 

 

アイツら、というのは一之瀬と神崎だろう。

 

オレは、どこかでいつもとは違うものを抱き始めているのを感じた。

 

 

 

「…………それで、オレを呼び出して何の用だ? 姫野を返してもらえれば、オレからは何もしない心算だが」

 

「おいおい、見て分からねぇか? ただで帰すわけねぇだろ」

 

 

龍園たちの視線が、屋上のカメラに向けられる。

 

三台ある監視カメラはどれも、ペンキのようなもので潰されていた。

 

 

 

「あまり、穏やかじゃなさそうだな」

 

「舐めた真似してくれたなぁ? 散々よぉ」

 

「元はと言えば、お前が柴田を嵌めたのが諍いの原因だ。咎めるなら、お前自身だろ」

 

「面白れぇ。お前、この窮地を乗り切る方法があるとでも言うのか?」

 

 

龍園の言葉に、オレは言葉を詰まらせる。

 

それは、乗り切る方法がないという意味ではない。

 

 

 

「──────龍園、お前は何か勘違いをしている。今窮地に立っているのは…………お前らの方だぞ(・・・・・・・)

 

 

 

──────オレは、明確に自身が不機嫌であることを自覚していた。

 

こんな感情、知らない。

 

言葉で言い表そうにも、オレはきっとこれを理解できないから不可能。

 

ただ、限りなく近い言葉を予想で挙げるなら──────

 

 

 

 

「…………怒り、か」

 

 

オレは、無意識のうちに呟いていた。

 

相手四人も、何を言っているんだという顔をする。

 

でも、それでいい。 オレの気持ちを知っているのは、オレと──────

 

 

 

「先に教えろ。お前に情報を渡したのは誰だ」

 

「んなこと、言う義理はねぇな」

 

「そうか。なら、後で聞くさ」

 

 

 

 

その言葉が、ゴングだった。

 

龍園のサイドに立つ女一人と男二人がオレに飛び掛かってくる。

 

 

「…………」

 

 

オレは息も切らさずに対応する。

 

突っ込んできた黒人の頭に廻し蹴りを入れ、まずは一人を刈り取る。

 

 

そのままの流れで灰色の髪をしたヤンキーと勝負をする。

 

単調な右ストレートを躱し、代わりに膝蹴りを鳩尾に叩き込む。

 

これで、二人目だ。

 

 

最後に蹴りを主体とする女子生徒に手刀を決め、三人目をのす。

 

時間にして約二十秒ほどの出来事だった。

 

 

 

 

「………はは、こりゃ驚いた。腕っぷしまで強いとは感動だぜ」

 

「言っただろ、窮地に立たされているのはお前らの方だと」

 

「クク、まだ俺が立ってるのが見えないのか?」

 

「これで終わりなんて誰も言ってない。オレも、自分の感情のやり場に困っている所だ。丁度いいサンドバッグがいて助かった」

 

 

互いに一秒、停止する。

 

そして直後、同時に踏み出した。

 

 

 

 

 

 

それからの勝負は、一瞬だった。

 

私──────姫野ユキを助けに来てくれた綾小路と、脅してきた龍園。

 

ヒーローと、敵対する悪役。

 

その勝負は、常にギリギリで、どちらが勝ってもおかしくないものっていうのが常識。

 

でも、彼には、綾小路にはそんな常識が当てはまらなかった。

 

 

同時に二人が踏み出した直後、龍園が後ろ向きに吹っ飛んだ。

 

速すぎて見えなかったけど、多分、綾小路が殴ったんだと思う。

 

人を5mくらい吹っ飛ばす腕力に加えて、そんなことを平然とこなす彼に少しだけいつもとは違う感情が沸く。

 

 

 

「…………お前に情報を渡したのは誰だ?」

 

 

ほぼ意識が飛び虚ろな目をしている龍園の前髪を掴みながら、綾小路は問いかける。

 

その眼は冷たくて、でも何かに燃えているように思えた。

 

 

「──────橋、本…………」

 

 

それだけを言い残し、彼は意識を手放した。

 

時間にして約五分、一瞬の出来事だった。

 

 

 

 

「姫野、大丈夫か」

 

 

彼は、座り込んでいる私に手を伸ばす。

 

その手を迷わず掴んで、私は立ち上がる。

 

 

「うん…………平気」

 

「そうか」

 

「…………」

 

 

私は言葉に詰まる。

 

こんな光景を見てしまって、何を言えばいいのか分からないから。

 

そんな私の様子を察したのか、彼から口を開いた。

 

 

 

「オレが、怖いか?」

 

 

いつも見る目じゃない。

 

どこか人間らしい色を帯びている。

 

その眼を見て、私はやっぱり自分の感情を理解した。

 

 

「ううん。そんなわけない」

 

「そう、か。…………良かった」

 

「ねぇ、綾小路。いや、清隆(・・)

 

 

私が下の名前で呼んだことに驚いたのか、彼の目が少し見開く。

 

その様子も、どこか可愛らしい。

 

 

「…………どうした」

 

「私ね──────」

 

 

 

 

 

 

冬空の下。

 

周囲には四人の人間が地面に転がっている中で、一人の少女が、自分の想いを打ち明けた。

 

相手の答は、風に掻き消され聞こえない。

 

だが──────二人が膝をつき抱き合ったのが、何よりの答だった。

 

 




二人の関係の行末は次話で書きます
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