両面宿儺でスカイリム 作:蠅頭
「どこだここ」
白い雪が積もる道の中で。男が呟いた。
異形の男だ。
身長は二メートルを超えている。腕が脇の下からもう一対生えているという四本腕。
腹には口があり、顔には目が四つある。右目の部分は骨が浮き出て仮面のようになっている。
呪いの王両面宿儺の姿がそこにはあった。
だが中身は違う。ごく普通のフリーターであった。
「なんか腕多くね?」
男、暫定宿儺は四つの腕を器用に動かす。
腕が四つもあるというのに問題なく動かせる。それどころか己に流れる未知のエネルギー、推定呪力すら扱える。
宿儺は右手に呪力を溜めそれを地面に向かって放つ。地面は抉れクレーターを残した。
「……なんだこれ」
宿儺は頭を捻って考えた。自分はどうなってるんだ、と。
だが考えても考えてもわからないのでとりあえず屈伸した。
「取り合えず地形把握するか」
という訳で宿儺はジャンプする。
空気の面を把握して蹴ってジャンプし空へと飛びあがる。
南の方に砦が見えた。
(なんか見たことある地形だな)
だが宿儺はその光景に見覚えがあった。親の顔より見た光景だ。実際に親の顔より見ている訳ではないが。
地面に着地した宿儺は取り合えず自分が出来る事を把握する。
「解」
雑に見えない飛ぶ斬撃である解を放つ。地面が斬られた。
今度は地面に触れる。
「捌」
今度は地面が蜘蛛の巣上に斬られた。
「玉犬」
宿儺は上の手で犬の影絵を作る。
宿儺の影から黒い犬と白い犬が現れた。
(持っているのは御廚子と十種影法術か)
となればまず最初にやることがある。
「布瑠部由良由良」
呼び出されるは十種影法術最強の式神。
約三メートルの巨体。真っ白な体。
頭部からは尻尾が生えている。更に目がある部分には四つの羽が付いている。
右手には剣が付いている異形の存在。
八握剣異戒神将魔虚羅。
宿儺は上の手で伏魔御廚子の掌印を結ぶ。
五条悟を終わらせた最強の斬撃──世界を断つ斬撃を放った。
粉みじん上に斬られた魔虚羅は破壊され、調伏の儀は成功した。
(この調子でどんどんいこう)
その後魔虚羅で他の式神全てを調伏した。
(まずはあそこ……ヘルゲン砦にいこう)
宿儺はそう考えた。今の宿儺の頭上には魔虚羅の方陣が浮いている。
自分の考えがあって居るならば、ここはスカイリムの世界……正確に言うならば惑星ニルンのタムリエル大陸のスカイリム地方のはずだ、と。
そしてヘルゲン砦の状況によっては今の時代が推測できる。スカイリムはナンバリングタイトルの長寿シリーズで五作目にあたる。
丁度原作開始済みかどうか把握しないと行動に困る。
そうして暫く歩いていると二人組に出会った。
男女の二人は宿儺を見るなり武器を抜く。
男は弓を。女は剣と盾を構える。
(ハドバルと……誰だ?)
