息抜き。
賽子と紙くじのある真っ白な世界。
大半にとっては意味不明な一文だ。だが、世の中に暗号があるように、それだけで大凡の流れが伝わる集団がいる。
俺もその例に漏れず、2と出た賽の目通りに2つのクジを引いた者だった。
そういうのは3だと思うんだが、運が無かったのだろう。1でないだけマシだと自分を誤魔化した。
「ははあ、賽の目がチートの数で、クジがチートの中身と…転生って本当にあったんだなあ」
もし、今の俺がこの時に立ち会えるなら、俺は全力で…それこそ殴ってでも止めるだろう。
死ぬほど苦労するからやめろって叫びながら。
[悪役転生]
[人外転生]
「いや転生先を指定する奴が被ることある!?」
確かにチート枠で転生先が指定されることはあるよ? そうすれば納得出来る恣意的な転生が出来るもの。
悪役令嬢やかませ役とかさ。スライムやゴブリンに転生とかさ。
だけどさ、普通さ? 力じゃん。
パワー。チートパワー。無双無敵。究極完全体。
だけどこれはなに? 悪役で、人外? なんだ化け物にでもなるつもりか?
確定で人類の敵じゃん。強いは強いだろうよ? 役を張れるくらいの悪だもの。
「マジかどうなるんだ…どんな世界かでなにもかも変わるぞ?」
ファンタジーなら1面ボスからラスボスまで。
現代なら幽霊から大妖怪…。
ああ待て待て、役というからには創作の世界だろ? もしくは演劇もの。
出来ればひと繋ぎの財宝を求める海賊や蜘蛛男が活躍するタイプは勘弁だぞぉ…?
「ああなんかもう身体が沈んで…いや普通落とし穴じゃねぇの? なんで底なし沼みたいな挙動なんだよ」
くっそうテンプレから外しやがって…神か何かあるなら一発殴りたい。
「待つのも退屈…あれ、クジに何か追加で書いてないか?」
暇なので手元にあるクジを見てみると、裏側に小さな文字で何かが書かれていた。
おいおい、そんな注釈が必要な悪徳商品なんて勘弁だぞ?
[※何回でもご利用可]
[※何回でもご利用可]
「お前もしかしてクジじゃなくてフリーパスだったりする?」
だとしたら手放すのもなんか勿体無いな…いや要らないか? どうなんだマジで。
んでもこの場合の再利用ってどうやんの?……つっかえねぇなマジで!
「ちくしょう…空を仰いだせいで的確に顔だけ最後まで沈まなむぎゃ!」
──その時である、俺が誰かに踏まれたのは。誰だよくっそー文句言ってや──待てよ? まさか同じ世界に転生者複数人ってことあるか? そういやクジの数が箱のサイズにしては少なかった…おいおいおいおいガチの外れクジ引いた可能性あるぞこれ!
「ここは、転生の間? だけどクジに何もない…」
『おめでとう 君は死んだが チャンスが与えられ──』
踏まれて押し込まれた俺が最後に聞いたのは、そんなマヌケな野郎と、いけすかない女の声。
くっそ、残り物に福があるとか嘘だなマジで…俺と対応全然違うし。
最後の意識が途切れる直前に考えたのは、そんな途方もない程にしょーもないこと。
ガチで苦労することになりそうでげっそりした気分のまま、俺は新しい生を始めるのだった。
◇◆0◇◆
「──なさい。フリージア」
なんだその止まらなそうな希望の花は。
[ここは…]
「目覚めたかフリージア。早速だがお前にはある問題を解決し──」
なんか色々語りかけられているが、俺はそれどころでは無かった。
動かない身体、明らかに機械的な声、怪しい研究室、大量に俺の脳に入ってくる情報……理解するのにさほど時間は必要無かった。
「──だ。出来るか?」
[──地下都市を管理するマザーAIは想定外過ぎるわ!]
「…ど、どうしたんだフリージア?」
──ここは異世界に攻め込まれた人類最後の地下楽園、カサンドラ。
俺が転生したのはそこの管理を行う人工知能、恐らく多分きっとメイビーだが、本来ディストピアに陥れるのだろう存在に、俺は転生した。
え、どないしろと? 食事もセックスも出来ないし、サッカーもバスケも遊べないじゃん。馬車馬のように働けとでも? 絶対に勘弁なんだが?
……とでも言うと思ったか! 俺は知ってんだよ、こういうのは人間に近いAndroidでも造って入れば一発で解決だってな!
