綾小路がBクラスに配属された世界線 作:来世
冬季休暇も残りわずかとなり、オレは正月を迎えていた。
場所は自室、このあと友人が来て新年会なるものを行うことになっている。
が、それまでは完全にフリータイムだ。
ベッドに横になりながら、視界の端に映る窓の先を眺める。
雲一つない快晴は変わらず続き、凍える寒さと打って変わって太陽はオレたちを照らしてた。
「あ」
ふと、些細なことに目が行く。
一羽の小鳥が、遥か上空を目指して飛んでいった。
いつもなら気に留めないことだが、今は少し興味が湧く。
あの鳥は、どこへ行くんだろうか。
無意識のうちに自分と重ねていることに気付いたオレは、思考を止めた。
それは…………無意味なことだからだ。
「どうせ、三年経ったらあそこへ戻るしな」
人生と言う長い期間で見れば、三年間など一瞬で過行く。
だが、多感な青年期の出来事は大人になっても脳裏に焼き付くものであり、きっとオレにとっても生涯忘れない大事な記憶となるだろう。
いつか失うとしても、いつか鳥籠に戻るのだとしても──────
──────オレはまだ、自由に空を翔けていたい。
あの鳥のように、自由を手にしていたい。
手放すのは怖いが、それでも自分の探求心は抑えられない。
そして願わくば……………………このまま、どこかへ逃げてしまいたい。
そんなオレに似合わぬ大層な願い事を立案してから、オレは目を閉じた。
「~~~~あけましてぇおめでとうっ!」
「…………元気さは相変わらずだな、一之瀬」
「そういう神崎くんもね」
オレの部屋で、新年会が始まった。
一之瀬は場を盛り上げようとし、神崎も呼応する。
長い期間は空いていないのに、この光景がどこか懐かしい。
「やっぱ綾小路くんは部屋も質素だねぇ」
網倉がオレの部屋を見回しながら呟く。
それに対し、渡辺も反応するもあまりうまくはいかない。
「…………清潔と言ってくれ」
「はは。そういえば綾小路っ、お前姫野と付き合ってんだろ?!驚いたぜっ!」
和気藹々とした雰囲気の中、柴田が言う。
その一言により、オレの部屋の温度は再び氷点下を下回る。
「…………そうなのか? お前が色恋をするとは意外だ綾小路。まぁ、相手は意外じゃないがな」
「そういえばそうだったね。でも、今その話はあんまり…………」
「え? なんでだよ?」
柴田はまだ気づかない。
自分の隣で奥のある顔をしている一之瀬に──────
「…………そう、だな。態々言う必要はないと思ってたが、まぁそういうわけだ。だが、あまり追求しないでくれると有難い。人にはそれぞれ合ったペースがあるからな」
「そうだよな。わりぃわりぃ、んじゃ宅配すっか」
「ないだろ」
オレは、彼らの雰囲気を見守る。
中心にいるのに、どこか離れたところから見ているように。
きっと、オレは彼らになりたかったんだろう。
普通でいて、それでも友達と環境に恵まれた者たちに。
だからせめて…………彼らの未来は、オレが守ろう。
新年の抱負を心のうちに掲げ、オレはコーヒーを一口飲んだ。
「ねぇ、あんたの実力ってホントはどのくらいなわけ?」
一之瀬たちが去った後、今度はユキがオレの部屋に来ていた。
呼びつけているみたいだが、実際は向こうからの申し出だからな。
「それは、本気を出したらって意味でいいのか?」
「当たり前でしょ。あの坂柳の思考を完全に上回った上でコントロールしたんだもん。超高校級とかいう言葉じゃ納得しないから」
…………オレが坂柳との戦いに姫野を参加させたのは、単なる憂さ晴らしのためだけじゃない。
オレと龍園の近接戦でフィストファイトの強さは見せた、だから今度は頭脳を見せておきたかったのだ。
試験では点数をバラけさせるようになったし、あまり普段の生活で見せる場面はないからな。
「そうだな…………。確実に言えることは、『この学校に、オレに勝てるヤツはいない』ということだ」
「あんた以外が言ったなら、大笑いしてるんだけどね。あんなの見せられちゃったら、信じるしかないっつの」
「それは、いい意味で捉えておくさ」
「お好きにどうぞ。でも、ならあんたが本気出せばAクラスなんて余裕で引きずり下ろせるんじゃないの?」
オレはペーパーシャッフルでの結果を思い返す。
Dクラスとの勝負ではお互い退学者を出さないために問題のレベルを低くしたが、地力の差でうちが勝利した。
AクラスとCクラスの勝負では言うまでもなくAの勝利、龍園が動いたのかどうかは不明だ。
「…………坂柳が自主退学したのを踏まえれば、三学期からはうちがAクラスかもな」
「まじで? なら、維持できるわけ?」
「まぁ、やろうと思えば可能だな。ただ、恐らくオレが直接出張ることはない。少なくとも、一年生のうちはな」
──────二年生へと進級すれば、同時に新入生も入学を果たす。
オレの父親なら、まず間違いなくその中に追手を忍ばせているはずだ。
ホワイトルームからの刺客…………オレも、ある程度の実力を発揮せざるを得ないだろうな。
「変な間ね。でも、理由は教えてくれないんでしょ?」
ユキがオレの顔を見る。
その表情に不快の文字はなく、答も既に知っているように見えた。
「ああ、まだ言うことは出来ない」
「まだ?」
「ああ。…………いつか、話せたらとは思っている」
「あっそ。あんたのいつかは来るか怪しいけど、期待しとく」
「オレの生い立ちに、興味なんてあるのか?」
「…………好きな人のことはなんでも知りたい。そういうものなの」
「そう、か。覚えておく」
オレはきっと、まだユキのことを好きではないのだろう。
彼女といると楽しいと感じているように思えるときもあるし、気も楽だ。
でも、進んで彼女の経歴や過去を知ろうとは思えない。
それでも──────いつか、‘‘知りたい’’と思える自分になりたい。
これすらオレの意思ではないのかもしれない、それでも明確に、そう思った。
冷えた廊下を歩む。
隣には、少し不安そうで普段見せないような表情をしている星之宮。
──────オレは、学校に呼び出されていた。
冬季休暇中に呼び出しとは何事かと思ったが、校長からのものなので仕方あるまい。
星之宮と共に、応接室の前に立つ。
「大丈夫?」
「ええ」
「何かあったら言ってちょうだい」
「分かりました」
オレは、躊躇なく扉を開く。
ノックもせずに、堂々と。
その先にいるのが、
久しぶりに訪れるその部屋の中には、二人の男が立っていた。
驚いた顔をする校長と、オレに背中を向け窓の外を見ている男。
「で、では私はこれで」
校長が慌てて去っていくと、当然オレと目の前の男の二人きりになる。
だが、気まずさはない。
お互い、嫌って程知っている者同士だからな。
「──────久しぶりだな。座ったらどうだ、
「──────あんたと長話をする気はない。さっさと用件を言ったらどうだ」
オレがそう返すと、男は此方を振り向く。
その顔は、以前と同様氷のように冷たく、瞳には熱いものを燃やしている。
「
「あんたを父親だと思ったことはない。そっちだって、オレを息子だと思ったことはないだろ」
視線の先にいたのは、オレの父親にしてホワイトルームのトップ。
──────綾小路篤臣だった。
因みに、現在の各クラスのクラスポイントは以下の通りです
Aクラス:1374
Bクラス:1141
Cクラス:210
Dクラス:110
篤臣くんさぁ、子供の成長くらい暖かく見守ってやれよ…………