宿儺は男を見て知っている奴だ、と安心する。
茶髪のノルドの男だ。帝国軍の鎧を纏っている。
ハドバルというチュートリアルを教えてくれるキャラクターの一人である。
ノルドとはこの大陸に住まう人間種の一つだ。
基本金髪碧眼で冷気に対し耐性を持ちスカイリムで産まれる人間だ。
といっても祖先はアトモーラという別大陸から来た人間ではあるが。
ハドバルから矢が放たれた。
宿儺はそれを片手で掴む。
ぽきりとへし折りその辺に投げ捨てる。
それと同時に見知らぬ女が斬りかかる。
金髪碧眼のノルドらしい容姿の女は帝国軍の鎧を着ている。
宿儺は上の手で鉄の剣を掴む。
「落ち着け。俺は敵では無い」
「喋った!」
「いや喋るが。俺はこう見えても人間だ」
取り合えず宿儺っぽいロールプレイをしながら宿儺は答える。
この見た目で私とか僕は弱そうだし舐められかねない。舐められたら終わりのスカイリムでそれはまずいのだ。
宿儺が手を離すとノルドの女は後ろに飛びのく。
「……デイドラじゃないの?」
デイドラとは雑に言うと悪魔のようなものだ。
正確にはデイドラロードという邪神みたいなものに仕える種族であり多種多様な物が居る。
「ああ。魔法の実験でこんな見た目になってしまったが人間だ」
宿儺はさらりと嘘を言う。
実際この世界なら魔法で異形化する奴ぐらいいるやろの精神である。
この世界には魔法がある。
マジカと呼ばれる魔力のような物が天、太陽から降り注いでいる。
これは世界の創成の力の欠片のようなもので人々はそれを使う事で魔法という超常の現象を起こす事が出来る。
「……デイドラではない、じゃあ敵対はしないと?」
「ああ。俺はこう見えても平和主義者なんだ」
嘘を言うな、という視線がハドバルと女から向けられるが宿儺は素知らぬ顔をする。
「……いきなり剣を向けてごめんなさい」
「気にするな。慣れてる……では謝罪代わりに聞きたいことがある。いいか?」
「私に答えられることなら」
「そこの砦に向かおうと思うが……見れば煙が上がっている。何かあったのか?」
「それは……」
「ドラゴンに襲われたんだよ」
そこにハドバルが割って入って来る。
「ドラゴンだと? 伝説上の存在だろう、それは」
宿儺は原作を知ってるが取り合えず知らんふりをする。
「ああ。そのはずだったが伝説は現実となった。俺たちはドラゴンから命からがら逃げ伸びて来たって訳だ」
「ほぉ……なるほどな。面白い」
ニヤリと宿儺は笑った。
やはりこの女は原作主人公なのだ。
瞬間、宿儺に恐怖が襲い掛かる。
──自分だけ特別であるという保証は何処にある?
この女も自分と同じ転生者等の類、ならばまだいい。
中には自分と同じように何かのキャラクターの力を得た者が悪意を抱くかもしれない。
その結果世界を滅ぼそうとする等の事をされてはたまらない。実際この世界を滅ぼす手段は幾らでもあるのだ。
「よし、ついでだ。俺を連れていかないか?」
「はぁ? なんでだ?」
ハドバルが分からない、と言った顔をする。
「異形のこの身では村や街に行けないだろう? だがそこに仲間がいればまだ納得できるという物じゃないか?」
「それは……そうかもな……」
原作だと主人公が死霊術で死体を蘇られて連れたりデイドラを召喚していても「趣味が悪いな」と言われるだけで問題ない。
その為宿儺一人でも問題ないかもしれないが居た方が良いだろうと思った。
それに加え自分と魔虚羅があれば原作主人公を守る事が出来るのではないか、とも思ったのだ。悪意ある転生者から。
「私はいいと思うけど……連れていく分メリットを提示してくれるわよね?」
「俺は強いぞ。例えドラゴン相手であって負けないぐらいにはな」
宿儺はニヤリと笑みを浮かべる。
実際負ける気がしない。存在としての相性問題でアルドゥインには勝てないかもしれないがそれ以外の相手には負けることはないだろう。
「じゃあ決まりね。連れていくわ」
「レイア……まぁ、君が良いならいいだろう。おっと、自己紹介がまだだったな。俺はハドバルだ」
「私はレイア。戦士よ」
「宿儺だ。よろしく頼む」
という訳で一行は最初の村リバーウッドに向かって歩き出した。
歩く事二十分。宿儺は考えていた。
ゲームと違う。ゲームだと五分も走れば着いていた。
だというのに二十分歩いてもつかない。
(おそらくはゲーム上の都合で収縮された世界が設定どおりになっているな……確か設定上だと七倍は広いんだったか?)