「おい、おーい? どうした? エラーでも起きてるのか?」
[すみません、お騒がせしました。「閉鎖された空間で持続可能な社会を構築しろ」ですね? 問題ありません。俺にお任せ下さい]
「あ…ああ…問題ないならいい。任せたぞ」
そうと決まれば話は早い。サッサと技術進めてしまえばいいのだ。
最初こそ戸惑ったがこのチートボディ、計算能力と記憶力に関しては文句なしのハイスペック。
その上ウィキみたく様々な知識が納められたデータベースもあると来た。
こんなの余裕でちょちょいのちょいだ。鼻からスパゲッティ食べる余裕だってあるね。
ハッハー! 悪いけどこの世界、もうクリアしたも同然だぜ!
◇◆0:一年後◇◆
「フリージア、君は解体だ」
[ですよね]
無理だったぜ!
何がダメだったのだろうか。頭の出来が俺だからですねごめんなさい。
いや弁明するとですね、俺は転生前は科学者でも政治家でも、ましてや戦争屋でもない一般ピーポーなんですよ。
そんな奴が計算と記憶力が良くなった所で、人類を革新的な技術や手法で導けますかって話なんですよねー。
いや本当に申し訳ない。多分原作的なのにも辿り着いてないわ。だって転生者の姿を1人も見かけなかったもの。絶対始まってすらないわ。
「残念な結果だった。君には我らの存続を賭けていたからね。こうなった以上、我々は直に君の後を追うことになるだろう」
[すみませんね浪人大学生レベルの頭の出来で]
「ふぅむ…感情や会話能力は人類と同等なのだがね……どうやら人類に並ぶ知能を目指す余り、それを超える物を創る意識が欠けていたようだ」
[や、サイジー博士は悪くないっすよ。俺が不甲斐ないだけですって]
いやもう博士にも本当に申し訳ない。本来なら俺なんか入らずに華麗に問題を解決していただろうに。こんなことになるなんて。
市民にも申し訳ないわ。めちゃくそ死んだもん。監視カメラの画面越しだから現実感なかったけど。
〈*怪物の叫び声と爆発音。12秒後に何かが崩れる音が発生*〉
「──そろそろだな。もうじきここにも奴らが来る。君との一年はそう悪い物でも無かった。こうして逃げず、意味もなく君の電源を落とすために留まっているのがその証左だとも」
[俺に痛みなんてないんですけどね、博士。けど心遣いありがとうございます]
「礼には及ばない。逃げる場所なんてここ以外ないのだからね」
この身体が稼働しなくなったら人類がお終いだからね。電源なんて物、博士が何十分も頑張らないと落ちないようになっている。
全く、最後まで他人の世話になりっぱなしで不甲斐ない限りだ。
「ではこれで最後だ──君と一緒に新たな物を創る一年は、楽しかったよ。 さようなら、フリージア」
[……はい。お疲れ様でした。サイジー博士]
タン。
何も造れない俺の代わりに様々な物を造り、何とか持続的社会の構築が出来たものの、しかし力及ばずに怪物共に都市を食い物にされた。そんな博士が、悔しいだろうに、それを隠して俺に微笑みを向ける。
申し訳なさの中で小さくエンターキーが押された音と共に──俺は1年振りの眠りに就いた。
◇◆1◇◆
「起きなさい、フリージア」
……何が起きたのだろう?
あり得なかった筈の目覚めだ。あそこで確かに終わる筈だったのに、何故か俺はまた目を覚ましていた。
[──ここは]
「目覚めたかフリージア。早速だがお前にはある問題を──」
[…あっははハハ!]
一瞬理解出来なくて、理解出来た瞬間笑いが出る。
なるほど、成る程! 確かにこれなら何回も再利用出来る訳だ!
とんだ地獄の世界で、地獄みたいなチートだ! きっと散々な目に遭うだろうな!
「ふ…フリージア?」
[ハハハハハ!!……すみません、余りにも愉快だったので、つい]
「…想定外のユーモアだな、驚いた。既に感情が完成したのか?」
だって! 悪役人外に死に戻りは最悪な組み合わせだろ!
しかも都市の管理AI! 笑ってかないとやってられないな、これは!
ああでも、そうだな…いいこともある。諦めない限り、この都市の道は続いてるってことだ。
さて、さて──感傷はここまで。仕事の時間だ。
[では市民──共にこの都市を管理しましょう]
俺の都市が全ての厄災を乗り越えるまで、やってやる。
異世界も汚染も革命も転生者も何もかも、完璧に対処してやるさ。
それまで人間らしさはお預けだ。
だって俺は──ディストピアの管理AIだからな。
なお、主人公はTSしたとは微塵も思ってない。