綾小路がBクラスに配属された世界線   作:来世

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7話:それぞれのやり方

 

 

 

星之宮の発言から、オレは一種の答であろうものに辿り着いていた。

 

それは──────過去問だ。

 

 

四月末に行われた小テストでは、各教科最後の三問は普通の高校一年生には解けない難易度のものだった。

 

当然、採点する教師に見られる事象を予想し回答は避けたが、皆は解けなかっただろう。

 

 

それと、今回のいきなりの試験範囲変更。

 

これらを組み合わせれば、自ずと答は出てくる。

 

「絶対に乗り切れる」と確信している星之宮からも、推測は可能だろうが。

 

 

 

 

 

「とうとう、4日後、だな…………」

 

 

いつかと同じ学生食堂。

 

やはり前に座る神崎が、重く零した。

 

 

「だね…………でも、大丈夫だよ!一週間で毎日勉強会を開いたし、そもそもBクラスは自頭が良い人が多いから。きっと…………」

 

 

そう、ここにいるメンバーを一之瀬は励まそうとする。

 

しかし、本人も不安そうなのは火を見るよりも明らかだった。

 

そんな彼女の様子を心配してか、お気楽な柴田も普段にもなく思い表情をしている。

 

 

 

「やっぱり、不安だよなぁ…………」

 

「先生の言っていたある種の抜け道、のようなものは未だに思いつかないしな」

 

「ホントにあるのかな…………」

 

 

ここ数日をかけて、オレは今まで以上に彼らの言動に注目して生活した。

 

柴田と話すときも、一之瀬と話すときも、神崎と話すときも、網倉と話すときも。

 

彼らの目の動きや表情筋の動きをずっと観察した。

 

行動を共にしないときでも、動きの把握に注力したし、放課後の時間も割いた。

 

 

──────結果分かったのは、彼らはいい意味で「優秀でしかない」ということだ。

 

勉強会のように、少し考えれば誰でも分かることをすぐに思いつき、率先して行動を開始できる。

 

それが、彼ら、いやオレたち「Bクラスの強み」だ。

 

事実、他のどのクラスを見てもオレたち程団結しているクラスは存在しなかった。

 

そのくらい、一之瀬という存在が大きいのだ。

 

 

だが、今後予想されるクラス間戦争では、それが命取りになる可能性も高い。

 

いや、もし他クラスに天才と呼ばれる部類の人間がいるのなら、ほぼ確実に(・・・・・)狙われる(・・・・)

 

そのくらい、一之瀬という存在は危険性を孕んでいる。

 

 

搦手を使えず、良いように利用されて捨てられる。

 

若しくは、早々に見限られ容赦なく叩き潰されるの二択だろうな。

 

 

 

「やっぱり、皆を救う方法はないのかな…………自信があっても、やっぱり不安だな」

 

「何とかしてぇけど、もう出来るのは今日も勉強会を開くくれぇだろぉ?」

 

 

一之瀬の言葉に、柴田が反応する。

 

彼は、運動面では極めて優秀な成績を叩き出している。

 

しかし、学力面では凡人の域を出ない生徒だ。

 

それを自分でも分かっているのか、今は指示的なことは口にせず、同調や励ましに注力している。

 

 

「…………先生の言っていた、「プライベートポイントで何でも買える」という発言を基にすれば、あるいは可能性もあるか?」

 

 

ずっと唸っていた神崎が、突然そんなことを言い出した。

 

彼をまるで置物かのように思っていたであろう網倉は、肩をびくっと跳ねさせる。

 

 

「神崎…………言ってみてくれないか?」

 

 

彼の言葉に、オレも驚いた。

 

五月一日に皆が盲信していた一之瀬に牙を剝いたのは覚えているいるが、それ以外では目立つことのなかった生徒だからだ。

 

 

「何でも買える。この何でもが、もし言葉通りの意味を指している場合の話だ」

 

 

なるほど…………やはり、神崎は賢いな。

 

プライベートポイントの価値を、この中で最速で導き出したわけだ。

 

