綾小路がBクラスに配属された世界線   作:来世

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52話:信じない

 

 

 

「──────ああ、そうだな。俺も、長居する気はない。…………自主退学しろ、清隆」

 

「断る。オレはこの学校を去るつもりはない」

 

 

父親の強気な発言にも、オレは冷静に対応する。

 

この学校にいる限り、どんな権力を行使してもオレ自身の同意なしには退学を決行することは出来ないからな。

 

だからこそ、コイツもオレに直接会いに来たのだろう。

 

 

「親の言うことが聞けないのか」

 

「何度も言わすな。オレはお前を父親だと思ったことはない。それに、どうせ三年後には戻るんだ、短い家出だとでも思ってくれ」

 

「…………どうやら、お前は俗世の影響を受けすぎたらしいな」

 

「──────それが、あんたの狙いでもあるんだろ?」

 

 

オレは、核心をついた。

 

ずっと、感じていた違和感。

 

この一年ではなく、もう一年前に何故オレを放置したのか。

 

他人を完全に信用することのないこの男が、何故オレを松雄に預けたのか。

 

その答は、勘だが既に持っていた。

 

 

「…………松雄は死んだぞ。お前がここに入学した所為でな」

 

「それはおかしいな。オレが感情を手に入れ、知識と感情を有するお前の定義する‘‘最高の天才’’にするため、お前はオレを放置した。なのに松雄を殺したと言うのは、少々厳しい」

 

「面白い考察だな。だが、俺はあくまで俺の命令に背いた罰として松雄を懲戒解雇しただけだ。そのあと息子も酷い結末を辿っているらしいが、聞きたいか?」

 

「オレを怒らせたいのか? それとも、本当に感情を手に入れたのか、確かめたいのか。どちらにせよ、お前の不毛な話に耳を傾ける気はない。その話も、当然信じない」

 

 

──────オレに感情を手に入れさせるためにここへ入学させた、その説に異を唱えない時点で、これは当たっていると見ていいだろう。

 

なら、尚更松雄が殺される理由がない。

 

もし直接危害を加えてないにしろ、やっているのなら意味不明だ。

 

 

「感情を手にしたと語っても、罪悪感までは感じないか。…………話が逸れたな、さっさと退学届を書け、清隆」

 

「断る。お前の目的もまだ達せられていない筈だ。それとも、何か不測の事態でも起こったか?」

 

「…………つくづく可愛げのない息子だ。だが、俺もあまり待っていられない。新年度を楽しみしているんだな」

 

「ああ、精々期待しとくさ。オレの後釜が、どれほどの出来かをな」

 

 

綾小路篤臣は、そのまま振り返ることなく去っていった。

 

先程の話も、嘘である確率は六七割と言ったところ、もし本当ならオレは…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────一体、いつからだろうか。

 

彼、綾小路清隆くんを意識しだしたのは。

 

五月の中間試験で、私の意見を変えてくれたとき?

 

それとも、もっと前。バスの中で初めて会ったときだろうか。

 

 

「はぁ、どうしよっかなぁ…………」

 

 

素直に打ち明ければ、私は綾小路くんのことが好きだ。

 

きっと、この世界の誰よりも。

 

そう自信を持って言える程に、彼を瞳に映してきた。

 

授業中に見せる気だるげな表情も、意外に甘いものが好きで頬張ったときの口の緩んだ表情も。

 

たまに見せてくれる真面目な顔も、全部全部、私だけが知ってればいいと思っていた。

 

 

「…………世の中、そんな上手く行かないんだけどね…………」

 

 

一学期から彼に注目してる子は案外多かった。

 

顔もかっこいいし背も高くて勉強もできるから、当然だよね。

 

でも皆どこかで私が彼に特別な感情を抱いているのを感じてたのか、遠慮してくれた。

 

麻子ちゃんとは、何度も彼についての相談をしてる。

 

でも、そんな彼とクラスメイトのユキちゃんが付き合ったことを、最近知った。

 

 

終業式の日の放課後、ボロボロの状態で歩いているCクラスの龍園くんたちが歩いているのが目撃された。

 

