綾小路がBクラスに配属された世界線 作:来世
「──────神崎の案に賛成する」
オレの口が告げたのは、一之瀬への警告だった。
これ以上その無意味な善性を振りかざすのなら、オレも手があると。
「綾小路…………!」
神崎は、もしかしたら一之瀬につくかもしれないと思っていたらしい。
オレの出した答に、嬉しそうにしている。
「綾小路くん…………」
対して、一之瀬は肩を落とす。
まぁ、当然の反応だろうな。 公衆の面前で、自身の意見を否定されたのだから。
「勘違いしないで欲しいのだが、別に一之瀬の意見を否定したいわけじゃない。ただ、神崎の言う通り、今後Aクラスを目指すのなら、ここでDクラスに手を貸す必要はない」
驚いたことに、オレの言葉に神崎以外のクラスメイトも躊躇いがちに頷いていた。
つい数分前まで一之瀬を神のように崇めていた者たちが、寝返ったわけだ。
「頼むよ………!」
平田は、それでも食い下がる。
何故、そこまでこだわるんだろうか。
もしかしたら、オレのように同じクラスの者と友人関係に…………いや、それも当たり前だったな。
だが、流石にこの学校で他人の友人関係まで守ることは出来ない。
そもそも、筋も道理も理由もないしな。
オレは、ここにいるメンバーさえいてくれるのなら他はどうでもいい。
「あまり大見得切って言いたくはないが、オレは正直Dクラスの者と関わりがない」
「確かに…………そうだね。僕も、君と喋った記憶はないよ」
「だからな。言ってしまえば‘‘どうでもいい’’んだ、お前たちがどうなろうと。オレは、Bクラスの為なら精一杯努力をするが、他クラス・敵の為に金を支払う気は微塵もない」
オレは自身の意見を述べ、着席をした。
最早、彼らと話すことは何もない。
伝えるべきことは伝えた。 あとは、彼ら次第だ。
「…………綾小路くん」
「なんだ? 一之瀬」
オレが視線を彼らから外すと同時に、隣から声をかけられる。
当然、一之瀬だ。
「前に言ってくれたよね、『信じた道を進めばいい』って」
一之瀬は、どこか遠い目をする。
何かを、思い出しているんだろうか。
「ああ。確かに、言ったな」
これについては紛れもない事実だ。
当時は、まさかここまで一之瀬がするとは思っていなかったからな。
「今回の件は、私が間違ってた…………ごめんっ!」
そう言い、両掌を握りしめる。
一体、何をする気だ?
「──────ごめん。私たちは、お金は貸せない。だから、帰ってください」
前に立つ彼らに向かって、一之瀬が意を決したように言った。
その声は空を斬り、真っすぐ彼らを貫く。
「そんな…………」
「やっぱり、ダメかぁ………」
平田・櫛田をはじめとした全員が項垂れる。
前述した二人に関しては、噓偽りのない悔しそうな顔を見せた。
櫛田に関しては、作られた顔だと思われるが。
「…………ありがとう、綾小路」
落胆する彼らを他所に、神崎だけは清々しい顔をしている。
やはり、コイツは凄いな。
オレでも出来なかったのに、クラスの未来の為に自分を犠牲にして意見を述べた。
もし意見が通らなければ、オレが賛成しなければ、一之瀬が納得しなければ。
もしかしたら、今後彼の居場所は教室になかったのかもしれないのに、だ。
──────素直に、尊敬の念を抱いた。
「オレは、自分の意思に従って意見を述べただけだ。感謝されるようなことはしてないぞ」
ここで図に乗ることはない。
そもそも、言っている通り自分の為の発言だ。
多分…………きっと、そうだ。
「それでもだ。心強かったぞ、お前の存在は」
「それを言うなら、オレにとってもだ」
オレたちが会話をしていると、とうとうDクラスのメンバーは諦めたのは静かに教室を出て行った。
入学から僅か一カ月ほどでこの学校を去ることは嘆かわしいが、勉強に励まなかった自分を恨むことだ。
──────『無知や迷妄は我らを誤り導く。哀れな人間たちよ、己が目を開け』
これは、かの有名な人物、レオナルド・ダ・ヴィンチが遺した言葉だ。
無知や迷妄、つまり物事の道理を知らず嘘に翻弄されることを彼は真の悪だと定めたわけだ。
しかし、これはこのクラスにも言えることだ。
一之瀬帆波という圧倒的な求心力を持つ人物に、ただついていくだけ。
自身では何も考えず、ただ言われたことをこなし、彼女を崇めるだけの日々。
それじゃあ、人間に生まれた意味がないだろう。
オレたちは、自分で考えることのできる生き物だ。
他の生物は持ちえない、オレたちだけが神に与えられた特権。
それを放棄しただの
「みんな、少し話があるんだけど、いいかな」
Dクラスのメンバーが去り、六限目と帰りのHRが終わった後。
