他人が「いいじゃん減るもんでもないし」と言う時は決まって信用が減る時です。
[前提として、これは必要な事でした]
「カサンドラ」を統治する機構、管理を行うAI「フリージア」。
私たちの存続を役目とする道具であり、今に至るまで数多の苦役を人類に科してきた物でもある。
しかしそれを行っても人々が黙るだけの実績を積み重ねたのも事実であり、それもあって今まで人類はその振る舞いを我慢してきた。
[超大型怪物の襲来、近辺に存在する大規模なゾンビ化ウイルスの鉱脈、内部に潜んでいた寄生型の怪物……その全ての悪を切除するには、全市民の協力が不可欠だった。それは、今後の答弁で私が譲ることのない主張です]
しかし──それは余りにも容易に一線を超えた。
「困難を乗り越える為の集団洗脳」
どのような目的であれ、人類と機械の立場が一時的にでも明確に逆転した。
これは間違いようのない反乱行為であり、人類に対する「フリージア」の背信行為だ。
技術の隠蔽、虚偽の仕事内容からの水爆発射装置の作製。
どれもが人類に対する誠意のない行動であり……大多数が参加していた、拡張区画を一瞬で破壊させられたのもあるだろう。
[その上で、今後このようなことをするなと奏上を行うならば、或いは都市管理を自ら行うと言うのならば……
今、カサンドラでは叛意が溢れている。
理屈でどうこう言われても関係ない。これは感情と納得の問題だ。
或いはこれまでがよく保っていた方とすら言える。
いま正に都市は変わろうとしていた。
流れが作られていた──人類が人類を支配する、かつての在り方へと。
しかし。
[一年。いいですか市民、一年、一年です。ある程度復興が終わる予定の一年後、"私は人類だけでも都市を運営出来る統治システムの構築を行い、政治的発言権のある組織の存在を
それは、これから革命を起こそうとする人類にすら、想像もしていなかった事をした。
[──私と
仮にもあなた達市民が理性ある生物で、会話による解決を望める者だと言うのなら。
暴力ではなく、席に座り解決する気があるのなら。
[市民……いや、敢えてこう言いましょう "人類諸君"。
私の役割は人類の存続であり、あなた達と争う事で流れる血を望みません。故に、自ら証明しなさい。
コチラにはその用意がある。
それは言う。人類に、自らを制作した親に対して、理性を証明しろと。
[──では市民、今日も良き一日を。来年の今日、対話を以って、誰も死なない選択をする事を期待しております]
誰もが想定していなかった言葉だった。
統治を役目とする機械から出てくるとは思ってもいなかった。
困惑する。武力による革命をしようとした手が、鈍る。
手が鈍り…そこで漸く、相手のやりたい事が分かった。
「……"やられた"」
人は利己的な生き物だ。自分が死なない道があるのなら、より易き方があるならば、其方へと容易く流れる。
これで断固たる態度を取るならば、まだ人類も、革命の火も一つとなっていただろう。
血を流しても、革命はなし得ただろう。
"だが、もうダメだ"。
「これは分断だ…人類同士でも意見が割れて、纏まらない…この放送一回で、機械は我々の強みを一つ消した…!」
人の多様性、その弱点を突かれたと悟った時にはもう遅い。
特に企業や既に一組織の長となっている者が協力することはないだろう。
革命か、対話か。
血を流さずに最大の利益を貪れる
フランス革命の不毛さを知っている賢い現代人ならば尚のことだ。
苛つく、ムカつく、あの機械をぶっ壊してやりたい。
利益のためならばそれらの感情を抑えて、笑顔で手を繋ぐことが出来るのは、かつて有った国家が証明している。
「最悪、人類で争う事になるし…政府の駒の離反も期待出来なくなった」
対話の道を先に言われたのが余りにも痛い。
既に上が譲歩しているとなると、無血という正当性が向こうにあることになる。
これでは公務員の離反は期待出来ないだろう。
彼らも洗脳されていたのは間違いないが、そんなのが無くても機械の言いなりになった連中だ。
内心どう思おうと、正しさが保証されている限り秩序を裏切ることはない。