だから、敷地内で乱闘でもあったんじゃないかと真っ先に彼の心配をした。

 

でも、いざ彼の部屋に行けば、彼は一人じゃなかった。

 

 

「負けたのは、事実だけど悔しいな…………」

 

 

正直、私はクラスの皆が好きだ。

 

でも、それは友達的な意味での話。 彼は、誰にも取られたくなかったのに。

 

まだ諦めてはないけど、どうしても心が折れそうになっちゃう。

 

 

 

 

 

「…………綾小路くん?」

 

 

ショッピングの帰り、浸りながらトボトボと歩く私の視界に、彼が映った。

 

途端に、心は曇り空から快晴に変わる。

 

 

「一之瀬か」

 

 

彼は、人気の少ない道脇のベンチに座っていた。

 

いつも通りの無表情だけど、心なしかいつもより元気がない。

 

 

「…………何かあった?」

 

 

私は彼の隣に腰掛ける。

 

いつもなら遠慮する彼だけど、今日は拒否する素振りも見せない。

 

 

「いや、大丈夫だ。気にしないでくれ」

 

 

そうは言っても、やっぱりどこか疲れてるように見える。

 

彼にはユキちゃんっていう彼女がいるけど、今ここには私しかいない。

 

私は、気付けば彼の両頬に触れていた。

 

 

 

「…………?」

 

「何かあったなら言って欲しいな。今はまだ、友達として」

 

「言って変わるとも思えないが」

 

「人に吐き出すことで、楽になれたりするものなんだよ。言いたくないことは伏せても良いからさ、君の力になりたいの」

 

 

本心。

 

私は、彼の力になりたい。

 

彼の一番じゃなくても良いから、傍に居させて欲しい。

 

だから、私を頼って欲しい…………

 

 

 

 

「─────オレの所為で、人を悲しませてしまった。どれほど傷ついたのかはオレには分からない。でも、オレの所為だ。こんなオレが、のうのうと美味しい思いをしていいんだろうか」

 

 

誰のことだろう、そう思った。

 

彼の所為で悲しんだ人なんて、思いつかない。

 

そもそも、彼が人を故意に傷つけるような人じゃないから。

 

 

「…………君は君、他の人は他の人だよ。ちゃんと謝ったら、仲直りできると思うよ。何事も気持ちが大事なんだから」

 

 

そう、諦めない心が大事。

 

その心が、いざってときに自分を支えてくれる原動力になるから。

 

 

「…………オレは、謝る機会も失ってしまった。柄にもなく、傷ついてるらしい」

 

「それだけ、君が人を思いやれる人だってことなんじゃないかな。優しい、素敵なことだと思うよ、私は」

 

「ありがとう一之瀬。お前は優しいな」

 

「それが取り柄だからね」

 

 

私は、心の内を読まれないように微笑む。

 

それすら、彼なら透視してきそうだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、すまない、松雄。

 

もしオレの所為で本当に死んでしまったのなら、心の底から詫びよう。

 

それでも足りないのなら、なんだって捧げよう。

 

 

──────オレは、正直まだ自分がこの程度の話で傷つくとは思っていなかった。

 

いや、傷ついてはいない。 ただ、悔やんでいる。

 

もっと早く、その可能性に気付かなかったことに。

 

 

もし無事に高育を卒業したのなら、彼にもう一度会って感謝を伝えたい。

 

それが叶わないのなら──────せめて、成長したオレの姿を見せに行く。

 

待っていてくれ、この世界のどこかで。

 

 

 

 

 

 

──────自らの意思で感情を手にした小鳥は、大空を見上げる。

 

未だ天候は行き先怪しく暗雲が立ち込めているのかもしれない。

 

それでも、羽ばたくと決めたから。

 




実際、松雄は兎も角栄一郎くんは本当に亡くなったんだろうか…………
七瀬と篤臣の話が被っているからもし篤臣のが嘘なら、七瀬も嘘つきなるけど

でも原作でも篤臣の言葉選びも不自然だし、七瀬も動揺していて見た死体が「栄一郎」だと言及する場面はないわで結構怪しいと思うんだよね

0.5巻みたいなの出てくれないかな…………
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