それぞれが帰宅や遊びの準備をする中、一之瀬が口を開いた。
全員、それが今朝の一件に関連するものだと、察する。
「私は今まで、ずっと自分の心に従って生きてきた。でも、それが間違いを生むこともあるって今朝知った」
語る一之瀬の眼は、いつにも増して真剣だ。
恐らくこれから、彼女が出した答えを聞けるのだろう。
「最初は、困ってるあの子たちを助けたかった。確かに、敵かも知れない。それでも、困ってる人を助けたいって言う気持ちに、嘘を吐きたくなかったの」
一之瀬の善性は、全て根からのものだ。
噓偽りのない、本当の善人。
もしそれがこの世にいるのなら、それは一之瀬帆波だけだろう。
そう思わせるに十分たる理由を、彼女は持っている。
「でも、よく考えれば私の持ってる160万ポイントは、私だけのものじゃない。みんなが私を信じて預けてくれたもの。それを勝手に使うなんて、許されないよね…………」
少し儚げに目を伏せる一之瀬に、クラスの男子の眼が逸れた。
確かに、直視するのは難しい光景だ。
「それに、神崎くんと綾小路くんの意見を聞いてたら、納得しちゃったの。確かに、って思っちゃった。だから、もう迷わないよ。みんなの意見を聞いて、ちゃんと話し合って決める。それでも、私がリーダーでいいのかなっ?」
一之瀬の心の声が、Bクラスの教室に響く。
その問いの答は、すでに決まっていた。
「「「当たり前だぁぁぁ!!」」」
クラスの総意のような声が、またしても響く。
これだけで、クラスポイントを下げられてもおかしくない程の声量で。
「私たちは、そんな一之瀬さんだから選んだんだよ!」
「むしろ、お願いしたいくらいだぜ」
「一之瀬さん優しい。流石リーダー!」
続いても、彼女を肯定する声が溢れる。
が、重要なのは彼女が振り切ったわけではないことだろうな。
今までの善人一之瀬も残しつつ、時には重要な決断を迷わず下す。
それは、多くの者が望む理想のリーダー像に思えた。
放課後。
やはりオレは、一之瀬と共にカフェに赴いていた。
理由は言う必要もないだろう。
「綾小路くんのお蔭だよ」
目の前で美味しいそうにパフェを頬張る一之瀬が、少し顔を紅くして言った。
「一之瀬の、意識変革の件か? なら、オレは何もしてないぞ」
「神崎くんと一緒に、私の甘すぎた部分を否定してくれた。お陰で私は変われそうなんだ」
「それは、一之瀬が自ら殻を破ったという話だ。前にも言ったろ、『自信を持て』。お前は優しいが強い奴だとオレは思う」
これは、迷うことなき本心だ。
少し前まで助ける気だったDクラスに、別れを告げたあの瞬間。
オレは、一之瀬帆波と言う人間の本質を垣間見た。
彼女は、確かに優しすぎるかもしれない。
彼女は、確かに甘すぎるのかも知れない。
だが、その‘‘強さ’’の本質は、優しさでも甘さでもなく、彼女自身の‘‘芯の強さ’’にある。
一度他人に優しくと言われれば、どこまでもそうできる。
その方向性を少し変えてやれば、それは道端の石ころから光り輝くダイヤモンドの原石へと変わる。
「………ありがとう。君はいつも、私が欲しい言葉を、迷わずにくれるね」
一之瀬が、微笑んだ。
一瞬だが、可愛らしい、と思った。
辞書で読んだ感情。 それが、オレに芽生えたものなのか、知識として持っていたものに当てはめただけなのかは分からない。
だが、確かに一瞬だけ、心が揺れた。
「──────口にクリームついてるぞ」
「えっ?!」
慌てて口に両手で触れる一之瀬は、客観的に見ても可愛らしい筈だ。
悪いな、Dクラス
だが、Bクラス綾小路がお前たちを助ける理由が私の頭の中では思い描けなかったんだ
Dクラスで救って欲しい生徒(No.1を投票して)
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堀北鈴音
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櫛田桔梗
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軽井沢恵
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長谷部波瑠加
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三宅明人
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松下千秋
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Dクラスに救う価値無し