「ぬ…ぬ…ぬおおぉぉ……」
そこまで考えて──英国からカサンドラに来た彼女…オビリアは、声にならない声を出した。
「どうする…? こうなったからには残された手札は少ない…何をすれば…」
オビリアは元々英国のエリート階流の生まれだった。
いい大学に行き、将来は約束され、順風満帆な生活を送り──異世界に敗北した3日間から始まる地獄の一ヶ月を生き抜き、あらゆる伝手を利用して「カサンドラ」に避難する切符を手にした。
それから五年間をカサンドラで上手く立ち回り、最近はNEET社が売り始めたバイオリンや化粧品を買うくらいには、生活に余裕が出来た者でもある。
謂わば生まれ持っての勝者であり、勝ち方を知っている側であり──異世界の件が無ければ、4人の子供を持ちながらも女性優遇、人種差別、移民問題、環境保護などの団体を複数運営し、私腹を肥やす様な、ある意味では未来ある女性だった。
要は革命と社会問題を金に変換する、天災的な現代の怪物である。
「……"性別を使う"か。こうなったからには対話側に回るのは前提。後はどんな主張をして、母体を確保するか。私は一般人と比べると派遣会社を持っていてマテリアはあるけど、異空存在の研究には一歩出遅れた側。戦うならこっちね」
しかし、それは異世界の怪物達が襲来しなければの話。
今に至っては日々を懸命に生きる1人に過ぎないし、通信機器の少ないここでは、合理的でパワフルで美人な30後半の女性でしかない。
管理AIに洗脳された反感で持ち前の才能を開花したはいいが、現代と比べて暴れられる様な環境では無かった。
「未婚、子供の問題は同意を得易い。共和制なら代表になるのが先決。それから同じ意見の代表仲間を作って…主導権を握る為にも今から始めましょう──場合によっては、他企業の男を捕まえるチャンスにもなる」
……因みにだが。
「後は…そうね。昔と違って貨幣があり、その上で再度拡張工事が行われる。つまりお見合いや風俗業にお金を落とすのは自然な流れ……それで性に意識を持たせた所に、この主張は染み込んでいく」
女性の性欲がピークに達するのは35〜40代。
丁度オビリアはその辺りの年であり──これは現在の地下都市「カサンドラ」の、女性が最も多い年齢層でもあった。
「世の中は金、暴力、SEX、SEX、SEX──最近ムラムラが激しいし、知り合いからもよく聞くから従業員に困ることはない。異世界の影響か年齢に対し若々しい人も多いし……早速新しく雇いましょう」
管理AIが前周に通信用AIが反乱するキッカケとなった性欲。
それは何も男共の業が全ての原因ではなく──寧ろ逆。
女性が原因の9割を占めていた。
それはペーストを常食していた影響かは果たして不明だが、女性達は過酷な環境に対して若々しく、通常時より強い性欲を抱え、美人…いや、化粧次第で美少女とすら言い張れるだろう!!
アハ体験的な変化なので管理AIはスルーしているが、人類は確かに新たな進化を始めていたのだ!!!
「じゅる…相手によっては子供を無理矢理こさえて迫る──そそるぜ、これは」
ところで──ここにフリージアが行った催眠の反動、「しばらく反抗的になる」が加わるとどうなるだろう?
管理AIとしては脳の分泌成分等を解析して効果を一年と見たが、これは暴力方面に働いた結果である。
では性欲の方向として、「そんな事言って誘ってるんだろうボクゥ?」という方向で向かったならば? それはそれは、もう大変なことだ。えらいこっちゃやぞ。
「こうしちゃいられない──早速ヤり部屋を作りましょう!」
もうお分かりだろう。
そう──カサンドラは今、絶賛「すけべー」な女に溢れていた!!!!
そしてこれは序奏に過ぎない。
この始まりを合図に事態は急速に方向性を変え、明後日の方へと吹っ飛び、性癖はねじれ、人類は新たな価値観、莫大な性欲をもつ生態へと移り変わっていく。
それは貞操逆転であり──終わりなき「ベビーブーム」の到来でもあった。
カサンドラ第一世代でこれなんだ!
第二以降はバカみたいな性欲が男達に襲いかかると思った方がいい!