 

「つまり、もしかしたら「中間試験の模範解答」を先生から購入可能かもな」

 

「マジでっ?!」

 

「流石にないんじゃない……?」

 

「可能性としては、あり得る気もするけど…………」

 

 

神崎の提唱した説に、各々が意見を述べる。

 

これが、もっと学生っぽい会話だったら良かったんだがな…………

 

 

「聞いてみる価値はあると思うが、どうだろうか」

 

「まぁ、いいんじゃね?」

 

「私も行くよ」

 

「高そうだったら言ってよ、俺も出すわ」

 

 

やはり、協調性はかなり高い。

 

誰かがものを言えば、肯定意見はすぐに出て、雰囲気を良くできる。

 

彼らとならばオレは、まともな生活を送れるのかもな。

 

 

神崎の提案に乗る形でこの中間試験攻略会議は一応幕を閉じた。

 

よってここからは、普通のお茶会である。

 

 

 

 

 

 

「で、綾小路くんって好きな人とかいるのぉ?」

 

 

周りにも多くの生徒がいる状況で、前に座る網倉がいきなりそんなことを尋ねてくる。

 

そのあまりの衝撃に、オレの隣に座る一之瀬と斜向かいに座る渡辺は飲んでいたお茶やジュースを吹き出す。

 

それを見て他の者が「ちょっと~~汚~~い」と笑う。

 

 

「で、どうなの?」

 

「まだ入学して一カ月だからな。あまり、そう言った情は沸かないな」

 

 

オレは、当たり前の言葉を返す。

 

入学、つまり知り合ってからまだ約一カ月ほどしか経っていないのに、人に恋愛感情を抱くのは些か速すぎるだろう。

 

オレが特段感情に乏しい、という理由もあるが、やはり前提としてそれがある。

 

ので、オレが言ったことは間違ってない筈だ。

 

 

「大人だね~見た目通りって感じ」

 

「分かる。綾小路くんって大人っぽいよね」

 

「いつも冷静だしね~」

 

 

ここ一カ月の彼ら彼女らとのやり取りで、オレもかなり会話の内容を理解できるようになった。

 

今、オレは褒められているんだろう。

 

しかし、だからといって状況が喜ばしいかと問われればそうでもないだろう。

 

一之瀬にも褒められているが、彼女はクラスを問わず男子から人気だという。

 

つまり、オレにあらぬ飛び火があり、実害が出るかもしれないわけだ。

 

 

流石に、いくら何でもそれを「これも青春だねぇ~」とか言って受け流せるほど、オレの心は広くない。

 

だから、なるべくオレには注目しないで欲しいわけだが…………

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

 

 

あの日、昼食の際に話していたことを、神崎と一之瀬が実行したらしい。

 

が、結果は惨敗。

 

星之宮には「良い発想だけど、それはなしかな」と言われたらしい。

 

それをクラスの間で発表していたが、皆の反応は良い方面のものが多かった。

 

「気にする必要はない」や「みんなのためにありがとう」、他にも「流石一之瀬」や「リーダーが一之瀬さんで良かった」など様々。

 

しかし共通して言えるのが、否定的な意見がないことだろう。

 

元々このクラスに良い奴が多いのもそうだが、やはり理由は一之瀬にあると思われる。

 

 

‘‘メラビアンの法則’’、という言葉を知っているだろうか。

 

これは、コミュニケーション時の受け手が相手を判断する比重を具体化したものだ。

 

細かく言えば、受け手は「内容・声・見た目」を「7:38:55」で重要視すると言われている。

 

今の場合、一之瀬は皆に向かって物凄く申し訳なさそうに話している。

 

それと同様に神崎も深く頭を下げている。 彼らに過ちはないのに、だ。

 

その姿勢こそが、今回で言う「見た目」であり、割合の過半数を占める要素でもある。

 

 

まぁ、平たく言えば素直に謝れる二人だからこそ、皆もそれに応じて許しやすくなるわけだ。

 