宿儺がそう考えていると獣の足音がする。
「狼だ!」
ハドバルが矢を放つ。
狼は三体。一体に命中し絶命させるも残る二体が襲い掛かる。
宿儺は解を放って一体を真っ二つに斬り裂く。
残る一帯はレイアが斬り捨てていた。
(強いな……レベルにして十はありそうだ)
宿儺はレイアをそう評価する。
(というかこいつ見たことあるんだよな……)
宿儺はレイアの容姿に見覚えがあった。
金髪碧眼の美少女戦士と言った風貌のキャラを宿儺はスカイリム(ゲーム)で作ったのだ。
コンセプトは重装片手剣盾使い戦士で今のレイアと似ている。
尚作るだけ作ってレベル二十ぐらいで飽きて辞めた。それと非常に酷似しているのだ。
(この世界は私がやっていたゲームの世界?)
宿儺が答えのない疑問に悶々としていると村に辿り着く。
川の傍に出来た村リバーウッドだ。
川の流れを利用した水車を使った材木工場もある。
「なんだ……あれ……」
「デイドラか?」
村に入った宿儺は視線を受ける。
その声を発したのは宿儺の見覚えのない者達だった。
よく見れば村も面影がある程度で規模が大分デカい。やはりこれもゲーム上の都合が無くなって巨大化しているのだろう。
宿儺は奇異の視線を向けられるが剣を抜かれたりすることはない。
同行者がいるだけで大分違うのだ。更にはこの世界は元からデイドラを連れまわすやべー奴が玉に湧くのである程度慣れているのだろう。原作も問題なかったし。
「アルヴォアおじさん! どうも!」
ハドバルは村唯一の鍛冶屋のに入り男に話しかける。
ノルドの男だが
「ハドバル? 休暇中じゃ……それにつれているのはいったいなんだ?」
「まぁ、そこら辺はおいおい説明するよ」
「わかった。家に入ろう」
という訳で一行はアルヴォアの家に入る。
「きゃあ!」
家に入った途端悲鳴を上げられたことに宿儺は悲しくなってしょんぼりとした顔をする。
悲鳴を上げたのはアルヴォアの妻のシグリットだ。ノルドである。
「落ち着いてくれ。彼はデイドラじゃない」
「そ、そうなの? ……ならいいわ」
(いいんかい)
宿儺は思わずツッコみたくなったが我慢した。
テーブルに一行は座る。
「それで何があったんだ? まるでホラアナグマとの議論に負けたような顔をしているが」
「どこから話した者か……俺がテュリウス将軍の衛兵に選ばれたのは知ってるだろ? ……俺たちがヘルゲンに寄った際に……ドラゴンに襲われたんだ」
「ドラゴン? それは……ばかばかしい。酔っていたんじゃないか?」
「彼に話をさせてあげて、あなた」
「そんなに話せることはないんだ。ドラゴンがやって来て全てを破壊した、大混乱だよ。他に生き残りが居るかはわからない。彼女の助けが無くれては俺も生きていられたか……」
一行は暗い顔をする。
伝説が現れたというのは非常に悪い。もしこれが伝説のドラゴンボーンなどならまた違っただろうが相手はドラゴンだ。
「ソリチュードに戻って、何が起きたか知らせないといけない……アルヴォアおじさんならきっと助けになってくれると思ったんだ。寝床とか、食料とか」
「勿論! ハドバルの友人なら俺にとっても友人だ。何でも言ってくれ、手助けするよ」
「ありがとう。なら助けてもらうわ……実は私無一文なので食事を用意してくれると助かります」
「わかった。シグリット。何か用意してくれ」
「わかったわ」
「それと……ドラゴンが居るなら野放しには出来ない。ホワイトランの首長にこのことを伝えなくては」
「なら私が宿儺と伝えにいくわ。いいわよね、宿儺」
「ああ。問題ない」
「ありがとう、感謝する」
その後一行は遅くなった昼食を食べて少し休んだ。