もし仏頂面のオレが「悪かったと思ってまーす。役に立てなくてさーせんっ」なんて言って謝ったら、火に油を注ぐだけになるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「試験まであと三日かぁ…………やっぱり諦めるしかないのかな」

 

 

放課後。

 

 

オレは一之瀬と共に小さなカフェに出向いていた。

 

理由は単純。 オレに相談したいことがあるかららしい。

 

結果が、これだ。

 

オレも少し頼られる程度なら嬉しいんだが、あまり頼まれすぎても困ってしまう。

 

 

「星之宮の言葉の意味も分からず終い、だな。まぁ、オレたちBクラスの学力なら、退学になる生徒はいないんじゃないか?」

 

 

下手なことは言えないが、少なくともこれは事実だ。

 

オレたちBクラスには比較的優秀な人材が集められている上に、一之瀬主導の勉強会を絶えず続けてきた。

 

その礎がある分、今回の中間試験で得られる他クラスとのリーチの差は大きなものだ。

 

Aクラスはクラス内で呑気に派閥争い、Cクラスは一人の暴君によって恐怖政治。

 

Dクラスに至ってはまともにクラスとして機能してないとの噂もある。

 

ここでAクラスとの差を縮めることについてはあまり興味がないが、貰えるプライベートポイントが増えるのは素直に嬉しい。

 

 

…………コーヒーメーカー、欲しいんだよな。

 

前までは飲んだことがなかったが、あの独特の苦みが美味しい。

 

自販機に売っている飲み物を片っ端から飲んでいたときに出会い、衝撃を受けたくらいだ。

 

多分、あのときオレはここに来てから二番目に心が躍った。

 

え? 一番はいつかって?

 

そんなの──────Bクラスの皆と出逢えた時に決まってるじゃないかっ!

 

 

 

 

 

 

──────なんだ、やめろ。 その、哀れなものを見るような目を止めるんだ。

 

いくらオレでも、傷つくぞ。 

 

 

「そうだけどさ。でも、やっぱり不安だよ、私、皆と卒業したいの」

 

 

不安そうに目を伏せる一之瀬は、一般的な男子生徒から見れば魅力的なのかもしれない。

 

かく言うオレも、一瞬だけ心が動いた。 ような気もする。

 

 

「………優しいんだな、一之瀬は」

 

「えっ?」

 

「もしオレがリーダーなら、全員を守り切りたいとは思っても、口には出せない。それには、相当な覚悟と勇気がいるからな」

 

「でも………出来るかどうかも分からないよ。多分これから、他クラスと戦っていくのに」

 

「自信を持て、そう前に言ったな。だが、あまり深く気にする必要はない。やりたいようにやれ、とは言えないが、信じた道を進んでみるのもいいんじゃないか?」

 

「でも、皆ついてきてくれるのかな…………」

 

 

 

 

 

 

「──────ああ、現にオレも、一之瀬にならついて行きたいと思っているぞ。そしてこれはオレ個人の意見ではなく、クラスの総意だ」

 

「そっか…………ありがと。私、頑張るよっ! まずは中間試験だね」

 

「ああ、共に頑張ろう」

 

 

 

 

嗚呼、一之瀬。

 

祈ろう。 せめてお前の歩む道が、絶望と言う壁で塞がっていないことを。

 

 

目の前に置かれたコーヒーを啜りながら、オレは心の中で手を合わせた。

 




最近ちょっと綾小路がシリアスに見えてきたから、元に戻すぜ!
機械小路にはならないでくれ…………頼む

Bクラス綾小路くんのヒロイン候補

  • 一之瀬帆波
  • 網倉麻子
  • 小橋夢
  • 白波千尋
  • 姫野ユキ
  • 神崎隆二
  • 柴田颯
  • 渡辺紀仁
  • 堀北鈴音
  • 軽井沢恵
  • 櫛田桔梗
  • 龍園翔
  • 椎名ひより
  • 坂柳有栖
  • 神室真澄
  • 綾小路にヒロインなんていらねぇ!
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